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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第九章 ヴァーム砦防衛戦編

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アレク、死者を従える

 ボクの身体から、大量の精神力が抜けて行く。賢者も習得し、膨大な精神力補正を受けているのに、その殆どを使い果たす勢いで……。


 それと同時に、目の前には大量のスケルトン騎士ナイトが立ち上がる。部屋を埋め尽くすかの様に、百体近いスケルトンが現れ、更には階段の上にもその姿が続いていた……。


「うっ……」


「アレク様……!」


 精神力不足で眩暈を起こすボクを、ギルが慌てて支えてくれる。ボクは彼の肩を借りながら、目の前の光景を、ただ茫然と眺め続けた。


「アレク君……。これは、一体……?」


 隣のユリウスさんが、戸惑った様子で訊ねて来る。彼はアンリエッタ経由で、死霊術の事を聞いているはず。ならば戸惑う理由は、この尋常では無いアンデッドの数であろう。


 しかし、ボクが何と答えるか悩んでいると、周囲では状況が動き出した……。


『『『ゥオオオォォォ……!!!』』』


 視界を埋め尽くすスケルトン騎士ナイト達が、一斉に雄たけびを上げたのだ。その手に持つ、鉄の剣を掲げながら。


「ひぃっ……!?」


「ぎゃっ……!!」


「そ……んな……」


 周囲で上がる悲鳴と血しぶき。姿は見えないが、帝国側の兵が襲われているらしい。


 部屋には骨と鉄が擦れる音……。そして、肉を裂き、血が滴る音で充満して行く……。


「これは……アレク君が、操っているのか……?」


「い、いえ……彼等は、自らの意思で……行動しています……」


 ボクは遠のきそうな意識を堪え、マジック・バッグから精神回復ポーションを取り出す。そして、中身を取り出すと、失われた精神力が満たされて行くのを感じる。


 ……精神力が回復したままだな。やはり、これはユニーク・スキルによる効果という事か。


 それというのも、召喚系の魔法を使うと、基本的に精神力は回復出来ない。召喚ユニットの維持に魔力が必要な為、回復した側から失われてしまう為である。


 しかし、今のボクは精神力の消費を感じない。スケルトン騎士ナイトの維持に、魔力を必要としていないという事である。


『『『敵ヲ、殺セ……!!!』』』


『『『コノ恨ミ……晴ラサネバ……!!!』』』


「な……!?」


 部屋に溢れたスケルトン騎士ナイトは、一斉に地上へと駆け上がって行く。地上に残っている、帝国の兵士を根絶やしにする為に。


 そして、ボク達は部屋に取り残される。四十体の、帝国兵だった者達と共に……。


「凄まじいものですね……。これが、アレク様の死霊術ですか……」


「いや、これは普通の死霊術では無いよ……」


 茫然と呟くギルへ、ボクは首を振って伝える。見れば、ユリウスさんとギリー、護衛の二人も、ボクへと視線を向けていた。


 ……これは、説明する必要がありそうだな。


「ボクの持つユニーク・スキルが、その効果を発揮したみたいです。そして、死霊術で蘇ったのは、非業の死を遂げた、ヴァーム砦の戦士達です……」


「「「な……!?」」」


 ボクの説明に絶句する一同。先程まで笑いあった仲間が、魔物であるアンデッドと化したのだ。それを、驚かない訳が無いだろう……。


「ボクは、彼等の望みを聞き、彼等に力を貸したのです。帝国兵を、打ち払う力を彼等に……」


 ボクは目を逸らし、小さく呟く。今更ながら、僅かな後悔が芽生えた為である。


 何故なら、彼等をアンデッド化した事で、恐らくは蘇生魔法は使えなくなった。彼等は役目を果たすと、その魂が冥府へと送られてしまうからだ。


 そして、彼等の友人や仲間だった者達は、親しい人間をアンデッド化されて、どう思うだろうか? 少なくとも、ボクはギリーやギルが魔物に変えられたら、冷静ではいられないだろう……。


 ――しかし、ユリウスさんはフッと笑う。その反応は、ボクの想像とは異なる物だった。


「死してなお、仲間や家族を思ったのだな……。奴等は本当に……私の自慢の部下達だ……」


「……っ!?」


 ユリウスさんは、口元に笑みを浮かべている。自らの部下を、誇りに思って。


 ……しかし、その手は強く握られていた。恐らく内心では、激しい後悔が渦巻いているのだ。誇りに思う彼等を、失う事になったのだから。


 ――それを見て、ボクの中で激しい怒りが沸き上がる。


 何故なら、アンデッド化したユリウスさんの部下達は、復讐心に駆られて行動している。恐らく、死霊術の影響で、敵を駆逐する事しか頭になかった。


「違う……そうじゃない……そうじゃないだろ……!?」


「アレク君……?」


 ユリウスさんは、不思議そうにボクへ問う。しかし、ボクはそれを無視する。


 そして、ボクの支配下にあり、繋がりを感じる彼等に、ボクはボクの意思を伝える。


「貴方達は、誇り高い戦士だったはずだ……! 守る為に、武器を手にしたのでしょう……!?」


 ボクの意思は、砦中に拡散して行く。スキルによって繋がる彼等に、ボクは意思が伝わっている事を感じる。


 そして、ボクの意思を感じた彼等から、戸惑いの感情が返って来る。


「なのに、どうして復讐心で、武器を振るうんですか……!? そんなのは……貴方達自身や、貴方達を信じる者への裏切りじゃないですか……!」


 この砦に来た時、ボクは彼等の気持ちに触れた。国や家族を思うその気持ちは、確かに本物だったのだ。


 なのに、今の彼等からは、その気持ちが失われていた。死霊術やユニーク・スキルの効果かもしれないが、ボクにはそれが許せなかった。


 ……彼等の誇りを汚したのなら、ボクはボク自身を許す事が出来そうに無かった。


『ソウダ……。オレ達ハ、守護スル者ダ……』


『復讐ノ為ニ、武器ヲ振ルッテハイケナイ……』


『仲間ヲ……。残ッタ者達ヲ、守ラナケレバ……』


 返って来たのは、彼等の静かな声だった。その声には、先程までの恨みの感情が消えていた。


 そして、彼等は理性で持って、行動を開始する。敵を打ち払い、残った仲間を助ける為に。


『聖騎士ハ、怪我人ノ治療ヲ……』


『深追イハ不要……。マズハ砦ヲ守ル……』


『隊列ヲ整エロ……。訓練ヲ思イ出セ……』


 彼等の意思が伝わって来る。その高潔な精神が、その言葉には宿っていた。


 彼等は取り戻したのだ……。自らの、その誇りと信念を……!




 ……そして、一時間と経たず、ヴァーム砦の戦闘は終わりを迎える。


 死者の合計は約六百名、生存者も同数の約六百名……。半数の兵士が、この地で命を散らす事となった……。


 しかし、ボク達は砦を守り通した。帝国側に多大な損害を与え、彼等を撤退させる事に成功した。


 ボク達は初の攻城戦に勝利する事が出来たのだ。その結果は、決して喜べる内容では無かったが……。

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