死者との取引
敵兵がジリジリと迫る。ボク達の様子を伺い、飛びかかるタイミングを計っていた。
「くっ……。よもや、この様な事態になろうとは……」
ユリウスさんが苦し気に呟く。腰の剣を抜刀し、油断無く構えながら。
そして、ギリーや、ユリウスさんの護衛達も、それぞれの武器を構える。誰もが最後まで、抗う意思を示していた。
――ただし、ボクという例外を除いて。
「アレは……何だ……?」
「む……? どうした……?」
ボクの異変に気付いたギリーが、ボクへと質問を投げかける。
しかし、ボクは返事を返さない。明らかな異常に、それから目を離せないでいた。
「まさか……ユニーク・スキルの……効果なのか……?」
視線の先は、この部屋から地上へと続く階段。敵兵の囲みの背後に向いていた。
そして、どうやらその異常は、ボク以外に気付けていない。その光景に誰も反応を示してしていないのだから。
――大量の死霊が、続々と階段を下りているというのに。
『おめでとうございます。交流を望む死霊の数が五十名を超えました。『死者との交信』はレベルが上がり、死者の訴えが聞こえる様になりました』
「な……!?」
唐突に鳴り響く天の声。この声が聞こえたのは、死霊術士への転職以来だ。
更に天の声は続く。説明はまだ、終わっていないみたいだった。
『おめでとうございます。交流を望む死霊の数が百名を超えました。『死者との交信』はレベルが上がり、死者との会話が可能になりました』
「人数が……増えている……?」
ボクは茫然と部屋を見渡す。そこには入りきれない程の、多くの死霊が佇んでいた。
しかも、それで終わりでは無い。階段の先から、更に多くの気配が感じられた。
ボクはその状況に困惑する。ミーアの時にあれ程望んだレベルアップ。それが、これ程簡単に実現してしまった為だ。
アンナが止めてくれたから良かった。しかし、あのまま続けていても、このスキルはレベルアップしなかったという事だ。
死者との交流という、条件を満たせずにいたのだから……。
『おめでとうございます。交流を望む死霊の数が三百名を超えました。『死者との交信』はレベルが上がり、『死者との取引』へ進化しました』
「スキルの……進化……?」
確かに、以前に聞いた天の声も、進化の可能性は示唆していた。それが、百名の死霊と交流する事だったらしい。
それと同時に、ボクは手を握り締める。この三百名とは、地上で戦死した兵士達の魂だから。
今もなお、地上では敵兵による虐殺が続いているという事だからだ……。
『『死者との取引』は、死者の魂へアンデッドの体を提供する能力となります。スキル使用者の代償は、召喚時の精神力のみ。具現化したアンデッドは、以降独立して活動を開始する事となります』
「術者の支配下に無いという事か……」
それは、危険な事では無いのだろうか……?
アンデッドとなった死者が、願いに従って行動を起こす。人を害する事も、十分にあり得る。
望みを聞いて、それを聞き入れるか判断出来るなら、まだ良いのだが……。
『なお、望みを叶えたアンデッドは、冥府へと送られます。また、召喚されて二十四時間が経過した場合も、同様に冥府へと送られる事になります。』
「再召喚不可と、一日という時間制限か……」
確かに無制限で召喚出来るなら、大量のアンデッド軍団を作る事が可能となる。
……そのアンデッド化した死霊が、望みを叶えられなければだが。
『おめでとうございます。交流を望む死霊の数が五百名を超えました。『死者との取引』はレベルが上がり、アンデッド化した死者を支配下に置ける様になりました』
「五百……」
この砦には、千二百名の兵士が在籍していた。その半数近くが死んだ事を意味する……。
ボクはその事実に歯噛みする。今の状況を、何とかして止めなくてはならない……。
――と、そこで更に異常が起こる。
周囲の死者が、それぞれに口を開き始めたのだ。ボクに対して、望みを口にし始めたのだ。
『敵が憎い……。このままでは終われない……』
『戦う力が欲しい……。敵に復讐がしたい……』
『家族を守らねば……。敵を殺さねば……』
負の感情を伴う訴え。それが、大合唱で鳴り響く。
あまりの音量に耳を塞ぐが、意味は無かった。何故なら、それらは思念であり、音では無いからだ。
『オレ達に……! 戦う力を……!』
『敵を殺す力を……! 復讐の機会を……!』
『家族を守る為……! 戦う力を……!』
五百を超える、死霊による大合唱。頭が割れそうになり、ボクはその場に蹲る。
それに気づき、ギルがボクの肩に手を乗せる。ボクに対して、何かを叫んでいた。
しかし、その声は死者の声にかき消され、まったく聞く事が出来なかった……。
『『『オレ達に……! 戦う力を……!』』』
『『『敵を殺す力を……! 復讐の機会を……!』』』
『『『家族を守る為……! 戦う力を……!』』』
「あ、あああ……! 黙れ……黙れぇ……!!!」
視界の端に敵兵が映る。しかし、彼等も困惑して、ボクの状況を見守っていた。
そんな彼等に対し、敵兵は殺気を向けている。しかし、霊体の彼等では、その意思を届ける事すら出来なかった……。
「力が欲しいなら、くれてやる……! 敵と戦う力を……!」
ボクは鳴り止まぬ合唱の中、彼等に対して死霊術を発動させる。最も良く利用する死霊術を……。
「召喚……スケルトン騎士……!」
死霊術は効果を発揮する。しかし、いつもとは違う、何かが体から溢れ出した。
――その結果、ヴァーム砦はアンデッドの群れで埋め尽くされる事となる。




