アレク、悪魔術士と再会する
ボク達はヴァーム砦の、あらゆる場所を探した。それは、領主だけが知るという、隠し通路等も含めて。しかし、どこにも『黒死病』の元凶は見つからなかった。
そして、調べていない箇所として、最後に『転移の間』が残った。そこは転移のスクロールの転移先。登録された、この砦の兵士達だけが使える部屋である。
ボク達は嫌な予感を胸に抱き、地下の『転移の間』へと踏み込んだ。
「……よう。思ったより遅かったな」
「ゼロ……。やはり、君だったか……」
部屋の中央には、大きな魔法陣が描かれていた。そして、その手前に、赤黒いローブに身を包んだ、悪魔術死の少女が佇んでいる。
そして、その両隣には以前に会った、呪怨騎士の男と奈落童子の女。三人は無表情に、ボク達の事を見つめていた。
更にボクは、ゼロの背後に視線を向ける。彼女のすぐ後ろには、一体の悪魔が立っていた。主人より頭一つ高く、爛れた肌をむき出しにした悪魔。手には豪華な装飾の付いた杖を持ち、肩にはボロボロのマントを羽織っている。
……間違いなく、その悪魔は『疫病王』であった。
「何故、君達がここに……」
「あ……? 転移したからに決まってんだろ……。詳しく話す気はねぇけどな……」
ゼロは肩を竦め、気怠そうに答える。そして、ボクはその態度に眉を顰める。
以前のゼロは、明らかに敵意を剥き出しにしていた。しかし、今回のこのやる気の無さは何だ?
どう見ても、嫌々ここにいるみたいな態度なのだが……。
「……目的は何だ? この砦を、内部から攻略する気なのか?」
「まあ、な……。この砦の攻略も、目的の一つではあるな……」
目的の一つではある……? それは、別の目的も含んでいるという事か……?
ボクは内心で疑問を持つが、ゼロは特に気にした様子も見せない。そして、怠そうに手を上げ、軽く振って見せた。
「じゃあ、後は任せた……。白いのと領主を確保したら、後は全員殺して良いってよ……」
「うん……?」
ゼロが誰かに指示を出す。ボクは首を捻って、部屋の様子を観察する。
この転移の間には、魔法陣が存在するだけ。そして、今のこの部屋には、ゼロ達とボク達しか存在しない。
――と、唐突にギリーが、ボクの肩に手を置く。
「すまん……。気配に気づけなかった……。オレ達は、既に囲まれている……」
「え……!?」
ギリーの言葉に反応するかの様に、周囲の空間がゆらりと揺らめく。すると、黒いローブに身を包んだ、十名の術者が姿を現した。彼等は手に短剣を持ち、その目はボクとユリウスさんに固定されていた。
「まさか……追跡者か……?」
「ご名答……。流石に知ってたみたいだな……」
追跡者とは、盗賊Lv30、黒魔術師Lv30を前提とした上級職。対象の探索や追跡を得意とし、身を隠す能力にも秀でている。
更には、魔術の力により、身を隠す能力はパーティーにも及ぶ。つまり、仲間全体を、安全に移動させる事が可能なジョブという事である……。
「これは……不味いな……」
ボクは背中に嫌な汗が流れる。追跡者の背後から、悪魔術死、呪怨騎士、奈落童子らしき者達が姿を見せた為だ。
――合計40名の上級職。流石にこの人数は、相手をする事が難しい……。
「まさか、彼等はケルベロス特殊部隊か……?」
「へえ、オレ達の部隊名まで知ってんだ……?」
ユリウスさんの言葉に、ゼロは僅かに口角を上げる。ただ、それ以上は何も言わない。興味も特に無さそうだった。
そして、手を振り下ろし、彼等に対して指示を出す。
「じゃあ、さっさと片付けてくれ……。恐らく、地上もそろそろ、片が付く頃だろうしな……」
「地上も……? それは、どういう意味だ……!」
ゼロの言葉にボクは叫ぶ。どうしようもなく、嫌な胸騒ぎを感じた為だ。
すると、ゼロは初めて声を上げて笑う。心の底から、楽しそうに……。
「くっくっく……。はははっ……! だから言っただろ……? この砦の攻略も、目的の一つだってな……!」
「この砦の攻略だと……?」
それは、先程のレッサー・デーモンの事を言っているのだろうか?
確かに、『黒死病』による弱体化で、兵士達は苦しい状況だった。しかし、それはボク達の支援も有って、既に持ち直したはずだ。今では、残りの悪魔を討伐し終えているはずなのだが……。
「地上の悪魔で全てと思ったか? あんなのは、ただの囮だよ! お前達を誘き寄せる為のな!」
「ボク達を、誘き寄せる囮……」
ゼロはニヤニヤと笑みを浮かべる。ボクの焦りが、嬉しくて仕方が無いらしい。
ボクは焦燥を感じながらも、ゼロの言葉に耳を傾ける。
「本隊が行動を起こす合図は、お前達が地下へと降りる事だ! お前達がここに来た時点で、地上はグレーター・デーモンで溢れかえる! そして、多くの帝国兵が攻め込む手筈になってんだよ!」
「何だと……!? 帝国兵の到着は、まだ先のはずだ……!」
ユリウスさんが焦った声を上げる。ボクも到着まで十日掛かると聞いていた為、その言葉には内心で同意していた。
しかし、ゼロは軽く鼻で笑う。馬鹿にした様子で、ユリウスさんに向かって告げる。
「そんなもんは、ガセに決まってんだろ。既に砦は囲まれてたんだよ。お前達がやって来る前からな……」
「そんな、馬鹿な……」
ユリウスさんは茫然と呟く。偽情報を掴まされていた事と、既に敵の策中にハマっていた事を知った為だ。
ボクは脳内で打開策を考えるが、一向に良い案は浮かばない。会話による時間の引き延ばしも、もうそろそろ限界だろう……。
そして、ゼロはつまらなそうに、ボクを一瞥する。そのまま、ボク達に背を向けて吐き捨てる。
「じゃあな……。もう、会う事もねぇだろうよ……」
ゼロが魔法陣へと足を進める。そして、それに二人の従者も付き従う。
彼等は魔法陣に足を乗せると、立ち上がる光に包まれ、その姿を消してしまう。恐らくは、帝国の領内へと転移したのだろう……。
そして、それを合図に、周囲の敵兵が動き出す。ボクとユリウスさんを捕らえ、残りの者達は殺す為に……。




