アレク、元凶を探る
現在、ボクとギリーとギル。それに、ユリウスさんと、その護衛二名で砦内を駆け回っていた。『黒死病』発生の元凶を見つける為に。
そして、本当ならユリウスさんの同行は、避けるべきだと思う。悪魔や帝国兵と遭遇した際に、とても危険だからである。
しかし、ユリウスさんは同行を望んだ。自分の腕に自信がある事と、今の砦内ではどこも危険だから。そして、一番安全な場所は、ボクの側だとも言い……。
……フットワークが軽いというか、即断即決と言うか。護衛の人達も、苦笑を浮かべて何も言わなかったし、そういう人だと言う事なのだろう。
「む……? アレク、あそこを見ろ……」
「え……?」
ギリーの声に従い、ボクは窓から外を眺める。すると、そこでは戦闘が行われていた。相手はレッサー・デーモンで、砦に務める兵士が戦っている。
悪魔は低位のレッサー・デーモン。とはいえ、兵士の側は『黒死病』に掛かっているみたいだ。その為、本来の実力が出せずに劣勢な状況にあった。
そして、ボクは思わず眉を顰める。悪魔と兵士の位置取りに気付いて。
悪魔が砦側に複数立ち、その出口で兵士達が立ち向かっている。それはつまり、悪魔達が砦の中から現れたという事になる。この悪魔達は、外からの襲撃では無いという事だ……。
「アレク君、既に砦内は悪魔だらけの様だな……」
ユリウスさんの声に、ボクは振り返る。そして、彼の視線を追うと、そこでも戦闘が行われていた。複数の悪魔と、砦の兵士達で……。
「ディスペル」
ボクは目の前で戦う兵士に、デバフ解除の魔法を使う。剣を持って戦う彼の顔に、黒い斑点が見えた為だ。
「あ、ありがとう御座います!」
驚いた表情を浮かべるが、瞬時に状況を察したらしい。彼は弱体化状態を抜け出し、目の前の悪魔との戦闘に戻る。兵士は上級職の聖騎士みたいだし、レッサー・デーモンなら後は任せて問題無いだろう。
続けて僕は、見える範囲の全兵士に『ディスペル』を掛けて回る。どうやら、全員が『黒死病』の抵抗に失敗し、デバフを受けているみたいだった。
「妙だな……?」
「どうかしたかね……?」
ボクの呟きに、ユリウスさんが反応する。その目は真剣で、ボクの言葉を待っていた。
ユリウスさんに対して、ボクは感じた違和感を口にする。
「今の所、全員が『黒死病』に掛かっています……。このデバフは、そこまで成功率が高くないはず……。魔法抵抗力の高い、聖騎士すら抵抗出来ていないなんて……」
「ん……? それは、どういう事なのかね……?」
悪魔、呪術師系の知識が乏しいからだろう。ユリウスさんは、ボクの言いたい事を理解出来ないみたいだった。
その為、ボクは続けて、違和感について考察を続ける。
「ボク達は六人……。そして、目撃した兵士は十人程……。偶然にしては、出来過ぎています……。これではまるで、確率を操作されているみたいな……」
「確率を操作……?」
ユリウスさんは、眉を寄せて難しい顔をしている。どうやら、考察に集中する余り、ゲーム寄りな説明をしてしまったみたいだ……。
なので、ボクは軽く咳ばらいをし、ユリウスさんに伝わる様に言い直す。
「恐らく、『黒死病』に掛かりやすい様に、何らかの補助効果が働いていますね。『黒死病』の効果を高めるか、逆にボク達の魔法抵抗力を下げるか……」
「そんな事が可能なのかね……?」
ユリウスさんは、再びボクに訊ねる。この辺りも、やはり理解出来ないか……。
レイドボスや攻城戦をプレイするなら、必須の知識だったんだけどね……。
「魔法抵抗力を下げるには、悪魔や奈落童子の能力が代表的です。しかし、その効果範囲は狭く、隠れて全員に掛ける事は出来ないでしょう……」
「なら、『黒死病』の効果を高める方は?」
ユリウスさんの瞳が、ジッとボクを見つめる。ボクはその視線に、頷きを返す。
「今の状況を可能にする能力に、一つだけ心当たりがあります。それは、疫病王と言う悪魔の、爛れた波動というスキルです……」
「疫病王……?」
疫病王は、高難易度ダンジョンの最奥に生息するボス。この世界ではミスリル級クランの実力が無ければ、、挑む事が難しい場所に存在している。
しかも、そのダンジョンは、カーズ帝国の領内に存在する。この国の殆どの人間が、疫病王の名前さえ知らないだろう。
しかし、『ディスガルド戦記』のプレイヤー……。それも、攻城戦に参加する者達にとっては、有名な悪魔の一体である。
何故なら、攻城戦の防衛に、良く利用されていたからだ。悪魔術士によって、召喚されて……。
「まさか、居るのか……?」
ボクの脳裏には、かつて対峙した一人の少女の姿が浮かぶ。黒目、黒髪を持つ少女。そして、ボクへの悪意をむき出しにした少女……。
――彼女の名はゼロ。高位の悪魔術士だ。彼女であれば、疫病王を召喚出来る可能性がある。
ボクは嫌な予感を感じながら、元凶の調査に戻るのだった……。




