閑話:ガウルの研究室
知識を求め、私は日夜研究に明け暮れている。この世界の謎を解き明かすには、どれだけの時間があっても、足りるという事が無いからな。
そして、私は寿命と言う制約を外す為、アンデッド化という手段を取った。正直、転生の秘儀は賭けの要素も多かった。成功確率は五分五分といった所であった……。
しかし、私は賭けに勝った。アンデッド化に成功し、精神の安定化にも成功した。これに失敗すれば、ただの理性無き魔物と化してしまう。そういった最悪の事態も、無事に乗り切る事が出来た。
……やはり、高位アンデッドへの転生が、精神安定化の成否に関わるみたいだ。
まあ、過去の話はこの程度で良いだろう。今は新たな実験を行っている最中。実験の結果を確認する所なのだから……。
『さて、会話は可能そうかね?』
水槽に浮かぶソレに、私は問い掛ける。大きさは人間の赤ん坊程度。その姿は、手足を捥がれた昆虫といった所だろうか?
『……貴様が私を作り出したのか?』
私の質問に、ソレは返事を返す。どうやら、私の作り出した魔法生物は、想定通りに意思を宿したみたいだ。
私はその結果に満足し、ソレに対して対話を試みる。
『その通り。君を作ったのは私だ。……それで、君には記憶が残っているのかね?』
『ああ、記憶なら存在している……。私の本体が持つ、大体の記憶がな……』
私の研究は、無事に成功したらしい。理論は完璧だったと思うが、実行するのは初めてのこと。想定外の事態が発生せず、私は内心で安堵の息を吐く。
そして、更に実験の成否を確認する為、私は彼に対して質問を投げ掛ける。
『それでは、君の本体の名前を、私に教えてくれるかね?』
『悪魔公ダークレム……。それが、私の本体の名前だ……』
……素晴らしい。実験は完璧に成功したという事だ……!
そして、彼に記憶が残っているなら、研究は次の段階へと進めるという事になる……。
『それで、君の最後の記憶はどこで途切れている……?』
『人間達との戦いだな……。彼等に追い詰められ、彼等のリーダーに、憎悪を抱いた所までだ……』
ふむ……? やはり、本体から切り離された所までという事か……。まあ、その先の記憶は、この先の研究には不要。なので、特に問題は無いだろうがね。
私は水槽に浮かぶ、悪魔公のコピーをジッと見つめる。彼もまた、昆虫の様な瞳で、私の事を見つめ返していた。
……そもそもの話となるが、この実験は悪魔公の爪を手にした事から始まる。私はアレク達の戦いを、この地から遠隔で傍観していた。そして、使い魔を利用して、切り離された爪を回収していたのだ。
それと言うのも、悪魔公復活の可能性は、私も以前から気付いていたからだ。ただ、復活の結果を観察する為、放置するつもりでいただけでね。
そして、手に入れた爪を核とし、新たな生命を作ればどうなるか? 上手く行けば、神話の世界を知る、悪魔公ダークレムの知識が、手に入るのでは? ……そう、考えたのだ。
その考えを実現する為、悪魔公の爪を素材に「生命の種」を作成し、「生命創造」と悪魔召喚の術を組み合わせ、新たな生命の創造を行った。
その魔法生物は、「蘇生の霊薬」で満たした水槽内でしか生命を維持出来ない。しかし、意思を持ち、素体の記憶を持った状態で、誕生させる事に成功したという訳だ。
……ああ、ここから、どれだけの知識が引き出せるか、考えるだけで興奮が止まらないな。
『いくつか質問したい事がある……。まずは、君の本体は、どの様にして生まれたのかね?』
『闇と死の神である、スレイン様によって生み出された……。大きな力を持つ悪魔や魔神は、その大半がスレイン様の生み出した存在だ……』
伝承には残っていたが、やはりスレイン神が悪魔や魔神を生み出しているのか……。
伝承が正しかったと証明され、私は大きな満足感を得る。
『では、スレイン神は、どうして悪魔を生み出した? 悪魔の存在意義は何なのかね?』
『人という種と戦う為だ……。人に倒され、人を成長させる為に、我々は存在している……』
……何だと? 人に倒される為に、悪魔や魔神が存在している?
どう考えても、人では太刀打ち出来ない存在もいるはずだ。それにも関わらず、倒される為に存在すると言うのか?
『では、ジョブやスキルや魔法という存在も、神々が用意し、人を成長させる為にあるのかね?』
『恐らくはそうだろう……。しかし、スレイン様や、スルラン神が用意した訳では無い……。どの様に発生したかは、私にもわからない……』
最高神の二柱が関与していないだと……? つまり、神々とは違う、別の何者かが存在している……?
そうなると、トゥルー・バイブルも、神々が齎した訳では無いという事か……?
『神々とは別に、同等の何かが存在するのかね? 君はその存在について、どれだけの知識がある?』
『…………』
しかし、私の質問に、彼は返事を返さない。何かの禁則事項かと思ったが、恐らくはそうでは無い……。
『魔力が尽きたか……』
彼の活動を維持しているのは、「蘇生の霊薬」が持つ魔力である。その魔力量はとても多く、人を一人生き返らせられる程なのだ。
……しかし、高位の悪魔を維持するには、それでも数分しか持たないらしい。それ程までに、高位の悪魔の持つ魔力は、桁が違うと言う事なのだろう。
『仕方が無い……。次は、より大きな水槽を用意するかな……?』
倍の大きさにすれば、持続時間は倍になると思われる。しかし、それでは燃費が悪いな……。
「蘇生の霊薬」の作成にも、それなりの時間が必要となる。そして、その素材も大量に確保出来ている訳では無い。今から収取するのも、時間が掛かってしまう……。
ならば、別の魔力維持方法を検討する方が建設的だろうか? 大サイズの魔石を複数利用した、魔力発生装置の様な物を……。
『そういえば、アレクが『水神の魔石』を確保していたな……』
アレなら、大魔石より大きな魔力を宿している。より効率的に、魔力の供給が可能かもしれない……。
次にアレクが訪問する時までに、交渉材料を用意しておかねばな……。
私はその様な事を考えながら、一人で思考に没頭するのであった。




