ヴォルクスの双璧
第八章は以上で終了となります。
次回は一話だけ、閑話を挟みます!
その日のヴォルクスは、早朝から騒がしかった。
普段の住民なら、家で朝食を食べている時間だ。それにも拘らず、今日は多くの人々が、外で何かを話し合っている。
ボク達、『白の叡智』のメンバーは、外に出て顔を見合わせる。一体何が起こっているというのだろうか?
すると、人だかりの中から、一人の人物が飛び出して来た。よく見ると、その人物はメリッサであった。
「ア、アレク様……! 急いで、中央広場までお越し下さい……!」
「中央広場……?」
ボク達は首を傾げながらも、メリッサの指示に従う。彼女の案内に続き、クランの仲間全員で中央広場まで移動した。
そして、中央広場に到着し、騒ぎの理由が何となく理解出来た。
そこには、巨大なレッド・ドラゴンが転がされていたのだ。まるで、その存在を住民全てに誇示するかの様に……。
「ふふ、ようやく来ましたわね?」
「アンリエッタ……?」
声を掛けられ、ボクは初めて気付く。レッド・ドラゴンの前に並ぶ、『銀の翼竜』の一同に。
……いや、よく見れば、メンバーはそれだけでは無い。『黄金の剣』のメンバーも混じっている。何故か、リュートさんと、マリアさんは不在だけれど。
「これは、『銀の翼竜』と『黄金の剣』が、合同で倒したって事かな?」
ゴールド級クランである『銀の翼竜』単独では、レッド・ドラゴン討伐は難しいだろう。
しかし、ミスリル級クラン『黄金の剣』と合同なら話は別だ。小規模なレイドバトルと思えば、レッド・ドラゴンは程良い相手と考えられる。
しかし、ボクの言葉に対し、否定の声が返って来る。
「アレクさん、それは違います……。これは、ボク達『銀の翼竜』が単独で撃破したんです……」
その声の持ち主はポルクだ。アンリエッタの隣に並び、ボクに鋭い視線を向けている。
様子のおかしいポルクに、ボクは首を傾げる。そして、彼に対して質問を投げかける。
「流石に、『銀の翼竜』単独は厳しく無い? それに、後ろの彼等は?」
ボクは、ポルクの背後を指差す。そこには、狙撃手、魔導士、暗殺者、拳聖が立っている。彼等はいずれも、『黄金の剣』との交流会で、顔を合わせた事がある。
指摘されたポルクは、一瞬だけ顔を歪める。しかし、すぐに首を振って返答する。
「今の彼等は、『銀の翼竜』のメンバーです。……『黄金の剣』は『銀の翼竜』が吸収しました」
「『黄金の剣』を、吸収した……?」
少し遅れ、言葉の意味を理解し始める。そして、ボクはその意味に、ポカンと口を開いてしまう。
格下の『銀の翼竜』が、ヴォルクスのトップクランを吸収した? そんな事が、可能なのだろうか?
いや、『黄金の剣』も『銀の翼竜』も、メンバーは全て領主の私兵だ。領主が認めれば、実行する事自体は可能なのだろう。
しかし、そんな事が許されるのか? 領民や他の貴族から、強権を発動したと、領主が突き上げを喰らう気がするんだけど……?
「えっと、それは本当の事なのかな……?」
ボクは信じられず、アンリエッタに訊ねる。すると、彼女はニコリと微笑んで見せた。
「ええ、本当の事ですわ。これは、お父様もお認めになった事です。……それと、今日、この時をもって、『銀の翼竜』のリーダーは、ポルクに引き継がれましたわ」
「は……?」
リーダーがポルクに変更? 領主が認めた事? 状況がまったく読めないんだけど……。
ボクが混乱していると、ポルクは一歩前へ出る。そして、強張った顔で、ボクへと告げる。
「前に言いましたよね……? 差を開かれる位なら、ボクはライバルにだって頭を下げるって……」
「うん、ゴールド級向けの、講習会を開いた時の事だね……」
そして、その理由はアンリエッタから聞いた。ボクと競う為に、強くなろうと必死なのだと。
しかし、どうして今になり、その事を口にする? 状況と何か関係するのか……?
ポルクはギュッと手を握る。そして、苦しそうな表情をボクへと向ける。
「ボクは、父上に頭を下げました……。活動停止する位なら、『黄金の剣』を譲って欲しいと……。そして、『銀の翼竜』を、ボクの物にしたいと……」
「えっと……。どうして、そんなお願いを……?」
何故か、ポルクの表情には余裕が無かった。何かに追われる様な、必死さが滲んでいた。
ボクは怪訝に思いながら、ポルクに質問を投げかける。
「決まってるじゃないですか……。貴方に負けない為……。貴方に置いて行かれない為です……! その為だったら、ボクはプライドだって捨ててみせます……!」
「えっと……」
ポルクはどうして、ここまで興奮しているのだろう? 父親に頭を下げる事が、そんなに嫌だったのだろうか?
しかし、その考えは否定される。ボク達を見守る、アンリエッタによって。
「アレクは、一から自分で始め、全てその手で育てて来ましたわね? 全て譲り受けた、ポルクと違って……」
「ああ、そういう事か……」
アンリエッタの瞳は、ボクの背後に控える、『白の叡智』の一同に向けられていた。
アンナ、ハティ、ルージュ、ロレーヌは、全てボクが育てたメンバー。
ギリー、ドリー、グランは同じ村で育ち、ボクと共にいる事を決めたメンバー。
ハンスさん、ギル、メリッサは、ボクに好意を持ち、支えてくれるメンバー。
ポルクは、『白の叡智』のメンバーと、『銀の翼竜』のメンバーを比べてしまったのだろう。
全てをボク自身が集めたメンバーと、ポルクの父親から譲り受けたメンバーとして……。
「ポルクは、勘違いをしてるみたいだね」
「ボクが、勘違いですって……?」
ボクの言葉に、ポルクは眉を寄せる。不快感を感じながらも、ボクの言葉を待っていた。
なので、ボクは肩を竦め、彼に説明する。
「ポルクが領主様の力を借りた様に、ボクは爺ちゃんの名声に助けられている」
「それは……そうでしょうが……」
爺ちゃんの名声は、このヴォルクスで大きな物だ。それは、ポルクも認める所だろう。
しかし、それでも納得しないポルクに、ボクは更に続ける。
「それに、ボクは手段に拘った事も無い。一番効率的と思ったから、今の形を取っただけだ。……そもそも、この街に来た時のボクらには、余裕なんて無かったしね」
「う……それは……」
ケトル村の襲撃は、ポルクも知る所である。そして、彼の兄に責任の一端が有る事も。
ポルクは気不味そうに視線を逸らす。だけど、ボクは話しを止めない。
「ボク達は、形振り構わず戦って来た。持てる最善を考え、今の状況を作って来たんだ」
「…………」
ポルクは俯き、ジッとボクの言葉を聞いている。今の彼に、反論の言葉は無さそうだ。
そして、チラリと隣に視線を向ける。アンリエッタは、ボクの言葉を、嬉しそうに聞いていた。
「なのに、どうしてポルクは手段に拘るの? ボクと競いたいんでしょ? ボクのライバルって、その程度の覚悟で言ってたの?」
「ち、違います……! ボクの……ボクの覚悟は……!」
ポルクは顔を上げ、必死に訴えようとする。
しかし、ボクはそれを手で制し、ポルクに強い言葉を投げつける。
「なら、俯く理由が無いよね? ポルクはライバルとして、最善を尽くそうと思っただけでしょ?」
「……っ!?」
ポルクはグッとはを噛み締める。そして、驚いた表情で、ボクを見つめていた。
そして、ボクは苦笑を浮かべる。余裕が無く、周りが見えていない彼に対して。
「く、くくっ……」
笑いを噛み堪えるボクを、ポルクは不思議そうに見ていた。まあ、今の彼には、その理由がわからないだろう。
そして、ボクが笑った理由は、ポルクの背後にある。彼に信頼の眼差しを向ける、彼の仲間達が並んでいたからだ。
彼等の顔を見ればわかる。彼等は領主の命令で、ただポルクに従っている訳では無いのだと。
彼等もまた、ポルクと共にある事を望んでいる。彼の力になりたいと、そう願っているのだ。
「……ボクも、負けるつもりは無いよ。お互いに、ベストを尽くそう」
ボクは二ッと笑みを向け、ポルクへ右手を差し出す。
その手を見つめ、ポルクは茫然となる。そして、少しの間を開けて、ハッとボクの顔を見る。
「アレクさん……。貴方という人は……」
ポルクは、無理やり笑みを浮かべる。泣いている様にも見える、不器用な笑みを。
そして、ボクの右手を両手で掴む。熱く、力強い手で。
「はい……! ボクも、負けません……! 全力で、挑ませて頂きますから……!」
ボクは、その手を強く握り返す。ポルクにボクの意思が伝わる様にと。
そして、この光景は、ヴォルクス住民の多くが目撃した。彼等は当然の如く、この出来事を街中へと広める。
――その結果、『白の叡智』と『銀の翼竜』は、ヴォルクスの双璧と呼ばれる事となって行く。




