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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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アレク、仲間に呆れる

 アンナの魔導士ウィザード転職から三日後、朝起きるとハティ、ドリー、グランが帰っていた。どうやら、夜中の間に、クランハウスに戻ったらしい。


 今のボクは朝食を食べながら、ハティ達に転職時の話を聞いている所だ。ちなみに、アンナもボクの隣に座り、彼らの話をジッと聞いている。


「……それで、最後がロック・ゴーレムだった訳だ。これを黙ってるなんて、リーダーも人が悪いよな?」


「そうそう、ハティとの約束があったんだって?」


「アレクも、マジ、そういう演出って憎いよな!」


 ハティ達は、楽しそうに笑っていた。彼らは皆、ボクが何かの演出を狙ったと思っているらしい。


「……本当に最後がロック・ゴーレム? リザードマンじゃなくて?」


「そうだけど……リザードマンって?」


 この反応を見る限り、本当にロック・ゴーレムが出たらしい。しかも、試験に関する説明も、特に行われずに……。


 そもそも、ボクの知る知識では、拳聖試験でロック・ゴーレムは出てこない。ウィンド・ウルフ、ロック・バード、リザードマンの三体が出るはずなのだ。


 ……というより、ソロの武闘家相手に、ロック・ゴーレムは無理ゲー過ぎる。普通に考えれば、倒せる相手では無い。黒魔術師以外では、基本職が倒せる相手では無いのだから。


 まあ、ハティは爆裂波動拳のロマン型なので、特別に倒せたから良かったけどさ……。


「まあ、結果的に良かったのかな? 無事に転職出来て良かったよ」


「ありがとう……。この新しい力で、これからはリーダーの役に立ってみせるよ!」


 ハティは嬉しそうにはにかむ。その様子に、ボクは微笑んで頷いて見せた。


 ――と、急に外が騒がしくなるのを感じる。視線を扉へ向けると、誰かが中へと入って来た。


「たっだいま~! 無事に転職完了したよ~!」


「おかえり、ロレーヌ。……って、その恰好は何?」


 入室して来たロレーヌは、いつもの皮ジャケット姿では無かった。見慣れない黒革のスーツに、黒革のマント姿だったのだ。


 そして、ボクは内心で冷や汗を流す。あの装備には見覚えがあるからだ……。


 確か見たのは、公式サイトのキャラ紹介ページである。あの装備を着た、暗殺者アサシンのイラストが載っていたはず……。


暗殺者アサシンギルドで貰った装備だよ? なんか、アサシン・スーツと、アサシン・マントって言ってた」


「まさかの、暗殺者アサシンシリーズ……!?」


 ボクは思わず叫んでしまう。その様子を、アンナやハティ達は、ポカンと見つめていた。


 アンナ達を無視し、ボクは改めてロレーヌの恰好を確かめる。……うん、あれは間違い無く、アサシン・スーツにアサシン・マントだ。


 ちなみに、「暗殺者シリーズ」とは、ボクの「賢者シリーズ」と同じ、上級職の専用装備である。ユニーク級装備で、ソロや少数パーティーが装備可能な最高峰の装備品。これ以上を望むなら、レイド級のボスを倒し、伝説級の装備を手に入れるしか無い。


 これから一年程メンバーを育成し、その後に手に入れようと考えていたのだ。それが何故か、転職と同時に貰えてしまっている。この状況は、一体どういう事なのだろうか……?


 ボクが頭を抱えていると、フラッと誰かが入室して来た。そちらに目を向けると、入って来た人物はギルだった。


 しかも、何故か真っ青な顔をしている……。


「何があったの……!? 顔色が優れないってレベルじゃ無いよ……!」


 ボクに訊ねられ、ギルはビクリと肩を震わせる。そして、逡巡する様子で俯いてしまう。


「あはは、何でもないよ……! ね、ギル……? 何でも無いよね……?」


 慌てて手を振るロレーヌ。彼女のそんな呼び掛けに、ギルは苦悶の表情を浮かべていた。


 その様子に、ボクは悪い予想が脳裏を過る。まさか、人に言えない事をして来たんじゃ……。


「ねえ、ギル……? ギルはボクに隠し事をしないよね? 何があったか、教えてくれないかな?」


「いやいや、何も無かったから! ほら、ギルもボスに言ってやってよ!」


 慌てるロレーヌ。顔を上げ、ボクと彼女を見比べるギル。


 ……そして、ギルは勢い良く頭を下げた。


「も、申し訳ありません、アレク様……! 私は、とんでもないミスを犯しました……!」


「ちょっ……!? 約束したじゃん……! ボスには秘密にするって……!」


 やはり、何らかのトラブルがあったらしい。しかも、ギルに隠ぺいまで持ち掛けて……。


 ボクがじとっとロレーヌを睨むと、彼女は怯んだ様子を見せる。その隙に、ギルはボクへと説明を行う。


「転職試験の最中、ロレーヌ様は瀕死の重傷を負いました……。暗殺者アサシンギルドに、蘇生ラスト霊薬エリクサーがあったから助かった物の、下手をしたら命を落とす所だったのです……」


蘇生ラストの……霊薬エリクサー……?」


 それは、回復薬の最上級品に位置付けられる。『ディスガルド戦記』内では、『蘇生リザレクション』の効果を持つアイテムだ。


 高レベルの霊薬士にしか作成出来ない上に、素材も入手難易度が高い。その為、非常に高額のアイテムとなっている。


 更に、この世界では、高レベルの霊薬士が殆ど存在しない。その希少性故に、購入しようとすれば、百万G(一千万円)以上の値が付くと言われている。


 ……そんな高級アイテムを、ロレーヌは使う事態になったと言うのか?


「試験中の事故という事で、費用の請求は御座いませんでした……。また、ギルドマスターから、お詫びも兼ねて、防具の支給も頂けました……。しかし、私はロレーヌ様を、お守り出来ませんでした……。アレク様より、お守りする様に言われたにも関わらず……」


 ギルが真っ青になった理由はわかった。というか、恐らくはギルに落ち度は無いのだろう。


 しかし、何故、暗殺者アサシンの試験で、死に掛ける要素がある? 試験官からの問いに、「No」と答えるだけの簡単な試験のはずだけど……。


 まあ、本来は素材集め等を行い、紹介状を得るクエストが発生する。今回はツテを使って、そのクエストをパスした。まさか、それが試験の内容に影響したのか……?


 ボクが頭を捻っていると、ギルの後ろからやって来る人の姿が見える。


 どうやら、ギリーとルージュも、同じタイミングで到着したらしい。


「どうした……? 何か、騒がしいが……」


「アレク殿、戻りました! 無事に、転職も終える事が出来ましたよ!」


 無表情なギリーと、笑顔のルージュ。そんな二人も、部屋へと入って来る。


 そして、ボクはルージュに視線を固定する。彼の持つ見覚えの無い盾に、ボクは嫌な予感を感じてしまう。


「それは……まさか……」


「はい! 戦乙女ヴァルキリー様に加護を頂き、私の盾は戦乙女ヴァルキリーシールドに生まれ変わりました!」


 ルージュの言葉に、ボクは思わず眩暈を感じる。テーブルに肘を付き、目元を手で覆う。


戦乙女ヴァルキリーの……シールド……?」


「はい! その通りです!」


 ハキハキと答えるルージュ。どうやら、ボクの聞き間違いでは無いらしい。


 ……これは、流石に予想出来るはずも無い。


 というのも、戦乙女ヴァルキリーシールドは、伝説級の防具だ。本来なら、レイドボスと化した、戦乙女ヴァルキリーと戦い、勝利する必要があるのである。


 当然ながら、試験時の戦乙女ヴァルキリーは全力では無い。それに勝利しても、戦乙女ヴァルキリーシールドは、手に入るはずが無い。


「無茶苦茶だ……」


 一年後にユニーク級を集め始め、伝説級への着手は三年後を想定していた。それが、一部とはいえ、先行して手に入ってしまったのだ。


 嬉しい誤算ではあるが、素直には喜べない。仲間達の非常識っぷりに、ボクは頭が痛くなって来たからである。


 ボクは小さく息を吐く。そして、顔を上げて仲間達に呟く。


「君達さ……。もうちょっと、自重しようよ……?」


「「「…………」」」


 皮肉を込めたボクの言葉に、仲間達は冷たい視線を返す。その目を見て、彼等の意思が伝わって来た。


 「お前が言うな」と、その目が語っている。多少の自覚があるだけに、ボクは何も言えなかった……。


「ま、まあ、全員無事に合格って訳だね? 皆おめでとう。……それと、改めて、おかえりなさい」


「「「……っ!? ただいま……!!」」」


 ハティ、ルージュ、ロレーヌは、嬉しそうに返事を返す。そして、同行した仲間達も、嬉しそうに頷いていた。


 うん、これで一つの目標を達成出来た。全メンバーの上級職転職が完了したのだ。


 後は、全員のジョブをLv50に上げる事と、装備を整えて行く事に注力すれば良い。冒険者としての育成に関しては、計画通りに進んでいるという事である。


 攻城戦の存在しないこの世界では、神器という最上級装備は存在しない。……正確に言うなら、入手方法が無いと言うべきか。


 その為、ボクの目標としている、伝説級装備の入手さえ完了すれば、ボク達のクランは、この世界で最強と言う事になる。少なくとも、暴力を持って、ボク達から奪える者は、存在しなくなると言う事だ。


「……どうかした?」


 ボクが無意識に見つめていた為、アンナは不思議そうに見上げていた。ボクは静かに首を振り、彼女の頭をそっと撫でる。彼女はくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに笑みを零す。


 ケトル村を出てから……。そして、このクランを作ってから、丁度一年といった所か……。


 色々な事があったけど、仲間が増え、ボク達は確実に成長している。今のボク達は、あの時の弱者のままでは無いのだ。


 仲間達の姿を見て、ボクはその事を実感する。そして、ボクの心は歓喜に震えるのだった。

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