アレク、仲間に呆れる
アンナの魔導士転職から三日後、朝起きるとハティ、ドリー、グランが帰っていた。どうやら、夜中の間に、クランハウスに戻ったらしい。
今のボクは朝食を食べながら、ハティ達に転職時の話を聞いている所だ。ちなみに、アンナもボクの隣に座り、彼らの話をジッと聞いている。
「……それで、最後がロック・ゴーレムだった訳だ。これを黙ってるなんて、リーダーも人が悪いよな?」
「そうそう、ハティとの約束があったんだって?」
「アレクも、マジ、そういう演出って憎いよな!」
ハティ達は、楽しそうに笑っていた。彼らは皆、ボクが何かの演出を狙ったと思っているらしい。
「……本当に最後がロック・ゴーレム? リザードマンじゃなくて?」
「そうだけど……リザードマンって?」
この反応を見る限り、本当にロック・ゴーレムが出たらしい。しかも、試験に関する説明も、特に行われずに……。
そもそも、ボクの知る知識では、拳聖試験でロック・ゴーレムは出てこない。ウィンド・ウルフ、ロック・バード、リザードマンの三体が出るはずなのだ。
……というより、ソロの武闘家相手に、ロック・ゴーレムは無理ゲー過ぎる。普通に考えれば、倒せる相手では無い。黒魔術師以外では、基本職が倒せる相手では無いのだから。
まあ、ハティは爆裂波動拳のロマン型なので、特別に倒せたから良かったけどさ……。
「まあ、結果的に良かったのかな? 無事に転職出来て良かったよ」
「ありがとう……。この新しい力で、これからはリーダーの役に立ってみせるよ!」
ハティは嬉しそうにはにかむ。その様子に、ボクは微笑んで頷いて見せた。
――と、急に外が騒がしくなるのを感じる。視線を扉へ向けると、誰かが中へと入って来た。
「たっだいま~! 無事に転職完了したよ~!」
「おかえり、ロレーヌ。……って、その恰好は何?」
入室して来たロレーヌは、いつもの皮ジャケット姿では無かった。見慣れない黒革のスーツに、黒革のマント姿だったのだ。
そして、ボクは内心で冷や汗を流す。あの装備には見覚えがあるからだ……。
確か見たのは、公式サイトのキャラ紹介ページである。あの装備を着た、暗殺者のイラストが載っていたはず……。
「暗殺者ギルドで貰った装備だよ? なんか、アサシン・スーツと、アサシン・マントって言ってた」
「まさかの、暗殺者シリーズ……!?」
ボクは思わず叫んでしまう。その様子を、アンナやハティ達は、ポカンと見つめていた。
アンナ達を無視し、ボクは改めてロレーヌの恰好を確かめる。……うん、あれは間違い無く、アサシン・スーツにアサシン・マントだ。
ちなみに、「暗殺者シリーズ」とは、ボクの「賢者シリーズ」と同じ、上級職の専用装備である。ユニーク級装備で、ソロや少数パーティーが装備可能な最高峰の装備品。これ以上を望むなら、レイド級のボスを倒し、伝説級の装備を手に入れるしか無い。
これから一年程メンバーを育成し、その後に手に入れようと考えていたのだ。それが何故か、転職と同時に貰えてしまっている。この状況は、一体どういう事なのだろうか……?
ボクが頭を抱えていると、フラッと誰かが入室して来た。そちらに目を向けると、入って来た人物はギルだった。
しかも、何故か真っ青な顔をしている……。
「何があったの……!? 顔色が優れないってレベルじゃ無いよ……!」
ボクに訊ねられ、ギルはビクリと肩を震わせる。そして、逡巡する様子で俯いてしまう。
「あはは、何でもないよ……! ね、ギル……? 何でも無いよね……?」
慌てて手を振るロレーヌ。彼女のそんな呼び掛けに、ギルは苦悶の表情を浮かべていた。
その様子に、ボクは悪い予想が脳裏を過る。まさか、人に言えない事をして来たんじゃ……。
「ねえ、ギル……? ギルはボクに隠し事をしないよね? 何があったか、教えてくれないかな?」
「いやいや、何も無かったから! ほら、ギルもボスに言ってやってよ!」
慌てるロレーヌ。顔を上げ、ボクと彼女を見比べるギル。
……そして、ギルは勢い良く頭を下げた。
「も、申し訳ありません、アレク様……! 私は、とんでもないミスを犯しました……!」
「ちょっ……!? 約束したじゃん……! ボスには秘密にするって……!」
やはり、何らかのトラブルがあったらしい。しかも、ギルに隠ぺいまで持ち掛けて……。
ボクがじとっとロレーヌを睨むと、彼女は怯んだ様子を見せる。その隙に、ギルはボクへと説明を行う。
「転職試験の最中、ロレーヌ様は瀕死の重傷を負いました……。暗殺者ギルドに、蘇生の霊薬があったから助かった物の、下手をしたら命を落とす所だったのです……」
「蘇生の……霊薬……?」
それは、回復薬の最上級品に位置付けられる。『ディスガルド戦記』内では、『蘇生』の効果を持つアイテムだ。
高レベルの霊薬士にしか作成出来ない上に、素材も入手難易度が高い。その為、非常に高額のアイテムとなっている。
更に、この世界では、高レベルの霊薬士が殆ど存在しない。その希少性故に、購入しようとすれば、百万G(一千万円)以上の値が付くと言われている。
……そんな高級アイテムを、ロレーヌは使う事態になったと言うのか?
「試験中の事故という事で、費用の請求は御座いませんでした……。また、ギルドマスターから、お詫びも兼ねて、防具の支給も頂けました……。しかし、私はロレーヌ様を、お守り出来ませんでした……。アレク様より、お守りする様に言われたにも関わらず……」
ギルが真っ青になった理由はわかった。というか、恐らくはギルに落ち度は無いのだろう。
しかし、何故、暗殺者の試験で、死に掛ける要素がある? 試験官からの問いに、「No」と答えるだけの簡単な試験のはずだけど……。
まあ、本来は素材集め等を行い、紹介状を得るクエストが発生する。今回はツテを使って、そのクエストをパスした。まさか、それが試験の内容に影響したのか……?
ボクが頭を捻っていると、ギルの後ろからやって来る人の姿が見える。
どうやら、ギリーとルージュも、同じタイミングで到着したらしい。
「どうした……? 何か、騒がしいが……」
「アレク殿、戻りました! 無事に、転職も終える事が出来ましたよ!」
無表情なギリーと、笑顔のルージュ。そんな二人も、部屋へと入って来る。
そして、ボクはルージュに視線を固定する。彼の持つ見覚えの無い盾に、ボクは嫌な予感を感じてしまう。
「それは……まさか……」
「はい! 戦乙女様に加護を頂き、私の盾は戦乙女の盾に生まれ変わりました!」
ルージュの言葉に、ボクは思わず眩暈を感じる。テーブルに肘を付き、目元を手で覆う。
「戦乙女の……盾……?」
「はい! その通りです!」
ハキハキと答えるルージュ。どうやら、ボクの聞き間違いでは無いらしい。
……これは、流石に予想出来るはずも無い。
というのも、戦乙女の盾は、伝説級の防具だ。本来なら、レイドボスと化した、戦乙女と戦い、勝利する必要があるのである。
当然ながら、試験時の戦乙女は全力では無い。それに勝利しても、戦乙女の盾は、手に入るはずが無い。
「無茶苦茶だ……」
一年後にユニーク級を集め始め、伝説級への着手は三年後を想定していた。それが、一部とはいえ、先行して手に入ってしまったのだ。
嬉しい誤算ではあるが、素直には喜べない。仲間達の非常識っぷりに、ボクは頭が痛くなって来たからである。
ボクは小さく息を吐く。そして、顔を上げて仲間達に呟く。
「君達さ……。もうちょっと、自重しようよ……?」
「「「…………」」」
皮肉を込めたボクの言葉に、仲間達は冷たい視線を返す。その目を見て、彼等の意思が伝わって来た。
「お前が言うな」と、その目が語っている。多少の自覚があるだけに、ボクは何も言えなかった……。
「ま、まあ、全員無事に合格って訳だね? 皆おめでとう。……それと、改めて、おかえりなさい」
「「「……っ!? ただいま……!!」」」
ハティ、ルージュ、ロレーヌは、嬉しそうに返事を返す。そして、同行した仲間達も、嬉しそうに頷いていた。
うん、これで一つの目標を達成出来た。全メンバーの上級職転職が完了したのだ。
後は、全員のジョブをLv50に上げる事と、装備を整えて行く事に注力すれば良い。冒険者としての育成に関しては、計画通りに進んでいるという事である。
攻城戦の存在しないこの世界では、神器という最上級装備は存在しない。……正確に言うなら、入手方法が無いと言うべきか。
その為、ボクの目標としている、伝説級装備の入手さえ完了すれば、ボク達のクランは、この世界で最強と言う事になる。少なくとも、暴力を持って、ボク達から奪える者は、存在しなくなると言う事だ。
「……どうかした?」
ボクが無意識に見つめていた為、アンナは不思議そうに見上げていた。ボクは静かに首を振り、彼女の頭をそっと撫でる。彼女はくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに笑みを零す。
ケトル村を出てから……。そして、このクランを作ってから、丁度一年といった所か……。
色々な事があったけど、仲間が増え、ボク達は確実に成長している。今のボク達は、あの時の弱者のままでは無いのだ。
仲間達の姿を見て、ボクはその事を実感する。そして、ボクの心は歓喜に震えるのだった。




