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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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アンナ、魔導士に転職する

 ボクとアンナの二人は、一足先にヴォルクスへ戻っていた。何故なら、アンナの転職はヴォルクスでも可能だからだ。


 本来なら、魔導士ウィザードへの転職は、王都の魔導士ギルドで行う必要がある。それは、ギリーの狙撃手スナイパーの時も同じだった。


 しかし、ギリーの時と違い、今の『白の叡智』は有名に成り過ぎた。アンナが王都へ向かえば、必ず余計な横槍が入る。


 それは、『白の叡智』移転を目論む貴族だったり、あのケトル村を訪れた王女だったりするかもしれない……。


 いずれにしても、そんな危険な場所に、アンナを連れて行きたくは無い。だからこそ、今回は少々、コネを使わせて貰う事にした。


「……という訳で、アンナを弟子にして貰えませんか?」


「ええよ。アンナちゃんは、今日からワシの弟子と認めよう」


 ボクのお願いに対し、アッサリと快諾が返って来る。断られるとは思って無かったけど、無事に許可を貰えてホッとした。


 なお、頼んだ相手は、魔術師ギルドのギルドマスター。爺ちゃんの弟でもある、ワトソンさんである。


 今のボクとアンナは、ワトソンさんの執務室で、お茶をご馳走になっている所だ。ボクとアンナが並んでソファーに座り、テーブル向かいのソファーに、ワトソンさんも腰かけている。


「……というか、やっと頼ってくれたのう。ワシ、すっかり忘れられとると思ってたんじゃが?」


「はははっ、そんな訳無いじゃないですか。このお願いが有るからこそ、些細なお願いは控えてただけですよ」


 やや、拗ねた様な口調のワトソンさん。余程、ボクからの訪問を待っていたのだろう。


 そして、ワトソンさんの指摘に、ボクは内心で冷や汗を流す。実際、ずっとワトソンさんの事を忘れていたからだ。


 そもそも、ボクとワトソンさんが関わる機会なんて、そう多くは無い。王都とのいざこざが無ければ、思い出す事も無かっただろう。


 だが、それを口にしても、誰も幸せにならない。世の中には、知らない方が良いという事もあるのだ……。


「まあ、ええわい……。それにしても、随分と頑張っておるようじゃな?」


「ん……? どの件ですか……?」


 天竜祭の件は、領主様の城で会い、一度は話をしている。なので、それ以降の話と言う事になる。


 そうなると、ポーションの流通量を増やした事だろうか? それとも、冒険者達の勉強会? 或いは、市場全体が活性化した事だろうか?


 ボクが首を捻っていると、ワトソンさんは息を吐く。そして、呆れた口調で話を続ける。


「これでクランメンバーが全員、上級職になったのじゃろう? 今のヴォルクスで、全員が上級職なのは、『黄金の剣』、『銀の翼竜』に続いて三組目という事になる」


「ああ、メンバー育成の方ですか……」


 ワトソンさんが、アンナ以外の情報も、把握しているのには驚いた。ただ、領主様との繋がりもあるし、納得出来る部分もある。


 ……恐らく、ボクの訪問を待ちわびて、ずっと調べてたとかじゃ無いと思うが。


「それは、帝国への備えかね……?」


 ワトソンさんは、アンナを気にしながら訊ねる。領主からの忠告を、アンナに伝えているか、判断に迷ったからだろう。


 しかし、ボクは首を振る。ワトソンさんの、懸念を払しょくする為に。


「いえ、メンバー育成は元々の想定通りです。帝国の動きに関係無く、元からこの位の時期に、全員の転職を考えていました」


 ボクはアンナを気にせず、説明を行う。隣でくつろぐアンナも、特に反応は示さない。何故なら、帝国の不審な動きは、メンバー全員に伝えてあるからだ。


 ……万が一にも、このヴォルクスが戦火に巻き込まれたら、ボク達が戦わない訳にはいかないだろうしね。


「そして、領主様と以前に話した様に、ボクは戦に加わらない予定です。少なくとも、帝国の進撃が、このヴォルクスまで届かない限りは……」


 戦争は戦争屋に任せる。ボク達は、専門である魔物退治に専念する。それが、今のボクの考えだ。


 ゲームと違って、この世界では確実な蘇生は望めない。だからこそ、どんなに報酬が良かろうと、攻城戦に挑むつもりは無い。少なくとも、自分達の生活が、脅かされでもしない限りはね。


 ボクの言葉を聞き、ワトソンさんは安心した様子を見せる。


 ……もしかしたら、ボクが好戦的で、密かに参戦を目論んでいると思われてたか?


「兄上の残した子供達じゃからのう……。どうしても、安全に暮らして欲しいと、そう望んでしまうんじゃよ……。気を悪くしたなら、許しておくれ……」


「いえ……。そう言われては、何も言い返せませんよ……」


 ボクは苦笑を浮かべて、返事を返す。本心からの気遣いに、気を悪くする何て有り得ない。


 それに、ボクは少し考え違いをしていた。ワトソンさんは、本心からボクの事を、親戚として扱っているみたいなのだ。


 ボクと爺ちゃんは、血の繋がりが無い。そして、その事は事前に、ボクの方から説明してある。


 だからこそ、ボクはワトソンさんの言葉を、これまで信じられずにいた。口では何と言っても、いざとなれば裏切られるかもと、そう考えてしまっていたのだ……。


「もう少し、頼って良いのかもしれませんね……」


「ほっほっほ、そうしてくれれば、ワシとしても嬉しいのう!」


 ワトソンさんは朗らかに笑う。そして、慈しむ様に、ボクとアンナに視線を向ける。


「アンナちゃんも、今日からワシの弟子じゃ。何かあれば、いつでも頼って良いからの?」


「なら、魔導士ウィザードの事を早く教えて……。私は、一日でも早く、強くなりたい……」


 くつろいでいたアンナが、急に強い視線を送る。その視線に、ワトソンさんは、目を丸くする。


 しかし、次の瞬間には大きく頷き、その場で立ち上がった。


「良かろう。今から指導を始めるので、ワシについて来なさい」


「ん……。お兄ちゃんは、先に帰ってて良いよ……」


 アンナは立ち上がると、微かに笑みを浮かべる。


 ボクはそんなアンナに笑みを返す。そして、立ち上がると、彼女の頭に手を乗せる。


「わかった、先に帰ってるね。余り遅くなって、ワトソンさんの迷惑にならない様に」


「ほっほっほ、ワシは泊まり込みでも構わんがのう!」


 ワトソンさんの返事に、ボクは反応に困って固まる。


 しかし、アンナはそんな状況を簡単にぶち壊す。何故なら、彼女は空気が読めない子だから。


「私が寝るのは、お兄ちゃんのいる屋敷だけ……。他人の家でなんて、安心して寝られない……」


「いや、そこはもうちょと、信用して欲しいんじゃがな……」


 ワトソンさんが、ションボリした様子を見せる。見ていてちょっと、可愛そうになってしまう。


 しかし、アンナはグッと親指を立てる。そして、微かな笑みを、ワトソンさんに向ける。


魔導士ウィザードの師匠としては信用してる……。何故なら、お兄ちゃんが認めたから……」


「何というか……ものすっごい、ブラコンなんじゃな……」


 何となく、ワトソンさんは諦めた様子を見せていた。そんな彼に、アンナは早く教えろと、視線で訴え続けていた。


 ……まあ、案外この組み合わせは、上手くやれる気がする。放っておいても大丈夫そうだな。


「それじゃあ、後は宜しくお願いします」


「うむ、任されたわい」


「うん、待ってて……。すぐ師匠を追い抜いて帰るから……」


 やる気に溢れるアンナと、困った様子を見せるワトソンさん。


 ボクはそんな二人を残し、クランハウスへと一人で戻るのだった。

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