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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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ロレーヌ、暗殺者へ転職する(中編)

転職試験が長くなった為、中編と後編に分かれます!

 森の獣道を歩いていると、急に開けた場所が現れる。そこは小さな村であり、寂れた感じでどこにでもある村に見える。


 ……この村の、裏の顔を知らなければ。


 あたしとギルは、並んで村へと近づく。すると、村から中年のおじさんが姿を現した。


 ニコニコと笑顔で、人の好さそうな普通のおじさん。来ている服も農作業用なのか、薄汚れた感じである。一見すると、どこにでもいる農夫って感じだね。


「やあやあ、こんな村さ来るなんて、物好きもいるもんだな~。それで、どうしたんだ~? 道にでも迷っただか?」


「あはは、招待状を持って来ました~。案内をお願いしますね~」


 あたしは、封のされた封筒を取り出す。そして、おじさんに向かって差し出した。


 おじさんは怪訝そうに眉を顰める。それでも、手紙を受け取り中身を確かめてくれた。


「なになに~? ヴォルクスの盗賊ギルドのマスターさんからか~」


 おじさんは笑顔のまま、手紙を読み進める。ぱっと見は、本当に印象に残らない様な、普通のおじさんにしか見えない。


 おじさんはすぐに手紙を読み終える。その手紙を封筒に戻すと、そっと懐にしまった。


「手紙は本物みたいだな……。いいだろう、着いて来い……」


 おじさんの雰囲気が急変した。笑顔は消え、鋭い視線をあたし達に向ける。そして、足音も立てず、村の中へと進み出した。


 どうやら、ここが暗殺者アサシンの隠れ里で合っていたらしい。おじさんに着いて行けば、暗殺者アサシンギルドへ案内してくれそうである。


 あたしとギルは、無言でおじさんに着いて行く。おじさんからはピリリとした空気が漏れ、談笑って雰囲気じゃなかったからね……。


「ここだ……。入るぞ……」


「ここって……物置小屋……?」


 案内された場所は、簡素な作りの木の小屋だ。小さすぎて、外から見ても数名しか入れそうにない。本当にこんな場所が、暗殺者アサシンのギルドなのだろうか?


 あたしが疑問に思っていると、おじさんは気にせず扉を開ける。そして、小屋の中へと踏み込んで行った。仕方なく、あたしとギルも、その後に着いて行く。


 おじさんは小屋の隅にある、大き目の木箱を横へとずらす。すると、そこには地下へと続く階段が存在していた。


「へえ、隠し部屋なんだね……」


 あたしの呟きに、おじさんは反応しない。あたしの事は気にせず、そのまま階段を降り始めた。


 あたしは軽く肩を竦める。そして、ギルと一緒におじさんの背中を負う。


「ここで、ギルドマスターがお待ちだ……」


 薄暗い階段を下ると、そこには木製の扉が現れた。おじさんは扉を開くと、中へ入れと促して来る。どうやら、案内してくれるのは、ここまと言う事らしい。


 あたしはゴクリと喉を鳴らす。緊張するのを感じるが、ここで立ち止まっていても仕方が無い。覚悟を決めて、扉の奥へと足を進める。


 すると、そこにはちょっと広めの部屋が現れた。四角い部屋で、壁も床も土を固めただけ。そして、四面の壁にはそれぞれ扉が存在し、その脇には魔法のランタンが吊るされている。


「かっかっか……! よう来たのう、お嬢さん……!」


 部屋の中央では、一人のおじいちゃんが立っていた。豊かな髭と、長い眉は真っ白。顔はシワクチャで、恐らくは院長先生くらいの年齢。服装はそこいらの村人っぽい、小汚い恰好である。


 おじいちゃんは、手を腰に回して組んでいるけど、その割には歳を感じさせなかった。足腰がしっかりしていて、背中も曲がっていない。


 それに、強い相手特有の、ピリリとした緊張感を感じる。ギルドマスターや、サブリーダーが纏ってる空気みたいな奴だ。


 ……うん、このおじいちゃんは只者じゃないね!


「ダストンからの紹介じゃったな? なら、実力については問題無かろう。あれはあれで、仕事には誠実な男じゃからのう」


 ちなみに、ダストンってのは、盗賊ギルドのギルドマスターの事だ。あたしが頼んだら、暗殺者アサシンギルド宛に、紹介状を書いてくれたのである。


 ……ってか、いつの間に紹介状を見たんだろう? 紹介状はさっきのおじさんにしか見せてないよね?


「じゃが、奴は身内に甘い部分もある。お嬢さんの覚悟は、確かめねばならんじゃろうな……」


「あたしの、覚悟……?」


 あたしは首を傾げる。あたしは試験内容を知らないからだ。


 何故か、ボスは知ってるみたいだったけど、あたしには教えてくれなかった。何でも、知らない方が、合格する可能性が高いからだとか……。


 そんな訳で、あたしはおじいちゃんの説明を待つ。おじいちゃんは顎髭を撫でながら、何やら楽しそうに説明を続ける。


「ここは暗殺者アサシンギルド。当然ながら、暗殺を生業にする者達が集まるギルドじゃよ」


「うん、そりゃそうだね」


 おじいちゃんの説明に、あたしは頷く。当たり前の説明をされてしまったけど、おじいちゃんは何を言いたいのかな?


「……お嬢さんは、人を殺した事はあるのかね? 時に自らの心を殺し、人を殺す覚悟はあるのかね?」


「……え?」


 その質問に、あたしは頭が真っ白になる。その意味を理解するのに、若干の時間が必要だった。


 人を殺した事があるか? 魔物ならあるけど、人を殺した事なんて無い……。


 人を殺す覚悟はあるか? 魔物ならともかく、人を殺すなんて考えた事も無い……。


 ここは暗殺者アサシンギルド。暗殺を仕事にする人達のギルドである。


 あたしは、そんな当たり前の事も理解せず、この場所に立ってしまっていた……。


「ふむ……。それでは、お嬢さんへの試験内容を伝えよう……」


「な、何……?」


 おじいちゃんはパチンと指を鳴らす。あたしはその音に、ビクリと体を震わせた。今から何が始まるのか、不安で仕方なかったからだ……。


 そして、奥の扉から、黒ずくめの男性が二人現れる。それぞれに、三十前後の女性と、十歳程の男の子を引き連れていた。


 恐らく、女性と子供は親子なのだろう。二人は猿ぐつわを噛まされ、両手を後ろで縛られた状態だった。


「この親子は、先日捉えた帝国の間者でのう……」


「帝国の……間者……?」


 見れば、親子の恰好は旅人風に見えた。使い込まれた布の服は、泥だらけで汚れている。


 それだけなら良い。しかし、親子は黒髪だった。この国では、とても珍しい事に……。


「そして、必要な情報は既に吐かせ終わっておる……。つまり、いつでも処分可能という訳じゃな……」


「処分……可能……?」


 その言葉を理解する事を、あたしの頭は拒んでいた。


 帝国の間者を処分可能。その言葉の先を、あたしは聞きたくなかった……。


 しかし、おじいちゃんは、無情にもその言葉を口にする。


「お嬢ちゃんの試験は、この母親を殺す事じゃよ。……この子供が見ている前でな」


「なっ……!? 何と悪趣味な……!」


 後ろから、ギルの怒鳴り声が聞こえる。しかし、あたしは固まってしまい、その声に反応出来なかった。


 おじいちゃんの告げた試験内容が、あたしには余りにも衝撃的過ぎた為だ……。


「簡単な依頼じゃろ? お主の腰の短剣を、この母親に突き刺すだけじゃからな……」


 おじいちゃんは、左右の腰に差した短剣を指出す。一本は天竜祭の時に用意して貰った、ミスリルのダガー。もう一本は、ボスに用意して貰った、鋼鉄製の炎のダガーである。


 このダガーで、あの母親を殺す……? あたしが、子供の見ている前で……?


「の……残された、子供は……?」


 あたしは激しい吐き気を我慢し、気になった事を質問する。


 二人共殺すなら、子供の前で見せる理由がわからない。母親の死を見た子供に、彼等は何をすると言うのだろうか……?


「かっかっか……! この位の年齢であれば、いくらでも思想教育が可能じゃ! 帝国への逆スパイを行って貰うのが良いじゃろうな!」


「思想……教育……?」


 言葉としては聞いた事がある。だけど、その意味が理解出来なかった。この状況で、この言葉が持つ意味が、あたしには理解出来なかった。――いや、受け入れられなかった。


 すると、ギルドマスターはニヤリと笑う。そして、あたしに向かって説明を行う。それは、理解の拒絶を許さない、無言の圧力が込められていた……。


「洗脳と言った方が、わかりやすいかのう? つまり、母親が殺されたのも、この子が辛い目に会うのも、全てはカーズ帝国のせいと言う訳じゃ。カーズ帝国を滅ぼす為なら、この子は何でもする様になるじゃろうなぁ」


「せ、洗脳……?」


 母親を殺され……。洗脳され……。あの子は王国の手先になる……?


 あたしに、その片棒を担げと言うのか……?


「…………」


 あたしは、床に転がされた男の子に目を向ける。その子は目に涙を溜め、あたしに懇願の意思を示していた。


 殺さないで欲しい。助けて欲しいと……。


「さあ、暗殺者アサシンになりたいのじゃろう? さっさと始末してしまえ……」


 おじいちゃんは顎をしゃくる。そして、母親を殺す様に指示を出す。


 あたしの心臓は、かつて無い程に激しく鳴っていた。逃げ出したい衝動の中で、あたしは必死に考える。


 何で、あたしが母親を殺さないといけない……? 何で、あたしは暗殺者アサシンにならないといけない……? 何で、ボスはあたしにこの試験を受けさせた……?


 あたしは振るえる右手で、鋼鉄製のダガーに触れる。そして、左手でミスリルのダガーに触れる。


「はっ……はっ……はっ……」


 心臓の音が煩い……。考えがまとまらない……。あたしの頭が、心が、悲鳴を上げている……。


 だけど、逃げる訳にはいかない……。ここまで来たんだ……。仲間の為にも逃げられない……!


 あたしは腰のダガーを引き抜く。左右の手に、それぞれのダガーを握りしめる。


「ふむ……?」


 おじいちゃんは、あたしの様子をジッと見つめる。疑う様な視線で、あたしの事を睨み付ける。


「殺意が感じられんのう……。それで、本当に殺せるのかね……?」


「ふう……ふう……ふう……」


 あたしは乱れる呼吸を整え、一歩ずつ前に踏み出す。その様子を見て、親子は恐怖の視線を向ける。あたしに対して、絶望の眼差しを向ける……。


「やるしか……ないでしょ……!」


 あたしは覚悟を決める。そして、地を駆け、親子に向けて、刃を振るう。


 振り払われた刃には、あたしの覚悟が込められていた。

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