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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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ルージュ、守護者へ転職する(後編)

 女神フローラムの神殿。それは、ペンドラゴン王国北の、小さな島に存在する。


 そして、女神フローラム様が司るのは愛と勝利。光と生命の神スルラン様の娘と伝えられ、世界中のあらゆる国で祀られている。


 私達の訪れた神殿は、その中でも最も歴史ある神殿らしい。その為、聖教会の中では聖地と認定されているとのことだ。


 ……最も、とある理由から聖教会も、この地を管理する事は出来ないらしいのだが。


「新品同然ですね……」


「ああ、その様だな……」


 私とギリー殿は、石造りの廊下を並んで歩く。窓も無いのに何故か明るい。そして、無人の孤島にも関わらず、神殿は丁重に手入れされているみたいだった。


 恐らく、これは人の手による物では無い。神の奇跡に類する事象だろう。何故ならここは、そういう奇跡が起こりうる場所なのだから……。


「どうやら、ここが目的地みたいですね」


 私達が辿り着いたのは、広いフロアーであった。室内は神々しい気配で満たされている。そして、周囲の壁には、女神フローラムの姿が彫刻されていた。それを讃える人々の姿と共に。


 それは、作者の思いが強く感じられる、芸術作品であった。女神への憧憬とでも言うのだろうか? 溢れ出す畏敬の念を、見る者にこれでもかと訴えて来る。


 ……或いはこの作者は、女神フローラムを実際に目にしたのかもしれない。そう思わせるだけのリアリティが、これらの作品には込められていた。


 この壁画は、女神を讃えるのに相応しい作品だと言えるだろう。私はつい、その美しさに見惚れてしまう。


「油断するな……。何者かの気配を感じる……」


「なっ……!?」


 ギリー殿の言葉で、私は現実に引き戻される。そして、私は自らの気の緩みを恥じる。


 ここは決して安全な場所では無い。いくらギリー殿が側にいるとは言え、前衛たる私が油断するなど、あってはならない事であった。


『ふふ……。ようこそ、女神フローラム様の神殿へ……』


「「…………」」


 何も無い空間のはず。しかし、私達を除くと無人のフロアに、女性の物と思わしき声が響く。その声は凛と澄んだ音色であると同時に、聞く者に緊張感を与える力強さが感じられた。


 声は反響し、発生源を探る事は難しい。その為、私はギリー殿へと視線を向ける。彼は、とある一点をジッと見つめていた。やはり、彼には相手の気配が掴めているらしかった。


 私はその視線を追い、何も無い空間を見つめる。すると、その空間は僅かに揺らめき、一人の人物が姿を見せた。


 その人物は、腰まで伸びた黄金の髪と、黄金の瞳を持つ美女であった。右手には銀の槍を持ち、左手には銀の盾を持つ。そして、その体も細見の彼女に合わせた、銀の鎧に包まれている。


『私はフローラム様に仕える戦乙女ヴァルキリー……。問いましょう……。貴方達は何故、この聖地を訪れたのですか……?』


 アレク殿より、事前に話は聞いていた。守護者ガーディアンの試験官が戦乙女ヴァルキリーであるという事は。そして、この神殿が神の眷属によって守護された地であるという事を。


 しかし、事前に聞いていたとはいえ、彼女の威圧感には冷や汗が流れる。存在の格が違うとでも言うのだろうか? 彼女を目の前にすると、思わず跪きたくなる衝動に駆られるのだ。


 私はぐっと手を握り、自身に活を入れる。相手に気圧され無い様に、意識して一歩踏み出す。そして、事前に用意してあった腕輪を示す。


「私の名前はルージュ=ハワード! 守護者ガーディアンの試験を受けに参りました! どうか、私にご加護をお授け下さい!」


 この腕輪は『守護者の証』と呼ばれるアイテムである。戦乙女ヴァルキリーの逸話が残る地を巡り、いくつかのアイテムを集めて作成を行う。


 アレク殿の指示で作成しておいた、守護者ガーディアンの転職試験を受ける為の証明書との事だ。


『ハワード……?』


 彼女の黄金の瞳が私を捉え、不思議そうに呟く。どうやら、祖父が付けた家名を知っているらしい。


 しかし、私の意識は別の所に向いてしまう。それは彼女の瞳である。その瞳はとても美しかった。気を抜くと、私の意識が吸い込まれそうな程に……。


 その為、私は一旦目を閉じ、呼吸を整える。試験を前に、無様な姿を晒す訳には行かないからな。


『久しく聞く名です……。貴方はカインの息子ですか……?』


 彼女に問われ、私は再び瞳を開く。そして、胸を反らして堂々と答える。


「いえ、カイン=ハワードは私の祖父です! 私はカインの孫に当たります!」


『孫ですか……。人の時とは、とても早く進むものですね……』


 彼女の見た目は二十歳程にしか見えない。しかし、その目に込められた慈愛は、子に向ける親の視線にも感じられた。それだけで、彼女が見た目通りのうら若き女性で無いとわかる。


 しかし、そんな愛情の籠った視線も、一瞬で消えてしまう。彼女の瞳は厳しい物へと変わり、その手に持つ槍を、私に向けて宣言する。


『良いでしょう……。貴方に戦乙女ヴァルキリーの試練を与えます……。その武と勇を、私に示しなさい……!』


「承知致しました! お手合わせ、宜しくお願いします!」


 私は手にした盾を構え、彼女へと意識を集中させる。そして、背後ではギリー殿も構えているはずだ。


 何せこの試練は、二人一組で受ける試験。私が彼女の攻撃を凌ぎ、ギリー殿が彼女へ攻撃を行う。その連携が十分で無ければ、戦乙女ヴァルキリーの試験では合格が貰えないと聞いている。


 ……もっとも、アレク殿の話では、ギリー殿が付けば合格間違い無しらしいが。


『では、参ります……!』


「…………っ!?」


 それは、とても鋭い突きであった。小手調べ等では決して無い。油断していれば、一瞬で終ってしまう程の鋭さが宿っていた。


 しかし、私はその一撃を何とか盾で弾く。ギリー殿の特訓により、私の危機回避能力が鍛えられていたお陰だ。


『なるほど……! 流石はカインの孫だけは有りますね……!』


 彼女の美しい顔が、ニィッと笑みで歪む。歪んで尚美しい彼女の表情……。


 しかし、その表情は神に類する神々しさから、戦士の持つ精悍さへと変貌していた。


 彼女の気迫に押され、私は背に汗を感じる。すると、私の髪を掠めて矢が飛来した。その攻撃を、彼女は軽々と盾で防ぐ。


『そして、良い攻撃です……。これは中々に楽しめそうですね……!』


 彼女の銀の槍が、容赦なく繰り出される。その攻撃を、私は全て紙一重で防ぎ続けた。


 それと同時に、ギリー殿の攻撃も絶え間なく続く。彼女はその全ての攻撃を余裕を持って捌く。


「くっ……! 何と激しい攻撃なのだ……!?」


 これでもきっと、遊ばれている状態なのだろう。彼女の表情には余裕があり、必死に食らいつく私とは正反対だ。


 そして、槍による攻撃も、盾による防御も、全てが一つ上の次元にあった。悔しくはあるが、私との実力差は明白である。


『貴殿方は、こんな物ですか……!?』


「まだ……まだ、だっ……!」


 だが、激しい攻撃の中、いつしか私は感動すら感じ始めていた。彼女の武技は、戦士にとって一つの終着点だと感じられたからだ。


 その美しく洗礼された技を見れば、全ての戦士は自らの目指す先を理解する事が出来る。これが戦乙女ヴァルキリーという存在……。勇ましき戦士に加護を与える存在という者なのか……。


『ふふふっ……。素晴らしい……素晴らしいですね……!』


 その演武の様な応酬は、徐々に加熱して行く。彼女の攻撃は更に苛烈となり、それに対するギリー殿の反撃も鋭さが増して行く。


 ――そして、その事に私は、恐怖心を抱き始める。


 彼女とギリー殿の応酬に、私ではついて行けない……。二人との力量差により、私自身の限界が近い事を感じ始めていたのだ……。


「くそっ……!」


 気付くと、戦乙女ヴァルキリーである彼女は、ギリー殿に意識の大半を向けていた。私の事は片手間に相手しているらしく、視界に入っているかも怪しい状況だった。


『貴方は既に殻を破っていますね……! 戦士の至る極地へ、既に片足を踏み入れているのですね……!?』


 彼女の瞳に熱が籠る。そして、興奮した表情でギリー殿を見つめていた。言葉の意味はわからないが、ギリー殿には彼女が興味を持つ何かがあるらしい。


 出来る事なら、そのやり取りは別の所でお願いしたい所である……。


「…………かはっ!?」


 そして、苛烈さを増すその攻撃は、とうとう私の限界を突き破る。


 いや、正確に言うならば、私の持つ盾の限界だ。彼女の一撃が、私の盾を粉々に砕いてしまったのだ。


 そして、攻撃の勢いで吹き飛ばされ、私は無様に地へ転がってしまった。


「ルージュっ……!?」


 ギリー殿の声が聞こえる。


 しかし、私の頭は真っ白になり、それに答えられずにいた。


 何故なら、私の盾が砕け散ったのだ……。


 我が主より賜った、命と同じ程に大切な盾が……。


「あ……ああ……あああっぁぁぁ……!?」


 私は転がったまま、盾の欠片に手を伸ばす。白銀の欠片は無数に砕け、バラバラに飛び散っていた。


 私は地を這いながら、その欠片を拾い集める。


「私の……私の盾が……!?」


 幸いな事に邪魔は入らなかった。戦闘は中断され、彼女はジッと私の事を見つめているだけ。


 しかし、今の私には彼女の存在等、どうでも良い事であった。私は盾の欠片を拾い集め、その残骸にただ涙した。


「う……うううぅぅ……! 済まない……済まない……!」


 全ての欠片を集めると、私はそれを胸に抱きしめる。そして、ただひたすらに謝り続けた。


 そんな私に対し、彼女は静かに問い掛ける。


『勇敢なる戦士よ……。何故、その様に涙を流すのです……?』


 感情の感じられない問い掛けだった。ただ、その問いが蔑みで無い事だけは感じられた。


 私の脳裏に、アレク殿より盾を賜った、あの日の記憶が蘇る。そして、この盾と共に過ごした冒険の日々を……。


 私は流れる涙もそのままに、彼女の問いに答える。


「この盾は……私の命を支え、私の成長と共にあった物……。この盾は、私にとって……掛け替えのない相棒パートナーだったのです……」


 初めに手にした日、私は興奮で中々寝付けなかった。その後の激しい修行の中で、常に私の手中にあり、私の身を守り続けてくれた。この盾無くして、今の私は存在しえないだろう……。


『その謝罪の意味は……?』


 彼女は再び私に問う。


 私の胸中に広がるのは後悔。私の技量がより優れていれば……。或いは、足りない技量を努力で補えてさえいれば……。


 私は顔を上げ、彼女へと答える


「私が不甲斐ない為に、この盾は砕けてしまったのです……。私がもっと強ければ……もっと上手く使ってやれれば……この盾はもっと活躍し続ける事が出来た……。この先も、ずっと一緒に居られたはずなのです……」


 私の盾は、これまで私に良く応えてくれた。未熟な私が、皆を守り続ける事が出来たのは、この盾の能力があってこそなのだ。


 なのに私は、この盾の性能を引き出し切れなかった……。この盾は、ここで終わるべきでは無かったのに……。


『ふ、ふふっ……』


「え……?」


 気付くと彼女の瞳は、私の胸元へと向けられた。粉々に砕け、役割を終えた私の盾に。


 そして、彼女の瞳は慈愛に満ちていた。初めに会った際の、母を彷彿とさせる笑みを浮かべ……。


『その愛、実に好ましい……。フローラム様も、さぞお喜びになる事でしょう……!』


 彼女は両手を広げ、歌うように言葉を続ける。その表情は慈愛に溢れ、神の眷属に相応しい物だった。


『貴方の盾も、また望んでいます……! 貴方と共にある事を……! 貴方と共に戦う事を……!』


 彼女の体からは、暖かな光が溢れ出していた。神々しさすら感じられる、とても美しい光景であった。


『ならば、私は加護を授けましょう……! 愛と勝利の名の元に……! 戦乙女ヴァルキリーの祝福を……!』


「な、何ごとだ……!?」


 彼女から溢れる光は、私の盾へと降り注がれる。すると、欠片と化した私の盾は、その光に溶けて混ざる。


 やがて、光り輝く塊は、一つの形へと姿を定着させる。タワーシールドと呼ばれる、身を隠せる程の大きな盾へと。


『貴方の盾は、その魂を引き継ぎました……! さあ、その盾を手に取りなさい……! 新たなる力を得た、『戦乙女ヴァルキリーシールド』を……!』


戦乙女ヴァルキリーの……シールド……?」


 その盾はとても軽かった。以前のカイトシールドと同程度だろうか? 巨大化したにも関わらず、長く使い続けたかの様に、とても手に馴染んだ。


 しかし、決して盾が薄くなった訳でも無い。十分な厚みと強度が感じられる。更には持っているだけで力が沸き、身体が軽くなったかの様に感じられた。


 私は盾の表面を撫でる。そこには女性の姿が刻印されていた。目の前に立つ、戦乙女ヴァルキリーとまったく同じ女性の立ち姿である。


「宜しいのでしょうか……? この様な素晴らしい加護を頂いても……?」


 私は戸惑いを感じ、つい尋ねてしまう。


 それに対し、彼女は優しく微笑んで返してくれた。


『ええ、勿論です……。それに、私もつい、やり過ぎてしまいましたからね……』


 そして、彼女の視線はギリー殿へ向けられる。先程みたいな熱は感じないが、それでも興味は残っているらしい。


『貴方がその生を終えた時……。私は貴方を迎えに行くかもしれませんね……』


「それは、まさか……?」


 戦乙女ヴァルキリーには伝承がある。死した英雄の魂を迎え、神の元で転生させると。そして、迎えられた魂は、神の眷属として、新たな使命を与えられるのだと……。


 まさか、ギリー殿はその候補なのか……?


 私は慌ててギリー殿へと視線を向ける。しかし、ギリー殿は興味が無さそうに、肩を竦めるだけであった。


「オレの命は兄弟の為にある……。オレの死後も、兄弟の意思次第だな……」


『神の誘いより、兄弟の意思を優先させますか……』


 神を軽んじる発言に、彼女は面白そうに微笑む。私は冷や冷やしながら成り行きを見守るも、とくに険悪な雰囲気にはならなかった。


『兄弟愛もまた素晴らしき物です……。貴方の兄弟とも、一度会ってみたいものです……』


「ああ、機会があればな……」


 ギリー殿の返答に、彼女は静かに微笑む。そして、その手の槍を、スッと出口へと向ける。


『さあ、行きなさい……。守護神ガーディアンの試験は合格です……。新たな力で、貴方達の大切な人々を救うのです……。新たな英雄の門出を、私は祝福しましょう……』


 彼女のその言葉により、私の体は光に包まれる。それは一瞬の出来事だったが、私は直感的に理解した。


 これが戦乙女ヴァルキリーから与えられた、オーラの力なのだと。そして、私は守護者ガーディアンの力を得る事が出来たのだと。


「はい、ありがとう御座いました! きっと、この力を正しき事に使ってみせます!」


 私は彼女に向かって頭を下げる。最大限の感謝の気持ちを彼女へと向けた。


 しかし、頭を上げると、そこには既に彼女の姿は無かった。その一瞬の間に、彼女は姿を消してしまったのだ。


「さあ、戻るとするか……」


「ええ、戻りましょう!」


 ギリー殿に応え、私は出口に向かって歩き出す。その隣を、ギリー殿も並んで歩く。


 私はこうして、新たな力を手に入れた。守護者ガーディアンというジョブと共に、戦乙女ヴァルキリーシールドという新たな力である。

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