表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/354

ルージュ、守護者へ転職する(前編)

 現在、私は守護者ガーディアン転職の為に、とある神殿へと向かっている。ガーヴァ火山からロードランナー便で三日。そこから更に、船に乗って一日の島である。


 同行者はギリー殿。アレク殿の指定である。何でも護衛としてだけで無く、試験でもギリー殿の力が必要になると聞いている。ギリー殿はいつも通り、アレク殿の指示を了承していた。


 そして、今の我々は船上から海を眺めていた。周囲は穏やかで、魔物の気配も無さそうだ。日差しも暖かで、心地良い陽気なのだが、身体を動かせないのがもどかしい。


 ……可能であるなら、日課の鍛錬でも行っている所なのだが。


「ルージュ、何をソワソワしている……?」


「あ、いえ……。少々、時間を持て余してしまいまして……」


 唐突にギリー殿から尋ねられる。私が苦笑いを浮かべて返すと、ギリー殿はただ静かに頷いた。それで納得したのか、ギリー殿は再び視線を海へと戻す。


 私はジッとギリー殿の様子を伺う。緩やかな緊張感とでも言うのだろうか? 彼からはほんの僅かに、周囲を警戒する雰囲気を感じる事が出来た。


 ただ、それは船上だからでは無い。ギリー殿はいつ、何時でも変わらない。何が起きても動ける様に、常に周囲へ気を張っている。それが、彼にとっても普通なのである。


 私達には真似出来ない事である。だからこそ、ギリー殿は名実共に、アレク殿の右腕足り得るのだろう……。


「どうした……? 何か気になるのか……?」


 私の視線に気付き、ギリー殿が再び尋ねる。そこには、微かな心配の気配が感じられた。彼は基本無表情なので、中々に読み取りにくい所ではあるのだが……。


 私は再び苦笑を浮かべる。そして、良い機会なので、ギリー殿へ質問してみる事にする。


「そうですね。少しギリー殿の事が気になります。……ギリー殿はアレク殿と、どの様に育って来られたのかと思いまして」


「オレとアレクが……?」


 ギリー殿は微かに眉を寄せる。どうやら、質問が曖昧らしく、どう答えて良いか悩んでいる様子だ。


 その為、私はもう少し詳しく質問してみる事にした。


「ええ、賢者ゲイル様や精霊術士エレメンタラーリリーエンタル様に鍛えられたとは聞いています。しかし、私が気になるのは、ギリー殿の内面です。そのストイックさは、どこから来る物なのでしょうか?」


「……少し、勘違いをしているな。オレはゲイル様には、手ほどきを受けていない……」


「え……? そうなのですか……?」


 アレク殿やギリー殿は、若くして上級職へ至っている。そして、我々に対しても、同様の知識で成長を促してくれた。


 その知識は、賢者ゲイル様による物では無いのだろうか? それとも、アンナ殿と同様に、アレク殿が成長後にサポートしたのだろうか?


 私が内心で様々な疑問を抱いていると、ギリー殿は静かに口を開いた。その内容は、私の想像とは異なる、驚くべき事実であった。


「オレを鍛えたのは父だ……。森の歩き方……。狩人の技術……。戦士の心構え……。アレクやリリーさんとは、実戦の一部を共にしただけだな……」


「賢者ゲイル様や、アレク殿の助けでは無いと……? それで、そこまでの成長が可能なのですか……?」


 私の疑問に、ギリー殿が黙り込む。腕を組んで、何かを考えているみたいだった。


 そして、僅かな間を開け、静かに首を振る。


「助けは借りていない……。しかし、その背中は追い駆けた……。アレクが居なければ、オレのこの成長は無かっただろう……」


「目指す目標があったから、辛い修行に耐えれたという事でしょうか?」


 今度の問いには、すぐに頷きを返した。そして、静かだが、力強い声を発する。


「そうだ……。アレクは英雄となる男……。オレは、その隣に立ち続けると決めた……。だから、凡人であるオレには、並みでは無い努力が必要なのだ……」


「英雄の、隣に立ち続ける……」


 その言葉に、私の心がざわついた。何故か、理由のわからない焦燥感に襲われた。


 そんな私の心情に気付かず。ギリー殿は言葉を続ける。


「オレは幼少期より、何をするにもアレクに勝てなかった……。同じ村に生まれ、同じ乳を吸って育った……。にも関わらず、アレクはどんどん先へと進む……。オレは常に、置いて行かれる恐怖を感じていた……」


 その気持ちは非常に理解出来る。私は『白の叡智』に入り、この一年で見違える程に強くなった。ハワード家が持つ世間への引け目等、ここ数か月は感じる事が無くなった程である。しかし、それと同時に、アレク殿との差を思い知らされるのだ……。


 成長して追いつくはずだった。なのに、アレク殿は更に先へと行ってしまう。今では街の誰もがアレク殿を英雄と認識している。領主様ですら、アレク殿を頼りにしている。一介の冒険者として強くなっても、とてもその差が埋まったとは思えないのだ……。


「そして、同じ少女に恋をした……。恋した少女は、当然の様にアレクに惹かれた……。そこでもオレは、戦う前から負けを認めてしまった……」


 アンナ殿の姉の事だろうか? 確か、ミーア殿と言う名だったはずだ。


 アレク殿と恋仲とは聞いていた。しかし、ギリー殿まで恋慕の情を抱いていたとは知らなかった。ギリー殿は、どういう気持ちでアレク殿達と行動していたのだろう……。


「そして、六歳になる頃に、オレ達はワイバーンと戦った……。オレはミスをし、仲間を危険に晒した……。その危機を凌いだのは、やはりアレクだった……。オレはアレクに対し、心の底から勝てないと思った……」


 ……六歳でワイバーンと戦った? 一体それは、どんな状況なのだ……!?


 ワイバーン等、今の私でも手を焼く相手だ。そんな相手を、子供がどうこう出来る方がおかしい。そんな相手と比べられれば、私だって心が折れてしまうだろう……。


「そして、落ち込むオレに、父が声を掛けて来た……。負け犬のままで良いのか……。このままずっと、下を向いて生きて行くのかと……」


 ……ギリー殿の父親も、随分とスパルタな方だったらしい。


 私の父上も、そこまでは厳しく無かった。ハワード家の復興の為と修行を行ったが、今にして思えば子供が耐えれる程度の修行でしか無い。少なくとも、未成年でワイバーンを狩る実力は求めて来なかった……。


「そして、ある言葉がオレの心に火を点けた……。アレクに認められたくは無いのか……。その隣で、胸を張って生きたくは無いのかと……」


「…………っ!?」


 その言葉に、私の心が鷲掴みにされた気がした。その衝撃に、呼吸をするのも忘れる程だった。


 アレク殿に認められる。そして、その隣で、胸を張って生きて行く……。


 それこそが、今の私が最も望んでいる事ではないか……!?


「オレは気が付いたら涙を流していた……。地に頭を付け、父に懇願していた……。強くなりたい……。アレクに認められ、隣に立てる位に……。だから、オレを鍛えて欲しいと……」


 私にはその気持ちが痛い程にわかる。アレク殿に追いつきたい。胸を張って隣に立ちたい。その為なら、どんな事だってやってみせる。辛い修行にだって耐えられる。


 そう思って、私はこの一年を過ごして来たのだから……。


「それから、オレは父と二人で常に森に入った……。父は決して手を出さない……。あと僅かでオレが死ぬという、ギリギリの所まで見守り続けた……。その結果、オレには死線が見える様になった……。超えてはいけない、一線を感じられる様になった……」


 確かに、ギリー殿が指導する際は、ギリギリまで助けに入らない。私も何度か死ぬ思いをした事がある。幼少期のギリー殿も、その様な過酷な状況で育ったのだろう……。


 とはいえ、それにより私は、直感が鍛えられた。これは不味いという状況が、経験から予測出来る様になって来たのである。最近ではその直感に、何度と無く助けられている。


「オレには自分だけで無く、他人の限界も見る事が出来る……。だからこそ、ギリギリまで追い込む事が出来る……。自分も、他人も、限界まで鍛え続ける事が出来る……。しいて言うなら、それがオレの成長の秘密と言った所だろうか……?」


 アレク殿の修行も、限界を見極め、計算された効率的な狩りを行う。しかし、そこにはある程度の余裕が含まれている。想定外の事態に対処出来る様に、限界ギリギリまで攻めたりはしないのだ。


 しかし、ギリー殿の修行には、その余裕が一切無い。本当に死ぬ手前まで攻め続けるのだ。だからこそ、ギリー殿にはアレク殿に匹敵する修行が可能なのだろう。


「……これで答えになっているか? ルージュの知りたい内容だったのか……?」


「……ええ、ありがとう御座います。とても参考になりました!」


 私はギリー殿へ力強く返す。込み上げる感情に、思わず力が入ってしまったのだ。


 ギリー殿は僅かに目を丸くしていた。しかし、ふっと口元を緩めると、満足そうに海へと視線を戻す。


「まだまだ、という事か……」


 ギリー殿に聞こえない、小さな声で呟く。そして、私はギュッと拳を握りしめる。


 ギリー殿は、私と似た感情で上を目指していた。しかし、私のスタート地点は、彼と比べて十年近い開きがある。その差は、そう簡単に縮まる物では無いだろう……。


 しかし、ギリー殿は私にとって、前例でもあるのだ。アレク殿の様に才能を持たなくても良い。努力を積み重ねる事で、肩を並べる存在になり得るのだと証明しているのだ。


 ならば、私も下を向いてはいられない。そんな暇があるのなら、少しでも多くの努力を重ね、自らを鍛えなければならない。何せ、目標とする背中は、私の事など待ってはくれないのだから。


「…………」


 私は視線を航路の先へと向ける。この先に、私の超えなければならない試練が待っている。その試練を乗り越え、守護者ガーディアンとなっても、それはまだゴールでは無い。更に自分を鍛え、英雄の仲間と認められる存在へと至らなければならないのだから。


 私は自らの目標を再認識する。そして、高ぶる感情を抑え、島への到着を待ち続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ