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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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ハティ、拳聖へ転職する(後編)

 ガーヴァ火山から北西に進むと、まったく異なる地形となる。そこは標高の高い山脈が列なる地域。その山脈の中でも一際高い山の名は、ラダム山と呼ばれている。


 そこは拳聖王ラダムが、武術を極めたとされる地だ。その為、多くの武道家が拳聖を目指し、また極めようと日々修行を行っている。そして、いつしかラダム山は拳聖の聖地と呼ばれ、自然と拳聖ギルドが出来て行った。


 オレ達が辿り着いた場所は、そういった場所である。目的は拳聖ギルドでの転職であり、ここで拳聖への転職試験が行われるのだ。


「お連れの方々は、こちらへどうぞ」


「頑張れよ、ハティ!」


「応援してっからな!」


「はい、頑張ります!」


 山門の受付で、ドリーさん、グランさんとは別れる。お二人は屈強なギルド職員に連れられ、門の中へと消えて行く。


 ちなみに、山頂にある拳聖ギルドは、高い石壁で囲まれていた。周辺に姿は見えないが、この辺りにも当然魔物は出没する。こういった守りが無ければ、夜も安心して寝れない事だろう。


「どうした? 壁が気になるのか?」


「ええ、頑丈そうですね。この中は安全そうだと思いまして」


 目の前に立つ、中年職員が尋ねて来る。中年職員とは言っても、ガッチリしたマッチョ体型。拳法着の上には、革の胸当てまで付けている。恐らくは拳聖の一人で、オレなんかより強いのだろう。


 そして、中年職員はニヤリと笑う。イタズラっぽい視線を、こちらに向けて来た。


「中は多少安全だが、希に飛行系の魔物が襲って来るぞ? それに、中には食べ物や水の蓄えが無い。毎日、麓へ降りなければ、ここでは生きて行けない」


「毎日、麓まで……」


 道中にも多数の魔物が出た。それらは決して弱い魔物ばかりでは無い。それに、ラダム山は標高の高い山だ。往復するだけで、相当な時間を要するはずである。


 生きて行くには強さが必要。そして、生活するだけで修行となる。ここは、そういった場所という事か……。


「さあ、こっちだ。着いて来い」


「あ、はい……!」


 オレは巨大な鉄の扉を潜り、中年職員の後を追いかける。そして、ついでに中の様子を確認する。


 塀の中はかなりの広さがある。ちらほらと、まばらに小屋らしき物が建っているが、あれが職員や修行者達の住居なのだろう。素材を集めるのが大変なのか、どれも木製の質素な作りだな……。


「ほら、見えて来たぞ。あれが試験会場だ」


「あれが……?」


 声を掛けられ、中年職員の指さす先を見る。そこには大きな石の壁が建っている。屋根のような物は見えず、恐らくは四角く石壁に覆われただけの場所なのだろう。


 そして、中年職員は真っすぐに試験会場を目指す。鉄製の小さな扉を開くと、躊躇う事無く中へと入って行く。


 オレもそれに続き、屈んで扉を潜る。妙に小さな扉であるが、材料を節約する為なんだろうか……?


「さて、準備は出来ているな……?」


「あ、はい! いつでも大丈夫です!」


 扉を潜った先で、中年職員が仁王立ちをしていた。そして、オレの答えに満足すると、くいっと親指を奥へと向ける。


「知っていると思うが、ここで三体の魔物と戦って貰う。死にそうになったら助けるが、油断はしない事だ。ここでは、傷の手当ても自分で行う事になるからな」


「わかりました……」


 中年職員の説明に、オレはゴクリと喉を鳴らす。ついに試験が始まるのだ。流石に多少は緊張もしてきた……。


 中年男性は楽しそうに顔を歪める。そして、奥にある大き目な扉に向かって行った。


「……ん?」


 ふと、視線の端で動く何かに気付く。それは、周囲を覆う石璧の上であった。そこから、ドリーさんとグランさんが、こちらに向かって手を振っていた。


 どうやら、あそこから応援するらしい。オレはお二人の姿に安心感を感じる。そして、思わず笑みを零し、お二人へと手を振り返した。


 そんな感じで緊張をほぐしていると、奥の扉から中年職員が戻って来る。何故か、その背後からは、二人の職員が荷台に乗せた、檻を引いていた。


「はははっ! どうやら準備は良いみたいだな!」


 中年職員はニヤリと笑う。そして、スッと半歩ずれると、檻に向かって親指を向ける。


「まずは、小手調べとして、ウィンド・ウルフの相手をして貰う。スピード自慢相手に、どう戦うか見せて貰うぞ?」


 そう言うと、中年職員は背後の職員に指示を出す。すると、指示された職員は檻の扉を開く。中年職員と若い職員二人は、サッと奥の扉へと引いて行った。


 それと同時に、開かれた檻から、一匹の獣が姿を現す。ほんのりと緑掛かった毛を持つ、狼型の魔物である。その目はオレを捉え、低く唸りを上げていた。


「やる気みたいだな……」


 ウィンド・ウルフは何度か対峙した事がある。初歩的な風魔法を使い、自己強化や攻撃魔法を使ってくる魔物だ。


 初級の冒険者には厄介な相手であるが、今のオレなら脅威と感じない。以前に戦った時は仲間と一緒だったが、今のオレはあの時より強い。一人であっても、問題は無いだろう。


「金剛の構え……」


 オレの戦闘スタイルは、金剛の構えから始まる。速度や回避を捨てたオレにとって、金剛の構えが唯一の防御手段だからだ。これで防御を固めないと、いくらミスリルの鎧を着ていても、思わぬ大怪我をするかもしれない。


「錬気……」


 続いて錬気で攻撃力を高める。これも、オレの基本パターンである。オレの使うスキルは、その殆どが気を消費する物ばかりだ。その為、この一工程を行わなければ、大半のスキルが使えない事になってしまう。


 そして、ウィンド・ウルフはオレに向かって駆け出して来る。風の魔法を身に纏い、通常より速度を上げた状態で一直線に。


 ご丁寧に待ってくれた訳では無いと思う。その目には飢えの色が滲んでいる為、腹を空かして痺れを切らしたって所だろう。


「ぐるあぁぁ……!」


「阿修羅返し……!」


 相手の牙が、突き出した左手に突き刺さる。しかし、それと同時に、オレの右手も相手の腹を捉える。その瞬間に、蓄えられた気を、一瞬にして放出する。


 返された一撃に、相手は耐える事が出来なかった。咥えた左手もあっさり離し、その体は宙へと浮き上がる。そして、数メートル先の地面を跳ねると、そのままピクリとも動かなくなった。


「ほおっ! カウンター使いか……!?」


 奥の扉から、中年職員が姿を現す。その表情は楽し気で、ニヤニヤ笑いながら近寄って来る。


「中々に珍しいスキルを使うな? 使いこなすには、かなりの修練が必要だったはずだ!」


「どうも……」


 どうやら、スキルの存在を知っていたらしい。オレもギルドマスターも知らないスキルだったが、流石は多くの拳聖が集まる拳聖ギルドの職員といった所だろうか?


 オレは内心で感心しながら、スキルによる自己治癒を始める。内気功というスキルで、ジワジワと傷を癒すスキルである。ヒーラーの精神力節約の為に、取っておく様にリーダーに勧められたスキルである。


 そして、中年職員はジッとオレの左手を見つめる。その傷が癒えるのを待つと、再び好奇の目をオレに向ける。


「良い師に巡り合えたと見える……。それでは、次の準備を行うので、しばらく待っていてくれ!」


 そう言い残すと、中年職員は再び扉の奥へと消える。ちなみに、ウィンド・ウルフは、先程の若手職員二人が、檻と一緒に片づけて行った。


「くくっ……。良い師か……」


 リーダーの顔を思い浮かべ、褒められた事を嬉しく感じる。それと同時に、おかしくも思う。


 中年職員は、オレの師を拳聖の誰かと思ったのだろうか? しかし、実際のオレの師は、賢者であるリーダーだ。拳聖どころか、武闘家ですら無い。それを知ったら、あの中年職員はどんな顔をするんだろうな?


 オレが一人で笑いを堪えていると、奥の扉から急に魔物が飛び出して来た。しかも、その魔物は空へと舞い上がる。この試験会場から逃げ出そうとしていた。


「あれは……?」


 灰色の羽毛を持つ、二メートル程の怪鳥。あれも戦った事のある魔物だ。確か名前はロック・バード。先ほど同様に初歩的な魔法を使う。使う属性は先程と違い、土属性の魔法ではあるが。


 そして、しばらく様子を見ていると、ロック・バードは上空で不可解な動きを見せていた。上へと飛び上がるが、途中で止まってしまい、その場で旋回を行う。それから場所を変えて、また同じ動きを繰り返す。あれではまるで……。


「安心しろ! 空には結界が張ってある!」


 声の先に視線を向けると、中年職員が扉から顔を出していた。ニヤリと笑うと、試す様にオレを見つめる。


「空飛ぶ相手とどう戦う? カウンターだけでは厳しい相手だぞ!」


 どうやら、阿修羅返しを見て、戦う魔物を選んだみたいだな。確かにアレだけだと、戦うのが難しい相手である。


 というか、他の武闘家でも、空飛ぶ相手は厳しくないか……?


 オレは軽く溜息を吐く。そして、面倒ではあるが、コツコツと削る選択肢を選ぶ。


「金剛の構え……。錬気……。指弾……」


 蓄えられた気を指先に込め、五発の弾丸として相手へ打ち出す。五発の内四発は回避されたが、一発は命中する事が出来た。致命傷には程遠いが、無視出来る程に軽いダメージでは無いはずだ。


「キエエェェ……!」


 相手はお返しとばかりに、石の礫をこちらへと飛ばす。ロック・ブラストという土魔法だ。オレは両腕で顔を覆い、その攻撃魔法をジッと耐える。


「内気功……。錬気……。指弾……」


 軽傷であれば、すぐに回復する事が出来る。そして、オレはただ淡々と、気を蓄えて、相手に打ち続ければ良い。時間は掛かるが、これなら確実に相手を倒す事が出来る。


 しかし、相手もそれを理解したらしい。魔法による削り合いは諦め、爪を使った急降下攻撃を選択して来た。


「キエエェェ……!」


「阿修羅返し……!」


 相手は先の戦いを目にしていない。その為、単調な攻撃がどういう結末を生むか、理解する機会を得られなかった。


 結果、魔物は宙を舞い、石壁まで吹き飛ばされる。防御能力の低い魔物は、当然の様に戦闘不能となる。


「はははっ! 中々に器用な戦い方をする!」


 中年職員が再び姿を現す。その表情は、先程以上に楽しそうに歪んでいた。


 そして、その背後からは、新たな魔物が連れて来られる。五人の職員が荷台を引き、大きな檻を運び入れて来た。


 その檻に目をやると、そこには岩の塊が鎮座していた。オレはその姿に目を剥く。


「あれは……まさか……?」


「そうだ! こいつはロック・ゴーレム! 並みの攻撃ではビクともしない! こいつ相手に、殴り合いで勝つ事が出来るかな!?」


 武闘家は一般的に、自らの肉体を鍛え、己の拳で敵を打つ。その特性から、打撃に弱いスケルトンやスピード重視の魔物には強い。


 当然ながら、それは同時に明確な弱点も意味する。打撃の効かないゴーストや、打撃の効きにくいスライム等は苦手とする。まあ、それも属性持ちの武器があれば、ある程度はカバーする事が出来るのだが……。


 そして、武闘家に限らず、物理攻撃主体の職にとって、天敵と言える魔物が存在する。それが、ゴーレムを始めとする、物理防御力が飛び抜けて高い魔物である。


 属性武器で多少はマシになるが、それでもダメージが通りにくい事に変わりは無い。しかも、ゴーレムなどは高い攻撃能力も有している。前衛職にとって、ソロでは最も戦いたくない相手と言える。


「これが最後だ! さあ、楽しませてくれよ!」


「……ふ……ふふ」


 オレは自然に笑みが零れて来た。目の前で立ち上がり、檻から現れた巨人を目にし。


「そうか……最後の相手はお前か……」


 ロック・ゴーレムは周囲の様子を伺う。ギルド職員は既に扉の奥へと退避した。この場に残るのは、奴とオレの二人だけだ。


「そうだよな……そうでなくっちゃな……!」


 オレはニヤリと笑みを浮かべる。その笑みは、きっとオレらしく無い、獰猛な笑みなのだろうと思う。


「ぐおおおぉぉぉ!!!」


 金剛の構えを取るオレを、奴は敵と判断したらしい。ノシノシと、こちらへ向かってくる。


「オレの門出を祝ってくれるか……!?」


 錬気により、オレの体内は気で満ちる。オレの準備はしっかりと出来上がっていた。


 そして、奴の殺意もビリビリと感じる。お互いに、相手を敵と認識し合っているのだ。


「ありがとよ……! これでオレは、先に進める……!」


 相手の射程はオレより長い。だから、オレは相手の間合いに入る直前に、瞬歩によって間合いを詰める。


「爆裂波動拳……!!」


 ――ズガン!!


 オレの拳が相手の腹に刺さる。しかし、その威力はウィンド・ウルフの時の比じゃあ無い。


 必殺の一撃は、相手の胴体を粉々にする。そして、砕け散った石片は、周囲の石璧に無数のヒビを作り出す。


 オレは拳を引き戻し、その結果を目の当たりにした。動く物は何もない。瓦礫に囲まれ、オレはその結果に満足する。


「…………っ!?」


 オレの体がブルリと震える。オレの背後を駆け巡る快感に、オレは一人で酔いしれた。


 ……これ程の快感は、あの日以来だ。ゴブリンキングを仕留めた、初めての大金星の日である。


「こいつは、一体……!?」


 中年職員の驚く声が聞こえる。流石に彼も、このスキルまでは知らなかったらしい。


 しかし、オレは中年職員を無視する。そして、先に戻ったリーダーを思う。


「約束は果たされた……。オレの夢が、確かに叶ったよ……」


 オレがクランに加入する日、リーダーは確かに約束してくれた。ロック・ゴーレムを一撃で倒すという、オレの夢を叶えてくれると。


 だから、オレは全てをリーダーに賭けた。この夢を叶えてくれるなら、オレの全てを差し出しても構わないと。


「やっぱり、嬉しいもんだな……」


 ゴブリン・キングを倒した日、オレの夢は変わったと思った。個人の目標より、仲間の為に戦える様になりたいと。


 しかし、それでも長年夢見た光景だ。それが叶えば、やはり嬉しい。そして何より、リーダーが約束を守ってくれた事が、それ以上に嬉しいと感じた。


 オレは握った拳をジッと見下ろす。その見た目は、昔と変わっていない。しかし、この拳で出来る事は、昔のオレとは全然違っている。


 今のオレなら、仲間を守る事が出来る。困っている人を助ける事が出来る。子供の時に夢見た、ヒーローにだって成れるのだ。


「…………」


 オレはしばらく感慨に耽る。そして、顔を上げ、視界に入る仲間の姿に頬を綻ばせる。


「……やりました! やりましたよ!!」


 ドリーさんとグランさんが、オレに向かって激しく手を振っていた。オレもそれに負けない様に、力強く手を振り返した。


 ……そうだ。この力はオレだけの物じゃない。皆が支えてくれたから手に出来た力だ。


 ならばオレは、この力を自分の為に使ってはいけない、仲間の為……そして、人々の為に使っていかねばならないのだ。


 オレは力の意味を改めて理解する。そしてこの日、オレは拳聖へと転職を果たした。

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