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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第八章 上級職転職編

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ハティ、拳聖へ転職する(前編)

 ガーヴァ火山での特訓は七日間続いた。その狩りはいつも以上のハイペースで、オレ達は全員が基本職をLv50まで上げた。これは恐るべき速度で、前代未聞の成長を遂げた事を意味する。


 やはり、リーダーがいると安心感が違うのだろうな。アンナちゃんはいつもに比べて、かなりギリギリのラインまで狩り続けた。普段なら無理無く休む場面でも、今回の狩りではギリギリまで攻め続けたのだ。


 それだけ、アンナちゃんが兄を信頼しているという事だ。何かあってもフォローしてくれる。そう思うからこそ、少々背伸びした狩りを選択出来たのだと思う。


「そろそろ、日が沈む頃じゃね?」


「だな。早めに野営の準備するべ」


 先頭を進むのは、ドリーさんとグランさんの二人だ。彼らは街道脇の開けた場所に、背負った荷物を降ろし始めた。


「ハティ、荷物番よろしく!」


「オレ達は薪とか集めっから!」


「あ、わかりました……!」


 オレの返事を待たずに、二人は森の中へと消えて行く。丸一日を歩き続けたはずなのに、その足取りには疲れた様子が見られない。流石は王都で名を馳せた、『双剣』のお二人と言った所だろう。


 オレは二人の背が見えなくなると、荷物と共に腰を下ろす。疲れを隠して歩き続けたが、流石にそろそろ限界が近かったからだ。強くなったと思ったけど、二人を見てるとまだまだだと思い知らされる……。


「はあ……。とはいえもうすぐか……」


 オレとドリーさんにグランさん、この三人で、今は上級職である『拳聖』の転職地へと向かっている所だ。ガーヴァ火山から出発して既に五日目。明日の昼には到着予定となっている。


 ちなみに、当然ながら転職するのはオレだけだ。ドリーさんとグランさんは、道中の護衛役である。リーダーの頼みに対し、二人は嫌な顔せず引き受けてくれた。本当にありがたい事である。


 そして、お二人は道中もオレに対し、とても親切にしてくれた。長旅に慣れていないオレに対し、ペースをオレに合わせてくれる。様々なサバイバル術を教えてくれる。お二人は本当に面倒見の良い、兄貴的な存在だった。


「だからこそ、必ず試験に受かって、お二人の恩に報いないとな……」


 今のオレの心配事は、拳聖への転職試験についてだ。試験内容は三種類の魔物との戦闘。その全てに打ち勝つ事で、拳聖への転職が認められるらしい。


 リーダーは問題無いと言ってくれたが、それでもオレからすれば不安が拭えない。何せオレは、一年前まで底辺をうろついていた男だ。たった一年で、それまでの過去を払拭する事は出来そうに無かった……。


「よう! ゆっくり休んでるか?」


「見てみ! 野兎ゲットしたぜ!」


「……って、早く無いですか!?」


 戻って来たお二人は、両手に薪以外も抱えていた。ドリーさんはキノコや果実。グランさんは野兎に野草だ。森に入って十分も立たず、これだけの成果を持って帰るのだ。オレからしたら、呆れるばかりである……。


「はははっ! いっつも競争してっからな!」


「そりゃあ、技量も磨かれるってもんだべ!」


 二人はニヤニヤ笑いながら、集めた薪と食材を下ろす。そして、お二人はリュックから鍋や皿等を取り出し、夜食の準備に取り掛かる。


 オレはそんなお二人の手慣れた様子を、ただ眺めるだけだった。初日は手伝いを申し出たが、お二人はその全てを断った為だ。今のオレは、転職の事だけ考えれば良いと言いながら……。


 オレはそんなお二人に、余計に申し訳無さを感じる。そして、この様な状況だからこそ、余計にプレッシャーを感じてしまうのだ。これで試験に落ちたら、お二人に合わせる顔が無いかと……。


 ――その為か、オレはつい心の声を漏らしてしまう。


「何故、お二人はここまで……?」


「ん……? 何か言ったか……?」


「ここまでって、何の事だ……?」


 お二人は作業の手を止め、こちらに顔を向けていた。しまったと思うが、放った言葉は取り消せない。オレは躊躇しながらも、そのまま疑問を投げかけてみた。


「え、いえ……。どうしてお二人は、こんなに親切にしてくれるのかと思いまして……」


「どうしてって言われてもな……」


「そりゃ、仲間な訳だからな……」


 お二人は僅かに視線を逸らした。その様子に、オレは眉を寄せる。視線を逸らすという事は、何か後ろめたい理由があるのだろう。


「やはり、理由があるんですか? リーダーの頼みを断れないとか……」


「いや、そんなんじゃねえって……」


「これは言わなきゃ駄目な奴か……」


 お二人は互いに見つめ合い、嫌そうな表情を浮かべる。そして、諦めた様に、揃って長いため息を吐く。


「まあ、オレ等からしてみたら、初めての可愛い後輩な訳だよな……」


「まあ、ちょっと張り切り過ぎた感は、否めないって感じだよな……」


「は……?」


 お二人の言葉の意味が理解出来ず、オレは思わず固まってしまう。その様子を見て、お二人は苦笑を浮かべる。


「オレ等の村で年下って、アレク達な訳じゃん? 正直、面倒を見る機会なんて無かった訳よ」


「そうそう、ギリーもミーアも、頼るならアレクだしな。オレ等に頼る事なんて無かった訳よ」


 お二人は苦い表情のまま、作業を再開する。ただし、その口は止まらず、何故か愚痴を吐き続ける。


「確かに村にいた頃は、今より頼りなかったけどさ。それでも、ちょっとは頼っても良くね?」


「そもそも、アレクがヤベェ。大人以上に気配り出来て、何でも先回りしてやっちまってさ……」


「「やってらんねぇよな……。ケトル村の子供は、みんなアレクと比べられて育つんだぜ?」」


 お二人は揃ってこちらに視線を向ける。どうやら、オレの反応を待っているみたいだ。


 オレは戸惑いながらも、無難な言葉を探して返す。


「えっと、それは大変でしたね……。ただ、王都では違ったんじゃないですか……?」


 しかし、その返しは良く無かったらしい。お二人は不機嫌そうに顔を歪め、自嘲気味に笑みを浮かべる。


「確かに王都は違ったよ……。ある意味では……」


「あんな糞みたいな所、思い出したくもねぇ……」


 その態度に、オレは思わず息を飲む。お二人の空気が、オレの知らない物に変わったからだ。


 お二人はいつも、余裕の態度でヘラヘラしている。それでいて、周りへの注意は怠らず、意外とフォローも欠かさない方々なのだ。


 それが今だけは、まったくの別人だった。周りの全てを憎み、拒絶する雰囲気を漂わせていた。


 もしかしたら、これが王都での姿だったのかもしれない。『双剣』の通り名で知られる、一流の冒険者であったお二人の……。


「……王都で、何があったんですか?」


 その質問には勇気が必要だった。明らかに拒絶の意思を示すお二人。思い出したくない。或いは、話したくない内容なのだと思う。


 しかし、オレの直感が告げていた。ここで引いてはいけないと。ここで引いてしまうと、お二人との距離が二度と縮まる事は無いのだと……。


 だからこそ、オレは踏み込むべきだと判断した。お二人の触れられたく無い過去を、オレは知りたいのだと、その意思を示すべきだと。


「……ったく。ハティは流石だよ。アレクが選んだ男だけはあるな」


「王都じゃ皆ビビッて、誰も話し掛けて来なかったってのによ……」


 お二人の表情が和らぐ。そして、張り詰めた空気も霧散して行く。


 その変化に、オレはホッと胸を撫で下ろした。どうやらお二人は、機嫌を損ねたりしなかったらしい。


「ハティは王都の冒険者を知らねぇんだよね? 良い機会だし、話しておくべきなんかな?」


「あんまり面白い話じゃねぇぞ? なんたって、あそこの冒険者は、糞だらけだったからな」


「……お願いします。聞かせて下さい!」


 お二人の悩む素振りに、オレは頭を下げてお願いした。それで、お二人の意思は固まったらしい。ゆっくりと、王都での出来事を、話し始めてくれた。


「まず、王都には膨大な数の冒険者が集まる。冒険者なんて、成り上がりを夢見るバカばっかだ。成り上がるなら、王都へ行くべきだって皆が考えて集まってくるからな」


「それが間違いって訳じゃねぇぜ? ただ、最後まで生き残れるのが一握りだってだけだ。大半の冒険者は、魔物に殺されるか、落ちぶれてスラム行きってだけでな……」


 微かな噂で、その様な話を聞いた事はある。だから、自信が無いなら、王都へ行くべきじゃないと。


 ただ、それを聞いた当時は、話半分にしか聞いていなかった。ヴォルクスで活動する冒険者が、王都に人が流れるのを嫌っているだけだろうと考えていた。


 しかし、王都で活躍したお二人が話すのだ。その話しは事実なのだろう。そして、実際に多くの人々が命を落とし、またスラム街へと流れているのだ……。


「それで運良く新人を卒業し、新人に毛が生えた頃がまたヤバい。そういった、少しは稼げる様になった奴を狙う輩が、王都には山ほど存在してるからな……」


「実際、オレ等もヤバかったな。ビリー村長が必要だって、文字を教えてくれたから助かっただけで……。アレが無かったら、今頃はスラム行きだったな……」


「お二人も……ですか……?」


 オレからしたら信じられない話しだ。熟練の冒険者という雰囲気があり、リーダーやサブリーダーとは違う頼もしさを持つ方達なのだ。それが、過去にスラムへ落ちかけていたなんて……。


「そんで、そういった通過儀礼を終えて、ようやく一人前と認められるんだな。……ただ、そこはゴールじゃ無くて、スタートでしかねぇけどな」


「そうそう。王都の冒険者として、ゲームの舞台に立っただけ。こっから、ライバルとの騙し合い、蹴落とし合いが始まっからな……」


「騙し合いに、蹴落とし合い……?」


 オレはその言葉が、イマイチピンと来なかった。


 何故、冒険者同士でそんな事が起こるのだろう? 実力が無ければ、上に行けないだけ。ライバルがどうであろうと、自分とは関係無いじゃないか?


 オレの顔を見て、お二人は苦笑を浮かべる。そして、補足の説明を行ってくれる。


「上に登り詰めるには、個人の実力だけじゃ足んねえのさ。金、装備、仲間、人脈、知識……。色々な物が必要になってくんだよ」


「けど、それを集めるのは容易じゃねえ。なら、どうすりゃ手っ取り早いかってえと、他人から奪うのが早いって考えになるんだな」


「他人から奪う……!?」


 頭にガツンと殴られた様な衝撃を受ける。冒険者が、同じ冒険者から奪う……。


 それは、オレが知る冒険者の姿では無い。オレの知る冒険者とは、困っている人を助ける、英雄みたいな存在だ。


 少なくとも、オレの周りには存在しない。そんな、オレの理想と正反対な、盗賊紛いの冒険者なんて……。


「オレ等もその頃にクランを作った訳よ。ブロンズ級のクランリーダーになって、先の未来を夢見たりな……」


「ただ、メンバーは他のクランに引き抜かれた……。装備や金も持ち逃げされた……。当然ながら、蓄えた知識も一緒にな……」


「…………」


 『白の叡智』では絶対に起きない事だ。ルージュやロレーヌが、リーダーを裏切るなんて有り得ない。サブリーダーやアンナちゃんも同じだし、ギルさんやハンスさん達だって同じだ。


 当然ながら、オレだってリーダーを裏切ったりしない。何故なら、皆が皆を仲間として認めているからだ。仲間を裏切ってまで、それ以上の何が得られると言うのだろうか?


「それから、オレ達は二人だけで活動する道を選んだ。他人を信用して、奪われるのもゴメンだし、他人を騙して、奪うのもゴメンだからな」


「そんで、その頃からオレ達は、黒魔術と白魔術を覚え始めたってわけ。二人だけで成り上がる為に、必死に知恵を絞った結果が今ってわけだな」


「王都は、そんな場所なんですか……」


 お二人の話に茫然となる。オレの知る常識との違いに、理解が追いついていなかった。


 何が人々をそうさせるのだろう? 成り上がる為に、他に道は無いのだろうか?


 ……少なくとも、リーダーを知るオレには、理解出来ない事である。リーダー程の英雄の器を知らないし、それ以外の正解なんて想像も出来ない。


 それに、オレにはリーダーのやり方が、本当の英雄の姿だって信じていたい。


「……っと、そろそろ出来たんじゃね? 流石に腹も減って来ただろ?」


「続きはまた今度な! 転職終わったら、酒でも飲みながらにしようぜ!」


「あっ……はい!」


 お二人の話に集中し過ぎていたらしい。お二人が食事の支度を進めているのが、まったく目に入っていなかった。


 オレは手渡された皿を受け取る。そこには適当なサイズに切られた、肉や野菜を炒めた料理が盛られている。リーダーの料理に比べると野性味が溢れている。しかし、野外で食べる料理としては、十分に美味しそうな出来栄えだった。


「ありがとう御座います! それでは、頂きます!」


「おう、食え食え! 足りなきゃ、また取ってくっから!」


「ハティは明日が本番だかんな! 遠慮なんてすんなよ!」


 オレはお二人に頭を下げ、渡された皿にかぶり付く。旅の疲れもあり、料理はとても美味しかった。火で炒めて、塩を振っただけの料理なのだろう。それが、こんなに美味しいとは驚きである。


 お二人の手料理に腹を満たしながら、オレは内心で改めて感謝する。今の環境を作ってくれたリーダーに。ここまで一緒に戦って来た仲間達に。そして、オレの事を弟分の様に扱い、精一杯の面倒を見てくれるお二人の先輩に対して……。


 明日は皆の為にも頑張ろう。失敗なんて恐れる必要は無い。ただ、自分の持つ力の全てを、明日の試験にぶつけるだけだ。


 こうしてオレは、万全の状態で試験の前夜を終える事となる。

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