赤と青の共闘
三十五話
無数の水の槍が、絶え間なく盾に放たれる。最初は難なく弾きかえしていた盾は、今は所々にひびが入っている。
(最高位魔術が三分ともたないとは、さすがウィザードですね)
ダイヤは隙をみて、トランプから作り出した氷弾を打ち込むが、リビアの水の壁は突破できないでいた。
(霊長の四盾はあと一回が限界。加えて、こちらにあの壁を突破するだけの魔術はなし。すぐにでも撤退すべきですが、もう少し時間を稼がなければ仕事に支障をきたすかもしれません。これは難しいですね)
槍の雨に耐えかねて、盾がついに壊れる。ダイヤはトランプを投げ、瞬時に新しい盾を張り直した。
「二つ目。あといくつ作れるのか知らないけど、時間稼ぎにしかならないわよ」
「さあ、それはどうでしょうか?」
ダイヤは、反撃の手があるかの様に去勢をはる。
(盾が壊れるギリギリまで粘れば十分でしょう。それまで、大技で一気に壊されるのを阻止すればいい)
ダイヤは再びトランプをかまえる。しかし、氷弾を作り出そうとした瞬間、トランプを握った腕に痛みを感じた。見てみると、ナイフが刺さっている。
「詠唱付加・爆」
肩から上が消し飛ばされる。
「手こずってるな。加勢するぞ、リビア」
「ジャック!」
後ろを見ると、黒いコートの男、ウィルが立っていた。
「ジャック…。そうですか、やはりあなたの仕業でしたか」
ダイヤは腕を即座に修復する。しかし、リビアとウィルに挟まれる立ち位置となり、ウィルには盾が届かない。
(リビア=カーナディアとの協力を回避するため、敢えて接触したのですが。素性がばれるリスクを負ってまで攻勢に出てくるとは、)
「さすが、赤い目の御仁。私とは、格が違うと言うことですね」
ダイヤは、トランプをウィルに向かって構え直した。
「今晩は。名乗り遅れました、私、名をダイヤと申します」
「ならオレも改めて名乗ろう。ジャック=リーガスだ」
ウィルは状況を把握する。
(霊長の四盾、このレベルの魔術まで使ってくるとは。リビアに協力を煽って正解だったな)
ピエロはリビアの魔術を防ぐのに精一杯のようだ。もう少し、リビアによるダメージを期待していたが、概ね作戦通りだ。
「リビアはそのまま、盾の破壊に専念してくれ。こいつは俺が直接叩く」
ウィルはリークを両手に持ち、ダイヤに歩いて接近する。
「なめてもらっては困ります。リビア穣ならまだしも、ただの魔術士が…」
ザン!
急接近したウィルは、ダイヤの両腕を切り落とす。
「いつまで余裕でいるつもりだ? 分かってるんだぞ、トランプを手でもたなければ、魔術は使えないんだろ。なら…」
リークをダイヤの心臓に突き刺す。
「腕を治す前に殺しきればいい」
ウィルはそのまま、リークに電撃を走らせた。
三十六話
心臓を電流で焼かれたダイヤは、再生を始めながら、すぐに距離を取ろうとする。しかし、ウィルは間髪入れず追撃を加える。
「術式付加・風」
風をリークに纏わせ、高速で打ち放つ。リークはダイヤの頭を切り飛ばし、動きを止める。
「いくら再生するといっても、頭が無ければ動けないだろ」
接近したウィルは、治りかけていた腕を再度切り落とす。
「ヒッ、ヒヒ。無駄、ですよ。いくら殺して、も私は死にません」
治りきっていない頭で、ダイヤが言う。しかし、ウィルに動揺はなかった。
「さっきも言ったが、いつまで余裕でいるつもりだ? お前の魔術はとっくに見破ってる。種明かしでもしてやろうか?」
ウィルはリークをダイヤの頭に突き刺す。
「簡単なことだ。お前の持ってるトランプ、あれは魔力の貯蔵タンクだ。どうやって集めたのか知らないが、それをバックアップに魔術を発動させている。疑似ウィザードと言ったところか? つまり、トランプが尽きれば魔術は使えない。その異常な回復も終わりはあるということだ」
言い切るとウィルは電流を流し込む。ダイヤは焦げ臭いを発しながらも、なを喋り続けた。
「お見事、正解です。しかし、解せませんね。ばれる程使ったつもりはないのですが」
「あいにくと、目だけは良いんだ。トランプの不自然な魔力くらい、初見で見抜いていたさ。それよりそのトランプ、ダイヤの五ということは、あと五回が限界なんじゃないのか?」
ダイヤの横でトランプのダイヤの五が砂になって消えていく。背後ではすでに、リビアが盾を破壊していた。
「リビア!」
ウィルは胸にリークを刺し込み、空中に投げる。ダイヤの上には大量の水が浮かんでいる
「大海の空」
「術式付加・爆」
爆発と同時に、ダイヤの体は大量の水で地面に叩きつけられた。