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タレニウム公国救国史 大公代理フレイアは、政略結婚で国難を乗り切れるのか⁉  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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5話 結婚する前に伝えておきたいこと

「武装した一団が突入し、大混乱となりました」

「武装? どこから。タレニウムか? セジェルか?」


 ウェイドが片眉をぴんとあげる。


「セジェルです」


 宰相は断言する。

 これは新聞等でも公表されているし、セジェルも認めている。


「セジェル側から武装集団が襲いかかり、グレイス姫が襲われました」

 宰相はうなだれ、拳を握り締める。


「騎馬に乗った男の剣が姫の首を一閃し、おびただしい血が吹き上がり……」

「グレイス姫を狙ったのか?」

「そのようだ。侍女さえ被害にあっていない」


 応じたのはフレイア。

 ソーサーを左手に、カップを右手に持って茶を飲む。


「誘拐して身代金をとろうとしたのか。それともセジェルとタレニウムの結びつきを恐れた他国によるものか」


 フレイアの言葉に、ウェイドは軽く首を傾げた。


「後者だと、メンフィス王国(うち)も容疑者か?」

「ダノン教皇国だってそうだ。人質といいつつ、その中身は時間設定を作った愛妾なんだからな。教義に反する。そんなことを堂々とされたら威厳に関わるだろう」


 フレイアの返答に、ウェイドは笑った。


「ようするに、まわり全員がクロか」

「タレニウムだって被害者の顔してますが、加害者かもしれません。姫を殺せば自動的に被害者になるのですからね」


 淡々と告げたのはロクランだ。宰相は彼をにらみつけたが、相変わらず表情を変えない。


「で? グレイス姫は?」

「たぶん、亡くなっているだろう」


 フレイアは緩く首を横に振る。


「宰相の見た通り、そして侍女の話から判断すると、かなりの出血量だ。生きていまい。なので、『姉の亡骸を返してくれ』とセジェルに伝えたが」


 フレイアは重く、湿気たため息をついた。


「『こちらで葬る』と。その一点張りだ。死因が判明したらまずいことがあるのだろう、傷跡とか。そうやって誤魔化し続け、事件の報告もなしだ」


「なるほど。そこで、こじれたわけだ」


 当然だがタレニウムはセジェルの警備態勢を責め、セジェルはタレニウムの自作自演だと糾弾した。


 この状況に激高したのが、セジェル王ハドリアヌスだ。『グレイスを人質によこす約束だったのに、約束が違う!』と、自分たちの警備を棚に上げ、宣戦布告をつきつけてきた。


 この状況を、フレイアの父であるタレニウム公爵トビアス・ガイ・タレニウムは必死に外交活動でどうにかしようとしたが……。


「もともと数年前から父上は心臓を悪くしておられてな。それもあり、姉の結婚を早めたところもあった。なんとしても男児の孫をと思ったのだろう。それなのに……」

「セジェル王ハドリアヌスのせいで命を縮められたか」


 ふう、とウェイドが吐息をついて椅子の背もたれに上半身を預けた。


 フレイアの父であるトビアスが、職務中に胸を押さえてうめき、絶命したのはいまから3か月前のことだ。


 そのときにはセジェル王国軍がタレニウム公国の国境を越えて進軍。

 軍務大臣が中心となり、各都市にいる騎士団を公都に集め、防衛線を張る準備をしていた。

 フレイアは父の死を公表。葬儀を一日で済ませると、次の日には宰相と相談して「大公代理」として立ったのだ。


「セジェルとの戦争は避けられなかったが……。停戦なり終戦は早めねばならん。そこで宰相には全権委任をして、各国への調整に走ってもらった」

「そこでうちにも来たというわけだ」


 ウェイドは笑い、さっきからずっとペンを走らせているロクランの肩を軽く小突く。


「第四王子にこんな幸運が回って来るとはね。人生、どうなるかわからんもんだ」

「このままタレニウムと滅ぶ可能性もありますよ」

「嫌なこと言うなぁ、お前は」


 はははは、とウェイドは笑うが、こちらは冗談にもならない。


「書状は確認したが、もう一度口頭でお尋ねする。メンフィスは我らの味方と思ってかまわないのだな?」

「もちろんだ。昼にも伝えたように、追加で10000まで兵の供給も可能だ」

「フレイア姫。これでなんとか……」


 ほっとした顔の宰相に、フレイアは苦い顔で首を横に振った。


「それでも早期解決を図らねばならん。まず、500の兵を食わせるモノがそんなにない」

「あ……」


 宰相が絶句する。

 兵がいるということは、それすなわち、消費するということだ。


「ただでさえセジェルが国中を荒らしてくれているのだ。うちだって国庫を開いても限りがある」


 フレイアは下唇を噛む。


 本来農耕地は狭く、自給率は低い。

 公国所有の鉱山から出た資源を他国に売り、穀物を大量に買い付ける。それを公国が領民に廉価で売ったり分配したりしている。


 国内の食料を奪われ、他国からの供給源を止められたら手も足も出ない。


「その点は安心しろ。うちだって自給できる兵数ぐらい見極めて連れてきている。それとは別に兵站部隊は優秀だ。自立機動している上に、今回は母国からの街道もしっかり確保できているからな。いま配下に置いている兵の食糧と武器は……まあ、2か月は持つかな」


 ウェイドが言い、フレイアは目を剥いた。


「2か月⁉」

「うちは保存食の開発に力をいれていてな。兵站を断たれても、それぐらいは平気だ。なあ、ロクラン」

「ごっそり奪われたら知りませんけどね」

「相変わらずお前は悲観的だなぁ。まあ、そこを気に入っているんだがな」


 からからと笑うウェイドをしばらくフレイアは見ていたが、カップとソーサーを置き、居住まいをただした。


 雰囲気を察したのだろう。ウェイドも口元の笑みを消し、だが、目元はやわらげたままフレイアを見る。


「結婚する前に、これははっきりと伝えておきたいのだが」

 硬いフレイアの声に、宰相はギョッとし、近衛たちも何事かと顔を青くする。



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