41話 爆弾発言
「そなたがフレイア姫か」
開口一番の言葉はそれだった。
外套がわりのマントを外し、無造作に投げる。受け取ったのはハドリアヌスの父親ぐらいの年齢である将校だ。
「お初にお目にかかる」
フレイアがぶっきらぼうに応じると、は、と短く笑った。
「姉ほどではないがそこそこではないか。ウェイド王子、よかったな」
豪快に笑い、フレイアの隣に立つウェイドの肩を雑に小突いた。
「結婚したとか? 顔を見るまではハラハラしたのではないのか。この容姿なら十分、勃つな」
「ご無沙汰をしております、ハドリアヌス王」
ウェイドはさらりと無視し、軽く会釈するにとどめる。
フレイアは、というと容姿のことは昔から聞きなれているからなんともないが、なんとも品のない内容に眉をひそめた。
その表情に気づいたのだろう、ハドリアヌスが肩を竦める。
「おお、ご婦人の前で失礼」
「貴国が、野蛮な国であることは理解しております」
さらりとフレイアは言うと、目を剥くハドリアヌスに椅子を示した。
「貴国では時計がないのでしょうか。我が国ではなにごとも時間通りに行うことが礼儀正しいとされております。ご存じないようでしたので、参考までに。さ、お席にどうぞ」
言うだけ言うと、フレイアはさっさと自分の席に向かった。
戸惑う兵が椅子をひくので、無言で座る。
ウェイドはうつむき、笑いを必死でこらえながらフレイアの隣に移動した。
「大公、君なぁ」
「なんだ。早く座るがいい」
ウェイドがたまらずに笑いだすのを、フレイアは無視する。
どすどすと足音荒くハドリアヌスが向かいの席に移動した。おつきの軍人が急ぎ近づき、椅子を引く。
「そちらは?」
ハドリアヌスの背後に立つ軍人に、フレイアは声をかけた。
「リットン少将にございます。本日、この場に立ち会わせていただきます」
きっちりとした敬礼で応じる。フレイアは周囲を見回した。
「ウォルター准将の姿が見えませんが」
「やつは処分待ちだ。待機させている」
憮然とハドリアヌスが答える。
フレイアとウェイドはちらりと目を見交わした。
苛烈な処分が下るのだろうか。であるなら、生かして我が国に欲しい。なんとなく、だが彼とは通じ合えそうな気がするのだ。
交渉事のどこかでそれを切り出そうとフレイアが考えていると、兵のひとりがハドリアヌスに茶を出した。
リットン少将にも椅子をすすめるが、彼は立ったまま待機するらしい。
「さっそくですが、ハドリアヌス王。いますぐこの国から立ち去っていただきたい」
フレイアが切り出す。
ハドリアヌスはカップの持ち手に指をかけ、意外にも優雅な仕草で茶を飲んだ。
たっぷりと無言の時間を置いてから、ハドリアヌスはかすかに首を右に傾ける。
「さて、フレイア姫よ。どうやら貴嬢は自分のことを『大公代理』と名乗っておるようだが」
そんなことを言われ、フレイアだけでなくウェイドもわずかに眉をひそませた。
「姉の一件と、貴国の侵入により、わが父は心臓を悪くし、没した。実子である私が大公代理を名乗るは自然なことと思うが」
フレイアが答える。
「タレニウム公国では、女子に継承権を認めていないな?」
ハドリアヌスはソーサーにカップを戻し、椅子にもたれる。フレイアは頷いた。
「だから代理を名乗っている。いずれ私とウェイド殿下の間に生まれるであろう男子が、大公位を継ぐ予定だが」
「もうひとつ、確認したい」
「どうぞ」
「継承権の順位だが、もちろん上から順番だな?」
フレイアはハドリアヌスを正面に見据えたまま、続ける。
「そうだ。大公位を継いだ者の実子で、上から順番に継承権が移っていく。ひょっとして父の弟のことを言っているのか?」
亡くなった実父、トビアスには弟がいる。いまは伯爵位を得て、臣籍降下している。
トビアスが亡くなった時、この弟に公位を譲ってはどうかとの案も出たのだが、順番的には、公位を継いだ子がまず検討されることと、なにより弟の伯爵が断ってきたために、フレイアが大公代理となったのだ。
(叔父となにかつながりが……?)
ついそんなことを勘ぐる。
「ならばフレイア姫。貴嬢は正統なる公位継承者ではない」
ハドリアヌスが笑う。
「どういうことだ」
困惑はフレイアだけではない。
室内にいるタレニウム兵と、ウェイド。ロクランにまで及ぶ。
「貴嬢の姉であり、タレニウムの長女であるグレイス姫は生きている。余の手元でな」
ハドリアヌスの発言は、さながら火薬師が作る火薬球のように、室内で爆風を産んだ。
誰もが、その爆発を受けて話せない。
ただ、あっけにとられたようにハドリアヌスと、リットン少将を見ている。




