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タレニウム公国救国史 大公代理フレイアは、政略結婚で国難を乗り切れるのか⁉  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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40/51

40話 それでは会議が終わった後、子作りできないではないか

◇◇◇◇


 その日の晩。

 フレイアはゴステア城の一室にいた。


(ようやくここまできた……)


 椅子に座り、室内を見回す。

 サロンに使う一室なのかもしれない。


 もっと荒れているかと思ったが、セジェル兵は丁寧に使用してくれていたようだ。このサロン室だけでなく、他の部屋も必要以上に汚されたり、盗まれたりした様子はなかった。


 降伏の知らせを受け、指揮官のウォルター准将にも会って話をしたが、かなり落ち着いた人物だった。


 なんとなくセジェル兵というとルパート将軍みたいな男ばかりかと思っていたが、こういう男性もいるのだと思った。よく考えてみれば、ゴステア付近では兵の規律も保たれていた。この准将がきつく手綱をしぼっていたからなのだろう、とフレイアは思った。


 まあ、そのほかの男はルパートと対して変わらないのだが。


「大丈夫か、大公」

 椅子が引かれ、隣にウェイドが座る。


「なにが?」

「夕飯。食ってないだろう」


 顔を覗き込み、そう言われた。


「夕飯?」

 いぶかしげに尋ねる。


 そしてもうそんな時間だということに気づいた。


 戦闘が終わったのが1300。

 ウォルター准将に出迎えられ、城内にはいったのが1400頃だっただろうか。


 そこから「もうすぐハドリアヌス王が到着する」こと。「交渉についてはそれを待ってお願いしたい」とのことを伝えられた。


 そしてゴステア城自体は明け渡し、セジェル兵は城外に出る旨を伝えられたが、それは断った。


 かなり少数ではあるが、城下町にはまだ女性がいる。

 財産は持って出るように伝えているが、空き家がほとんどだ。

 セジェル兵が押し入り、不埒な行為をする可能性がある。


「申し訳ないが、武装解除して城に待機してください」


 ウォルター准将にそう提案し、城を東西に分けてセジェルとタレニウムは駐屯している。

 フレイアの提案の意図を察したのだろうし、女性騎兵のことでなにか感じることもあったのか、ウォルター准将は「兵の躾が行き届かず、申し訳ない」と謝罪までしてくれたのがまた意外だった。


「宰相への手紙を書いていたら忘れていたな」


 フレイアはつぶやく。

 ゴステア城を落としたこと。

 相手の司令官は話がわかりそうな男であること。

 ハドリアヌスと直接交渉が行えそうなこと。

 できるだけ早く、公都を出てゴステア城に来てほしいこと。


 それを書付け、通信兵に渡したのがどれぐらい前だったろうか。


「昼もほとんど食べてないんだ。俺がここにいるから、いますぐなにか口に入れてこい」


 ウェイドに言われ、ちらりと長机の向かいを見た。

 セジェル側には誰もまだいない。


「いや……。もうハドリアヌス王は着いたと聞いている。時間はなかろう」


 ウォルター准将が席を外しているのも、ハドリアヌス王の出迎えのためだ。


「倒れてもしらんぞ」

「倒れん」

「まったく」


 ウェイドはため息をつくと、背もたれに腕をかけて振り返る。


「ロクラン」

「はい」


 ウェイドとフレイアの間に、ぬっと銀盆が差し出されたから驚く。

 どうやらロクランらしい。

 盆の上にはサンドイッチや、小ぶりなパン。クラッカーなどが並んでいた。


「口を開けろ」

 言うなり、ウェイドはハムとチーズの乗ったクラッカーを手に取る。


「自分で食べれる」

「大公は近衛がいないと、なにもかもずさんになる」


 ぶつぶつ言いながら、ウェイドはフレイアの口にクラッカーを押し込んだ。


「うぐっ」

「茶」

「はい」


 ロクランから受け取ったカップを、ウェイドはフレイアに差し出す。

 フレイアは目を白黒させてお茶でクラッカーを流し込んだ。


「ちょっと!」


 苦情を言おうと思ったが、開いた途端、次のクラッカーが押し込まれる。

 口を開けばなにか押し込まれるから、これでは文句の言いようがない。

 ぶすっとしてお茶を飲むと、「次は?」と言われたが、首を横に振って断った。


「全然食事量が足らんぞ、大公」

 ウェイドがあきれる。


「それでは会議が終わった後、子作りができんではないか!」

「今日、するのか!」


「言っただろう、昨日。だいたい積極的に誘ってきたのは大公ではないか」

「積極的に、ではない!」


「忘れっぽいな、大公は」


 はは、とウェイドが笑い、フレイアがその顔に拳を叩きつけてやろうかと考えたとき。


「どうやら到着なさったようですよ」


 ロクランが平坦な声で告げる。

 言われてみれば足音が近づいてくる。

 扉の外にいた衛兵が声を上げた。


「ハドリアヌス王、ご入室!」


 ウェイドとフレイアが同時に立ち上がり、扉のそばに行く。

 計ったように衛兵が扉を開いた。


 姿を見せたのは、がっしりとした大柄な、銀髪の青年。

 肖像画を観たことがあるが、実物はもっと大きい。

 頬に残る大きな刀傷のせいだろうか。野生の肉食動物に出会ったような心持になる。


(こいつがハドリアヌス……)


 だが、おびえる気にはならない。

 勝手に吸収合併を訴え、勝手に姉を人質に決め、勝手に自国に攻め入ってきたのだ。


 厚かましく、獰猛な。

 ただの獣だ。



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