33話《セジェル》要衝ゴステア城2
ウォルター准将は咳払いをして口を開いた。
「……アーネスト大佐の報告にあるように、現在、公国民の暴力行為・反抗的態度も著しい」
大公代理が率いる公国軍が破竹の勢いで進軍していることが関係しているのだろう。
いままで歴然たる兵力で言うことを聞かせていた公国民が、徐々に反抗しつつある。
「ゴステア城城下から随時手に入れていた食糧ですが、今後、手に入る見込みはありません」
後方部隊をあずかる士官が発言をした。
「豪商をはじめとした商人が、商品を持って一斉に街を出ました」
「最近、城下で火事が頻発し、延焼を止めるために家屋の倒壊を公国民が行っていますが……。これもどうやら意図的なものであるようです」
別の士官が発言する。
ウォルター准将とカレネン大佐が目を見交わした。
「大公代理の仕業か」
「でしょうな」
ち、と舌打ちしたのはカレネン大佐だ。
「女ならおとなしく王城に引っ込んでいればいいものを……。醜女は顔に傷がつくのも恐れんか」
「なにより最悪なのは、戦場の作法などまるで無視することだ」
ウォルター准将はため息をついて足を組む。
「これではまるで予測ができん」
「して、その公国軍は現在どこまで進軍しておる」
カレネン大佐の言葉に、ひとりの士官が立ち上がり、円卓に地図を広げた。
「やつらの進軍速度でしたら、今晩はこのマジョルカ地区にて駐屯を行うでしょう」
ゴステア城からほど近いところに、士官は白の石を置いた。
「兵の数は」
ウォルター准将が尋ねる。
「ウェイド殿下の500。それから大公代理の100。あと……」
士官がなんとなく言いよどむ。地図を見ていたウォルターもカレネンもいぶかし気に視線を上げた。
「なんだ」
「いえ、なんでもありません」
「言うがよい」
ウォルターに促され、士官は口をへの字に曲げた。
「町々で志願兵を募っておるようです。その志願兵が100ほど」
「ほう。だが所詮素人だ。一糸乱れぬ軍隊行動などできはせん」
カレネンはふん、と鼻で息を抜き、地図を指さす。
「ならばこちらもゴステア城から出て、この平原で合戦してはどうか? 職業軍人と素人の違いを見せつけてやる。数時間で決着をつけてみせようぞ」
カレネンの一言に、士官たちは立ち上がってまじまじと地図を見つめる。
「いけそうだな」「よいのでは?」
そんな声がぼそぼそと上がるが、ウォルター准将が首を横に振った。
「忘れたのか? 陛下からの厳命は『籠城』だ」
言われて、誰もが脳内のシミュレーションを終える。
「そうか……。籠城か」
カレネンは言い、残念そうに「いけそうなのにな」と告げる。
「進軍したいのはわたしも同じだ。カレネン大佐」
ウォルター准将がため息をつく。
確かにこの平原で軍を展開すれば勝つのはセジェルだ。
「できればうちが有利に合戦をしたいが……。陛下のご意向に逆らうわけにはいくまい」
「……そうだな」
カレネンが言う。ウォルター准将はさらに士官たちに問うた。
「で? 陛下の御到着はいつぐらいになりそうだ」
「それが……。早くても明後日ではないか、と」
「それは随分と遅いな」
ウォルター准将が驚く。
彼だけではない。士官たちもざわめいた。
「こたびはなにか重要なものを運んでおられるようで……。それで兵の足がいつもより慎重になっておるようです」
士官の返答に、誰もが顔を見合わせる。
重要なものとはなんだ。
そんな顔だ。
「処刑具ではあるまいな……。少しでも失敗した兵をそれで処刑するのでは」
「アーネスト。しっかりせんか」
ひとりおびえて身を縮こませるアーネスト大佐を、カレネン大佐がしかりつける。
「公国軍がマジョルカまで来るということは、明日にもゴステア攻撃をしかけてくるな」
カレネンがアーネストの妄念を吹き飛ばす意味も込めて、大声を張った。
「ということは、陛下の到着を待たずして、敵は攻撃をしかけてくる、ということだ」
「そう……なるな」
敵は明日にでも攻撃。
援軍を連れた陛下は明後日到着予定。
「陛下が到着した時、籠城してなかったら目もあてられん」
ウォルターが苦笑いする。
「違いない」
一同はみな、笑った。というより、平原での戦はあきらめた。
そして頭を切り替える。
ウォルター准将は腕を組み、顎をつまむようにして思案した。
「前回、やつらが攻撃をしてきたのは早朝だったな」
は、とカレネンは小ばかにしたように笑う。
「常識がまったくないのだからどうしようもない。見張りをつけておかんと危ないな」
ウォルター准将は一同を見回した。
「今回も早朝か、深夜の可能性は高い。その上、やつらが使うのは火器だ」
「まったくもって理解できん」
カレネン大佐だけではなく、士官たちも不満顔で頷いた。
火器など卑怯者が使うものだ。
騎士であるなら、堂々と一騎打ちをすべきなのに。
「どうもあの火器、遠方から放ることはできぬようだ」
ウォルター准将は、シャザール砦だけではなく、セシル城攻略の報告書をしっかりと読んでいた。
奇襲からの、火器による攻撃。
これは一連の流れだ。
ただ違和感を覚えたのは、「火器の投擲方法」。
カタパルトではなく、投石器を使って人力で投げている。
「念のため、こちらもカタパルトを用意しておこう」
「カタパルトを?」
後方支援士官が目を丸くする。
ばねで岩を遠くまで飛ばす機械。
本来であるなら、城を攻撃するものだ。
「岩でもなんでも敵軍に飛ばしてやれ。近づくことができぬのなら、火器を使わない可能性もある」
「攻城でもないのにカタパルトとは。ウォルター准将も、公国暮らしで常識破りになったらしいわ」
カレネン大佐が笑い、ウォルター准将を含むみなが笑った。
「では、諸君。籠城の準備といこう」
ウォルター准将の一言で、みなはいっせいに立ち上がって敬礼を行った。




