34話 ひょっとしたら数時間後
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要衝セジェル攻撃を数時間後に控えた夜。
マジョルカ地区にて野営を張っていたフレイアは、各隊長から報告を受けていた。
「では、食糧供給は完全に止まっているのだな?」
フレイアが確認をすると、隊長のひとりが大きく頷いた。
「ゴステア城城下の商人は、商品を持たせて一人残らず町から出しています。籠城に持ち込まれたとしても、1か月も持ちますまい」
その籠城が困るんだがな、とフレイアは内心吐息を漏らす。
もうすぐ農繁期が来るというのもあるが。
2勝した。
この勢いが持続するとは思えない。
志願兵の強い思いも、時と共に劣化する。
それまでに城を落とさねば意味がない。
「城のまわりはどうか。平地は広げられたか?」
フレイアが問うと、別の隊長が地図を広げた。
「ここからここまでは、人為的に火事を発生させ、延焼を防ぐ目的ということで建物破壊と撤去を行っています」
ぐるりと隊長が指で示すのは、ゴステア城の周囲だ。
もともと馬車の出し入れや連隊の動きもあるので城周りは広くとられ、建物はない。
それでもフレイアは命じて意図的に空白地帯を増やした。
「住民は?」
「子どもと高齢者、女性はすでに隣町に移動。残っているのは成人男性と一部の女性のみです」
「そうか」
ならば、戦火が広がったとしても……。自力でどうにかできるだろう。
「セジェル兵の動きは? ゴステア城としての動きはなにかあるか」
「それが……。カタパルトを用意しており、その方向はこちらを向いているようです」
「カタパルト」
目を丸くしたのはウェイドだ。ちらりと隣に控えるロクランを見る。
「確かです。3機ほど」
ロクランもうなずく。
「まさか大公の言う通りになるとはな」
ウェイドが陽気に笑い、隊長たちも肩を竦める。
「シャザール砦のように、旧タイプの将がいると思っていましたが……。どうやら違うようですね」
ゴステア城攻略にあたり、ウェイドや各隊長は「また一騎打ちでくるのでは」とフレイアに進言したのだ。
そのための隊列を組んだほうがいいのではないか、と。
だが、フレイアは首を縦に振らなかった。
『敵だってバカじゃない。私が総大将である限り、変則的な方法で来るとわかっている』
彼らにとっての脅威は火器だ。
それを投げさせないために、きっとカタパルトを用意し、岩を投げて牽制してくる、と。
「攻城櫓、持ってきてよかったなぁ。備えあれば患いなし」
「分解して運ぶのはうちなんですけどね」
ウェイドがしみじみと言い、ロクランは忌々し気だ。
「セジェルを出たハドリアヌス王の部隊は?」
フレイアの問いに、隊長のひとりが挙手をした。
「あの速度では、早く見積もって明後日の到着。開戦時には間に合わないこと必至です」
「そうか」
フレイアはホッとする。
「して、近衛は? 以前の報告では予定通りに行きそうだ、ということだったが」
「問題なく。本日、配置についたと報告が。明日、同時刻に動けます」
フレイアは無言で何度もうなずいた。これでなんとかなりそうだ。
「しかし、進軍の遅さが気になるな……」
ウェイドが腕組みをして地図を見つめ、ぼそりと言う。
各隊長たちもうなずき、小声で何事か話をしている。
「新兵器……ではあるまいな」
フレイアが皆の疑問を代表する形で言う。
「では、ないと思う。新兵器であれば、あの王のことだ。見せびらかして持ってきそうな気がするんだ」
ウェイドの言葉に、フレイアはなるほどと思ってしまう。
もちろん湿気や雨対策のために油紙や幌は必要だろうが……。
それでもあの王の性格上、新兵器であれば、どこかで披露しそうな気はする。
あるいは、一度町のどこかを試しに攻撃してみる、とか。
「なんだろうな」
独り言ちるフレイアの頭を、くしゃりとウェイドが撫でる。
「ま、なんにせよ、予定通りに行こう」
言われ、うなずいたものの。
子ども扱いをされたようで、ぶん、とウェイドの手を払いのけた。
「あと数時間で実行する。各自、ぬかりなく」
隊長たちはそれぞれに返事をし、フレイアの天幕から出て行く。
ロクランもウェイドを一瞥し、天幕の外に出た。
「大公、仮眠するか? するなら寝床を整えてやろう」
みなが退室してから、ウェイドはフレイアに尋ねる。
打ち合わせの予定だったため、あらかじめ寝具は天幕の端に固めておいたのだ。
「貴殿はどうする?」
椅子に座り、立ったままのウェイドを見上げる。
一気にひとがいなくなったせいか、影がなくなり、カンテラの灯がやけに明るく感じる。
いまも彼の金の髪が光を帯び、おだやかな色になっていた。
「俺? 別にどっちでも。作戦開始まであと5時間だろ?」
ウェイドは腕を組み、片方の足に重心を乗せてフレイアに視線を向けていた。
軍服姿。
たぶん、あと4時間後には甲冑を付け、馬に馬具を乗せているだろう。
「要衝ゴステア城を落とせれば、セジェル兵は撤退するだろう。ハドリアヌス王が来ているとなれば話は早い。今後のことについて交渉の場に引っ張り出せるからな」
「そうだな」
フレイアの言葉に、ウェイドもうなずく。
「だが逆に、ここで失敗すれば、大きな後退となる。いままでの勢いはなくなり、国全体に失望が広がるだろう。ハドリアヌス王も自分に有利な条件を突き付けてくるだろうしな」
「ここで失敗したとて、メンフィスの兄上にお願いし、10000の兵を出してもらえれば、まだ巻き返せる」
陽気に笑うウェイドを見、フレイアは立ち上がった。
「ひょっとしたら、数時間後には、私はもうこの世にいないかもしれない」
そう言うと、さすがのウェイドもぎょっとする。




