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タレニウム公国救国史 大公代理フレイアは、政略結婚で国難を乗り切れるのか⁉  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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32話《セジェル》要衝ゴステア城1

◇◇◇◇


 要衝ゴステア城の一室では、ウォルター准将以下、主だった将が集まって軍議を始めていた。


「陛下からのご指示は『籠城』だ」


 ゴステア城を預かる指揮官、ウォルター准将は、円卓の中央に折りたたまれた手紙をどん、と押し付けた。


 みなが注目する。

 ハドリアヌスらしい太字の、力強い筆跡だ。

 そこには、引き続きウォルターが指揮をするように、という指示が書かれている。

 そしてシャザール砦から来たアーネスト大佐はカレネン大佐の麾下に入り、部隊の編成をしなおすことが続いていた。


 また現在、200の兵を連れてゴステア城にハドリアヌス自ら進軍していること。


 ハドリアヌスが到着するまでは、敵の攻撃を受けても徹底して防御を行い、籠城戦を行うことがつづられていた。


「ブラッドリー軍務長官との連名でござるか」


 カレネン大佐が、ふむ、と長いあごひげをしごきながら言う。


「アーネストよ。そちとうちの隊は合同編成となる。年の功もあるし、わしが隊を率いることでよいか? 准将もそれで異論なかろうか」


 この中で最年長は、准将であるウォルター。そして次に年長者になるのが50のカレネンだ。


 55歳になるウォルター准将は、50になってからというもの、毎年陛下に退役を願い出ていた。「なにを弱気な」と一喝されてずるずるとここまできていた。

 受理されなかったことがいまになって後悔される。

 気づかれないようにため息をついた。老後は孫に囲まれて暮らしたかった。


「異論はないが……。アーネスト大佐はどうか」


 ウォルター准将がアーネスト大佐に水を向ける。

 なんらかの返事を期待したのは、なにもウォルター准将だけではない。

 その場に居合わせる士官たちはすべて数拍待ったのだが。


 なんの返事もなく、無言のままであることに、彼らは一斉にアーネストに顔を向けた。


 不満なのだろうか。

 不服なのだろうか。

 そんなことを予想していたのだが。


 視線の先にいるアーネストは、顔を青くしてガタガタと震えていた。


「アーネスト大佐?」

「どうした、アーネスト」


 ウォルター准将と、カレネン大佐が同時に声を発する。

 まだ40にもなっていないアーネスト大佐は、はじかれたように顔を上げた。


「へ、陛下は! 陛下はなにゆえゴステアにお越しであるのか!」

「なにゆえ、とは?」


 ウォルター准将が眉根を寄せる。


「一国の王が戦場にお出ましになることはよくあること」

「そうだ。タレニウムなど、厚かましくも大公の顔をして女がでしゃばってきておるではないか」


 ウォルターだけではなく、カレネンも鼻を鳴らす。


「本当にそうでしょうか」

 アーネストは額から汗を吹きだしながら、隣に座るカレネンを見上げた。


「本当、とは」

「わたしを罰するために……。処刑するためにお越しなのでは⁉」


 しん、と。

 その発言によって一瞬場が静まり、それからいくつもの失笑を産んだ。


「アーネスト、あのな」


 カレネンは椅子の背もたれに上半身を預け、足を組む。

 呆れた顔のままで同階級の、年下軍人を見やる。


「陛下がお前を殺そうと思ったら、それは簡単だ。こうやって文書をしたため、『死ね』と書けばよいのだから。なぜ、わざわざお出ましになる必要がある」


 ほかの参加者も同調するようにうなずく。


「それにな、アーネスト大佐。先のシャザール砦でのことは、ルパート将軍の自死で片付いている。貴官にまで累が及ばぬようにルパート将軍が配慮してくださったのだろう」


「当然です!」


 アーネスト大佐が悲鳴を上げた。


「わ、私は! 私はルパート将軍のしりぬぐいをいくつしたことか……! 軍紀を保とうとしているのに、部下の略奪や強姦を見逃すばかりか、ご自身まで女に手を出して……! そのせいでタレニウム公国民にいらぬ憎悪を植え付けた!」


 立ち上がり、唾を飛ばして激高するアーネスト大佐に、誰もがあっけにとられたが、すぐにウォルター准将が声をかける。


「そこまでにするように、アーネスト大佐。死者の冒涜にあたる」

「准将はあの地獄を見てないから!」


 アーネスト大佐は頭を掻きむしる。


「シャザールが落ち、連絡があった通り、戦後処理を行ってゴステアまで来ましたが……! その道中、公国民のセジェル兵狩りにやられて部下が何十人死んだか……! それもこれも全部ルパート将軍が軍紀を破り……!」


「もうよい! 黙れ!」 

 カレネン大佐に一喝され、アーネストは蒼白の顔のまま黙った。


「何たるざまだ! おぬしの父上の名が泣くぞ! 座れ!」


 命じられ、アーネストは糸の切れた人形のように椅子に頽れる。

 ひそ、と聞こえるのは「親の七光り」という言葉だ。


 ほかの士官たちが妬む気持ちもわかる。

 彼はその「大佐」という称号を与えられるには若すぎる。


 そんな空気を読んだのだろう。

 歴戦の猛者で、アーネストの父とは懇意にしているルパート将軍が、箔をつけてやろうと帯同させたのだとか。


「こんなところ、来るんじゃなかった……」


 アーネスト大佐が頭を抱えて呻く。

 カレネン大佐はあきれ、それを言いたいのはこっちだ、とウォルター准将は天井を仰ぐ。


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