21話 褒美はここまでだ
カネか武具か領地か、と考えていたフレイアは、全然違う方向からの返答にしばし戸惑った。だからつい「え。なんて?」と問いなおす。
「大公からのキス」
「キスならいつもしているじゃないか」
主に殿下が不意打ちで。
「それは俺が、だろう? 大公からキスしてもらったことはない」
不満そうに腕を組む。なんじゃそりゃ、とフレイアは思った。
「そんなものが褒美になるのか?」
「大公はわかっていない。騎士の最高の栄誉は愛する者からのキスだ」
堂々と言うが、フレイアからすれば「なんとカネのかからないことだ」とあきれる。
おまけに。
フレイアはまじまじとウェイドを見た。
「愛しているのか、私を」
「愛しているから結婚をしているのだろう」
ウェイドが驚いている。
なんだか彼と話が通じ合う気がしない。
「大公は俺を愛してないのか?」
問われて、わが身に問いかける。
『ウェイドを愛しているのだろうか』
……嫌いではないと思う。
出会ったその日から抱き枕状態にされ、なんなら隙あらばキスされたりハグされたりするが、嫌ではない。
なぜなら、彼が自分を認めてくれているからだ。
彼は何度「違う」と言っても、フレイアのことを「大公」と呼ぶ。
公都に残してきた騎士や軍務大臣のように「前線に立つな」とは言わない。そのかわり、できないことは代わってくれる。
フレイアの作戦を頭ごなしで「やめろ」と言わない。「いいんじゃないか」と肯定してくれる。
ウェイドは、自分のことをひとりの人間として認めてくれている。
それは感じていた。
「俺を見て惚れない?」
今日。
一騎打ちを終え、ヘルメットを脱いで拳を突き上げる彼を見て。
朝日にきらめく彼の髪を見て。
「……ちょっと、惚れたかもしれん」
素直にそう言うと、からりと口の中で飴玉が転がる。
「そうか」
ウェイドは嬉しそうに笑う。
「ならば、褒美を頂戴したい」
そう言われ、フレイアは座ったまま、彼に両手を伸ばした。
ウェイドの顔を両手で包む。
はじめて触れた彼の頬は、意外にも滑らかですべすべしていた。
ウェイドはじっとしている。フレイアがそっと引き寄せると、彼は腰を折ってくれた。
フレイアはゆっくりと彼の唇に自分の唇を重ねた。
最初に感じたのはぬくもりだった。
そしてやわらかさ。
次に、少しだけ開いたウェイドの口から漏れる呼気。
するりと彼の舌が滑り込む。
からり、と。
口の中の飴玉が揺れる。
「飴玉に邪魔されてしまった」
ウェイドが唇を離して笑う。
そして頬に添えたままのフレイアの手のひらにキスをした。
「残念」
ウェイドはフレイアの手に、自分の手を重ね、はすかいに視線を送る。
「このあと、ベッドに押し倒してゆっくりとキスを楽しみたいのに。そんなことをしたら子づくりに移行してしまうしなあ」
「残念だな」
フレイアはにやりと笑った。
「褒美はここまでだ」
ウェイドはため息をつき、フレイアを横抱きに抱え上げた。
「ちょ……!」
「今日も我慢して寝るか」
「おろせ!」
「あー……。速やかに要衝ゴステアを落とそう」
「それは同意するが!」
「そしていっぱい子作りしような、大公♡」
「それは知らん!」




