16話 うちの殿下は強いですけど?
「えーっと。で、弓兵を無力化して、砦を半壊させたら……。まあ、敵は出てくるだろうな。そこを火縄銃で一斉射撃?」
ウェイドが話を戻した。「そうだ」とフレイアも応える。
「騎馬を出してくるだろうから、それをつぶす。あとは、重装歩兵で押し切る。手に余る騎兵などは、殿下の騎馬隊で対処をお願いしたい。うちはすべて白兵戦に回す」
「それは了解した。が」
ふうむ、とウェイドは腕を組み、唸る。
「ロクラン」
「はい」
不意に彼は自分の副官を呼んだ。
「シャザール砦に将校はいるのか?」
「情報によるとルパート将軍と、アーネスト大佐が」
フレイアは目をぱちくりさせる。
将軍クラスがいるとは聞いていたが、名前までは知らなかった。
ちらりと隊長たちに視線を走らせると、こちらはすでに知っているような顔だ。ということは、フレイア自身も名前の報告は受けたかもしれない。だがあまり意識しなかった。
「大公」
「な、なんだ」
「ルパート将軍もアーネスト大佐も、古いタイプの将軍だ。一騎打ちを申し出て来たらどうする?」
「一騎打ち?」
フレイアの眉根が寄る。
「無視してはいかんのか?」
途端にロクランが失笑した。反射的に近衛たちが佩刀に手をやるから、フレイアは片手をあげてそれを制する。ウェイドも「うちのがすまん」と素直に詫びた。
「礼儀としては、受けた方がいいかもしれんぞ? その後のタレニウムに醜聞がついてまわるよりな」
ウェイドに言われ、今度はフレイアが腕組みをしてうなった。
別にフレイア自身が「卑怯者」とそしられるのは構わない。自分でも卑怯な作戦をしている自覚はあるのだから。
だが、「タレニウムは卑怯」と言われるのは違う気がする。
向こうが一騎打ちを申し出れば受けるほうがいいのだろうか。
だが、そう仕掛けるということは、向こうになにか利があるからではないのか。
「もし将軍どもが一騎打ちをと言ってくるならば、わたしが」
率先して手をあげたのは近衛隊長だった。
「いえ、俺が!」「わたしが!」
続々と隊長たちが手を上げるが、フレイアとしては、「じゃあ、君に」と言えない。
言いたくない。
儀礼と矜持にこだわったこんなもので、大事な将兵を失いたくないというのが本音だ。
「……いざとなったら私が行こう」
沈思黙考後、重々しくフレイアが言うと、しんと場が静まった後、爆発でも起こったように皆が一斉にわめきたてた。
「おやめください!」「無理です!」「なにをおっしゃるやら!」
フレイアはその勢いに飲まれかかったが、急いで姿勢を伸ばす。
「向こうが将軍で来るのであれば、こちらもそれ相応の身分のものが出なければならんだろう? ならば私だ」
「大公代理!」
「それにあれだろう? 参った、もありなのだろう?」
フレイアは軽く両肘を上げて降参ポーズをとる。
「危なくなったら降参する。そのときは誰か保釈金を持って助けに来てくれ。もし、命を取られたら叔父上を大公として……」
いやいやいや、と隊長たちが首を横に振る中、ひときわ大きな声が響いた。
「ならばそのときは俺が行こう! 大公は大事な身体。むざむざ危険な場所には行かせられん。ここはやはり、夫である俺の出番だろう!」
「え。大丈夫か?」
つい本音が出た。
途端に、殺気に気づいて身をすくませ、近衛たちも再び剣の柄を握る。
「うちの殿下は強いですけど?」
ロクランだ。
仄暗い怒りを目に宿らせてこちら陣営をにらんでいる。
「そ、そうか。ではそのときは殿下にお願いしよう」
まあ、隊長を失うよりマシだし、いざとなったら止めに入ればいい。負けてもウェイドならいいだろう。
フレイアは言葉には出さず、そう結論付けた。
「おう! まかせろ」
ウェイドは言い、片目をつむってみせる。
「惚れるぞ、大公」
「……だといいな」
惚れるかな、といぶかりながらフレイアは返事をした。




