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タレニウム公国救国史 大公代理フレイアは、政略結婚で国難を乗り切れるのか⁉  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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14話《セジェル》ドミニク王室家政長2

「かしこまりました」


 返事をすると、また手を突き出されるから、素早く2杯目の酒をハドリアヌスに手渡す。


「それで? セシルにまだやつらはいるのか」

「いえ。現在、街道を西へ」

「西というと……シャザール砦か?」


 ワインを口に含み、ハドリアヌスが問う。ブラッドリーは頷いた。


「数日内にそこを突破し、要衝ゴステア城の奪還が目的かと」

「だろうな」


 ハドリアヌスは足を組む。むきだしの足にはサンダルがひっかけられたまま。気だるげにひじ掛けに頬杖をつく姿を見て、女たちは雄々しいと喜ぶのだろうが……。


 ドミニクにとっては、ただただ凶暴な獣と対峙しているようにしか思えない。


「シャザール砦には500程度の兵がいたな」

「はい。常駐させておりますが、陛下。お願いしたいことが」


 一歩、ブラッドリーがハドリアヌスに近づく。


「なんだ」

 ハドリアヌスがワインを口に運ぶ。


「さらに兵の増援を。ゴステア城から200の兵をシャザール砦に向かわせる許可を」

「軍務長官はずいぶんと慎重だな」


 はは、とハドリアヌスは笑ったが、ブラッドリーは表情を変えない。


「フレイア内親王殿下は奇策を弄じます」

「そりゃそうだろう。女なんだから」


 くくく、とハドリアヌスは喉の奥で笑いをつぶした。


「牛や羊を突入させるなど、逆立ちしても思いつかん。女だから正攻法など知らぬ。とんでもない策ばかりでこちらが調子を崩すわ。そう思わんか、ドミニク」

「……私は軍事のことは素人でございますから」


 ドミニクは言葉を絞り出した。

 ちらりとブラッドリーを盗み見ると、一歩も引かない表情でハドリアヌスを見ている。


「素人だからこそ手に負えぬのです。なにかあってからは遅うございます」


 セシル城を奪還された方法。

 それは夜間、城外を警備する兵たちに、羊と牛、ヤギの群れを突入させるというものだった。


 敵襲だと思って大混乱に陥る兵たち。

 それを助けるために城から大量に放出された兵。


 そこを火薬球で叩きつけたのだ。


「火薬を使うなど卑劣極まりない。女だから考えることだ。真の男であるならば、そして騎士であるならば、一騎打ちだろう」


 忌々し気にハドリアヌスが言う。

 軍事に疎いドミニクも、戦場には作法があるということを知っている。


 まずは弓兵同士が矢を撃ち合い、そのあと騎士が突撃。最後に歩兵がついてくるのだ。


 そして白兵戦。

 この流れは絶対だ。


「どうか追加派兵を」

 ブラッドリーが再度迫るが、ハドリアヌスはしばらく黙考した。


「大公代理とかぬかすあの小娘。結婚相手に名乗り出たのは誰と言った?」

「メンフィスの第四王子ウェイド殿下です。金竜王子と名高い」


 ブラッドリーの言葉に、ハドリアヌスはわずかに目を見開いた。


「金竜王子か。あの男が小娘に? はっ。もったいない。やつであればどんな女もよりどりみどりだろうに。四男などという立場に生まれて可哀そうにな。政略結婚の手ごまにされたか」


 ハドリアヌスは笑い、また酒を呷った。


「金竜王子は小娘と同行しているのか?」

「さようにございます。殿下は500の兵を率い……」

「ならば話は早い。定石通りの戦法をとるだろう」


 ハドリアヌスの言葉に、ブラッドリーは一瞬声を詰まらせた。だがすぐに態勢を立て直す。


「ですが、将はフレイア内親王殿下。彼女は……」

「代理だ。あの小娘は大公代理」


 ハドリアヌスは笑った。


「結婚相手が決まるまでの代理でしかない。婿を迎えたのなら、その婿の意思に従うだろう。いまごろ鎧を脱いで、ベッドで金竜王子の相手にいそしんでおるのかもしれんな」


「……陛下。恐れながら申し上げます。ウェイド殿下は500の無傷の兵を擁し、フレイア内親王殿下が率いる100の兵と合流しました。一方、シャザール砦には500の兵しかおりませぬ。数では我らが不利」


「小娘の率いる100の兵には農民もおるだろう」


 ハドリアヌスは、空いたグラスをドミニクに突き出す。ドミニクは黙ってその杯を満たした。


「ですが主体は近衛でございます」

 ブラッドリーは食い下がる。ハドリアヌスは彼を一瞥した。


「問題あるまい。もうすぐ種まきの時期だ。農民兵は去る。であるなら主要な兵は500と500。シャザール砦には、ルパート将軍とアーネスト大佐がおるな? で、あるならばウェイド金竜王子が一騎打ちを挑んだとて、どちらかが勝つ」


「……陛下。おっしゃることはわかります。ですが、公国軍が定石通りの戦法をとらない場合を考慮し、100の追加兵を」


「くどい!」

 ハドリアヌスは一喝した。


「農繁期はうちも一緒だ! 兵はいくらでもいるものではない! それはブラッドリー、お前もわかっているだろう!」


 ハドリアヌスはさらに吠えた。


「だいたい、どれほどの兵を公国に投入したと思うのだ!」

「もちろんでございます。ですから、まだ余裕のあるいまこそ」


 セジェル王国軍のすべてが職業軍人であるわけではないことをブラッドリーも当然知っている。1/4は農民兵だ。農閑期であるからこそ使える兵でもある。


 もうすぐ春が来る。農民兵を戻さねば、今度は自国の穀物自給力が危うくなる。


(だが、いまならまだぎりぎりいける)


 まだ、実質的な種まき時期には入っていない。守りを固くするならいまだ。シャザール砦は落とせない。なぜなら、要衝ゴステア城とは目と鼻の先だからだ。


「セジェルの兵は、女に負けると申すか!」


 ハドリアヌスが怒鳴る。

 ブラッドリーは奥歯を噛む。怒鳴りたい。


 実際負けたではないか、と。


 女だから負けたのではない。

 定石を平気で破ってくるから負けたのだ。


 男であれば「卑怯」となることを、あの女はいともたやすく行った。

 不意打ち、火薬、なんでもありだ。


 戦場で大切なのは、「第二案」があるかどうか。


 ハドリアヌスが言うように、敵は大将を換えてくるかもしれない。

 フレイアが引っ込み、ウェイドが大将となるかもしれない。

 そうなれば、定石通りの戦法でやってくるだろう。


 だが、そうならなかったら? 


 フレイアが前面に出て、ウェイドが後方に控えたら?


「シャザール砦を死守せよ! ルパートとアーネストの尻を蹴りつけておけ!」

 ハドリアヌスは怒鳴りつけ、謁見室を出て行った。


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