12話 可愛い寝顔を堪能できて眼福
次の日の朝。
フレイアは不意に目が覚めた。
いや、違和感を覚えて目が覚めたというべきか。
むくりと身体を起こし、ぺたりと尻をつけたまま、目をこする。肩口に毛布をひっかけた格好であくびをした。
周囲を見回し、テント内だと思いだす。
視界に入った机。
ああ、そうだ。文書の確認をしなくちゃ。
幸いなことに、まだ夜明け。
テントの向うはまだ仄暗い。
カンテラは机の上に載せられていて、橙色の光をやわらかく広げている。
フレイアは立ち上がろうとして、ふと隣を見た。
グランドシートに直置きされた毛布は、脱皮したなにかのようになっている。
(……ウェイド殿下?)
出会った初日から自分を抱きしめて寝ていた彼。
その姿がいまはない。
昨日も一緒に眠ったんだったか、と記憶をたどり、自分が星空を眺めたまま、彼にもたれて眠ってしまったことを思い出した。
「え? じゃあなんでテントに……」
狼狽える。
ひょっとしてウェイドが運んでくれたのだろうか。
とっさに立ち上がろうとして、地面に手をつく。
そして、ふわりとしたした感触に動きを止めた。
視線をおろす。
マット。
隣と見比べた。
ウェイドが寝ていたであろうところはグランドシートのみで、フレイアのところにはマットが二枚重ねて敷かれていた。
どうやら彼が自分の分も譲ってくれたらしい。
なんとなく戸惑っていると、ざくざくと下草を踏む音が近づき、テント幕のむこうで低い声のやりとりが聞こえてきた。
ばさり、と幕扉が開き、ウェイドが姿を現す。
「すまん、起こしたか?」
申し訳なさそうに眉を下げるから、首を横に振った。
「夜明けが近づいてきたら一気に冷えてきたからな。湯たんぽもらいに行ってたんだ」
ウェイドは言うと、タオルにくるまれた湯たんぽをフレイアの膝の上に載せてくれる。
「……あ」
つい口から声が漏れた。
ほこほこと温かい湯たんぽのぬくもりに連なって、目が覚めた違和感に気づいたのだ。
たぶん、ウェイドはここ数日と同じようにフレイアを抱いて寝ていたのだろう。
そして明け方の冷えに気づき、フレイアのために湯たんぽを用意してやろうと、離れた。
それで。
彼のぬくもりがなくなって、フレイアは目が覚めたのだ。
「まだ朝というか夜だぞ? 寝ろ寝ろ」
ウェイドが自分の分の毛布までフレイアにかけようとするから、慌てて断った。
「いや、文書仕事があるから起きるが……」
「真面目だなぁ」
「その、昨日はすまない。ここまで運んでくれたんだろう?」
戸惑いながら言うと、ウェイドは不思議そうに小首をかしげた。
「そうだが……。謝ることでもないだろう」
「謝ることだろう! 話しの途中で寝るわ、寝どこまで運ぶわ……。迷惑をかけた」
ぺこりと頭を下げると、ウェイドの笑い声が聞こえて来た。
「迷惑どころか。可愛い寝顔を堪能できて眼福だった」
そう言われて、カッと頬が熱くなる。
「か、可愛くない!」
ついむきになって言うと、ウェイドはグランドシートに胡座し、膝に頬杖をついてフレイアを見つめる。
「そうか? 俺は可愛いと思った」
「お……思ったことをなんでも口にするな!」
なんだかよくわからないことを怒鳴り、フレイアは湯たんぽを抱えて立ち上がる。
「仕事をする!」
「おお、そうか。じゃあ茶でも運んでこよう」
「殿下はゆっくりしてろ! 私の小姓じゃないんだから!」
「夫だから、妻の世話を焼くのは当然だろう」
ああいえばこういう……っ。
奥歯をかみしめているフレイアを置いて、ウェイドは鼻歌交じりにまたテントを出て行った。




