第7話 迷子と母親
⑦
「ふぅ、買ったわね」
「まったくだ。旅行してるわけじゃないんだぞ?」
財布が明らかに軽くなった。
まぁ、荷物はルナの魔法でしまってあるからいいんだが。
この調子で出費してると、貴族時代の財産やら屋敷のものを換金した金もすぐ底を突く。
さっさと冒険者としての活動を始めないとまずいな。
Bランクになれたら今の新人ランクの依頼の数十倍の報酬を得られるから、大丈夫だとは思うが。
金がなくて復讐の計画もままならないだなんて状況にだけはならないようにしたい。
「別にいいじゃない、ちょっとくらい。こういうの、少し憧れてたのよね」
「それは、向こうを覗いてたからか?」
世界、とつけるのは町中だから控える。
「そうそう。あっちは、もっとずっと発展してて平和で、私くらいの見た目の人たちが好きに買い物を楽しんでたでしょ? だからね」
楽しげに語るルナを見てると、まあいいかと思えてしまうから悔しい。
こいつが妹っぽいのがいけないんだと思う。
それはそれとして、もう夕方も近い。そろそろ戻って、試験勉強の続きをさせるべきだな。
「ルナ、そろそ――」
「うわぁぁああん! お母さあああん!」
子供の泣き声……。迷子か?
周囲には、保護者はいないようだな。みんな各々の表情で子供をみるばかりだ。
危ないな。ここは日本じゃないんだ。人攫いにあってもおかしくない。
地球くらい発展してても、欧米なんかだと子供だけで出歩くのは浚ってくれと言っているのと変わらなかった。
倫理観という意味ではまだそこまで発展してないこの世界だと尚更だ。
「ねえ、アレク。言おうとしたことは分かってるんだけど、その前に、あの子のお母さんを探さない?」
「それは、良い提案だな」
言い終わらないうちに子供、男の子か? に近づいていく。
後ろからくすりと笑う声が聞こえた気がするが、たぶん気のせいだ。
「なあ少年、お母さんと逸れちゃったのか?」
「少年って……」
煩い。他にどう呼びかけたら良いか分からなかったんだ。
「うぅ、ひぐっ、うん……」
「いつまで一緒だったかは分かるか?」
「わがんない……。お母さん、消えちゃった……」
人混みで逸れた、というほどの人数じゃないな。
なにかに夢中になってるうちにだろうか。
「どっちから来たかは覚えているか?」
指さしているのは、ギルドとは反対方向か。
単純に考えるなら、この子のお母さんはこの通りを俺たちの来た方向に向かったんだろう。
「よし、兄ちゃんたちが一緒に探してやる」
「本当……?」
「ああ、任せろ」
といっても俺たちはお母さんの顔を知らないからな。
肩車でもしてやるか。
「うわっ……! ……凄い、高い!」
「これならお母さんを探しやすいだろ」
「うん!」
なんだか知らないが、機嫌も直ったらしい。
泣き叫ばれて誘拐犯だと思われても困るし、助かる。
さて、すぐに見つかると良いんだが。
テルという名らしい少年のお母さんは、まだ見つかっていない。
まだ三十分ほどしか探してはいないけど、普通なら向こうも探し回ってるだろうことを考えると、いくつかの可能性を考えないといけないな。
そもそも方向が違ったか、この子を意図的に置いていったか……。
「テルくんのお母さん! テルくんのお母さん、いたら出てきて!」
ルナがよく通る声を張ってくれてるから、気がつかない間にすれ違ったということは無い思う。
意図的に置いていったというのは無しで頼みたいが、家庭にはいろいろな事情があるからな。
前世のクソ親父どもみたいな両親という可能性もあるだろう。
「お母さーん! どこー!?」
だとしたら、テルの代わりにぶん殴ってやりたいところだ。
テルのこの様子だと、違うとは思うけど……。
うん?
今、テルの名を呼ぶ声が聞こえたような……。
「テルッ!」
「あっ、お母さん!」
あれがそうか。まだ若そうだ。
顔を真っ青にしているし、汗で髪が張り付いている。本気で探し回ったんだろう。
良かった、悪い母親ではなさそうだ。
とにかくテルを下ろしてやろう。
「テルっ、ああっ、良かった……」
「お母さん、あのね、お兄ちゃんたちが一緒に探してくれたの!」
自分を抱きしめる母親へ、テルは無邪気に言う。
さっきはあれほど泣きじゃくっていたのにな。
安心したんだろう。なんにせよ、良かった。
「あの、息子を、ありがとうございました! お礼にできるようなことがあれば――」
言い切る前に、ルナが手の平を見せて制止した。
「いいのよ、気にしなくて。私たちがしたくてしただけだから」
「ああ、そうだな。お礼はいいから、できるだけ息子さんから目を離さないようにしてやってくれ」
「はい、すみません……。ありがとうございます」
一人だと難しいのも分かるけどな。
手を繋ぎ、笑顔で去って行く親子を見送る。
本当に良かった。仲の良い親子なら、引き離される道理もないだろうし。
「さて、俺たちもギルドに戻るか。試験勉強の続きだ」
「そうね」
残った時間は、二、三時間か。
まあ、こいつには十分だろう。
翌日、朝からランク認定試験の筆記試験を受けた俺たちは、受付カウンターのあるロビーで合流した。
カンニング対策なのか何なのか、別の部屋で受けさせられたのだ。
「思ったより人数が多かったな」
「そうね。もっと少ないものだと思ってたわ」
特別大きな町ではないしな。
ランク認定試験自体は、冒険者に成り立てでなくても受けられるから、定期的に飛び級目的で受けるやつらがいるんだろう。
「それで、どうだったんだ?」
「余裕よ。当然でしょ?」
それもそうか。
魔法を教えられたときから知っていたけど、こいつは本当に頭がいい。
冒険者に求められる程度の知識の暗記くらい、どうということはないか。
「ならあとは実技試験か」
「そうね。現役のAランクが試験官をするそうよ」
「ほう、そりゃ贅沢だ」
実技試験は、昼食後か。
あまりギルドから出ない方がいいんだろうが、併設の酒場に行くのは気が進まないな。
まあ、近場に出るくらいなら問題ないだろう。
一応は万全の状態にした方がいいだろうからな。




