第6話 息抜きにデート
⑥
試験勉強は、ギルドの資料室を借りた。
伯爵家の蔵書には劣るが、平民ばかりの冒険者が使うには贅沢すぎる蔵書だ。
これだけ良い場所なのに、ほとんど人がいない。
いるのもそれなりに強そうなやつらばかり。
なるほど、低ランク冒険者の死亡率は高いらしいが、これは分かるところがあるな。
「エーテルを吸収しやすい形で多く含むことから、エーテルポーションの原材料として使われる薬草は?」
「エテリアス草」
「正解だ」
うん、基本的なところはもう問題なさそうだ。
神話の時代の呼び名と結びつけるだけとはいえ、半日で完全に覚えてしまったな。
やはり頭がいい。
まぁ、エーテル関連はこいつの得意分野だ。
日本にあった創作物でいう魔力だからな。
昔読んだ本に、アリストテレスの提唱した第五元素をエーテルというとかいう記述があったから、それと似たようなものなんだろう。
「このくらいの知識だと、どこまでいけると思う?」
「Dランクくらいじゃないか? 応用ができてC。貴族を相手にできるような教養があればBってところだろう」
「ふーん。そんなものなのね」
それはそうだ。
低ランクの冒険者に求めるラインだからな。
冒険者に最も求められるのはやはり戦闘力だ。知識だけがものを言うものなんて、学者にでも任せておけばいい。
そういう意味じゃ、実技試験の方は安心だ。
俺とこいつでBランクになれないなら、他の受験者なんてDランクがいいところだろう。
「それじゃあ、このまま応用の方にいくか」
「ええ」
それから二日。みっちり勉強を教えた。
まだBランク合格確実とはいえないけど、あと半日ある。ルナなら余裕だろう。
「はぁぁぁ……」
「なんだ、デカい溜め息だな」
「そりゃそうよ。ここ数日、もうずっと缶詰よ?」
缶詰って……。
あ、いや、そういえば口走った覚えがあるな。
俺が言った単語を覚えていたのか。
「試験日が近いからな。仕方ない」
「それはそうだけど……。でも、息抜きも大事じゃない?」
「一理は、ある」
「神話の時代に無かったものはこの目で見て確かめたいし、ね」
言っていることは、おかしくない。
おかしくはないが、これはサボりたいだけだな。
前世で妹に勉強を教えていたときもこんな感じだった記憶がある。
「まだ合格確実とは言えないぞ」
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
うーん……。
だけど、いや、モチベーションのあるなしは効率に関わるか……。
「はぁ……。仕方ないな」
「やった!」
最悪、教養の問題がある程度で来たらあとは実技試験の成績で巻き返せるか。
「それじゃあ、さっそく行きましょ」
こういう時に片付けが早いのは異世界共通なのか……?
ギルドを出て、市場へ向かう。
一応名目が、試験に出てきそうなものを実際に見るって話だったからな。
まぁ、この世界にカラオケや遊園地があるわけではないしな。
町巡りするなら、どうせ同じことをしていた。
「買い物デートね」
「デート、になるのか?」
「一応そうなんじゃない?」
恋人関係というわけではないけど、どうなんだろうか?
運命共同体には違いないけど……。
「あ、ねえ、あれ食べたい」
「あれ、って、焼き鳥か。デートって言うなら、もう少しそれらしいものでもいいんだぞ?」
「あら、渋ってた割りには乗り気ね? でも、今は単純にお腹が減ったの」
まだ昼さがりなんだけどな。頭を使ってたらお腹が減るのは分かる。
教えていただけの俺もそれなりに減っているしな。
「すまない。焼き鳥を二本くれ」
「三本でもいいのよ?」
「夕飯が食べられなくなるぞ」
特別多く食べるわけでもないだろうに。
「二本でいいんで?」
「ああ」
「あいよ!」
店主的には三本頼んで欲しかったんだろうけどな。
ほう、注文が入ってから焼き直してくれるのか。
タレも良い匂いだ。
「まいどあり!」
焼き鳥を受け取り、歩きながら食べる。
行儀は悪いが、今の俺は貴族ではない、ただの冒険者だ。気にする必要も無いだろう。
こちらの世界でも向こうの世界でも、こういう屋台料理は初めてだ。
日本の祭りで売っていたものより大きい気がするが、どうなんだろうか?
「ん、けっこういけるわね」
「そうだな。思ったより美味い」
もっとチープなものだと思っていた。
さすがに貴族時代に食べたものには劣る。とはいえ、満足度は十分。
日本の居酒屋で食べる焼き鳥もこんな感じなんじゃないだろうか。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま。……いや、こっちじゃ言わないだろ」
「いいじゃない。食べた物や生産加工に関わった全ての人に感謝するって挨拶、私はけっこう好きよ?」
そういうものか。
……これは説明した覚えも言った覚えもないな。
もしかしてこいつ、けっこう向こうの世界のことを見ていたな?
「十三年暇だったから、定期的に覗いてたのよ」
心を読まれた訳じゃないだろう。
察しがいいだけだ。
後ろ暗い隠し事はしない方がいいだろうな。
「あっ、あの服可愛い! ちょっと寄ってみましょ!」
「服……。まぁ、いいか」
ルナの魔法なら持ち運べるしな。
しかし楽しそうだ。
ルナは見た目で言えば二十歳くらいだから、むしろ年相応なのかもしれない。
外に出て良かった、のかもしれないな。
「何してるの? 早く行きましょ!」
おっと。
水を差しても悪い。
俺も楽しむか。
復讐者にも、こういう時があってもいい。
でないと、父様や母様が悲しむ。




