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辺境伯爵家の剣神、神々に復讐するため旅に出る~月喰みの魔女と魔女の騎士~  作者: 嘉神かろ


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第17話 凍てつく光と家族

「うん? どうかした?」


 と、今のは油断したな。さすがに分かりやすかった。


「いや、俺も家族のことを思い出してしまったんだ。話すようなことじゃない。忘れてくれ」


 上手く誤魔化せただろうか。

 ルークは兄弟のことくらいしか内心を滲ませないからな。


 周りや本人の動きを見るに、かなり難しい状況にあるのは分かる。

 弟の派閥には殺されかかっていたし、兄の派閥が何もしていないとは思えない。


 継承権的には余裕があるにしても、万が一を恐れて考えなしな行動に出る馬鹿もいるだろうし。


 この状況で弱みを見せられるはずがない。

 兄弟仲良く、というのも難しいか。まったく、世知辛いな。


 それから暫くは、当たり障りのない歓談が続いた。いつしか窓から差し込むのが月明かりに変わっていて、庭園も闇に沈んでいる。

 その間、純粋に食事を楽しんでいた、と思う。


 やはり俺は、ルークに弟の影を見ているんだろうな。

 さっきは誤魔化しのつもりで言ったことだったけど、今はたしかに、弟を思い出している。

 見た目は全然違うのに、これほど心を隠すのが上手くはないのに、どことなく似ているんだ。


 一応、世間話の流れから王族たちが今いるだろう場所も大まかには分かった。

 その気になれば今すぐにでもルークを殺し、他の王族たちの息の根を止めに行ける。


 ただ、まだルナの力を封印する楔については何も分かっていない。

 焦ってはいけない。確実に、情報を得なければ。


 こうして食事を続けているのは、それが理由のはずだ。


「もう次がデザートかぁ。ちょっと名残惜しいよ」

「そうね。料理も今まで食べたことがないくらいに素晴らしいものだったし」

「だな」


 名残惜しいか。本当にそう思うよ。


「あーあ、僕も二人と兄弟だったらなぁ。アレクが一番上で、ルナリスが二番目。それで、僕が末っ子だ」

「はは、それはいいな」

「ちょっと、私とアレクは逆でしょう?」


 ルナが姉は無いだろう。

 確かに外面は姉らしい部分もあるけど、本性が完全に妹、それも末っ子気質だ。


「うーん、どうかな? アレクと話してる感じ、やっぱりルナリスの方が妹だと思う」


 ほら見ろ。

 そうやってむくれる所も妹っぽいぞ。


 たぶん、ルークでもギリギリ分かるかどうかという程度のむくれ方だとは思うけど。


 なんて笑いを堪えていると、不意にルークの纏う空気が変わった。


「……ねえ」

「なんだ?」

「もしさ、僕が、僕を攫って旅に連れて行って、て言ったらさ、叶えてくれる?」


 これは、何割かは本気で言っているのか。

 王族誘拐なんて極刑ものだと分かった上で、なお。


「……王族をやめられるなら、考えるけどな」

「はは、だよね。冗談だよ」


 なら、そんな悲しそうな笑みを浮かべるな。

 いつもみたいに、軽い雰囲気で笑ってくれ。


「いや、ごめん、今のはやっぱり嘘。本当は、ちょっと本気だった」


 動揺したのは、後ろの侍女か。

 ほんの一瞬だけだけど、それだけで、ルークが臣下から慕われているのが分かる。


 そうでなければ、ルークを利用しようとしている奴らだと分かっていても、一応味方である貴族まで自発的に警戒しないだろう。そう考えたら今更な話ではあるけど。


「今の情勢だと僕は、立場は変わらず、権力だけを削ぎ落とされて飼い殺しにされることになると思う。せめて放置されたらって考えてもいたけど、この前のバジリスクの件でそういうわけにもいかなくなった」


 それは、そうか。

 Aランクの怪物を討伐した英雄王子。


 放置すれば、ルークを利用したい貴族たちが妙な動きを見せる可能性が高い。

 だったら、第一王子の立場からすれば、見せかけの立場でも与えて逆に利用した方がいい。


「国の民たちの力に少しでもなれたら、てやってた冒険者活動なんだけどね。裏目に出たよ」


 権力を削がれ、城に閉じ込められて民を守るべき王族として何もできない。

 そんなハリボテの余生を過ごすのなら、俺たちと一緒に旅をしたい、か。


 気持ちは、分かる。


「ルーク、俺は……」


 俺は、なんだ?

 何を言おうとした。なんと言えばいい?


 ちょうどよく運ばれてきたデザートの配膳される間に、考える。

 しかし、けっきょく何も続けられなくて、視線を逸らした。


「……まあ、大丈夫だよ。もう少し足掻くつもりだからね」


 足掻く必要はない。

 俺が全てを終わらせる。


 そう言ってやりたい。

 けど、この場で言うわけにはいかない。


 少なくとも、楔の情報が手に入るまでは。


「もう一つ謝らないと。さっきルナリスの質問に知らないって言ったね。あれも嘘」


 ……待て。


「本当は知ってるんだ。封印のためにある古代魔道具について」


 待ってくれ。


「王家に伝わる宝剣があってね」


 言わないでくれ!


「月喰みの魔女の力を封じたって言われてる古代魔道具だ。今は、騎士団長に預けられてる」


 ……ああ、手に入ってしまった。

 最後の、一欠片が。


 動くしかなくなってしまった。

 決めていたことだから。


 もし、本当にルークが王族でなくなるのなら、それでいいとすら思っていたのに。


 当の本人は、これを知ってどうするんだいとでも言うように、どこか挑発的な目で俺たちを見ている。

 俺たちが何か隠しているのにも勘付いていたんだ。


 だったら、仕方ない。

 覚悟はもう、決めてある。


「……ルナ」

「ええ」


 デザート用のフォークを手に取り、背後の侍女は向けて投げる。

 狙い違わずそれは侍女の眉間に突き刺さって、即死させた。


 これで、すぐには人は来ない。


 ルナの魔法空間に収納していた魔剣クレリプスを受け取ると、その時点でルークは気づいたらしい。


「ああ、なるほど。たしかにもう無い家だね。アレクシオ・シーリング」

「その名で呼ばれるのは五年ぶりだな」


 引き抜いた銀の刃は照明の灯りを反射して、月のような光を放つ。

 それを見ても、ルークはいつもの笑みを崩さない。


「目的は、この国への復讐かい?」

「そうだ。だけど安心しろ。国民には手を出さない。その咎は、全て王家と騎士団長に負わせる」


 ルークは安堵の息を吐いて、少しばかり緊張を緩めた。

 この期に及んでも国民のことを考えていたらしい。


 恐れ入るよ、まったく。


「それは本当に安心だ。ねえ、アレク。最期に一つ、頼みを聞いてくれるかい?」

「……内容によるな」

「全てが終わった後は、メリエーラ公爵、叔父上が王位につけるよう動いてほしいんだ。彼だけは純粋に僕の身を案じてくれたし、この国の王としても申し分ない人だからね」


 月喰みの魔女と一緒なら簡単だろう? とルークはルナを見る。

 ああ、本当に彼がその能力を存分に発揮できる環境じゃなくて良かったよ。


 たしかに人の上に立つカリスマは第一王子や第三王子の方が上かもしれないけど、頭のキレはルークに及ばないだろう。


「善処は、しよう」

「うん、十分だよ」


 その言葉を聞くと同時に一気に距離を詰め、胸を貫く。

 そうとうの痛みがあったはずなのに、ルークは悲鳴一つ上げず、笑みも崩さない。


「はは、凄く痛いや。これを兄さんたちも味わうのか。痛快だね、まったく」


 彼の体から力が抜けて、肩にその重さを感じる。

 もう間も無く、完全に息を引き取るのだろう。


「それじゃあ、よろ、しくね」

「……ああ。安らかに眠れ、ルーク」


 ゆっくりと剣を引き抜くと、寄りかかってきていたルークの体は重力に引かれて地に落ちる。

 床に熱く真っ赤な血が流れ出て、広がっていく。


「アレク、手が」

「……大丈夫だ」


 震える手を逆の手で押さえつける。

 初めて人を、友を殺した。ショックが無いとは、嘘でも言えない。


「……もう少し、干渉に浸らせてほしかったんだけどな」


 部屋の扉が大きな音を立てて開いた。

 侍女からの連絡が途絶えたからだろう。不審に思った誰かが駆けつけたんだ。


「ルーク!」


 飛び込んできたのはルークによく似た、しかしもっと厳めしい顔つきの男だ。

 華美な服を纏い、後ろには騎士を二人と迎えにきてくれた老紳士を従えている。


「第一王子……」

「……っ! 貴様っ、よくもルークをっ!」


 第一王子は腰の剣を引き抜き、切り掛かってくる。

 それをいなし、首へ一閃。


 自分が斬られたことにも気付かない表情のままに、彼の首と体は、血の海へ飛び込む。

 その様はまるで、愛する家族を抱きしめているようだ。


 いや、ようだ、ではないか。


「ちゃんと愛されてたじゃないか、ルーク」


 少なくとも、兄自身には。


 重なった兄弟を一瞥してから入口へ視線を戻すと、おまけの三人はルナが対処してくれたようだ。

 閉じられた扉のうちに合計六つの死体が出来上がる。


 そこへ俺たちと背格好のよく似た死体を二つ、ルナの収納から取り出して並べ、顔の分からないように焼く。


 これで、一番の容疑者、正体の分からない冒険者たちはいなくなった。

 防音の結界が張られているから、しばらくは騒ぎにもならないだろう。


「これで王族は、あと五人だ」

「うち三人は今、第二王妃の部屋でお茶会をしてる所だったわね」

「ああ。屋根伝いに向かうぞ」


 窓を開けると、場に不釣り合いな爽やかな風が吹き込んで、血の匂いを散らす。

 友とその家族の屍を残して行く俺たちを、月は、凍てつくような光で見守っていた。



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