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辺境伯爵家の剣神、神々に復讐するため旅に出る~月喰みの魔女と魔女の騎士~  作者: 嘉神かろ


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第18話 他の姉弟

 思わず感傷に浸ってしまいそうになるのを制して屋根へ上がる。第二王妃の部屋があるのは、二つ先の塔の中だ。

 城の中を通るとかなり遠回りをすることになるけど、屋根伝いなら目と鼻の先。かなりの時間を短縮できる。


 細工はしたとはいえ、ルークたちの亡骸が見つかるのは時間の問題だ。それまでに王と、おそらく共にいるだろう第一王妃以外を始末したい。


 そう思えば第一王子が自ら訪ねてきてくれたのは幸運だった。弟の客人に挨拶しようとでも思ったんだろうか。もしくは、弟と共にバジリスクを倒した冒険者に興味があったのか。


 両方、かもしれないな。


「認識阻害の魔法をかけたわ。仮に対峙した状態になっても、そこらの人間には私たちの顔は認識出来ないし、特徴も記憶に残らない」

「助かる」


 頼もしい。多少は魔法の心得もある身からすれば、恐ろしくすらある。

 さすがは神、と言うべきなんだろうな。


 屋根を蹴り、向かい側の建物へ移る。常人ならまず届かない距離も、今の俺には障害とならない。

 続けて二度跳び、目的の塔に辿り着いた。


 ルナも飛翔魔法でついてきてはいるけど、レフトア王国への復讐に関しては多少の補助以外手を出さないでもらう予定だから、今はただの観客だ。


「三階だったな」

「ええ」


 それらしきバルコニーに飛び降りる。全身の関節を使って音を殺した後は、窓から死角になっている部分へ身を潜め、耳を澄ませる。


 中にある気配は、四つ。一つは壁際にあるから、おそらく使用人の類いだろう。

 他の三つはそれなりに近い位置にある。情報が確かなら、これらが王族のものか。


 ちらりと中を覗けば、たしかにティーテーブルを囲んだ第二王妃と第三王子、そして王女の姿が見えた、


 会話は、内容まで聞き取るのは難しいか。

 なら、身体強化の応用で聴力を高め、さらに魔法で中の音を外に伝える。これでどうだ?


「――さか、ルーカスがあそこまでやるなんて……。さっさと殺せたなら楽だったのに」

「いえ、お母様。たしかにルーカス兄上はそれなりに腕が立つ方ですが、バジリスクとあの者たちを相手取って生き残れるほどではありません。おそらく、共に戦ったらしい冒険者たちがそうとうの手練れだったのでしょう」


 どうやらあの時の刺客には第三王子の関与もあったらしい。最悪、指示した公爵ごと切り捨てる算段だったのかもしれないな。


「その冒険者については何か分かったの?」

「どうやら最近冒険者になった新人のようです。認定制度でAランクの試験管を圧倒していたようですから、おそらく、どこかの騎士崩れではないかと」

「そういえば、隣国で内乱と政変があったという話があったわね。その関係かしら?」

「かもしれません」


 やはりその程度は調べられていたか。

 とはいえ、それ以上は過去に遡れないだろう。それに王族でこれなら、他の勢力についてもある程度は安心していい。


「なんでもいいけれど、とにかく早く王になってくれない? もっとたくさんのドレスやアクセサリーが欲しいのに、今のままじゃたかが知れてるのよ」

「姉さん、もう少し堪えてください。兄上たちと父上さえ始末できたら、僕が王です。そんなもの、好きなだけ用意させましょう。もちろん、お母様にも」


 ……驚いたな。

 人格で言えばこの国の王族はもっとマシだと思っていたんだけど、案外酷そうだ。


 ルークがいい奴だったから余計にそう見えてしまう。


 しかし弟にこうもはっきり命を狙われるか。前世のクソ親父どもでも、積極的に殺そうとはしてこなかった。

 貴族や王族の世界だから、といえばそれまでなのかもしれないけど……。


 なんにせよ、つい同情してしまうな。

 実の弟からは命を狙われ、兄や弟と比べられた結果味方となったのは、自分を傀儡にしたいだけのやつらばかり。

 こんな環境じゃ、家族への情も含めて色々と歪むのも当然だ。

 

 ルナは本当に、いい家族のところに転生させてくれた。


 ……そういえば、ルナは、どうして封印されるだけで済んだのだろうか?

 殺されてもおかしくなかったはずなのに。


 もしかしたら……、いや、今は関係ない話か。

 めぼしい情報はも無さそうだし、さっさと殺してしまう。正直、こいつらの身勝手な欲望に塗れた会話を聞き続けるのは、不快だ。


「行くぞ」


 クレリプスで窓を割り、室内へ飛び込む。甲高く響いた音に、あらゆる視線がこちらへ向いた。


「な、なに!?」

「まさか兄上派の刺客!?」


 こいつらは、十分な戦闘の心得はなさそうだな。

 一応第三王子はいくらか剣を使えるようだがけど、甘く見積もってもCランククラス。相手にならない。


 それより厄介そうなのはあっちの侍女だ。


 一瞬のうちに王族たちとの間に飛び込んで、行く手を阻む。どこに持っていたのか、黒く塗られたナイフを投擲しながらだ。


 弾いた感触が予想より重い。身のこなしからしても、なかなかの手練れだな。


 でも、それは一般的な基準での話。


「悪いが、お前じゃ無意味だ」


 二投目を躱しながら距離を詰め、一息に剣を振るう。懐から取り出した短剣を挟んで防ぐつもりなようだけど、それこそ意味が無い。


 クレリプスはなんの抵抗もなく侍女の短剣を切り裂き、そして腕を断つ。

 返す一閃で首を飛ばせば、もう障害となる者はない。


「くそっ!」


 母と妹置いて逃げようとする第三王子の背中に、ナイフを投擲。ルークと狩ったベノムウルフの牙を磨いたものだ。

 結果は、見るまでもない。


 さらに一歩踏み込んで、横薙ぎ一閃。

 一太刀に二人の命を刈り取って、部屋に赤の彩りを添えた。


「ふぅ」


 まあ、こんなものか。


「見事なお手並みで」

「この程度ならな」


 クレリプスの刃に付いた血と脂をルナの渡してくれた布で拭き取る。

 ……てこれ、カーテンか。


 まあ、別にいいだろう。どうせこの部屋の調度はもう使えない。


「――で、殿下!?」


 ん、今の声は……。


「どうやらあっちが見つかったみたいね。騒ぎになるわよ」

「ああ。むしろ好都合だ。これで王と第一王妃のところにいけば、騎士団長とも会える」


 さて、ここからは室内を行くか。

 残るターゲットは、あと三人だ。



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