第16話 最後の晩餐
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老紳士が操る馬車は俺たちを乗せ、王城の門をくぐる。ここへ来るのは、六年ぶりくらいだろうか。
庭園やその調度は相変わらず華美ではあるけど、必要以上に豪奢というわけではなく、むしろ品がいい。
この様子だと、城内の雰囲気も大して変わっていないだろうな。
「いいところね」
「ああ」
王城勤めは特に伝統を重んじるヤツが多いって話だからな。
無駄に派手にするのは好まない。
そもそも歴史の古さを誇りに思ってる者も多い国だ。新しすぎたり派手すぎたりするものはすぐに排除される。
俺たちが排除された理由には関係ないけど、それで足を止めている部分はあったのだろうな。
まあ、今の俺には関係のない話だ。
馬車が動きを止めた。どうやら着いたらしい。
開かれた扉から下りると、武器を預けるように言われたので従う。ルナは何も持っていないから、俺の新しい剣だけだ。
城内もやはり、無意味な豪奢さは無い。
質実剛健とは違う、しかし落ち着いた装飾だ。
ああ、そうだ。こんな廊下だった。
ぼんやりしてた部分も思い出してきたな。
これなら迷う心配は少ないな。
「こちらでお待ちください」
「ああ。ありがとう」
案内されたのは、少人数での会食用に用意された部屋だ。
中央には、詰めれば長辺だけで八人座れる長テーブルが一つ置かれていて、そこに三つだけ椅子が備えられていた。
奥の短辺に一つと、手前側の左右に一つずつだ。それらの前には既にカトラリーも並べられている。
壁には大きな絵が一枚かけられていて、奥にある窓からは入り口側の庭園がよく見えた。
今はまだ赤と紫の混じった空しか見えないけど、そのうち月も食事の席を彩ってくれるのだろう。
手前の椅子に座って待つことしばらく、知った気配が近づいてきて、扉が開く。
「やあ、二人とも。お待たせ」
入ってきたのは金髪碧眼の見目麗しい青年、いや、貴公子、ルークだ。
一応は礼儀として立ち上がり、社交界で浮かべる類いの笑みを作る。
「お招き感謝します。ルーカス殿下」
「ああ、もう止めてよ二人とも。黙ってたのは謝るし、ルークでいいからさ」
まあ、揶揄うのはこれくらいにしておくか。
「はは、悪いな」
「まったくだよ。帰りには気がついてたくせに」
「なんだ、バレてたのか」
もちろん、か。
そんな分かりやすい方ではないと思うけど、そこは王族か。人の機微には聡くなるよう教育されてるんだろう。
「しかし、そういう格好ををしていると王子だって実感するな。よく似合ってるよ」
「ええ。冒険者姿も悪くなかったけれど」
「そう? アレクたちがそう言うなら嬉しいね」
社交辞令、ではないんだろうな。
「まあとにかく座って。もう少ししたら料理もくるはずだから」
ルークが座るのにあわせると、ほとんど同時に扉を叩く音がして、料理が運ばれてきた。
見計らったようなタイミング、というか見計らったんだろう。ルークに続けて入ってきた侍女が何か合図を出していた。
食事はコース形式なようで、前菜から運ばれてくる。
時間がかかるから、色々と情報を聞き出したい身としてはありがたい。
「マナーとかは気にしなくていいよ、と普通の冒険者には言うところだけど、アレクは大丈夫だよね?」
「それもバレてたか」
「習慣っていうのは簡単には変えられないからね」
これは牽制か?
いや、そういう感じではないな。どちらかというと、探りだ。
どこかの貴族の息が掛かった人間でないかを確かめようとしているんだろう。
意図を察しないなら、おそらく彼を甘く見ているだろう第二王子派の誰か。察するなら、他の派閥の誰かの可能性が高くなる。
そんな感じか。
「もう無い家の出だけどな。父の代で失敗したんだ」
嘘は言っていない。
ただ、一代貴族と勘違いするような言い回しはした。
新興の難しいこの国じゃ、掃いて捨てるほどある話だからな。
「なるほどね。でもそのおかげで、こうして友人として出会えたんだから、悪い事ばかりじゃないね」
一応疑いは晴れたらしいな。俺というよりは後ろの侍女に言ったんだろうけど。
とはいえだ、すぐにこちらから探るような質問はできないな。
しばらくはルークの話に乗る形で話しつつ、時折こちらから話題提供をするのがいいだろうか。
こちらの意図がバレたら、当然騎士たちに通報がいく。
それ自体は別にかまわないけど、騒ぎが大きくなって王族に逃げられるのはいただけない。
確実に恨みを晴らすためにも、ここで確実に仕留めたい。
「そういえば、二人はどうしてレフティアーナに来たんだい? 実力的に、もっと稼げる街があると思うけど」
ルークの話に乗る形で欲しい情報が手に入りそうだな……。
この質問は事前に想定していたから、ちょうどいい。
「私の趣味よ。古代魔道具や古代遺跡の類いに興味があるの」
「冒険者活動はそういうのを探しながら旅をしつつ、金も稼げるからな」
これも嘘は言っていない。
ルナの力を封印する楔になっているかもしれないから、興味があるんだ。
「俺は正直なんでもいいんだけど、せっかくだからこいつに付き合ってるんだ。ついでに、旅先で面白いものや綺麗な景色でも見れたら満足、というくらいだな」
「ふーん? やっぱり二人は仲がいいんだね。もし僕が王族でなくて、旅に出るなんて言っても、兄さ、兄上や弟はついてきてくれないと思うよ?」
冗談めかして言っているけど、実際はもっと深刻に悩んでるんだろうな。
バジリスク討伐の時に少し漏らしていた印象だと。
「王族でないなら、どうだろうな。立場が変われば関係性も変わるだろう」
「かもね。でも、たぶん来ない。逆にどっちかが旅にいくと言っても僕は付いていかないだろうしね。いや、兄上なら少し考えるかも?」
第一王子は、たしか同腹の兄だったな。それに元々継承権もあちらが上だ。
弟よりはましな関係なのか、関係だった、のか。
口ぶりからすると過去形か?
しかし、どうするか。
居場所を探れるかと話を広げてみたけど、難しそうだな。
思った以上に重たい話になりそうだ。
「まあ、それはいいや。そんなことよりさ、古代魔道具に興味があるなら宝物庫を少し見せてあげようか? 見せていい範囲に限るけど」
「あら、いいの?」
「もちろんだよ」
悩んでいるのを勘違いしたらしいな。
都合のいい方向に話を変えてくれた。
「ちなみにだけど、その中に何かを封印してるようなものってあるのかしら?」
「封印? うーん、聞いたことないかな? 兄上や父上なら何か知ってるかもしれないけど、少なくとも宝物庫の中のものでそういうのは無かったはずだよ」
「そう、なら良かった。その手のは本当に危ないから」
宝物庫は外れか。
封印場所はこの王城で間違いないとは言っていたから、少なくともさほど離れていない場所に楔もあるはずなんだけどな。
「そっか、封印か……。近くの遺跡でもそういうのは無かったはずだけど、この間のバジリスクの件もあるし、一応再調査した方がいいかもしれないね」
「あの森をか」
「うん。今毒の浄化に騎士団の魔法師隊を向かわせてるから、ついでに調べるよう伝令をだすよ」
まあ、たしかにバジリスクなんて強力な魔物があの森にいるなんて聞いたことが無かったからな。
古代の、この国が魔物を相手に戦っていた時代の生き残りという可能性が高いとは思うけど、万が一もある。
しかし、それらしい古代遺跡も無いとなると。けっきょく城ごと吹き飛ばすのが手っ取り早いか?
王族や騎士団長には俺自身の手でトドメをさしたいから、その後になるけど。
そう、王族だ。ルークも。
完璧な所作で皿を空にする彼をちらと見る。
……大丈夫。
ちゃんと殺せるはずだ。
ルークがどんなにいい奴でも、な。




