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辺境伯爵家の剣神、神々に復讐するため旅に出る~月喰みの魔女と魔女の騎士~  作者: 嘉神かろ


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第13話 毒の主

 コカトリスの巣を確認できたのは、予定通り翌日の昼前だった。洞穴の中に太い枝や木をまるごと組み合わせた巨大な鳥の巣があって、その内にやつの卵も確認できる。

 外から確認しただけだけど、卵は俺の胸の高さほどはあるんじゃないだろうか。


「コカトリスは、いないみたいだね」

「そうみたいだな。隠れて待つか?」


 卵があるなら、そう長くは巣を空けていないはずだ。さほど待たなくても、ん?


「なあ、コカトリスの羽根は、白だったよな?」

「そうね」

「巣に引っかかってるあの羽根、暗い紫に見えるのは、俺の目がおかしいのか?」


 返事より早く悪寒が奔った。

 その勘にしたがってルークを抱え、思いっきり横へ跳ぶ。


 直後、さっきまで俺たちが居たところで緑色の粘液が飛び散った。

 暗紫の羽根に木の根に白い煙を上げさせる緑色の粘液。それにコカトリスと間違える見た目となると、候補は一つしかない。


「バジリスクだ!」


 着地と同時に粘液の飛んできた方を見れば、鶏とトカゲを合わせたような化け物がこちらへ向けて突進してくるところだった。


「くっ……!」


 平屋ほどの巨体でこのスピード。さすがコカトリスの上位種なだけはある。


 俺だけなら躱すのは造作もないけど、ルークの体勢が悪い。放り投げる形になってしまったから仕方ないにしても、まずい状況だ。


 身体強化して受け止めるしか――


「ナイスだルナ!」


 飛来した氷の砲弾はバジリスクの横っ面を叩き、たたらを踏ませる。

 そこへ踏み込んで、居合い一閃。切り裂いたのは、やつのトサカだけだ。


 なかなかの瞬発力。普通の人間なら、身体強化なしでは振り回されるばかりだろうな。


 バジリスクは今の攻防で警戒度を上げたらしく、距離を保ったままこちらを睨み付けている。


「ちょっと、私の騎士なら私もちゃんと守りなさいよ」

「平気だろ、お前は」

「そんなんじゃモテないわよ?」

「知るか」


 言いたかっただけだろ、これ。

 こんな状況で満足そうにしやがって。


 俺を待つ間あっちの世界は割と自由に覗けたとは言っていたけど、いったい何を見てたんだ。

 いや、そんなことより今はバジリスクだな。


「毒はかぎ爪と唾液、それから血。炎ブレスと石化の魔法眼もある。単体でAランクだ。油断するなよ」

「ええ」


 主に手加減でだけどな。

 制限無しに魔法を使うなら、バジリスク程度瞬殺だ。しかし俺たちの力はあまり人に見せない方がいい。


「助かったよアレク。けど、アレの前に立つのは僕じゃ荷が重そうだ。正面は任せていいかい?」

「ああ。ルークは遊撃を頼む」


 気を散らしてくれるだけでもずいぶん戦いやすくなるからな。


「来るわよ!」


 仕切り直しの初手には緑色の唾液を吐きかけてきた。

 これを躱し、やつと隔てる空間を一気に走り抜ける。


 斜めに振り上げた剣はしかし、やつのかぎ爪に止められた。

 魔剣クレリプスならともかく、ただの鉄剣ではバジリスクの爪は切り裂けないか。全力でなら切れそうだけど、剣が耐えられない。


「街に戻ったらもっといい材質の剣を買うか、なっ!」


 押しつぶそうとしてくるのを受け流し、腿を切りつける。竜種特有の硬さも、ちゃんと鱗の隙間に沿ってやれば鉄剣で事足りる。


 飛び散る血液を避け、さらにもう一太刀。

 背中から噛みつこうとしてきたのは、ルークが盾で顔面を殴りつけることで逸らす。


 地面に突き刺さり、砕けた木の根と土が煙となった。

 その嘴を縫い止めた蔓は、ルナが魔法で生み出し操ったものだ。


 引きちぎろうと藻掻くバジリスクの目を、ルークが狙う。

 瞬間、嘴に並ぶ牙の隙間にチラつくオレンジが見えた。


「下がれ! ルーク!」


 くそっ、間に合わないか!


 バジリスクの吐いた炎が蔓を焼き、爆発的に広がってルークを襲う。

 しかし予想に反して彼は健在。バックラーで炎を防ぎ、そのまま剣を突き入れた。


 森にバジリスクの絶叫が響く。

 暴れ回る巨体。剣を抜けなかったルークが振り回される。


 足で踏ん張って抜こうとしても駄目らしい。

 瞬膜にでも挟まれたか?


 トカゲの類いが持つ透明なもう一つの瞼だけど、竜種のそれともなるとさすがにかなり硬いらしい。

 剣を伝った血に手が濡れているのもあるか。


 幸いバジリスクの毒は構造の大きい神経毒だ。目なんかに入らなければ害はない。


「諦めろ!」

「そうする!」


 ルークは剣から手を離し、バジリスクを蹴って大きく距離をとる。直後に降り注いだ氷柱の雨が彼を追わせない。

 痛みに我を忘れたのか、四方八方へまき散らされたブレスも氷柱に遮られた。


 まだギリギリ低位とはいえ竜種のブレスだ。普通は魔法の氷柱ごときで打ち消せるものではない。

 つまりはそれだけ多量のエーテルで構築された魔法ということだ。


 さすが女神だな。

 俺も負けてはいられない。


 ルークの封じた左目側から肉薄し、再度腿を切りつける。

 まったく同じ所を、三度目だ。


 ようやく筋を断ち切った感覚がして、バジリスクがバランスを崩した。

 しかしそれで冷静さを取り戻したのだろう。そのまだ無事な瞳が、俺を捉える。


「アレク! 目を見ないで!」


 ルークの叫びと、発せられる魔法の気配。あらゆる生き物を石へと変える邪視に、真っ赤な月喰みの瞳が二つ映る。



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