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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第三章

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第五十四話

ある程度祭りを楽しんだ後で、翌日からの野営に備え、早めに宿に戻ることにした。

……と、言うのは建前で。

本音は、あの腕輪の意味を知ってから、どこか気まずさがあって早々に部屋に戻ってきた。

この腕輪を、いつ、どんな状況で買ったのかは思い出せない。

でもまさか……『我が最愛 ──この思いがあなたを守る剣にも、盾にもなろう』なんて意味がある物だと思って買ったはずがない。

アシャンがくれた腕輪もそうだ。

彼女は、ただ安心して暮らせるようにと思って買ってくれたはずだ。

それがまさか、『あなたの安住の地が、私の隣であるように』なんて意味だとは。

つまり俺たちは、無意識のまま、その時のお互いへの思いを引き当ててしまったわけだ。

しかも俺には、その当時の記憶がない。

これが気まずくなくて、なんだと言うんだ。

そもそも彼女は、再会したあの日、これは俺に返した物だと受け取らなかった。

今さらそんな意味を知って、余計に受け取りにくいだろう。


「あの……、まだ腕輪、持ってたのね……」


部屋に二人きりになったことで、躊躇いがちに、言葉を選びながらアシャンが口を開いた。

外では彼女もどこかよそよそしかったから、二人きりになったことで意を決したらしい。


「……自分のを外せないのに、捨てたりなんてできないだろう?」


そう言うと、アシャンは伏せた目を揺らした。


「勘違いしないでほしいんだけど……買った時は、本当にそんな意味だって知らなかったし……あなたも、そんなつもりじゃなかったと思うの」

「俺もそう思うよ。……だから、気にしなくていい」


いつもよりも早口で言うアシャンに、苦笑いが出た。

俺のその姿を見た直後、アシャンがどこか悲しそうに俯いた。


「あなたは……」

「うん?」

「その腕輪、……どうするの?」


それは今俺が身につけているものではなく、俺が持ったままの方の腕輪のことだろう。


「……正直、特に考えてなかった」


アシャンは、胸の辺りで両手を握りしめた。

そして小さく息を吸い込んだ。


「それ、……その腕輪の意味を聞いて、どう思った?」

「どう? ……そんな意味があるとは思わなかったから、驚いたけど」


彼女の言わんとすることがわからず、どこか口ごもるように答えていた。


「私は別に、あなたに守ってほしいとか思ってないわ」

「ああ、うん。それは前に言ってたね」

「だからそう言う意味でほしいわけじゃないのよ。そうじゃないけど、」

「けど?」

「……それが、あなたの愛って意味なら……私が持っていた方が、いいんじゃないかしら」


アシャンは顔を赤くし、目を潤ませて俺を見てきた。

…………可愛すぎじゃないか?


「…………嫌なら、別にいいんだけど……」


咄嗟に言葉が出てこなかった俺を見て、何かを勘違いしたアシャンは、あからさまに肩を落とした。


「俺のお願いを聞いてくれるなら、君にあげるよ」

「……お願い……? なに?」


眉を下げてそう聞くアシャン。


「俺に着けさせてくれる?」


そう言いながら、腕輪をアシャンに見せた。

一瞬、驚いた顔をした後で、恥ずかしそうに俯きながら、手を出してきた。

その細い腕に、俺はパチン、と音を立てて腕輪をはめた。


「これで俺の愛は、君の物だ」


そう言った俺に、アシャンはもう片方の手で腕輪を包み込むように触れ、柔らかく微笑んだ。

その姿を見た瞬間、考えるより先に彼女を抱き寄せていた。


「俺の安住の地は君の隣だよ」

「……そうだと嬉しいわ」


腕の中のアシャンが、小さく笑ったのがわかった。


翌朝 ──


昨日の言葉通り、宿までエリオスとレイナが来てくれた。


「昨日エリオスと話し合ったんだけど、ヴァルディアを目指すことにしたの」


レイナが口の端を上げながらそう言う。

それを聞いたアシャンが、パチンと、手を一つ打った。


「それが良いわ! あそこはすごく大きな街だから、いろんな人がいるの。私の目も、ちょっと珍しいくらいで、あまり気にされなかったから、きっとエリオスも目を隠さずに過ごせると思うわ」


嬉しそうに言うアシャンの言葉に、エリオスが力強く頷いた。


「それにお嬢さんが成功したら……、きっと恐れずに生きられるようになる」


エリオスの言葉の意味は、俺にはっきりとはわからなかった。


──ただ、アシャンが精霊契約で何かを成そうとしている


それだけは、はっきりと伝わってきた。

自然とレイナに目を向ける。

レイナは何も言わず、力強い眼差しで俺を見ていた。

……彼女は言っていたな。

俺たちは見守ることしかできない、と……。

これもその一つなのだろうと思うと、どこか侘しいような気もするが、その対価が側で守ることなのだとしたら、この侘しさすら、必要な感情なのだろう。


「あなたは強いな」

「そりゃあもう20年近くになるもの」


俺の言葉にレイナが笑った。


「じゃあ、あなたたちも気をつけて」


アシャンがどこか名残惜しそうに別れの言葉を口にする。


「お嬢さんたちも。……火と水の恵みがあらんことを」


エリオスの言葉に、アシャンがハッとした顔をした。

直後。


「風と大地に包まれますように」


アシャンの言葉を聞いたエリオスが、一瞬、悲しそうに顔を歪めた後で、懐かしそうに微笑んだ。

その姿に見送られ、かつて精霊師の里があった渓谷へと歩を進めた。

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