第四十四話
レオと二人で旅をすることになって、二日目。
思っていたよりも早く、近くの街に辿り着いた。
「少し早いけど、次の街に行くには遅いし、これから先も長い。今日はここでゆっくりしよう」
そう言われて、この街で泊まることにした。
……レオとは少し、不思議な関係だ。
レオは記憶がないのにも関わらず、私のところまで会いに来てくれたし、今もこうして私の願いを叶える旅についてきてくれてる。
私はレオのことが好きだし、大切な人だと思ってる。
でもだからって恋人なわけじゃなくて……。
レオの言葉を借りるなら、旅の相棒、なんだと思う。
きっと、それが一番しっくりくる。
……でも。
本当にそれだけなのか、自分でもよくわからない。
──やっぱり、良い匂いがするわ ──
──優しい人間よ ──
精霊たちは、レオのことをすごく気に入っている。
バイルのことは、嫌いじゃなさそうだったけど、レオのことは、好きみたいだ。
それはやっぱり、レオも精霊師の血を受け継いでいるからだろうか。
それとも、彼には特別な何かがあるのか……。
「宿に荷物を置いたら、少し街を見てみる?」
その提案を受け、最初に宿屋に向かった。
部屋を一つずつ借りて、荷物を置いた。
これからの道中を考えると、あまりお金は使わない方がいい。
そう思ってはいるんだけど。
でも別々の部屋で、ちょっとホッとした。
「この街は来たことある?」
「前に一度だけ」
ヴァルディアほど大きくはないけれど、街道沿いの街なだけあって、人の流れが絶えない。
何を買うわけでもないけれど、こうして街を歩くだけでも新鮮で。
つい、周りを見るのに夢中になっていた。
「きゃっ!?」
「あっ! ごめんなさい!」
街を眺めながら歩いていたら、子供とぶつかった。
もっとちゃんと前を見て歩かないと、と思った時。
「ちょっと待て」
すぐ後ろから、低い声が響いた。
振り向くと、レオが子供の手を掴んでいた。
「それはお前の物じゃないだろう?」
「離せよっ!」
「それを返したら離してやる」
子供の手には、私のポケットに入っていた手作りの財布。
──この子、赤よ ──
「これは俺のだ!!」
「……そんな嘘、通ると思ってるのか?」
「レオ」
思わず、その名を呼んでいた。
子供の手を掴んだまま、レオが私を見た。
「それはこの子のものよ」
笑顔で言う私に、レオは信じられないというような顔をした。
「……ほっ、ほらな! もう俺のだから返さねぇよーだ!!」
大袈裟な身振りでレオの手を振り払い、子供は人混みに紛れるように走り去っていった。
「……君は、本気で言ってるのか? あれは君の物だろう」
怒っているわけではないけど、レオは眉間にシワを寄せながら私に聞いてきた。
「いいのよ。あれは、あげるための財布だから」
「……どういう意味?」
私の言葉に、レオは片眉を上げた。
「バイルと旅をしてた時のことなんだけどね。食べ物がほしい人には、持っていた分を少し分けてあげてたし……何もなければ、旅銀から少し渡してたの」
それはばば様の言う、困った人に親切にすることだと思ったから。
「でもバイルから怒られてしまって。そんなことしてたら、旅そのものが続かなくなる、って」
「それは俺も同意する」
真顔で言うレオに、思わず笑ってしまった。
「だからね、あげてもいい財布を作ったの」
「あげてもいい財布?」
少し目を大きくさせて、レオは聞いてきた。
「そう。多くても銅貨5枚だけ入れてる財布。その財布からなら、あげてもいいことにしたの」
「それは……」
「だからあの財布も私が縫った、値段もつかない物よ。旅銀はカバンに半分、もう半分は靴の中に入れろってバイルに言われてるから、今もそうしてる」
私の言葉に、レオは目を逸らし、納得とも諦めともつかない息を吐いた。
その表情は、困ったような、でもどこか微笑んでいるような。
「他には?」
「え?」
「他にはどんなこと教わったの?」
レオの声色が柔らかくなった。
「そう、ね……。金額が書いてない露店では、そのまま言われた通りのお金を出さないこと? 一度は悩んでるフリをするって言われたわ」
「そうだね。物を知らなそうに思われたら、高値を言う人間もいるからね」
レオが頷きながら歩き出した。
その後に続く。
「手当たり次第助けるんじゃなくて、人を見るようにも言われたわ。本当に困っているのか、困ったフリをしているのかは、あの子たちに聞くこと、って」
「そういうのもわかるの?」
「たぶん、嘘の延長かどうか、ってことだと思う。だから色を決めて、赤なら本当に困ってる人、青ならフリをしてる人って教えてもらってるの」
──ちゃんと覚えてるわ! ──
──赤は助ける、よ──
レオが顎に手を当てた。
「……じゃあさっきの子は、」
「うん。赤だったから」
そう言って視線を伏せた私に、
「なるほどね」
レオはようやく、納得したような声を漏らした。
「君はバイルに、本当に良く教わったんだな。街道での買い出しも、問題なさそうだね」
レオは柔らかく笑う。
「このまましばらくは、こういう感じになると思うよ」
その言葉通り、私たちは二週間の街道移動は穏やかに過ぎた。
「そろそろ変わるわ」
「助かるよ」
夜は交替で火の番をして ──
「野菜はこれくらいでいい?」
「ええ。十分よ」
ご飯は一緒に作った。
街に着けば宿に泊まり、野営の時はテントで過ごす。
そんな日々が、不思議と心地よかった。
そして明日から、街道を外れグレンデル山脈を目指す。




