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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第三章

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第四十四話

レオと二人で旅をすることになって、二日目。

思っていたよりも早く、近くの街に辿り着いた。


「少し早いけど、次の街に行くには遅いし、これから先も長い。今日はここでゆっくりしよう」


そう言われて、この街で泊まることにした。

……レオとは少し、不思議な関係だ。

レオは記憶がないのにも関わらず、私のところまで会いに来てくれたし、今もこうして私の願いを叶える旅についてきてくれてる。

私はレオのことが好きだし、大切な人だと思ってる。

でもだからって恋人なわけじゃなくて……。

レオの言葉を借りるなら、旅の相棒、なんだと思う。

きっと、それが一番しっくりくる。

……でも。

本当にそれだけなのか、自分でもよくわからない。


──やっぱり、良い匂いがするわ ──

──優しい人間よ ──


精霊たちは、レオのことをすごく気に入っている。

バイルのことは、嫌いじゃなさそうだったけど、レオのことは、好きみたいだ。

それはやっぱり、レオも精霊師の血を受け継いでいるからだろうか。

それとも、彼には特別な何かがあるのか……。


「宿に荷物を置いたら、少し街を見てみる?」


その提案を受け、最初に宿屋に向かった。

部屋を一つずつ借りて、荷物を置いた。

これからの道中を考えると、あまりお金は使わない方がいい。

そう思ってはいるんだけど。

でも別々の部屋で、ちょっとホッとした。


「この街は来たことある?」

「前に一度だけ」


ヴァルディアほど大きくはないけれど、街道沿いの街なだけあって、人の流れが絶えない。

何を買うわけでもないけれど、こうして街を歩くだけでも新鮮で。

つい、周りを見るのに夢中になっていた。


「きゃっ!?」

「あっ! ごめんなさい!」


街を眺めながら歩いていたら、子供とぶつかった。

もっとちゃんと前を見て歩かないと、と思った時。


「ちょっと待て」


すぐ後ろから、低い声が響いた。

振り向くと、レオが子供の手を掴んでいた。


「それはお前の物じゃないだろう?」

「離せよっ!」

「それを返したら離してやる」


子供の手には、私のポケットに入っていた手作りの財布。


──この子、赤よ ──


「これは俺のだ!!」

「……そんな嘘、通ると思ってるのか?」

「レオ」


思わず、その名を呼んでいた。

子供の手を掴んだまま、レオが私を見た。


「それはこの子のものよ」


笑顔で言う私に、レオは信じられないというような顔をした。


「……ほっ、ほらな! もう俺のだから返さねぇよーだ!!」


大袈裟な身振りでレオの手を振り払い、子供は人混みに紛れるように走り去っていった。


「……君は、本気で言ってるのか? あれは君の物だろう」


怒っているわけではないけど、レオは眉間にシワを寄せながら私に聞いてきた。


「いいのよ。あれは、あげるための財布だから」

「……どういう意味?」


私の言葉に、レオは片眉を上げた。


「バイルと旅をしてた時のことなんだけどね。食べ物がほしい人には、持っていた分を少し分けてあげてたし……何もなければ、旅銀から少し渡してたの」


それはばば様の言う、困った人に親切にすることだと思ったから。


「でもバイルから怒られてしまって。そんなことしてたら、旅そのものが続かなくなる、って」

「それは俺も同意する」


真顔で言うレオに、思わず笑ってしまった。


「だからね、あげてもいい財布を作ったの」

「あげてもいい財布?」


少し目を大きくさせて、レオは聞いてきた。


「そう。多くても銅貨5枚だけ入れてる財布。その財布からなら、あげてもいいことにしたの」

「それは……」

「だからあの財布も私が縫った、値段もつかない物よ。旅銀はカバンに半分、もう半分は靴の中に入れろってバイルに言われてるから、今もそうしてる」


私の言葉に、レオは目を逸らし、納得とも諦めともつかない息を吐いた。

その表情は、困ったような、でもどこか微笑んでいるような。


「他には?」

「え?」

「他にはどんなこと教わったの?」


レオの声色が柔らかくなった。


「そう、ね……。金額が書いてない露店では、そのまま言われた通りのお金を出さないこと? 一度は悩んでるフリをするって言われたわ」

「そうだね。物を知らなそうに思われたら、高値を言う人間もいるからね」


レオが頷きながら歩き出した。

その後に続く。


「手当たり次第助けるんじゃなくて、人を見るようにも言われたわ。本当に困っているのか、困ったフリをしているのかは、あの子たちに聞くこと、って」

「そういうのもわかるの?」

「たぶん、嘘の延長かどうか、ってことだと思う。だから色を決めて、赤なら本当に困ってる人、青ならフリをしてる人って教えてもらってるの」


──ちゃんと覚えてるわ! ──

──赤は助ける、よ──


レオが顎に手を当てた。


「……じゃあさっきの子は、」

「うん。赤だったから」


そう言って視線を伏せた私に、


「なるほどね」


レオはようやく、納得したような声を漏らした。


「君はバイルに、本当に良く教わったんだな。街道での買い出しも、問題なさそうだね」


レオは柔らかく笑う。


「このまましばらくは、こういう感じになると思うよ」


その言葉通り、私たちは二週間の街道移動は穏やかに過ぎた。


「そろそろ変わるわ」

「助かるよ」


夜は交替で火の番をして ──


「野菜はこれくらいでいい?」

「ええ。十分よ」


ご飯は一緒に作った。

街に着けば宿に泊まり、野営の時はテントで過ごす。

そんな日々が、不思議と心地よかった。


そして明日から、街道を外れグレンデル山脈を目指す。

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