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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第四十一話

夜はすっかりと更けてきたんだろう。

少し肌寒さを感じていると、ブランケットを取ってくると言ってアシャンが部屋に行った。

……別に今日はここで話を切り上げても良かったんだが、なんだかんだでアシャンも話したいと思っているのかと、口元が少し緩んだ。


「これでいい?」

「うん。ありがとう」


渡されたのは、少し毛羽立った、使用感のあるブランケット。


「もしかしてこのブランケットや、家具とかも前の住人のもの?」

「そうなの。使える物は使ってくれって、譲ってもらえたのよ」


先ほど倒れてから、ソファではなく絨毯の上に座って話していたが、この絨毯も使用感はあっても安くはなさそうな物だったから不思議に思っていた。

でも話を聞いて納得だ。


「君はこのままここで、薬師の仕事をしたい?」


肩に掛けようとしていたブランケットをずり落としながら、アシャンが俺を見てきた。


「俺は君の側にいたいと思う。だからここに根を下ろすなら、俺もここでできる何かを探そうかと思ってさ」


そう言った俺に、目を彷徨わせながら押し黙った。


「……どこかに行くつもりだった?」


アシャンは両手を胸のあたりで握りしめる。


「行くつもり、という、か……」

「なに?」


一瞬躊躇った後で、息を吸い込んだ。


「精霊師になろうと思って」


俺の目を真っ直ぐと見ながらアシャンは言う。


「精霊師、って……契約するってこと?」

「……うん。きちんと、契約しようと思ってるわ」


予想外の言葉に、一瞬言葉を失った。


「それは、……君を守るための決断?」

「……そ、れは……」

「違うなら俺は賛成したくないんだけど」


アシャンは口をきつく結んだ。

……と、いうことは、彼女を守るための判断ではない、ということ。

今でさえ、脅威と捉えられなくもない力を持っている彼女が、正式に契約してしまったら、どれほどの力を得るのか……。

そしてそのことで起こる、最悪のケースを考えてしまう俺としては、精霊師にはなってほしくない。


「……どんな形だったとしても、強く願うだけで叶うような力は、とても危ないわ」


胸のあたりで握りしめてる拳が少し、白くなっている。

……それだけ強い決意の証。


「少しでも、自分で制御できるようにならないといけないと思うの」


それはつまり、今も俺の記憶喪失に罪悪感を抱いているから。

いや……、記憶操作の代償で倒れた俺を見たから、か。


「ねぇ、アシャン」


白くなっていってる手を取り、手を開かせようとした。


「俺はね、君のためになることや、君自身を守ることには賛成するよ。……そりゃあ、あんまり危ないことはしてほしくないけどね」


包み込むように触れた手は、折れてしまいそうに見えるのに、きっと彼女自身の意思でしか、開くことのない手だと思った。


「でも、君が自分のために決めたことは、力になるよ。……その決断は、君のため?」


アシャンは一度目を伏せた。

そして真っ直ぐ俺を見据える。


「もう二度と、あなたにしてしまったようなことを起こさせない。そのためには、きちんと契約をする必要があると思うの」


それはやっぱり、自分のためでもあるけど、何より再び近くにいることを選んだ、俺のためのようにも思えた。

……そんなことされたら、俺も、君のための選択をする他なくなるじゃないか。


「……わかった。俺は君の力になりたいから、精霊師になれるよう協力するよ」


そう言って笑った俺を見て、安堵の表情を見せた。

直後、顔を曇らせ俯いた。


「……レオにまだ、ちゃんと謝っていなかったわ」

「そうかな? 君からは何度も謝罪の言葉は聞いたよ」


俯いた顔はランプの明かりで照らされて、伏せ目がちなダイヤモンドの瞳が赤く煌めいていた。


「……記憶操作をしようなんて、思っていなかったけど、それでもしてしまった事実は変わらないもの。本当に……ごめんなさい」


そう言いながらあげた顔は、今にも泣き出しそうだ。


「あなたが記憶を失くしたって、あの子たちに言われた時、目の前が真っ暗になったの。私の存在を消したなんて、もう本当に一人ぼっちになったと思って、」


ぽろりと、涙がひと粒流れ落ちた。


「酷い怪我もしてしまったし、記憶を失くしたあなたの方が大変なはずなのに、私っ、自分のことしか考えてなくてっ」


そこまで言ったアシャンを、自然と抱き寄せていた。


「ごめんなさいっ、私、」

「大丈夫だよ。俺こそ……少し遅くなってしまってごめんね。だけど、またこうして会えたんだから」


アシャンは俺の背中に手を回し、そのまま眠りについた。

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