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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第三十八話

「ここがバイルの部屋よ。鍵もかかるから」

「君の部屋も?」

「あ、当たり前でしょ!」


そう言ってアシャンは、夕飯を作ると、先に階下に降りて行った。

バイルの部屋は、白狼団にいた頃と似ていて、アイツらしい簡素な部屋だった。


「さて、と……」


バイルの部屋にあったイスに腰を下ろし、ひとり息を吐いた。

……精霊と契約していないのに、願うだけで動かしてしまう存在。

それが全てではないだろうが、狙われる理由としては十分だ。

……だから前の俺は、守ると決めたんだろう。

その瞬間が思い出せないのが、少しもどかしい。

でもまあ ──理由なんて、後付けでいい。

見た目は好みだし。

泣かれると放っておけないし。

多分、俺の方が先に惚れていた。

それで十分だ。


「問題は今の距離感だよな……」


アシャンは恋人じゃなかったと言ったが、バイルやガルドたちの言動から、それに近い関係だったはずだ。

けど、どこかに俺への罪悪感がある気がして、今の態度や距離感が、どうにも噛み合わない。

バイルの部屋の机に肘をつき顔に手を当てた。

直後、自分の左腕の腕輪が目に入ってきた。


「……少し、試させてもらおうかな」


白狼団の部屋を出る時に持ってきた、捨てられなかった女物の腕輪を、荷物の中から取り出した。

そして夕飯が出来たという声が聞こえたので、腕輪をポケットに忍ばせ階下に向かった。


「君は料理も上手いね」


出されたスープは、拠点一階で出していた物よりもずっと素朴な味だが、不思議と落ち着く。


「そう言えば、これは君のだったりする?」


食事も終わりに差し掛かった頃、ポケットから腕輪を出してアシャンに見せた。


「怪我した時にいつの間にかベッドにあったんだけど、違う?」


俺の言葉に、アシャンは目を泳がせた。


「…………わ、たしのでは、ないわ」


そのまま言葉を詰まらせながら答えた。

……こういうところも、嫌いじゃなかったはずだ。


「そうか。君のかと思ったんだが……もしかしてラシャのイタズラだったのかな?」


ラシャの名前に反応し、体が小さく揺れた。


「うーん……。捨てるのもなんだかスッキリしないし、ラシャに送り返そうか」

「ダメよっ!」


アシャンは勢いよくイスから立ち上がった。


「……そ、れは、ラシャ、さん、の物じゃないから……送ったら迷惑だわ……」


俯きながらイスに座り直した。


「……俺も左手に、同じような腕輪してるんだけど」


服の袖を少し捲って、腕輪を見せた。


「自分じゃ何故か外せなくてね。……外せない、というより、外したくないんだ」


アシャンは黙ったまま俯いている。


「だからもしかしたら、もう一つの方は君のかと思ったんだけど……それでも、違った?」


唇を噛んだ後で、ゆっくりと口を開く。


「……それは、あなたに返した物だから、もう私の物じゃないわ」


悲しげに俺の方を見ながら、アシャンはそう言った。


「でもこれは俺がするには小さいし、アシャンに持っていてほしいんだけど?」

「……ダメよ。受け取れないわ」


そう言って、彼女は両手を胸の前で強く握った。


「俺は君から受け取っているのに?」


そう言うと、アシャンは少し驚いた顔をして俺を見てきた。


「自分では買わないデザインでさ。君からの贈り物だと思ったんだ」

「……そ、れは……」

「でもよく見るとこの模様、違うんだよな……。お互いに買ってお揃いにしたわけじゃないのかな……」


呟くように言った後、まじまじと自分の腕輪と、手に持っている腕輪を見比べる。

素材や作りは同じだが、模様だけが微妙に違う。

お揃いと言うには、どこか引っかかる違いだった。


「……それは西部で作られた腕輪のお守りだから……」


ぽつりと漏らした言葉に、アシャンがようやく重い口を開けた。


「お守り? どんな意味の?」

「…………あなたのは、安全に暮らせますように、って……」

「……なるほどね」


さっきもアシャンは言っていた。

俺が安心して生きていけるように願った、と。

だからこれはもう間違いなく、彼女からの物なんだろう。


「じゃあこっちは?」


女物の腕輪を持ち上げ、アシャンに聞く。

ただ知りたい。

そう思っただけだった。


「…………あなたは、私が守ります」


本当に泣きそうな顔で、彼女は口にした。


「お店の人には、そう聞いたわ」


直後 ──


──レオは、私があげたら身につけてくれる? ──


脳内に声が響いた。


──君からもらったら、肌身離さず身につけるよ──


「っ、」

「……レオ?」


──同じような意味で、あんたにおすすめがあるよ──


頭が割れるように痛い。

今までの比ではないほど、鋭い痛みに覆われる。


「レオ! 大丈夫!?」


──これはね、あなたは私が守ります、って意味があるんだ。その剣で生涯守ってやんな──


そのすぐ後だ。

血で染まりかけた視界の先で、驚いたような、泣きそうな顔をした君を見たのは。

震える声で俺の名前を呼んだ君を見て、そして、俺は意識を手放したんだ ──

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