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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第三十七話

「あなたは……私の側にいてはダメよ」


もう一度、ソファに座り直したアシャンは、どこか、諦めとも取れる表情でそう言った。


「私といれば、またあなたが怪我をしてしまうかもしれないもの」

「おかしなことを言うね。バイルはよくて……俺はダメなのか?」


俺の言葉に、アシャンは深く、息を吐いた。


「以前、バイルにも同じことを言ったわ。でも、」

「聞かなかっただろう? ……自分で決めたことは曲げない。白狼団は、そういう奴の集まりだ」


俺の言葉にアシャンは顔を曇らせる。


「でも、危ないことに変わりないわ」

「君が言いたいことはわかるよ。……何より、俺の心配をして言ってくれてることもね」


アシャンは眉を下げて俺を見てきた。


「でもね。確かにそれはそうかもしれないが、もしもの話だけで、未来を決めたくない」


アシャンはもう一度、大きく息を吐いた。


「起こるか起こらないかの話より、君の意思が知りたいんだけど?」

「だから私は、あなたはここにいない方がいいって、」

「うん。それは聞いた。でもそれは俺の心配で、君の意思じゃないだろう? 君自身はどう思ってるの? 俺にいてほしい? いてほしくない?」


アシャンは俯き、口をきつく結んだ。


「…………いてほしいわ」


そして、本当に申し訳なさそうに、絞り出すような声を出した。


「それを聞いて安心した。俺はアシャンの側を離れる気はないよ」

「……でも……」

「悪いと思うなら、俺のお願い聞いてくれる?」

「え? ……なに?」


不安そうな顔をしている彼女に、笑顔を向ける。


「さっき、初めて名前を呼んでくれた時……すごく嬉しかった」


アシャンの目が、揺れる。


「君が俺を『レオ』と呼ぶ声。それを、もっと聞きたいんだ」

「……そ、れは……」

「俺をレオと呼ぶのは君しかいないんだ。呼ばれないのは寂しい。……それとも、呼びたくない理由でもあるの?」

「そっ、んなこと……」


この短い時間でわかったことがある。

彼女は俺が思っている以上に、俺の怪我を気にしている。

だからこそ、罪悪感から距離を取ろうとしたのだろう。

名前もその一つだ。

ならまずは、そこから取り戻させてもらおう。


「ねぇ、アシャン?」

「……」

「呼んでくれないの?」


そう言ってソファから身を乗り出し、彼女の顔を覗き込む。

その行動に、アシャンは目が合った後、息を呑んだ。

少しの沈黙の後 ──


「……レオ」


小さく、でも確かに。

アシャンが、俺の名前を呼んだ。


「……もう一度」

「え?」

「もう一度、呼んでほしい」


アシャンは少し赤い顔をして、でも目を逸らさずに。


「レオ」


小さく息を吸ってから、


「……これでいい?」


どこか照れてるような顔で言った。


「……レオ?」


黙っている俺に、アシャンが首を傾げて聞いてきた。


「……やっぱり、君だったんだと思っていたんだ。君が名前を呼んでくれて、すごく嬉しい」


そう言った言葉に、少し赤い顔をしたままスッと俺から目を逸らした。


「そういえば、バイルが遅いわ。どこに行ったのかしら?」


そしてあからさまに話題を変えたアシャンに、小さく笑いが漏れた。


「バイルは今日は帰らないって言ってたよ」

「……えっ!?」

「俺たちに、ゆっくり話し合う時間をくれたんだ」


その言葉に、一拍の間を置いた後。


「だっ、だめよっ! 呼び戻してくるわっ! どこに行ったの!?」


アシャンは大声をあげた。


「さぁ? 俺もこの村にはさっき来たばかりだし」

「きっと町に行ったんだわ! 私も今から町に向かって、」

「何をそんなに慌ててるんだ?」


慌ただしく動き出したアシャンに声をかけた。

俺の言葉に、アシャンはピタリと動きを止めた。


「……レオ、は、今日どこに泊まるの?」

「え? うーん……、まだ決めてないけど、宿屋にでも泊まるよ」

「…………ないのよ」

「うん?」

「この村に、宿屋はないわ。町にはあるけど……馬で半日くらいかかるから、着く頃には暗くなってると思うし……部屋が空いてるとも限らないから……」


アシャンの語尾が徐々に小さくなっていった。

彼女が何をそんなに慌てているのか、わかった気がした。


「俺はテントで寝るよ」

「で、でもそれは、」

「今さらテント生活が一日増えたところで、何も変わらないさ」


そう言った俺に、アシャンは目を泳がせる。

右に左にと忙しなく目を動かし、やがてキツく目を閉じた。

そして、大きく息を吸い込む。


「バ、バイルの部屋で良ければ、使ってもいいわ!」

「……バイルの部屋?」

「だってそうでしょう? 元はと言えば、バイルが悪いのよ! 部屋を使ったって文句は言えないはずよ!」


ものすごく真剣に、アシャンは言う。

しかも、自分で口にしたことを肯定するかのように、彼女は何度も頷いていた。


「……ふっ、あははっ!」


その姿を見たら、思わず声を出して笑っていた。


「君は本当に可愛いんだな」

「なっ、」

「君が良いなら、バイルの部屋に泊めさせてもらうよ。アイツも文句は言わないと、俺も思うしね」


俺の言葉にアシャンは顔を赤くした後で、目を閉じた。


「……案内するから、ついてきて」


口を尖らせて言ったアシャンについて、二階に上がった。

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