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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第二章

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第三十三話

それから数日間は、引き継ぎと部屋の片づけに追われた。

自室を終え、隣の部屋にも手をつける。

もっと感傷的になるかと思っていたが、もう自分の中で決めきっていたからか、思ったほど手間取ることはなかった。


「レオン」


すっかり片づいた部屋を後にしようとした時、ガルドに呼び止められた。


「……お前なら自力でも辿り着けそうだが、これは俺からの餞別だ」


渡されたのは、一枚の紙切れだった。


「そこにバイルがいる。……アイツの姉もな」


紙には、バイルのいる村までの道筋が簡潔に書かれている。


「中立を保つんじゃなかったのか? 」


いつもの調子で、軽く口にした。


「……お前が寝てる間、出て行ったことに気づくのが遅れたのは俺のせいだ。本人の意思だったとはいえ、もっとやりようはあっただろう」


少し間を置き、ガルドは視線を逸らす。


「……だからまぁ、俺なりの謝罪だ」


困ったように笑うガルドを見て、コイツもコイツで、ずっと考えていたんだろうなと思った。


「ありがたく、もらっていく」


そう言うと、ガルドは小さく笑った。

そして階下に降りると、マックスたちが待っていた。


「お前らが見送ってくれるなんて、嬉しいよ」


そう言った俺に、いつもの軽口は返ってこなかった。


「……じゃあ、お前らも元気でな」


そう言って立ち去ろうとした瞬間 ──


「俺は! やっぱりまだ、本人が決めたことなら、それでいいと思ってんすよ」


振り返ると、マックスが真っ直ぐこちらを見ていた。


「だってそうでしょう!? こんなヤローばっかのとこに閉じ込めてたら、可哀想っすよ! 本人だって、もっと自由にしたいに決まってるじゃないっすか!」


……そう言えば前にも、マックスから言われたことがあったな。

束縛がどうとか、なんとか……。


「何より! 俺だって、あんな美人と二人で出かけてみたかったんすよっ!!」


マックスは至極真面目な顔で、そう言い切った。


「……お前は、何を言ってるんだ?」

「だってそうでしょ!? ほぼ頭と一緒か、バイルが張り付いてるかのどっちかで、ここでの飯も二人で食えやしなかったんすよ!? 会いに行くつもりなら、まずそのゴテッゴテの独占欲、どうにかしてくださいって!!」


マックスの言葉に、俺だけじゃなく、周りにいた連中も笑っていた。


「……お前の忠告はありがたく受け取らせてもらう」


俺の言葉に、マックスは満足げな顔をした。


「じゃあ、元気でな」

「もし戻ってきても、俺の下っすからね」

「そうならないようにする」


最後の最後まで、場を和ませてくれる奴だ。

マックスのおかげで、清々しい気持ちでこの街を出られそうだった。


──ガルドから渡された紙には、まず西の街道沿いを、馬で八日ほど進むようにと書かれている。

……俺が怪我をしてから、もうすぐ一年になろうとしていた。

もし、自分の意思で出て行ったのだとしたら、今さら俺が会いに行くことを、望まないかもしれない。

……それでも。


「さて、行くか」


自分の中で決着をつけるため、長年住み着いた街を後にした。


それからしばらく、街道をひた走った。

思えばこうして一人で馬を走らせるのも久しぶりだ。

移動も野営も、アイツらと一緒だった。

そんなことを思っていたからか、その夜は懐かしい夢を見た。

祖父に頼まれ、祖母の故郷を探していた頃の夢。

そう ──

白狼団の始まり、精霊師の里を探していた頃の夢を見た。


「……そう言えば、確か精霊師の瞳は特徴的だって言ってたな」


起きてからもやたらと、頭に残っていた言葉 ──精霊師。

確かその瞳は ──


「宝石眼」


そう呟いた瞬間、いつかの夢で見た、光を放っているような瞳が、脳内で蘇った。


「……君は、精霊師なのかもしれないな」


誰に言うでもなく呟いた言葉は、夜の闇に溶けていった。


そして、八日街道を走った先の街から、さらに街道を外れて一日半。


「……ここか……」


小さな村に辿り着いた。

しらみつぶしに民家を当たっても、直ぐにバイルに行き当たりそうだと思った、その時。


「レオンさん!」


後ろから声をかけられた。

振り返ると、バイルが立っていた。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


バイルは俺を頭と呼ばず、レオンさんと呼んだ。

それはつまり ──


「ガルドさんから連絡が着てます。……思ったよりも早かったですが」


俺が白狼団を抜けたことを、すでに知っていたからだろう。


「俺には、連絡したなんて言わなかったけどな」

「まぁ……こっちにも、いろいろ考える時間が必要だと思ったんでしょう」


それは、バイルの姉に、ということだろう。


「俺から聞きたいのは一つだけです。レオンさん、……あんたは記憶が戻ったのか?」


バイルは真っ直ぐに俺を見ながら言った。


「いいや、戻ってない」

「なら、どうして?」

「……いつの間にか出来てしまった穴を埋めるために来た。それじゃ理由にならないか?」


バイルは黙って俺を見ていた。

そして視線を逸らし、堪えるように大きく息を吐いた


「言っとくけど、本人には言ってないんで。いきなりあんたが現れたら驚くだろうけど、後は上手くやってくださいね」

「……会わせてくれるのか?」


どうやって話を切り出すか考えてた俺は、どこか呆れたような顔をしたバイルに苦笑いした。


「案内しますよ。……姉のところに」


そう言って歩き出したバイルの背を、俺は黙って追った。

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