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精霊師の末裔が選んだ忘却  作者: 猪口 零都
第一章

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第三話

レオはじじ様の部屋で休むことになった。

……なった、というか、じじ様が一方的に決めていた。

じじ様とレオが部屋に向かったことを見届けて、ばば様に話しかけた。


「……前に会った時、彼のことをあの子たちが、私と同じ血の匂いがするって言ってたの」

「血の匂い……? 精霊師一族の血が入ってるのかしら」


ばば様は考えるような仕草をしながら答えた。


「彼は宝石眼ではないわ」

「でも血を引いていても、宝石眼ではない人もいたわよ。それに彼、精霊師としてもおかしくないくらい、整った顔をしている子よ」


ばば様がお茶目にウィンクして言う。

精霊師は、容姿が優れてる人が多い、らしい。

……だって私は、自分以外の精霊師を知らないんだから、なんて言ってみようもない。


「そう、いうのは、よくわからないわ……」

「……そうね。あなたの世界は、これから広がっていくんだものね」


でもそれは、この森を出ることよ?

その言葉を飲み込んで、眠りについた。


翌朝──


「おはよう、レオンハルトさん。良く眠れた?」


ばば様と朝ご飯の準備をしていると、レオが起きてきた。


「はい、お陰様で。ありがとうございます」


朝からレオの柔らかい声が耳に響く。

ふと目が合ったら「おはよう」と、声を出さずにレオの口がゆっくり動いた。

なんだかそれがくすぐったくて、心の中で「おはよう」と返しつつ、頭を一つ下げることで答えた。


「レオンハルト。お前さんも顔を洗って来い」


じじ様がレオの名前を呼びながら言った。


「ロアンさんも良く眠れたんじゃないですか?」


それに答えるように、じじ様のことを『ロアン』と名前で呼ぶレオ。

……いつの間にそんな仲に?

少し首を傾げながら、レオを水場へ連れて行った。


「昨日、腰を痛そうにしてたから、寝る前にマッサージしてあげたんだよ。そしたらすっかり気に入られたみたいだ」


そんな私に気づいたのか、おどけたようにレオが言ってくる。


「じじ様が誰かに気を許すなんて、初めて見たわ」

「そう? 気難しそうに見えるのはきっと、君のことが心配だからだろう?」


優しい人だよ、とレオは囁くように言った。

戻って朝食を済ませたら、レオが身支度を始めた。

町に戻って仲間と合流するそうだ。


「連絡もせずに泊まったから、早めに戻らないとね」


町に戻ったら、レオとはもう会わないんじゃないかな……。

そう思うと、なんとも言えない小さな胸のひりつきを感じた。

それを感じ取ったかのように、


「次こそハンカチを返すよ。じゃあ……、またね」


レオは一瞬、こちらを振り返った。

そして踵を返し、そのまま去って行った。


「気持ちの良い空気を持った子ね」

「まんまと入り込んできおった……。ああいうのこそが、厄介なんだ」

「嬉しいくせに」


笑いながらそう言ったばば様。

私もじじ様が、どこか嬉しそうに見えた。


その翌日──


「町に食料を調達しに行ってくる」

「なら私も薬を売りに行くわ」


じじ様は一瞬、険しい顔をした。


「ずっと閉じ込めておくわけにはいかないでしょう?」

「……フードを被って、あまり目を人に見せないようにな」


ばば様の言葉に、深くため息を吐きながらじじ様は言った。


「大丈夫。わかってるわ」


安心させるように頷いたことで、じじ様と二人で町に行くことになった。

いつものように、待ち合わせ場所を決めてそれぞれの目的地に向かった。


「だからこの傷薬、前のと比べて効きが遅いから」

「でもねぇ……。最近仕入れ回数が減って、今これしかなくて……」


お店に入ると、カウンターで店主が話し込んでいた。


「ああ! 噂をしたら、だ! 待ってたんだよ、あんたのところの薬が1番人気で売り切れちまって」

「すみません。今日は多めに持ってきました」

「助かるわー!」

「……アシャン?」


フードで顔を隠すようにしていた私は、店主と話している人物がわからなかったけど……。


──彼だわ! ここにいたのね! ──


「……レオ!」


その名を口にした瞬間、胸が震えた気がした。


「やっぱり! ここで会えるなんて、ラッキーだな」


すぐに私に気づいたらしいレオに、声をかけられた。


「君が薬を卸してるの?」

「そう。高値で買ってくれるから」

「この子の腕は確かだからね」


──私たちが教えてるんだもの。誰よりも良い薬に決まってるわ ──


カバンから出した薬をカウンターに並べて行くと、横からひょい、とレオが手を伸ばした。


「これ傷薬?」

「あ、うん。そうよ」

「じゃあこれ一つ、ここに卸す二倍の値で買い取るよ」


驚いてレオを見上げると、おかしそうに笑っている。


「良い薬を求めてここに来たのに売り切れてて困ってたんだ。そこにちょうど薬師が売りに来たから、それを買うだけだ。問題ないだろう?」


店主を見たら、困った顔をしながらも黙認してくれるようだった。


「決まりだな。じゃあこれ、貰うよ」


そう言って、レオは銀貨六枚を渡してきた。


「これだと多いわ!」

「なら多い分は俺の気持ち」


さらりと言われたその言葉の意味を考えるより先に、どくん、と胸が跳ねた。


「知ってる? 偶然に三度出逢ったら、それはもう運命だ、って話」


冗談めいた口調なのに、私を見つめる緑色の瞳はとても真剣に思えた。


──やっぱり愛を囁いているわ ──

──あなたのことが好きなのよ! ──


脳内に響く精霊たちの声の意味を理解した直後、カーッと顔が熱を帯びた。


「そっ、そういうことは、簡単に言うものじゃないわ!」

「そうそう。女口説くなら、店の外でやっておくれ」


店主から代金を差し出しながら、片手でシッシッと追い払うような仕草をされた。

気恥ずかしさと、いたたまれなさから、胸がいっぱいになり、代金を手に慌てて店を出た。


「ねぇ待って。まだ話が途中だけど」


なぜか一緒に店を出てきたレオにそう言われた。


「からかうつもりなら、……もう十分よ!」


私の言葉にレオは驚いた顔をした。


──からかってなんかいないわ ──

──彼、あなたに運命を感じたのよ! ──


レオは一瞬、考えるような仕草をして、


「……アシャンはこの後、時間ある?」


そう聞いてきた。


──デートかしら? ──

──デートよ、きっと! ──


「……す、こし、なら、ある……けど?」


囃し立てる声に、言葉が詰まる。


「なら少し俺に時間をくれる? ハンカチは後々宿に取りに行くとして、泊めてもらったお礼もしたいし」

「そ、れは、別に……」

「それにからかってるわけじゃない、って、証明したいしね」


見上げたレオの顔は、とても優しい目をしていた。


──嘘をついてないわ ──

──彼は大丈夫よ ──


その後押しを受けて、胸の奥が少しだけ熱くなり、こくり、と一つ頷いた。

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