第49話 化け物イノシシを倒すまで!
最初に言っておきたいことがある。
俺は別にエミシの民でもなければ、ヤマイヌに育てられた覚えはない。 ごく普通の地方都市に暮らしていた、 世間から見てもごく一般的な高校生だ。
なのにもかかわらず、畑を荒らす魔物を討伐しに行き、最後に現れたラスボスが某有名映画に出てくる化け物そのものだった。
「あのニョロニョロを剣で弾いたら剣が崩れ落ちたぞ。 呪いか何かの類なのか、あれは!」
「アリッサ! だからあれだけ頑丈なのをと… くそ! 俺のもだ! あのニョロニョロのせいで近寄れない! どうなってやがる!」
「デック落ち着けって! 仕方ない、遠距離でダメージを与えるしかない。 チナツ、ハース、アル頼んだぞ」
「あわわ、だんちょ〜。 私まだインターバルあけてないです」
「ナツねぇは下がってて! 僕とハースにぃでなんとかするか… うぉ! あぶねー」
おもわないところで出てきた敵に俺たちは悪戦苦闘を強いられていた。
化け物イノシシの身体にまとわりつくヒルのようなものは触れるとものを腐らせていく。 そしてそのヒルを某映画のように自在に操りこちらを攻撃してくる。 なので触れないように遠距離から攻撃を仕掛けようとするのだが、魔法の詠唱を行ってる最中に攻撃され、なかなか魔法が打てない。 いつもなら前衛が囮になって時間を稼ぐのだが、今回のこいつに対しては触れられないという制約があるため近寄ることができない。 まさに絶対絶命だ。 そんな中魔法攻撃以外の攻撃手段を持つハースが矢を打ち続けているのだが大したダメージにはなっていない。
「…埒があかない」
そう言ってハースは弓矢を放り投げ、腰に下げていた銃を取り出す。 前にも言ったがこの世界における銃はせいぜいマスケット銃や火縄銃とかそのレベルなのであるが、ハースのは弾薬を魔力由来のものとし、連射や威力アップをしている。(ここに来る途中チナツが話してくれた)
ハースは引き金を引き、何発かイノシシに打ち込む。 魔力玉を食らった化け物イノシシは悲鳴をあげるが、倒すまではいかない。 それどころかヒルを触手のようにし、ハースに襲いかかってきたのだ。
このままじゃまずい!
そう思った俺は俺のちょうど真横を通り過ぎてハースに一直線に向かっていたヒルの群れでできた触手を自分の刀でぶった切った。 すると斬られたヒルの群れの触手はハースまで届かずボトリと地面へ落ちる。そして再びイノシシの元へ戻るのかと思いきや、そうはせず、異臭を放ち地面に転がっているだけであった。
一方の俺の刀の方は腐り落ちることもなく月明かりで輝く刃を誇っていた。
これは化け物イノシシも予想外だったようでなにやら呻いている。
「アリッサ、あのニョロニョロが呪いの類だとか言ったよな? もしかしたらこの剣呪いだのなんだのに耐性があるのかもしれない」
「なに!? 確かに私やデックのアックスのように崩れ落ちてないな」
「そういえば、アリッサは回復魔法以外にも状態異常に使える魔法とか使えるのか?」
「ああ、一応状態回復と状態耐性をあげる魔法は使えるぞ? どうするんだ?」
「俺に考えがある! 俺に状態異常の耐性をあげる魔法をかけてくれ。 俺が囮になって時間を稼ぐ。 その隙にアリッサはレオのとこいって体制を立て直して、もう一度遠距離からの魔法であいつを仕留めるんだ」
「しかし! それではソウタがいくらなんでも危険だろ!?」
「今あのニョロニョロに対抗できるのは俺しかいない! 大丈夫だ。 俺は結構悪運強い方なんだよ。 それじゃあ頼んだぞ!」
「全く… 『神のご加護を』! 死ぬなよ」
「ああ!」
俺はそう言って化け物イノシシの囮になるためやつの目の前までいった。
もう気分はアカジシにのるエミシの戦士である。
「おい! お前の可愛いニョロニョロをぶった切ったのは俺だ! やり返すんならやり返してみろ!」
この化け物イノシシに人間の言葉での挑発が効くのかはわからなかったが、化け物イノシシの目は完全に俺を捉え、同じように触手で攻撃してきた。 俺は迫り来る触手を剣で切り捨てていく。 触手は先ほどの普通のイノシシの魔物を斬ったように簡単に切れていく。
相変わらずこの刀の斬れ味どうなってんだ!?
イノシシは触手攻撃が意味がないと判断したのかこちらへ突進してきた。 俺はそれを紙一重で避ける。 さすがにあれは受け止められないからなー。イノシシは途中で方向を変え再びこちらへ向かってくる。 俺は今度は避けつつ、化け物イノシシの体を切りつける。 化け物イノシシは大きな悲鳴をあげて転ぶように地面へ崩れる。
「今だ! ソウタくん! そこを離れて!!」
レオの叫ぶ声を聞き、避けるというにはあまりにも不恰好な形で飛ぶように化け物イノシシから離れ頭を抱える。
「みんな一斉に放て!」
「行きますよ! 『断罪の業火』!!!」
「僕も負けないよ! 『蝮の毒牙』!!!」
「ソウタくん。 よく頑張った!『獅子王の一撃』!!!」
「…『魔弾の豪雨』」
チナツ、アル、レオ、ハースがそれぞれ遠距離から炎、毒、雷、魔力弾の高威力の攻撃を化け物イノシシに与える。 化け物イノシシは断末魔とともに文字どおりの消し炭となったのだった。
「…やったのか?」
デックが近寄り化け物イノシシが絶命したことを確認する。
「はは、やったぜ! クソヤロウ!!」
「「「「「よっしゃー!!」」」」」
俺たちはようやく終わったボス戦の勝利を喜んだ。気がつくとすでに東の空が白んでいた。
やばいな、これからミーナのとこ行くんだっけ?
「ソウタくん、君のおかげだよ。 君がいなかったらどうなってたことか」
「本当に助かりました! ありがとうございます!」
「もういっそうちのパーティに入っちゃいなよ、ソウタにぃ」
とみんなが今日の俺の活躍を褒めてくれた。 なんだろう、しばらくこういうことなかったかから素直に嬉しいんだが、なんかむず痒い。
「ありがたいお誘いだけど俺はあのパーティのリーダーだから、戻らなくちゃ。 それに今日からまた新しいところに出発するから早く帰らないと」
「そうなの? ソウタも含めて打ち上げやろうと思ったのに」
アリッサが残念そうにいう。
「いいよ、いいよ。 俺はこのまま次の目的地の皇都へ出発するからさ。 最初に言ったけど報酬はいらないよ」
「え、でも…」
「本当にいいんだ。 この刀の性能はわかったし、それに一気に4もレベルが上がったし、それだけでも十分だよ」
チナツが何か言おうとしたが俺はそう言ってチナツがいうのを遮った。
するとレオが
「わかったよ。 でも、もし君が何かあったらなんでも言ってくれ? 僕たちでよければ力になるよ。 あとこれから皇都に行くって言ったよね。 それじゃあ君にこれを貸そう」
するとレオは俺に短剣をくれた。 その短剣の鍔の部分にはなにやら家紋のようなものが刻まれており、短剣もそこらへんの店で売ってるようなものではなく、よく手入れされ見た目からして高そうなものだった。
「実は僕の実家は皇都では名の知れた名家なんだ。 もし何かあったらこれを見せればある程度融通はきくだろう。 悪用はしないでおくれよ」
レオは笑って言った。
「ありがとう! ピンチになったら使わせてもらうよ。 それじゃ、また!」
こうして俺はレオたちのパーティより一足先に街へ戻るのであった。
朝焼けの差し込む森の中、そこに夜よりも深い黒色のローブに身を包んだ2つの影があった。 その顔はフードをかぶり伺うことはできない。
「ふむ、やはり低級の魔物ではこの程度か」
「あれもあなたの傑作ではなかったのですか?」
「なにを馬鹿な。 あれは試作品の1つに過ぎないよ。 『我々』の計画には不十分だ。 傑作というの『例のアレ』のようなものをいうんだ」
1人は男のようでもう1人は女のようだ。 そして女の言うことを男は鼻で笑う。
「その『例のアレ』ですが、ようやく実用化できそうなのですか?」
女が男に聞く。
「ああ、そのお披露目に最高の場所を用意した」
「最高の場所?」
「ああ、皇国の首都、皇都ミタリアだ」




