第27話 協力を交渉するまで!
昨日はそのあと街の宿屋に泊まり、今朝俺らは『朝日の洞窟』へ出発した。
「やっぱ洞窟とかのダンジョン系ってその辺うろついてる魔物より強いんだろうなー」
「あたりまえでしょ。それでもソウタはいいじゃん武器が片手剣なんだから、私の弓なんて洞窟じゃ使えないとこばっかだよ?」
…ルナは自分が弓使ってる回数より両腰の短剣使ってる率が高いことに気づいてないんだろうか? 遠距離も基本魔法だし。
「大丈夫です! もし強い魔物が来ても私が戦いますから!」
と胸をはるティアラ。
中学生の女の子に守ってもらう高校生男子ってのもどうかと思うけどな。
街から歩いて1時間もすると目的の『朝日の洞窟』が見えてきた。
洞窟の入り口には他の冒険者もちらほらいた。
みんな槍目当てなんだろう。
洞窟の入り口を見てみる。 そこには入り口の上の部分の岩に彫られた旭日旗。 なるほど、どうやら関係は大有りらしい。
「それじゃあ入りますか! 『雷鳴の槍』とやらを探しに!」
「「おーっ!!」」
「なんだい、君は。 人を訪ねて来るにしても、もう少し礼儀というものがあるだろ。 しかもその上、頼みごとを頼むならなおさらだろ」
「それはすまなかった。 非礼があったのは詫びる。 で、受けるのか? 受けないのか?」
「ふん。僕の研究室をめちゃくちゃにしてまでよく言うよ」
港町スイーン---ここは皇都から国の西側地域への玄関口として栄える大きな街だ。
普段は昼も夜も変わらず賑やかなのだがここ最近は海上の魔物の所為で皇都までの船が出せないため、船が出ていた頃に比べ活気がなくなっていた。
そんなこの街では最近珍しくもない月明かりの差す静かな夜、小さな白衣姿の少女と背の高い男は対峙していた。
「では、非礼を詫びたところでもう一度言おう。 ミーナ・ウィルキンス、我々の計画に協力するため一緒にベルンの街まで来てははくれないか?」
「口説くにしても、もう少しマシないいかたはないのかい? 」
ミーナは薄く笑い、男を一瞥していった。
「…やなこった。僕はあの街があんま好き好きじゃないし、第一に僕はあの人とは違って『お人形さんごっこ』の趣味はないよ」
ミーナの答えに男はやれやれというような顔をする。
「何を言うかと思ったら… お前も若い時は、お前のお父上と一緒に『お人形さんごっこ』で遊んでいただろ? その辺を私が調べてないとでも思ったか?」
「若い時っていうのはやめようか、幼い時と言ってくれないかい? 全く…」
とどうでもいいところに突っ込むミーナ。
彼女はつづけて男の問いに答えた。
「とにかく拒否する。私がそれに協力するメリットがない、だからそんな面倒なことに頭を突っ込みたくない。 以上が私からの答えだ。 他に用がないなら帰ってくれないかい?」
「あくまで協力しない気か。 あまりこういうことは好きではないが仕方がない。 そうなればこちらにも考えがある」
「ほう? 無理やりにでも私を連れて行くのか?」
「この街から意地でも離れたくないというなら仕方があるまい。 この街の全てを焼き払った後お前を連れて行くしかないだろうな。 それともお前の妹を目の前で惨殺したほうがよいか?」
男の視線が鋭いものに変わる。 ミーナはそれを見てこの男がは本当にそれをやりかねない危険性を悟った。
「とんだ押しかけだよ、全く。 だが、父さんがやっていた『お人形さんごっこ』 …いや君に隠す必要はないか、『人造天使創造計画』はとっくの昔に頓挫してなくなったぞ?」
「それなのだが、最近ベルンの街の裏で再びこの計画が持ち上がったようでな、それに我々が協力しているのだ」
「だったらその人たちだけでやればいいだろ? 僕はひつようないじゃないか。」
「そうもいかぬから来ておるのだ。 そいつらはどうも無能でな『形』すら作れない。 そこでミーナ・ウィルキンス、お前の出番というわけだ」
一生懸命やってるのに陰で無能扱いされて可哀想だなーとミーナは少し同情する。
だけどまぁ、そんな非人道的研究してるんだからしょうもないか。
「なるほど、それで僕を口説きにきたのか。でも、僕も僕の父さんも確かに『形』を作るのには成功したけどそれ以降は失敗してるぞ? 作って動かすまではいいのだがすぐ自我が崩壊して使い物にならなくなる。 それでは君たちの計画のなんの役にも立たないんじゃないのかい?」
「だから『私』がこの計画の手伝いをしているのではないか。『私』が手を貸せば『人造天使』を動かすなど造作もあるまい?」
男はニヤリと笑う。
それをみたミーナも笑いかえし、
「なるほど、確かにな。君が協力するなら成功するかもね」
「交渉成立だな。 では、早速ベルンの街に…」
と言いかけた男にミーナは待った!と声をかける。
「 そうだ、こんな無理やり、人質まで取られて計画に協力させられるんだ何か報酬を要求してもいいだろう?」
「いいだろう。 何を望む、ミーナ・ウィルキンス」
「『人造天使』を作るついでに君のことを研究させてくれないかい?」
「私を? 」
その要求に眉をひそめる男。
「私を調べることがお前の報酬になるのか?」
「なるとも。研究者にとって未知のものを研究するなんて最高のご褒美さ」
「…よかろう。本来であれば嫌悪しかないが、それで協力してくれるのなら仕方あるまい、喜んで身体を差し出そう」
「ふふふ、人質は取られてるとはいえ、自分の欲のために世界を滅ぼそうとしている組織に協力するなんて僕もまだまだ『人』じゃなくて『研究者』だな」
と、カラカラと笑いながらいうミーナ。
「さしずめ僕はこの話を持ってきた君からの悪魔の囁きに乗ってしまったってことかな?」
「なんでもいいが私をあんな連中と一緒にするのはやめろ、 不愉快だ」
男は渋い顔をする。
ミーナはごめんごめんと謝り、
「そうだね、悪魔じゃなくて『天使』の囁きだよね? なんか悪魔から天使に変えただけでとても善良な感じになった。 そう思わないかい? カマエル」
カマエルと呼ばれた男はミーナを無視し、ゲートを開く。
「くだらないことを言ってないでさっさと行くぞ。 ミーナ・ウィルキンス」
「わかったよ。 あとそのミーナ・ウィルキンスって呼び方やめてくれないかな? 可愛くミーナちゃんって呼んでくれていいんだよ?」
「善処しよう」
そう言って背の高い男と白衣姿の少女はゲートの中へと消えていった。
散らかった部屋は再び月明かりの差す静かな夜へと戻った。




