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『みちくさ先生の魔法学園改革記』1年目1学期「いつも赤字続き」編  作者: 風待 行燈
第1章 『華麗ならぬ改革元年』

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第17話 六人目の役割

 訓練場の隅に、六人分の荷物が並んでいた。


 もっとも、荷物の量は六人分どころではない。


「……これ、全部使うんですか?」


 ノアが尋ねた。


「使えるものは使いますよ」


 レオンは当然のように答えた。


 木箱の中には、魔法薬の小瓶、術式を刻んだ金属板、煙幕弾、閃光弾、


 そして用途の分からない器具まで詰め込まれている。


「公式の道具と、これから使用申請する試作品です。


 許可が出ていないものは、試合には持ち込めませんよ」


 アルタンが目を輝かせた。


「先生、これ全部でなんぼするがじゃ?」


「最初に聞くのが値段なんですね」


「そりゃ大事なことじゃき!」


「大事ですね。ですから、壊した場合の弁償についても、あとで説明しましょう」


「……聞かにゃよかったぜよ」


 メイが吹き出した。


 フェイは笑わなかった。箱の中身を一つずつ確かめ、金属板の刻印に目を走らせている。


「先生、この補助回路、二重になっていますね」


「気づきましたか」


「はい。でも、こちらの回路は……」


 フェイが言いかけたところで、レオンが指を一本立てた。


「それは後ほど。今日はまず、神舞戦の練習です」


「……あとで見せてください」


「もちろん」


 メイが兄の肩を小突いた。


「お兄ちゃん、今は練習だってば」


「分かってるよ」


「さっきから道具しか見てないじゃない」


「メイだって、あの小瓶をずっと見てただろ」


「私は値札が気になっただけ!」


 アルタンが素早く箱を覗き込んだ。


「どこじゃ?」


「アルタン君も、あとにしましょうね」


 レオンが言った。



「先生。道具の練習も必要ですが、まず戦う練習をしたいです」


 アミラが言った。


「そうですね。では、一つ試してみましょうか」


 レオンは木剣を取り出した。


「アミラさん、こちらへ。アルタン君もお願いします」


「わしもか?」


「ええ。アミラさんを相手にしてみてください」


 アルタンは木剣を受け取った。


 アミラが構える。


 アルタンも構えた。


 ただし、剣先は少し下がっている。


「それでは、始めてください」


 アミラが踏み込んだ。


 速い。


 アルタンは横へ跳んだ。


 アミラが追う。


 アルタンは身を沈め、足元をすり抜けるように逃れた。


「うわっ、危ないぜよ!」


「まだ当てていません!」


「当たりそうだったじゃろう!」


「練習ですから!」


 アミラの木剣が振り下ろされる。


 アルタンは大きく後ろへ跳んだ。


 次の瞬間、彼の姿が二つに分かれた。


「えっ?」


 アミラが一瞬だけ迷う。


 その間に、本物のアルタンは横へ回り込んでいた。


「ほいたら、背中いただきじゃ!」


 木剣が伸びる。


 だが、アミラは振り向きざまにアルタンの腕を押さえた。


「うわっ!」


 足を払われ、アルタンが転がった。


 アミラの木剣が、その肩先で止まる。


「……今のは、当てられましたね」


「ええ。そこまでです」


 レオンが答えた。


「ただし、アミラさん。腕を押さえるときは、もう少し力を加減してください」


「……はい」


「アルタン君は、背後を取ったところまではよかったですね」


「じゃろう!」


「でも、そこから近づきすぎました」


「……あ」


「相手は剣を持っていても、剣だけで戦うわけではありませんから」


 アルタンは転がったまま、アミラを見上げた。


「……ちっくと、ずるうないか?」


「ずるくありません!」


「いや、褒めちゅうがよ」


 レオンが笑った。


「では、次は勝とうとしなくて結構です」


「なんじゃと?」


「アミラさんを、できるだけ長く引きつけてください」


「逃げ回ってもえいがか?」


「もちろん。ただし、相手から目を離さないこと」


 アルタンは、にやりと笑った。


「そりゃ得意中の得意じゃ!」


 アミラが眉をひそめた。


「何だか嫌な予感がします」


     


 二度目の訓練は、先ほどとは違った。


 アルタンは攻めない。


 アミラの踏み込みに合わせて横へ動き、時折、幻術で自分の位置をずらして見せる。


 アミラは何度も間合いを詰めたが、なかなか捉えられなかった。


「こらっ、逃げるな!」


「先生が逃げてもえい言うたじゃろう!」


「言いましたね」


 レオンが頷いた。


「アミラさん、どうですか?」


「……やりにくいです!」


「でしょうね。では、そこまで」


 アミラが足を止めた。


 アルタンは少し離れたところで、得意げに胸を張った。


「わしの勝ちか?」


「勝敗はつけていませんよ」


「なんじゃ、つまらんのう」


 レオンは残りの四人へ向き直った。


「今の動き、どう思いましたか?」


 ノアが小さく手を上げた。


「アルタン先輩を追っている間、アミラ先輩は、ほかの相手を攻撃できません」


「そうですね」


「だから、アルタン先輩が敵の強い選手を引きつけられたら、


 その間にアミラ先輩が別の相手を攻撃できます」


 リシアが訓練場へ目を向けた。


「倒さなくても、相手を一人引き受けられるのね」


「ええ。ただし、相手も仲間を助けに来るでしょう。ほかの皆さんには何ができますか?」


 ノアは少し考えた。


「僕は……相手の足を止められるかもしれません」


「見せてもらえますか?」


「はい。アミラ先輩、少し歩いてもらえますか」


「こうですか?」


 アミラが一歩踏み出す。


 その膝の前に、小さな結界が現れた。


「おっ」


 アミラは足を止め、結界を見下ろした。


「……これだけですか?」


「はい。強く押されたら、すぐ壊れるんですけど……」


「でも、今、一歩止まったよね」


 メイが言った。


 アミラは結界を軽く押した。薄い光がほどけて消える。


「止まりました。踏み込む途中だったら、少し困りますね」


「その少しがあれば、アミラさんは何ができますか?」


 レオンが尋ねた。


 アミラは木剣を構えた。


「間合いに入れます」


「では、十分役に立ちますね」


 ノアは、自分の手を見た。


「それ、名前はあるの?」


 メイに聞かれ、首を振る。


「ないです。小さい結界なので……」


「小さくても、アミラを止めたじゃろう」


 アルタンが、にやりと笑った。


「ほいたら、《一寸法師》じゃ!」


「……何ですか、それ」


「小さいのに、大きい相手に立ち向かう話じゃき。ぴったりじゃろう!」


「大きい相手というのは、私ですか?」


 アミラが尋ねた。


「ほかに誰がおるがよ」


「アルタン先輩から見れば、ほとんど全員でしょう」


 フェイの言葉に、メイが吹き出した。


 ノアもつられて笑った。


「……じゃあ、《一寸法師》で」


「決まりじゃ!」


 アルタンが胸を張る。


 リシアは頷き、アミラを見た。


「では、ノアさんの《一寸法師》で相手が止まったら、アミラが踏み込む。それを試してみましょう」


「はい!」


「その前に、一つ確認しましょうか」


 レオンがノアのそばにしゃがんだ。


「今の結界は、いつもの防御板とは組み方が違いますね」


「はい。踏み出す場所に、すぐ置けるようにしたくて……まだ、うまく出ないこともあるんですけど」


「何度くらい続けられそうですか?」


「魔力は戻るんです。でも、何度もやると、足が重くなって……」


「では、今日は回数を決めて練習しましょう。途中で疲れたら知らせてください」


 ノアは頷いた。


「わしらも走らされるがか?」


 アルタンが尋ねた。


 レオンは顔を上げた。


「いいですね。皆さんで走りましょうか」


「……口は災いの元じゃのう」



 次に決めるのは、キャプテンだった。


「私はリシア先輩がいいと思います」


 ノアが言った。


 リシアは目を丸くした。


「私?」


「はい。全体のことをよく考えてくれますし」


「でも、戦闘の経験ならアミラの方が……」


「私は前で戦いたいです」


 アミラは即答した。


「指示を出しながらだと、動きにくくなりそうです」


「わしも遠慮するぜよ。思いついたら、すぐ動いてしまうきのう」


「自覚はあるんですね」


 フェイが呟いた。


「あるとも!」


「それなら少し直してください」


 メイが笑いながらリシアを見た。


「私もリシアがいいな。みんなの話を聞いてくれるし」


「……ありがとう」


 リシアは少し頬を赤らめた。


 レオンが尋ねた。


「ご自身はどう思いますか?」


「正直に言うと、自信はありません。でも……皆さんが任せてくださるなら、やってみたいです」


「では、お願いします」


「はい!」


「ただし、何でも一人で引き受ける必要はありませんよ」


 リシアは仲間たちを見回し、頷いた。


  


「では、先発の五人を考えましょう」


 レオンが六人を見渡した。


「あの……僕、控えでいいです」


 ノアが小さく手を上げた。


「どうして?」


 リシアが尋ねる。


「皆さんの方が強いですし……」


「何を言いゆうがじゃ。さっき役目が決まったばかりじゃろう!」


 アルタンが目を丸くした。


 アミラも頷く。


「ノアには中衛にいてほしいです。《一寸法師》に合わせて動く練習をしたいので」


「私も、一緒に戦ってほしいわ」


 リシアが言った。


 ノアは少し困った顔をした。


「……いいんですか?」


「その代わり、合図は聞こえるようにお願いします」


 アミラが言った。


「……はい!」


 残る中衛の一人を、フェイとメイのどちらにするか。


 リシアは二人を見た。


「メイさんは、道具を使いながら壁も作れるのよね」


「うん。お兄ちゃんほど細かい調整はできないけど、使うのは得意だよ」


「魔力量にも余裕がありますね」


 レオンが言った。


 ノアがおずおずと口を開く。


「僕は、メイさんと一緒に動くことが多いので……連携しやすいと思います」


「そうなんだよね!」


 メイが頷いた。


「ノアって、私が動こうとすると、先に気づいてくれることがあるんだよ」


「……たまたまです」


「またまた!」


 リシアは少し考えてから、フェイを見た。


「最初はメイさんに入ってもらいたいです。


 ノアさんと一緒に中衛で動いて、私の護衛もお願いできればと思います」


「はい」


 フェイは頷いた。


「僕も、それがいいと思います」


「フェイさんには、交代に備えてもらいながら、外から動きを見ていてほしいの。


 道具の準備や調整もお願いできますか?」


「分かりました」


 メイが兄の肩を叩く。


「頼んだよ、お兄ちゃん!」


「道具は、説明したとおりに使ってくれよ」


「分かってるって!」


 フェイは妹を見た。


 メイは少し目をそらした。


「……今日は、勝手に変えないから」




 先発の五人が訓練場に散った。


 前衛にアルタンとアミラ。


 中衛にノアとメイ。


 後衛にリシアが立つ。


 フェイは訓練場の端で、使う道具を並べていた。


「最初の動きを確認するわね」


 リシアが言った。


「アルタンが一人を引きつける。


 もう一人をノアさんが《一寸法師》で止めたら、アミラが踏み込む。メイさんは、私の前を守って」


「分かった!」


「リシアさんは、どうしますか?」


 レオンが尋ねた。


「相手の後ろを狙います。前衛が戻れないようにできればと思います」


「では、まず試してみましょう」


 合図と同時に、標的が動き出した。


 アルタンが前へ出る。


 アミラも木剣を構えた。


 ノアは、その後ろから標的の足を見た。


 右足が前へ出る。


 次は左。


 その先へ結界を置こうとした瞬間、アミラが踏み込んだ。


「あっ――」


 ノアは発動を止めた。


 アミラの木剣を、標的が横へ避ける。


「アミラ、右へ! ノアさんは、もう一度お願いします!」


「はい!」


「アルタン、一度下がって――」


「どっちへじゃ?」


 別の標的が、アルタンの横を抜けた。


 リシアへ向かう。


「メイさん、煙幕を!」


「えっ、今?」


「はい! いえ、少し待って……!」


 次の瞬間、煙が広がった。


「見えません!」


 アミラの声が響く。


「わしもじゃ!」


 リシアは杖を構えたまま、目を凝らした。


 煙の向こうで何かが動く。


 狙いを定めようとしたとき、アルタンが飛び出してきた。


「うわっ!」


「そこまでです」


 レオンの声が訓練場に響いた。


 リシアは慌てて杖を下ろした。


 煙が薄れていく。


 五人はしばらく顔を見合わせていた。


「……申し訳ありません」


 リシアが頭を下げた。


「いやあ、見事じゃったのう」


 アルタンが言った。


「何がですか?」


 アミラが尋ねる。


「全員、別々のことをしちょった!」


「それは見事とは言いません!」


 リシアは顔を上げた。


「私が指示を変えすぎたの。最初の動きが崩れたところで、止めればよかった」


「僕も、結界を出せなくて……」


 ノアが言った。


「アミラ先輩が先に入ったので、当たるかと思って」


 アミラはノアを見た。


「……私は、もう出ると思っていました」


「すみません。声が間に合わなくて」


「私も確認していませんでした」


 メイが煙幕の容器を持ち上げる。


「それで私がこれを使ったら、リシアからも見えなくなっちゃった」


「ええ。アルタンが戻ってきたのも、直前まで分からなかったわ」


「すまん。煙から出たかったんじゃ」


 アルタンが頭をかいた。


 リシアは訓練場へ目を戻した。


「もう一度、最初から――」


「その前に、少し休みましょう」


 レオンが言った。


「でも……」


「皆さん、それぞれ何が起きたかは分かりましたね。次は何を変えるか、相談してみてください」


     *


 ノアは訓練場の端に座り、足を伸ばした。


 結界は、ほとんど出せなかった。


 それでも、出そうとして止めたところで、膝に力が入っていた。


「足、痛い?」


 メイが覗き込んだ。


「ううん。少し疲れただけ」


「そっか。次は、私も前を見てるね」


 フェイが、その隣に腰を下ろした。


「煙幕だけど、リシア先輩の正面で使わない方がいいと思う」


「横に置く?」


「うん。風もこっちへ吹いていたから、余計に見えなくなってた」


 フェイは床に指で線を引いた。


「アルタン先輩が戻る道は、最後までここが空いてたんだ。


 でも、煙が出ると中からは分からなかったんだよね」


 アルタンがしゃがみ込んだ。


「そうじゃ。どこまで行ったら煙から出られるか、分からんかった」


「次は、この線を戻る道にしておきませんか。ここには煙を入れないようにして」


 メイが容器を見た。


「じゃあ、使う場所を変えよう。使う前にも言うね」


「私も、その道には撃たないようにするわ」


 リシアが輪に加わった。


 フェイは顔を上げた。


「外から見ていると、分かるんですけど……中だと難しいですね」


「だから、教えてほしいの」


 リシアが言った。


「私には、煙が出てから誰も見えなかったから」


 フェイは少し黙った。


 それから、自分が描いた線を見下ろした。


「……はい。次も見ておきます」


 アミラがノアの前にしゃがんだ。


「ノア。次は《一寸法師》が出たら、声をかけてもらえますか」


「はい」


「それまでは、私も待ちます」


 ノアは頷き、立ち上がろうとした。


「休憩は、もう少しです」


 レオンが言った。


 アミラも立ちかけていた。


「……まだですか?」


「まだです」


 アルタンが笑った。


「アミラ、先生には勝てんのう!」


「あなたも休んでください!」


「わしはちゃんと休んじゅう!」


「さっきから、ずっとしゃべってるでしょう!」


「口は疲れんき!」


 訓練場に笑い声が広がった。



 二度目の練習でも、すべてがうまくいったわけではなかった。


 アルタンは標的を引きつけすぎた。


 メイは煙幕の容器を握ったまま、使う機会を逃した。


 リシアの攻撃は、動き出した標的の後ろを通った。


 だが、ノアの前では一体の標的が足を止めた。


「今です!」


 小さな結界が、踏み出した膝を受ける。


 アミラが動いた。


 結界が砕けるより早く、木剣が標的を捉えた。


「当たりました!」


 アミラが振り返る。


 ノアは息を切らしながら、頷いた。


 訓練場の端で、フェイが記録用紙に印をつけた。


「今の位置なら、リシア先輩の射線も空いていました!」


「次は、私も合わせるわ」


 リシアが答えた。


「ほいたら、わしも戻ってえいかのう!」


 向こうでアルタンが叫んだ。


 まだ、一体の標的に追われていた。


「あっ、ごめんなさい!」


 リシアが慌てて杖を上げた。


 レオンは記録用紙に、一行書き加えた。


 ノアの合図を待てた。


 その横に、次に確認することを書き込む。


 訓練場では、アミラがアルタンを迎えに走っていた。


――第17話・完――


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