第2話 王との謁見 その2
私と先生は、父様の執務室に着く。扉を叩いて自分の名前を告げれば、すぐにその扉は開かれた。
すると、中にいた男性の侍従官と、その両脇に控える女性の侍従官。そして、扉を両開きにした男女の侍従官。彼らの丁寧なお辞儀姿が見える。
この中央にいる目付きの優しい侍従官が、父様の側付筆頭侍従官、パデューカムだ。父様や先生よりクロウガルの方が年は近かったはず。そのため、すき上げた髪と細く伸びた口髭に、白髪が目立つ。背丈は先生より低いが、男性としては高い方だろう。だが、体格は、ほっそりとしているな。
着ている服は、白い長袖に黒い細穿き(ズボン)。それから、黒の革靴。穿いている物は違うが、同じ侍従官のシビアナ達と雰囲気が似通ってはいる。ただ、やはり国王の筆頭侍従官だけあって、主張をしない控え目な豪華さ、みたいなのが端々にあった。
施された刺繍の模様は、銀糸とそれから金糸を混ぜて縫われている。それから、襟元は赤い平紐ではなく、首飾りに使う様な鎖の襟飾りだ。金と銀で一本ずつ。この鎖が、右襟と左襟の端を繋ぎ、垂れ下がっていた。
さらに右襟には、六対の翼を広げた鷲の飾り。これは、トゥアール王国の国章。上品に見える程度の大きさで、これも金と銀の細工で出来ていた。
パデューカムだけがお辞儀を終え、顔を上げる。すると、侍従官姿の私を見てに違いない。一瞬だけ瞠目した。
「おや、殿下。いつから侍従官に?」
普段なら、この程度の軽口は言ってくる。だが、状況が状況なのは分かっているのだろう。
「いらっしゃいませ」
と一言。微笑みを返すだけに留めたみたい。そして、執務室に続く扉の前まで歩き、その扉を叩く。
「陛下。殿下とシドー様がおいでになりました」
「――通せ」
中から父様の声が聞こえてくる。それを聞いて、パデューカムが扉を開けてくれた。「ありがと」そう言いながら執務室へと入ると、室内を見渡す。扉が、音もなく静かに閉じられた。
ここは、私の執務室より広い。奥には窓が並び、その近くに寝台より長い執務机がある。その後ろには、パデューカムの右襟にもあった国章が入った旗。執務机に見合う程度の大きさで、天井から吊り下げられている。そして、その両脇に同じく天井まで届く、どでかい本棚。赤い本ばかりが入っていた。それが壁の端まで続く。
手前には、背が低く細長い机と、それを挟んで長椅子が二つ。この長椅子は、十人程度は座れるんじゃないかな? 結構長い。あと、私の腰辺りまでしかない箪笥も、壁に沿って幾つか傍にある。その中の一つに、赤い花をこんもりと生けた花瓶が乗っていた。
この花瓶があっても、殺風景だよね。情味がないというかさ。花や本が赤いとはいえ、白い床と天井に、黒ばっかの調度品。その調度品も、数を最小限に抑えている気がする。とにかく、広い部屋に対して物が少なすぎるのだ。
しかも、抜身の長剣と刀が一本ずつ、その鞘と一緒に私から見て右側の壁へ、横にして掛けられている。これは廊下側になるか。父様たちが座っている長椅子の向こうに、上が剣と刀、下が鞘二つで並んでいた。
剣の方は、鞘とも共、無駄な装飾が一切ない武骨なものだ。刀の方は、鐺や鍔等の金具の部分に、豪快さと繊細さを巧みに織り交ぜたような模様が施されている。鳥の羽ばたく様が、刀の鍔。花が咲き乱れる様が、鞘の鐺と口金にある。
さらに、この模様をよく見れば、花弁や羽の一枚一枚細部に至るまで、丁寧に彫られているの分かるだろう。これが、職人の拘りとその技術の高さを感じさせる。
私は好きだな、どっちも。剣は、あの武骨なのが良い。刀は、拘った装飾もだが、それが実用性を損なっていないのが良いね。ちゃんと持ち手の事を考えてる。振りやすいし、鞘を腰に差しても装飾が邪魔にならない。
その装飾がある鞘の鐺と口金、そして鍔や鈨や柄頭。それがある意味を、きちんと理解していないと無理なんじゃないかな? これを造るのは。
そして、このどちらもが業物の上を行く。剣身、刀身の纏う気配が、それを如実に現している。ここにいるだけでも吸い込まれて斬られそう。確かに良業物の風格だ。でも、そのおかげで、殺伐度合いが一気に上がっちゃってますけどね。
まあ、相変わらずの部屋さ、ここは。――ん? そう呆れたのだが、いつもと違うものが一つあるのに気付いた。
鏡だ。縁を金色で装飾された細長い楕円の鏡。私より大きい。後ろ面に、折り畳みの出来る脚があり、それを開いて扉のすぐ脇に立て掛けてある。何であるんだろ?
「座れ」
疑問に思いながらも、父様にそう言われ顔を前に戻す。いるのは、父様、ステライ、あとクロウガルの爺もいる。この三人だけだった。
手前にある二つの長椅子。その奥の方に座っている。胸の前で両腕を組んだ父様を挟み、ステライが向かって右、クロウガルが左。私と先生は、父様たちと向かい合った長椅子の方へ腰を下ろす。すると、背後になった扉が再び叩かれた。
「陛下。お茶の用意が整いました」
「ああ、入ってくれ」
父様が許可を出すと扉が開き、再びパデューカム達の優雅にお辞儀をした姿が見える。お盆が乗ったその手には、細かい青と緑の模様が入っている白い土瓶や、湯呑などがあった。
配膳が終わると、パデューカムたちは退出した。細長い卓の上には、丸っこい土瓶が二つと、それぞれの前に茶托に乗せられた湯呑。その湯呑からは、ほんのりと湯気が立ち上っている。父様たちの分は元々あったのだが、新しい湯呑と差し替えられていた。
「シドー、もう来たのか」
「ああ」
父様が、意外そうに言う。準備にまだ時間が掛かると思っていたみたい。
「では、お前の婚約者――、ローリエという娘も一緒に来たのだろう? 後で――」
凄味を感じさせるやばい笑顔で、やばい事を言い掛けると、先生が止めた。
「いや、ローリエはベルカトーネの所だ」
「む……。何だ、つまらん。来てないのか?」
あからさまに不機嫌になる。
「あら、そうなの? 私も会いたかったのに」
「ふむ……」
ステライが、口許に運んでいた湯呑を止めた。クロウガルは、残念そうに眉をしかめる。
「まあ、襲撃のせいになるのか。それで、中途半端になってしまった研究の続きと、その整理を頼まねばならなくなってな。許せ、ジャムシルド」
先生が、恐らくここに来るまでに考えていた言い訳を伝えると、父様の動きが一瞬ぴたりと止まる。そして、
「ううむ、あれか……。ならば、仕方がないな」
渋々とだがすぐに諦めた。おお。父様がすんなりと。やっぱ違うなー。まあ多分、先生の言い方も上手いのだろうけど。だが、ステライと爺は気付いている。先生の言葉を聞いて、にまにまとこっちを見ているのがその証拠。
「リリシーナ。イルとシビアナは、どうした?」
今度は私に顔を向けた。
「あの二人もすぐに。シビアナがちょっと席を外していて、それをイルミネーニャが呼びに行ってます。って、シビアナも呼んでたんです?」
「ああ。あいつにも用があってな」
何だ、元から呼んでたのか。――ん? 父様を見ると、こちらに顔を向けたまま、勝ち誇ったように口許を歪めていた。は? 何その顔? まあ、どうでもいいや。そんな事より、さっさと聞こう。
「父様。ササが暴れたって聞いたんですが」
尋ねると、むすっとした表情に変わる。そして、無愛想に言った。
「それはもう済んだ話だ」
「え? 済んだ話?」
眉をひそめると、ステライが微笑みを湛えながら口を開く。
「姫様、私たちの言い方が悪かったのです。でも、もう大丈夫ですから。あの子も、今は落ち着いていますので」
「そうなの?」
「ふふっ。はい」
ほっ。この悠然な様子を見るに、どうやら大事にはならずに済んだらしい。
――ああ、パデューカムが微笑んでいたのは、これが分かっていたからか。さっきのは思い違いだ。やれやれ、まだまだ洞察力が足らないよね。
「良かったな、リリシーナ」
「はい、先生」
隣に座っている先生もほっとしている様子。その先生に頷いて返す。納得はまだいかないが、私も取り敢えず安心はした。でも、何だか拍子抜け。
「ほっほっほっ! ササレクタは、あれくらい元気でなくてはのう」
クロウガルの両目が、眼鏡の奥で細まる。そして、長く伸びた三つ編みの顎鬚を摩った。おいこら、私と随分対応が違うじゃないか。昨日は、あんなに説教してきたくせに。
「ま、姫様と陛下の親子喧嘩に比べれば、全く大した事ないですな」
む。爺がこちらを見ながら、にやりとする。
「ふふ! 確かにそうですね」
「そうじゃとも。ほっほっほっほっ!」
「ふふふふふ!」
クロウガルとステライが、呑気に笑い合う。おい……。
『お前らな……』
二人の様子が癪に障ったので咎めれば、父様と言葉が被った。それに気づいた私たちは、視線が合うと互いに顔を背ける。何かすっげえ気まずいんですけど。父様もそうだったみたいだし。
「儂が言いたいのは、その程度という事ですよ、姫様。いつもの事。ただ、襲撃と重なってしまったですからの。それと関連付けて、少々大きく騒いでおるのですじゃ。ですが、それも直に静まりますわい」
笑い終わったクロウガルが言う。
「まあ、そうなるなら、それで良かったけど……」
「但し、修繕費の方は、しっかりと支払わせますがの」
「お、おう。そっか」
「ほっほっほっ」
流石、内政の総責任者。こういう所は誰であっても厳しい。
「それで――。ササは、どうして怒ったの?」
何が原因だったんだろ?
「今後の対応の事で少し。あの子を、ないがしろにする気はなかったのですけど、そんな風に聞こえたみたいですね」
ステライのこの言葉から、詳しい説明を避けている感じを受けた。ふむ……。他聞を憚っての事か。しかし、問題がないのなら、別に話してもいいとは思うんだが……。
いや、これは今後の対応、つまりササレクタを怒らせた指示の中に、話せないか話したくない部分があるのかもね。今回の事件は、機密が多く関わっているわけだし。
「この件から外す、って感じ?」
だから、私も暈し気味に尋ねた。
「そうですね……。聞きようによっては、それに近いかもしれません」
「そっか……」
この外すってのは、道理ではある。ササレクタが、シカルアヒダを連れてきたとはいえ、襲撃はこの王都だ。管轄はこっちになる。
だがそんなの、あいつにとっては関係ない。それに、あの仮面とは因縁浅からぬ感じだったから、自分の手でけりをつけたいとは思っていただろうし。うん。確かに言い方次第では、キレるよね。
私は、これで取り敢えず、何があったか感じが掴めて納得できた。あとは、ササレクタ自身に聞くか。ま、話してくれればだけど。
「じゃあ、処分とかは?」
次はこれ。結局どうするんだろう? やばい感じじゃないのは良かったけど、やっぱり必要になってくるんじゃないかな? 修繕の分は当然だ。それとは別にあるんじゃない?
「ないな。軽くやり合っただけだ」
父様が即座に専断する。ないんかい。
「と、陛下は仰っていますけど。流石にそれは、対外的にも駄目だと思います」
ステライが即座に否定する。だよねー。すると、父様はつまらなそうにそっぽを向いた。
「ふん……!」
子供か。そんな大きな子供なんて、無視だ無視。隣に聞く。
「どうするの、ステライ?」
「カトゼ大神宮でしばらく謹慎。つまり――」
あ。意味ありげな言い方で気付いた。
「イージャンの訓練に、付き合わせるって事?」
「そうなりますね」
なるほど。そもそも、これは私から頼んでいた事だけど、それに乗っかって処分を済ませてしまおうと言う訳か。あそこでの謹慎ってのは、よくされてきた場所だし、無理はない。政がある王宮から遠ざけるって事で、昔からカトゼの了承を得て、使わせてもらってきている。
これは、クロウガル爺の入れ知恵かな? ササレクタが参加するってのを、馬車の中で一緒に聞いていたわけだし。その爺を見ると、ゆっくりと頷いて肯定する。うん。やっぱり、こっちか。
仮申請の話も、やはりステライたちの耳に入れていた模様。まあ、至極天を使わせるわけだし話すよね。ってことは、もちろん父様も知っているな。
「リリシーナ。イージャンはいけそうなのか?」
その父様が疑るように尋ねてきた。この様子だと、今朝の事までは知らないようだ。ふふん、では教えて差し上げましょう。あの頑張り様をね。
「結局のところ、あいつ次第ですよ」
だが、まずは抑え気味で、敢えてこう言っておこうじゃないか。今はまだ、玉響が一日で二回しか出ていない。これから次に出るまで、時間が掛かる可能性だってある。武闘大祭から今まで出てなかったわけだし。この段階で、あまりにも期待して持ち上げてから、そうなったら頂けない。
父様のイージャンに対する評価。これを下げる事に、繋がり兼ねないのだ。いつまで待たせる。何だ、やっぱり無理じゃないかってね。これは避けたいんだよ。過剰な重圧が、のしかかるのも。だから、逃げ道は作っておく。
「それに、父様も知っているでしょう? 運に頼るところが多分にあるって」
「ふん。まあな」
よしよし。改めてこの事実を、父様の口から言質として取れた。これで、時間が掛かっても、すぐには強く言えない。運だって認めたもんね。もし、そんな素振りを少しでも見せたら、私が言い返してやる。
「ですが、それでも私は時間を掛ければ――、いけると思っています」
父様にもそこを強調しつつ、ここで転じる。
「それは直感か?」
ふむ、直感ね……。まあ、成り行きで思い付いたから違う気がするな。でも、
「はい。確かに最初はそんな感じでした」
いちいち説明するのも面倒くさいから、これでいいや。
「ふん……」
父様が興味気に目を細めた。
「では、今は違うのか」
「そうですね」
「ほおう……」
ならばその理由をさっさと言えと、腕を組んだまま少し顎を上げ、鋭い視線で睨まれる。ふっふーん。そのでかい態度が、どう変わるのかな? 内心にやりとしながら、努めて平静を装い答えた。
「何故なら、さっきシヴァルイネが、イージャンの玉響を感じ取りましたから」
「何だと?」
ぴくりと一瞬眉が跳ね上がり、顎が下がった。そして、父様の表情が変わる。眉間に皺が寄り、元の険しい顔が更に険しく厳しくなった。ほー、そう変わるのか。
「あら」
「おお」
ステライも爺も驚いているな。こっちは、若干目が見開かれた。ふっふっふっ。結構結構。これだけでも、悪くない驚きですなあ。よし、これからどう驚くのか、洞察力の訓練がてら観察してくれるわ。けっけっけっ。
「ふーむ……。昨日とは、状況が、がらりと変わったようですな、姫様?」
「まあね」
クロウガルが、静かに口髭を撫でる。そうなんだよね。あの時は、こんなに早く玉響が出るなんて、思ってもみなかったもんなー。
「で、それを聞いた私は、至極天を戻すついでに仕合ってきました。先生と一緒に。ね、先生?」
「うむ」
隣を見上げると先生が頷く。
「ああ。だから、先程姫様の執務室に行った時、まだお戻りになっていなかったのですね」
「そういう事」
ステライに答えると、何故か彼女が怪訝そうに首を傾げた。
「でも、イージャンって、そもそも王宮にいるものだと思ってましたけど……」
「ん? まあ、守りを固めたから、様子を見に来たんじゃないの?」
これは、別に誰でもいい。副隊長である必要はないだろう。寧ろ、副隊長であるイージャンは、王宮に残っておくべきだったと思われても仕方がない。
だが、近衛騎士つまり王宮近衛兵団は、隊長、副隊長がいなくても王宮の守備は固められる。その段取りを全員が知っていて、きちんと訓練もしているのだ。
そのため、イージャンがいなくても、まあ戦力面で言えば確かに落ちるが、それでも王宮の守りに抜かりはない。カトゼの武人たちもいるのだ。そして、結果的にではあるが、今の状況に繋がっている。だから、あいつが来てくれて良かったけどね。
「――ええ、確かに。姫様の仰る通りですね」
ステライは、黙って視線を落としていたが、納得したのだろう。すぐに頷いて視線を上げる。
「ま、多分だけど」
きちんと知りたかったら、イージャンに聞いておーくれ。
「リリシーナ」
「はい」
「玉響が出たのは、厳密に言えばいつだ? 襲撃の前か? 後か? それとも途中か?」
「え?」
父様から、意外な質問を受けて、きょとんとしてしまう。うーん、確かにそう言われてみれば、私と打ち合いをした時とは違い、こっちは正確な切っ掛けは分からないな。イージャンも、そんな風だったし。まあ、分からないなら適当に答えるか。
「いえ……。私も、それは知らないんですけど、多分襲撃があったと王宮に報告が入ってからじゃないですか?」
やっぱり、切っ掛けになりそうなのは、これじゃないかあ。他にある可能性は、否定しないけど。それと、早朝でもないよね。シビアナに精気を搾り取られて、酷くげっそりとしてたもん。玉響どころではなかった。だから、この後なのも間違いないよ。
しっかし、よくもまあ、あの状態から復活したよな、あいつ。
「イージャンは、今言った様に守りを固めて、その後で急いで研究所に来たみたいです。シヴァルイネは、この時にすれ違って、そこで感じ取ったって聞きましたよ?」
「そうか……」
父様は、考え込むように顔を俯ける。うーん、何だろうね? どうにも歯切れの悪いこの感じ。どこが気になるのかな? そう思ったが、父様はすぐに顔を上げる。
「それで、その仕合で何か成果はあったのか? 結果は?」
お、来たな。待ってましたよ、その質問。報告は次の段階に移行。ここからが本番さ。このまま一つずつ、イージャンの驚きの偉業を、小出しで自慢していくのだ。ひょっほっほっ。だが、私に向いていた父様の視線が、いきなり横にずれ隣へ移る。
「どうなのだ、シドー?」
あ!?
「ん? うむ、もう一度出たぞ」
ああ!?
「真音の黒辰泉だ」
ああああ!? 先生があっさりとばらした。しかも、一気に二つ。そ、そんなあああ! 酷いよ、先生! 折角、自慢しながら言おうと思ってたのにいー!!
「出たか……」
父様が険相そのまま呟く。
「黒辰泉ね……」
「その真音じゃったとはのう。ふーむ。運が良いわい」
ステライと爺は思案気に言葉を零した。しかし、三人とも全然驚いていない。得心した様子ではあるが、普段通りだった。な、なんて事だ。言い方一つでここまで差が出るとは!
私なら、さっきよりもっと驚かせた。もっと感嘆の声を上げさせれた。だと言うのに――! 隣を見上げ、きっと睨む。先生、何て勿体ない事を! あ、いや! ていうか、やばい! このままでは――!
「シドー。お前が真音と言い切るという事は、シヴァルイネが立ち会ったのだな?」
「ああ」
「ならば――」
「そうだ。紙裂き砕破を、イージャンに使わせてやり合った」
「やはりか」
父様と先生が、そのままぽんぽんと話を続けていく。ぎゃあ! 至極天を使ったことも言っちゃった!
「まずは、リリシーナと差しでやってな。それから、儂と二人でイージャンを追い込み――」
ちょ、ちょっと待って! ちょっと待って! せめて一つくらいは、私に譲っ――!
「そして、再びリリシーナとやり合った。その最後の最後に玉響を発し、黒太刀風を繰り出したのだ」
あああああ!? 言ったあああああ! 私が言いたかったの、全部言ったあああ!!
「『武神戯』……。黒太刀風……」
ステライが静かに言う。武神戯とは、至極天を使うことで初めて顕現する武技の総称だ。
「ふん。紙裂き砕破を持ち、真音の黒辰泉を発すれば、それは当然そうなる」
「ですね」
分かり切ったように言う父様に、ステライが頷く。
「まあ、僅かに戦ぐ程度だったがな」
「玉響なら致し方あるまい」
「うむ。だが、その玉響が出た直後、力を使い果たし気絶してしまってな。故に、感覚は、まだ掴めておらぬかもしれん」
先生が、父様にそう言うと、少し場の雰囲気が変わる。
「あら……。それは残念ね」
ステライから落胆の声が漏れた。その声を聞きながら、父様が後ろの背もたれに寄りかかり、腕を組み直す。
「むう……。ままならぬものだな……」
「そうですのう……。まあ、感覚を掴んでおるかもしれんし……」
最後に呟いたクロウガルが、三つ編みの顎鬚を、何度かゆっくりと撫でた。そして、しばらくすると、ふと私の方を見る。
「――姫様?」
これで、他の皆の怪訝そうな視線も集まる。私が押し黙っているのが、不審に思われたらしい。そして、その原因となった張本人が、不思議そうに言う。
「どうした、リリシーナ?」
どうしたじゃないよ、全く! 全部ばらしちゃってさあ! もう計画が滅茶苦茶。楽しみにしていた自慢の時間が、あっさりとまあ、終わってしまったよ。しかも、皆全然驚いてないから、その驚きを観察し愉悦に浸る事も出来なかった。その悔しさが滲み出てしまう。
「別に……」
ぶすーっと呟いてしまった。私が言いたかったのに……。私が自慢したかったのにいー! すると、父様が鼻で笑った。
「ふん。どちらが言っても同じ事だ。馬鹿者」
「あ!?」
この一言で気付く。分かってたな! だから、言わせなかったんだ! どうやら、私の思惑は父様にばれていたらしい。多分、視線をずらした時。この時に勘付かれた。
なんて心の狭い国王だ! どちらでも同じって言うんなら、言わせてくれればいいじゃない! 私が自慢げに話すのが気に食わない。きっとそう思ったに違いないのだ。そして、父様の一言は、ここにいる皆にも私の思惑を暴露することになった。
「うふふふふふ!」
「ほっほっほっほっ!」
「ふっふっふっふっ!」
おかげで、ステライ、クロウガル、先生と、察した順に笑いが噴き出る。ぐぬぬぬぬ――!
「ふっふっ――。すまなかったな、リリシーナ」
「い、いいですから! それは、もういいですから!」
自分の思惑が露見した挙句、先生からも謝られると、何とも恥ずかしい気分になった。顔が熱くなる。
「ふん。別に、お前が玉響を出したわけではなかろうに」
「ぐぐっ!?」
筋違いだと、父様がふんぞり返ったまま、もう一度鼻で笑う。分かっとるわ、それぐらい! おのれええ! 何度も愚弄しやがって! この恨み、はらさでおくべきかああ!
「まあ、そう言うな、ジャムシルド。紙裂き砕破は、リリシーナが機転を利かせて使わせたのだ。これをしなければ、イージャンの玉響は出なかったかもしれんのだぞ?」
そうだ! そうだ! もっと言ってやって下さい、先生! すると、父様はつまらなそうにそっぽを向いた。
「ふん!」
だから、子供か!
「大した事ではない。逆に、その程度の機転も利かせられねば、説教をするところだ」
そのまま無愛想に言った。ちっ! 何なんだ、その言い草は!? 自分の娘が頑張ったんだよ!? 素直に褒めろ! 私はしばらく睨んでいたが、一向にこちらを向く気配はない。だから、放っておいてお茶を飲み始めた。ずっとそうしてれば? はん! 先生も、諦め顔で湯呑みを手に取り、口に運び出す。
「爺」
一口飲んで、尋ねる。
「何ですかな?」
「仮申請の手続きは、どうなってるの?」
まあ、シヴァルイネは既に知ってるし、あれでも一応父様から容認された。だから、そんなに急ぐこともない。追々でいいとは思う。けど、イージャンが気にしてたし、正式に使えるのが早いに越した事はないだろう。
「手続き自体は、昨日の時点で終わっておりますよ。後は、カトゼやゴトキールに知らせれば問題ありませんな」
おお、流石は爺。仕事が早い。
「そっか。あ、それでも、勝手にやってごめんね。手続きを軽んじる気は、なかったんだけど――」
「ほっほっほっ。儂の方も構いませぬよ」
「ふふっ。ありがと」
話が分かるから、助かるわ。
「しかし――。これならもっと早く、その仮申請をして、イージャンに紙裂き砕破を使わせるべきでしたね」
同じ様にお茶を飲んでいたステライが言う。そうなんだよね。しかも、何気に黒刀を使い始めたその日に出てるし。今までの訓練でも、追い込んでみたが、玉響が出る事なく気絶。出る事はなかった。
それを考えると、やっぱり良い刺激になったようだ。あとは、あのやり方だったからこそ、出たってのもあるのかな? 遠慮が無くなったからなのかもね。
ただ、今回はあれだったが、他の方法でも可能性はあるはず。確かに、遠慮って部分もあるのだろう。だけど、とことんまでやれば、そんな事は言ってられない。そうする暇も無くなるんじゃないかな?
だから、実戦形式の差しをあのままやっても、二人で追い込んでも、至極天を使っていれば、最後には出ていたかもしれない。要は、ぎりぎりまで追い込む事。イージャンの玉響が発現する条件は、やはりこれで良いだろうからね。もう一度出たというのは大きい。そこに、至極天を使って、というのを追加しておくか。
そして、先生も言っていたが、その時その瞬間の心の有り様。これが肝要なのだ。つまり、ぎりぎりに追い込むのは、そうしなければ現れない、心の有り様を引き出すことに他ならない。
よって、また上手くかみ合えば、再び玉響の出る公算は大きいはず。しかし、これが運次第。ぎりぎりまで追い込んでも、現れる感情がいつも同じとは限らない。玉響の発生に繋がるかは、分からないのだ。だから、運頼みの手探り。結局のところ、そこに行き着くんだろうね。
「ふっ」
ステライの話を聞いて、先生が笑った。すると、彼女が笑っていない笑顔で迫る。
「あーら。何かしらね、シドー?」
「いや。すまぬ、ステライ。玉響を出すのに使ったやり方を思い出してな」
「え? やり方?」
「うむ」
おお。もしかして、先生も同じような事を考えてたのかな? ステライは、首を傾げて考え込んでいたが、何か思い当ったようだ。首を戻して答えた。
「ただ仕合ったわけではない……。姫様と、いつもやっているような訓練じゃあ無かったって事?」
「最後だけな。もう一度リリシーナと差しでやったのだけ違う」
先生は頷くと、ステライから視線を移す。
「ふっ。ジャムシルド」
「ん? 何だ?」
そっぽを向いて、お茶を飲もうとしていた父様の顔が、ようやくこちらに戻る。その顔を見て、先生がにやりと口許を歪めた。
「最後にやったのは『鎖断火の連』。イージャンはな、お前と同じやり方で玉響を発現させたのだ」
父様の目が見開かれ、動きが止まる。
「ええ!!? 嘘!? あれで!?」
「何じゃと!?」
わ!? ステライと爺が、いきなり大声を上げたもんだから、体が一瞬だけ強張る。はー、びっくりしたー。ていうか、ええー……。二人とも、めっちゃ驚いてるんですけど……。
予想外だ。こんなに驚いた二人は、久しぶりに見た。多分、私が驚かせたとしても、ここまでにはならなかっただろう。そう思ってしまえる程。だから、ちょっと敗北感が。ていうかさ、何か全部先生に持ってかれたよね……。
ああ、でも父様は――、うーんよく分からないな。両腕を組んで、渋い顔している。眉間の皺が盛り上がっていた。怒気は感じないから、怒ってないだろうけど。同じなのが嫌だったんかいな? ま、どうでもいいが。
「先生」
「何だ?」
「あれって『さだんかのれん』って言うんです?」
「うむ。そう呼ばれている」
「へえー」
ちゃんとした名前ってあったんだ。ただの遊び、連続の打ち合いくらいにしか思ってなかった。
「はあー……。よく出たわねえ……」
「うむ……。まさか、それだったとはのう……」
感銘を受けたように、ステライが長い溜息を吐く。そして、クロウガルが、顎鬚を摩りながら呆れたように眉を上げた。ふうん、そんなに意外な方法だったんだなあ。
「単純ですからね」
父様を挟み、ステライが爺に向いて言う。
「そうじゃな。しかも、過去に発現した者は、陛下唯お一人。他には誰もおらんかったしの」
「ええ。血の気の多い陛下だからこそ、出たものだとばかり思ってました」
へー、父様だけだったんだ。
「そう思うのも無理はないな。血気盛んな者は、当時他にも大勢おったが、陛下はその中でも群を抜いておったからのう」
「ぶっちぎりでしたからね。今より更に酷かったですもの」
「うむうむ。そうじゃったな。おかげで、気苦労が絶えんかったわい」
爺が、口髭を伸ばしながら、しみじみと言う。だろうねえ。私もしみじみと思った。
「あら、クロウガル様。それは今もですよ。然程変わりません」
「ん? それもそうじゃな」
「はい。うふふふふ!」
「ほっほっほっ!」
ステライと爺が、陽気に笑い合った。
「おい……」
父様の眉間に、皺が寄り盛り上がる。怒気を少しだけ感じた。だが、二人の様子は変わらない。悪ぶれることもなく笑っている。よーし、いいぞ二人とも。そのまま、父様を嘲笑ってやれ。辱めた報いを、受けさせるのだ。けっけっけっ。しかし、これは決して、私が仕返しをしたいからという、個人的な理由からではない。
『やりたいのなら掛かって来い。だが、必ずやり返す。徹底的にやり返す。一人も逃さず、返り討ちにする』――。この国の信条に則って、この国の姫がそれを順守し、この国の王に実行している。ただ、それだけに過ぎないのだよー。誰が文句を言おうものか。うんうん。
だが、今は自ら手を下す時ではない。何か言ったり、一緒に笑ったりでもすれば、父様の矛先はすぐにでも私へと向き、怒鳴り声と共に厳しい叱責が飛んでくる。だから、今は高みの見物。このまま黙って見ていようではないか。そして、機を見て私も加勢するのだ。くっくっくっ……。
ステライと爺、そして先生が相手であれば、如何に父様とて、すぐに怒り出すことはない。何回かは、おちょくる事が出来る。だから、私直々に反撃する機会も、虎視眈々と狙っていこうじゃないの。
そして、シビアナとイルミネーニャが加われば、父様の機嫌は更に悪くなりにくい。よって、その機会はさらに増えるはず。まあ、少しだろうけど。しかし、ある事に越した事はない。あいつら早く来ないかなー。
「ふっふっ。まあ、やり方は同じでも、目的と出方は違うのだがな」
笑っていた二人に、先生が言う。
「あら、そうなの?」
「うむ。仕合っていると、僅かだがイージャンの太刀筋に、遠慮が見られたのだ。しかし、あれなら躊躇いなく、紙裂き砕破をぶつけられるだろう?」
「確かに。それはそうね」
ステライが頷く。
「出方もな、ジャムシルドの様に打ち合いを続け高揚し、出たのではない。力を使い果たし倒れる瞬間。その瞬間、感情が一気に昂り、吹っ切れた感じだった。これで最後の一刀を繰り出し、玉響も出たのだ」
これを聞いて、ステライとクロウガルも同じ様に呆れた顔になった。
「何よそれ。まるっきり違うじゃない」
「うむ。いや、おかしいと思ったのじゃ。あのイージャンでは、想像がつかんかったからな」
「ふっふっ。だから、言っただろう? やり方、だとな」
先生にそう言われて、一気に興味が無くなったようだ。つまらなそうにステライが溜息を吐いた。
「はあ。何だか騙された気分。本当、驚き損だわ」
「全くじゃ。驚いたこっちが悪いように言いおって」
「ふっふっふっふっ!」
爺が咎めるように言うと、先生がおかしそうに笑う。あれ? このしてやったり感――。もしかして先生、謀りましたか?
「やっぱり、あれは陛下だけですね」
「そうじゃな」
ステライ達は改めて納得し合うと、一言。その理由を簡潔に言った。
「単純ですから」
「単純だからのう」
二人は、うんうんと何度も頷く。単純なのが、父様の事かやり方の事か、若しくは両方か。それはどれだか分からないが、結局父様の事をそう言っているだけ。この何気ない遠めの一言。よし、良い煽りだ。悪意を感じさせない言い方も良い。
父様を見れば、眉間に皺が寄ったまま口をむっと閉じていた。怒気もまた増えた。若干、三つ編みだらけの長い髪が、ゆらゆらと揺れ始めた。だが、これならまだいける。
そして、父様は、そのままむすっとしながら、鼻から溜息を一つ吐く。諦めているのか、ステライ達に何も言う事はない。先生へと顔を向けた。
「シドー」
「何だ?」
鋭い視線が、しばらく先生を見据える。それから、父様は口を開いた。
「その方法で、いけそうか?」
その言葉をしっかりと受け止めるように、先生は頷いた。
「お前と同じやり方で出たのだ。この事実は大きい。紙裂き砕破を使い、追い込む事を続けていけば、可能性はかなりあると見ている」
「そうか……」
父様はそう呟き、静かに目を瞑る。私とは違いあの方法限定だが、先生のお墨付きも出て納得した様子だ。自分としては、他のも試したいけどね。
しかし、方法か。確かに、忘れてはいけないのが、これら全ての事は憶測の域を出ないという事。全く見当違いの事をしている可能性は、否めないだろう。
実は、本当のやり方――まあ、つまり一番効果的なやり方が別にあって、今回も武闘大祭の時も偶々。本当に偶然が重なって、似た状況を作り出せただけかもしれない。玉響の発生条件は、明確ではなく非常にあやふやなのだ。
さらに言えば、玉響が出るための心の有り様が、一つだけとは限らない。追い込んだ時の有り様だけでなく、他の場合での有り様。これでも出る可能性はあるのだろう。これにも留意しておく事は必要か。
だが、現状では、実際に玉響の出たあのぎりぎりの状況を、再現していくしかないかな。他に手掛かりもないし。当たりを引く事を繰り返して、感覚を掴むまで何度も追い込んでみるしかないだろうね。
ああ、そうか。私はふと気付いた。だったら、イージャンには、後で聞いておかないと。あの最後の瞬間、どんな思いで黒刀を振っていたのか。無自覚で覚えてないかもしれないが、もし覚えていたら必ず生かせる。当たりを引きやすくするよう、色々と考えれるはずさ。全く別の方法だって、見つかるかもしれない。
「――ん? ちょっと待ちなさい、シドー」
「何だ?」
ステライも何か気付いたようだ。不意に先生へと顔を向ける。
「鎖断火の連でやっていく。これは分かるわ。遠慮なく打ち合えるもの。その中で、あなたが言った様に吹っ切るれまで追い込めばいい」
「うむ」
「だけど、陛下と同じやり方で出た事実は大きい。これは、どういう意味? 同じやり方でも、出方は全然違ったって、これも今言ったばかりじゃない。それなのに、期待は大きくなるの? おかしくないかしら?」
合点がいかないと、訝しげに尋ねた。おお、そう言えばそうだね。
「確かにお前の言う通りだがな。しかしだ、ステライ。やはり期待は大きくなる」
「それは何故?」
先生は、たっぷりと自信あり気に答えた。
「ふっ。イージャンは、ジャムシルドとよく似ているからな」
一瞬、間があった。室内は静寂に包まれ、ステライの動きも止まる。そして、
「えーーー……。それはないわよ、シドー……」
渋い顔をしてゆっくりと首を振った。
「ないのう」
「ないですよ、先生……」
爺と私も同じように首を振る。それが理由? 意味が分からない。
「そ、そうか?」
自分の思っていた反応と違っていたのだろう。私たちのドン引きぶりに、先生は先程の自信を失くし、不安げに聞き返した。いや、そうに決まってますって。イージャンにも失礼ってなもんだ。ステライ達が言ってたでしょ? 父様は血の気が多いって。
これはつまり、父様は凶暴で横暴で横柄で獰猛で短気で無愛想で、娘の事を素直に褒めることも出来ない器の小さい父親だって事なんだよ。
で、イージャンは先生が言ってたじゃない。生真面目で心優しいってさ。後、付け加えるなら、寡黙とか忍耐力があるとかになるのかな? ほらー。全く、全然、どこまでも違います。
「本当に何を言ってるのかしら、あなたは? それは全く根拠に成り得ないわよ?」
ステライがきっぱりと言う。
「見当違いも甚だしいわい」
爺がぐっさりと言う。
「それに、そんな事言ったら、イージャンに失礼でしょう?」
「そうじゃな」
その通り。
「い、いや。ステライ、爺様。確かにそれはそうだが――」
先生。正当性を説こうとして、慌ててるんでしょうけど。自分の過ち、既に認めちゃってますよ?
「おい……」
その凄味の利いた低い声を聞いて、ステライ達三人がはっとする。
「お前ら、いい加減にしろ……」
眉間に皺が盛りまくった父様が、怒気を纏い三つ編みを揺らめかせ、威圧してきた。おっと? 額に血管も浮き出てますな。えーと、一本、二本と……。そろそろ限界か。すると、ステライと爺は、すっと引く。静かになった。
分かってらっしゃいますな。まあ、二人とも、すまし顔でお茶を飲んでるだけだけど。私もステライ達に倣い、お茶を飲む。ほうっと溜息が出た。パデューカムの入れるお茶は美味しいね。そして、私たちのこの様子を見てか、先生もやれやれと溜息交じりで、同じようにお茶を飲み始めた。
しかし、私としては、もう少し攻めて欲しかったなあ。だって、乙女の心を深く傷つけたんだよ? まだまだこの程度では、溜飲は下がらない。受けた屈辱は、相殺しきれないんだよ。ふん。
そうするには、やはり私のこの手で、がつんと一発くれてやる必要がある。すかっとしたい。何とか、それが出来ないものか……。
「陛下、失礼致します。シビアナ様とイル様が、おいでになりました」
静かな室内に、二度、扉の叩く音が響く。それから、パデューカムの声が聞こえた。
「おお、来たか。通せ」
父様の雰囲気がパッと変わる。声を明るくしてそう言うと、浮き出た血管が消えた。若干だが、険しい顔つきが緩くなる。怒気も静まり、三つ編みがふわりと肩に落ちた。
よし。二人とも良い時に来てくれたな。これで、もう大丈夫だ。元通り。また、隙を見て攻めてやる。そう思いながら背後を振り向くと、丁度扉が開かれた。




