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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第五章 おっぱい暴走編
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第3話 王との謁見 その3

 開かれた扉の中に、シビアナとその後ろにはイルミネーニャの姿があった。二人はお辞儀を終え、


「失礼致します」


 と、シビアナがそう言ってから、足を前へと進める。そして、パデューカムの手によって、扉が静かに閉めれらた。


 二人のその顔を見れば、シビアナは普段通りなのだが、イルミネーニャが少しだけ違う。俯き加減で不安そうな面持ちだった。ああ、ササレクタの事が気掛かりなのかな? この子も心配していたし。


「二人とも、よく来た」


 父様の声が、後ろから聞こえた。機嫌が良いのを抑え込んだような声だ。振り返っていた体を戻すと、父様が胸の前で腕を組んだまま、険しい顔をしている。…………。こういう時って、声だけの方が分かりやすいんだね。


 先に聞いていたから、その険しい顔も無理矢理抑え込んでいるだなと、どうでもいい事を察してしまった。気配り王女を目指していると、こういった些末で碌でもない事さえ、拾ってしまえるようになる。極めて遺憾な弊害だ。


 左右にいるクロウガルとステライは、素直に笑顔でお出迎え。父様もこうやって素直になればいいのに。

 軽くでね? 軽くで良いのよ。口を閉じたままで、軽くその端を「にっ」て感じで広げればいい。


 歯は見せちゃ駄目。それで笑うと、獰猛な獣を髣髴させてより怖いからね。食べられそうでさ。まあ、私たちは慣れてるわけだし、それでも全然良いんだけど。 

 

「さて。では、お前たちへの用事を済ませよう」


 父様は、二人を座らせることもなく、組んでいた腕を解いた。用事? 襲撃の事か。なら、座らせなさいよ。立ち話でする様なもんじゃないでしょうに。そう注意しようとしたが、その前にステライが口を開いた。


「あら、イルちゃん。どうしたの?」


 イルミネーニャの様子に、彼女も気付いたようだ。これで、シビアナと爺がこの子に顔向け、先生が体を振り向けた。そして、父様が訝しげに眉を片方だけひそめる。


「む? どうした、イル?」

「あ、いえ。えっと……」


 パデューカムの時の様に、読み違いでないのだとしたら。まあ、聞きにくいわな。事件が事件だ。この子も、結構重い罪になるんじゃないかって考えちゃってるだろうし。でも、さっきの話だけじゃあ、そう考えるのも仕方がない。私だって同じだったからね。


「ほら、ササの事ですよ。だろ? イルミネーニャ?」


 聞き難いなら私が代わりに。だが、違ってたらいけないので、もう一度振り向いて確認した。


「う、うん……」


 やっぱり。かなり関心もあるようだ。落ち着かない様子で何度も頷いている。ササレクタの事は、後で私に聞けばいい。けど、それでも心配だったから、早く知りたかったのだろうね。


「ああ、それか。大丈夫だ、イル。大した事ではない」

「そうですか……」


 父様に納得したような返事をするが、その声から暗さが抜けない。不安げな表情も残ったままだ。これは、納得しきれてないか。けど、問題ない。きちんと説明を受ければ、私と同じようにすぐほっとするさ。


「イルちゃん、心配しないで」


 ステライが微笑みながら言う。


「はい……」

「さっきのはね、陛下と姫様の喧嘩みたいなものだから」


 これを聞いて、イルミネーニャが目をぱちくりとする。いや、だからさ。そういうの挟まなくていいから。さっさと、きちんとした説明をしなさいよ。


「え? そうなんですか?」


 答えたその声から、急に重々しさが抜けて軽くなった。へ?


「ほっほっほっ! うむ、そうじゃよ。いつものあれじゃ」


 さらに爺がそう言うと、今度は体の緊張が無くなる。そして、


「はあー……、何だ。それなら良かったです」


 溜まった息を吐き出し、不安だった様子も嘘のように明るくなった。


 どういう事? それで、払拭されちゃうの? 何なのよ、その晴れ晴れとした顔は……。ていうか、私たちの喧嘩って、どんな感じで見られてんの? 他の皆にも聞いてみたいんですけど。 


『…………』


 体を戻すと、再び父様と視線がかち合う。そして、気まずくなって、すぐに私は顔を逸らした。同時に父様も逆向きへと逸らす。そして、厳ついながらもバツの悪そうな表情をしたまま、口許に握り拳を当てた。


「ん゛っん゛ん! まあ、それよりもだ、イル」

「は、はい!」

「取り敢えず、お前はそのままそこに立っておれ」

「え? は、はい……」


 立っておけ? 話をするんじゃないの? 父様は、自分の隣に顔を向ける。


「ステライ」


 呼ばれると、彼女は悪戯っぽく笑った。


「あら? 私がやるのですか?」

「む……。余がやるわけにもいかん。頼む」

「ふふっ! 畏まりました」


 口許を隠しながら笑うと、表情そのまま立ち上がった。んん? 何が始まる? 不思議に思いながら、事の成り行きを見守る。


「イルちゃん。目を閉じて」

「え?」

「いいから」

「は、はい……。……?」


 振り向けば、首を傾げ訝しながらも、イルミネーニャは目を閉じていく。ステライを見ると、彼女は近くにある棚の前まで歩いていき、身を屈める。引き戸を引く音が聞こえた。中から何か取り出し、両手に乗せ立ち上がる。


 重ねて二つあった。薄い紙に包まれたものだな。中が若干透けて、上が薄茶色で下が青だと分かる。大きさと厚みは、椅子に乗せる座布団くらい。ああ、これって――。私は、その中身が何であるか察しがついた。


 ステライは、それを私が座っている長椅子の端に並べて置く。包まれている薄い紙を広げていった。中身は、案の定だ。そして、一つだけ包みを取り終えると、中にあった物を持って、イルミネーニャに近づきその前に立った。


「シビアナ。手伝ってくれる?」

「ふふっ。はい、畏まりました」


 シビアナも、当然察している。笑顔で答えた。ステライが手に持った物を広げて、イルミネーニャの肩に掛けた。これで、この子も気付いたようだ。


「あ……」


 と、小さく呟き、にやつくのを我慢するように口許が歪み始める。それを見て、シビアナとステライが可笑しそうに目を細めた。そして、二人は手を動かしていく。


 お披露目の準備はすぐに終わった。最後に、ステライが鏡を移動させ、皆が見えるように卓の後ろに置く。ああ、だから用意してたんだね。そして、シビアナが、イルミネーニャの両肩に手を置き押していく。その前に立たせた。 

 

「はい。じゃあ目を開けて」


 ステライに言われ、ゆっくりと瞼が上がっていく。そして、鏡に映った自分を見て、目と口が大きく開かれる。


「わあ!!」


 そこには、薄茶色の外套を着せられた姿が映っていた。厚めの布地で、腰回り程度の丈。上半身がすっぽりと入っている。裾には、草花の模様と、鳥の翼を模したであろうギザギザの模様が銀糸であしらってある。両腕を広げれば、鳥が翼を羽ばたかせている様に見えるはず。


 後ろには頭巾。そして、胸元には蝶結びの赤い平紐。それが銀の飾りで止められている。それから、その下に銀の釦が二列になって三つずつ続く。


 両脇辺りには、裾と同じような模様で縁取りされた、縦の切り込みが入ってあった。ここから腕が出せれるようだ。それから、手が余裕で入るほどの衣嚢いのう(ポケット)も、切込みの下にそれぞれ一つずつ付いている。


「ふふっ。本当は、謁見が終わってから、渡そうと思っていたのだけどね」


 ステライが言う。そうか。父様は、これをあげたかったんだ。私は、以前にもこのような事があったと思い出す。で、先生の研究所で言ってたのが、その前振り。それから、大抵、一々理由をつけてから渡すんだよ。テレルの時もそう。


「すごーい! 可愛いー!」


 イルミネーニャが嬉しそうに体を左右に振ったり、後ろを向いて外套を着た自分の姿を鏡に映す。その様子を見ながら、父様が腕を組み無愛想を装いつつ言う。


「ふん。お前には、いつも天鸞甘楽に行ってもらっているからな。だが、その麓はいつも肌寒い。そういった羽織れる服は、いくらでもあった方が良いだろう」


 今回はこれが理由か。しかし、何とも回りくどいやり方をする。


「ありがとうございます、陛下!」


 勢いよくお辞儀をして顔を上げた。その顔は、幸せそうで嬉しさに満ち溢れている。ふふっ! この子は、本っ当に良い笑顔をするよねー。満面の笑顔とは、正にこれ。何度見ても、そう思う。


「ふん! 風邪を引くなよ、イル!」

「はい!」


 一年中、上半身裸のおっさんが何か言ってる。だったら、まずあんたが上着を着ろよと、私は突っ込みたい。せめて、冬だけでもさ。見ているこっちの方が、寒くなるわ。

 ていうかさ。何故、上を着ない? この国の王なんだよ、あんたは? 絶対おかしいだろ。


 ステライや爺とかは、もう諦めてるのかねえ。私が言っても聞く耳持たないし。まあ、子供は思ったことを口にする。いずれテレルから「上着を着ないのは気持ち悪い」とか言われて、心に抉られるような深い傷でも勝手に負えばいい。


「うふふ! 素敵よ、イルちゃん!」


 ステライが褒めると、爺も顎鬚を撫でながら頷く。


「うむうむ。よう似合におうとおるわい」

「ふっふっ。そうですな」

「あ、ありがとうございます!」


 先生にもお褒めの言葉を貰い、イルミネーニャの機嫌は鰻登りだ。


「どうかな、シビ姉、姫姉?」

「ええ。似合ってますよ、イルミネーニャ」

「うん、似合ってる」


 私たちにも褒められると、機嫌も最高潮か。


「本当!?」


 さらに嬉しそうにして聞き返してくる。それに、頷いて答えた。


「ホント」


 模様が可愛いんだよね。


「色合いも、あなたにぴったりです」


 シビアナも目を細めて頷く。すると、イルミネーニャは、外套を自分の顔まで持ち上げて、気持ち良さそうに頬ずりだ。


「えへへ……。良い肌触り、良い匂い……」


 ふふっ。感極まって泣きそうな勢いだな、これ。しかし、あの外套は、誰が選んだのかな? 父様? それとも、ステライ? ふむ――、父様に女性物の服なんて分からない。何点かステライが絞り込んで、そこから父様が選んだってとこか。


 執務室に戻ったら、きっとヴァレータの品定めが始まる事だろう。生地も装飾も上等そうだ。それなりの値段はするだろうね。もう一つは何かな? 幾らでもあった方が良いって言ってたから、同じような外套かな?


「それから、シビアナ」

「はい」


 シビアナが、父様に顔を振り向ける。


「そっちは、テレルに渡しておいてくれ」


 父様の視線は、ステライが置いたもう一つの包みに向く。え? テレル? どうやら、あれはイルミネーニャの分ではなく、あの子のために用意していたようだ。シビアナが長椅子まで歩いていき、紙に包まれた青いそれを手に持った。


「陛下、これは――?」

「西黄服だ」


 西黄服――? それをテレルに? ――あ。私は察した。ほっほおーん……。


「まあ、時期が悪いかもしれんが、構うこともあるまい。確か、お前たち三人は持っておるが、テレルだけ持っておらんかったであろう? ならば、持っておけ」

「ありがとうございます、陛下」


 シビアナが丁寧なお辞儀をする。


「うむ」


 腕を組んだまま尊大に頷くと、察した通り。こちらに、勝ち誇った顔を見せつけてくる。そう言う事。これがあったから、さっき執務室に来た時も、その顔をしてのか。テレルに西黄服を渡すからと。


 しかも、それは自分の方が先だと。そして、あの子は初めて見る西黄服に驚き、それを着てきゃっきゃとはしゃぐ事だろう。その時に見せる笑顔は、自分がもたらしたものになるんだと。そう言いたいわけか。なるほど、なるほど。


「ふっふっ……」


 目を瞑り余裕の笑いで返す。浅はかなり。そう言うのを、愚の骨頂と言うのだよ。


「何だ、その笑いは……?」

「いえ、別に?」


 私が悔しがるとでも思っていたのか、しかしその予想に反してこの態度。だから、疑問に思ったのだろう。父様が、不機嫌に尋ねてきた。ふっふっふっ……。


「リリシーナ」


 もう一度せっついてくる。はあ。やれやれ、仕方ないなあ~っと。私は目を開いて、余裕綽々で答えた。


「いやあ、実は西黄服って、昨日私も買って渡したんですよねえ」

「な!? 何だと!?」


 驚愕した父様の目が見開かれる。馬鹿め! テレルの初めては! この私が、既に頂きましたーん! けーっけっけっけっ! 


「えーと。確か、二着ほど渡しましたか」


 更に、この事実も突き付けた。しかし、自慢になれば品位が下がる。宙を見ながらすっとぼけて、自然を装う。


「に、二着――、だと!?」

「はい」


 あんたは三着目。


「あの子は、大変気に入ってくれたようで。西黄服を着たら嬉しそうにしていたみたいですねー。ああ、これはイージャンから聞きました」


 最後にこの事実を告げた。すると、全てを持って行かれた父様は、私の代わりに、その顔が悔しさ一杯に歪む。


「くっ……!」


 ぶはははは! 何、その顔! 勝ち誇った顔を二度も見た分、更に滑稽だわ! まさに、これは返り討ち。よもや、自分から反撃の機会をわざわざ持って来てくれるとはねえ。いやーご苦労様。ぷぷぷぷー! 


 私は、声に出して笑いたくて笑いたくて仕方がない。でも、そうすると喧嘩になるから、勝利の味が台無しになる。だから、必死に堪えた。


 しかし、口許はもう無理。イルミネーニャの様に、歪みまくっている事だろう。ま、別に構わない。はあ~、この顔を鏡で見てみたいわ~。けど、こっからじゃあ、ちょっと見えないんだよね~。


「ふふふ! 陛下。殿下にもらった物とは、色合いや模様も違いますので」

「う、うむ」

「どちらも大切に致します」

「ああ……」


 シビアナから擁護を貰う、駄目駄目で無残な敗者。ふっ、哀れだな。見ていると、こちらまで悲しくなってくる。だから、私も労わる事にした。


「そうですよ、父様。こういうのは順番ではありません。大切なのはその気持ちなのです」


 勝者の上から目線で、そこから講釈を垂らす。


「お、お前――!」


 この言い方が悪かったのか、怒りで父様の目が見開かれた。おやあ? 挑発になりましたかな? でも、そんなつもりはないですしー。労わっただけですしー。


「それに、あの子はそんな事、気にしませんよ。私の分も父様の分も、同じように喜んでくれるでしょう」

「くっ……」


 さらに、その思惑が浅はかだったと指摘。すると、忌々しげに睨んでくる。ふふふ……。まあ、ここら辺にしといてやろう。後で怒られるのが確定だから、抑えておかないと。反撃が酷くなる。


「ま。立て続けに同じような服を貰えば、驚きは激減しますけど」

「ぐっ!?」

 

 睨むその顔の額に、血管が浮き出た。やっぱり、抑えきれなあーい。どうせ怒られるんなら、同じだってーの。くけけけけ!


「でも、嬉しさはきっと変わりませんって」

「ぐぐっ!」

「ええ。きっと」


 そんな訳ないだろ。驚きがなくなれば、当然その嬉しさも大きく激減する。「あ、何だ。また同じ服か」ってね! 残念ながら、これは如何ともし難い子供の心理! 残酷な事実なのだよ!


「ぐぬうう……!」


 父様の三つ編みが怒気で揺れる。状態は、さっきより酷い。爆発寸前だろう。だが、怒れまい。手も出せまい。何故なら、馬鹿にしているのは心の中だけ。悪い事は、何もしてないし言ってないもの。良くて、口許が歪んでいるくらいだ。


 これにだって難癖はつけられないさ。それでも怒れば、理由は丸分かり。皆から器が小さいと、顰蹙ひんしゅくを買うだけ。


 がっはっはっはっ! やってやったぞ! やってやった! がつんと一発、いや二発くれてやったわ! しかも、自滅! だっさいなあ、もう! ホントださい! だーっはっはっはっはっ! 勝負はついた。私の完全勝利ー! いやっほーい!


 はあー、すっきりした! 私は、湯呑を手に取りお茶を啜る。そして、ほっと溜息。パデューカムの入れたお茶は、やっぱり美味しいね! 


 周りを見れば、皆が苦笑い。ただ、席に戻っていたステライだけ、俯いて笑いを堪えながら肩が震えている。


 父様は、悔しそうに歯を食いしばって私を睨んでいたが、その怒りを飲み込むように目を閉じる。自分を落ち着かせようとしたのか、「ふー……」と鼻から息を出す。


 これで、揺らめいていた髪が落ちる。浮き出た額の血管も引いた。あんなんでいいんだから、何気に器用だよね。それから、湯呑みを手に取り、一気にがぶ飲み。飲み終わると、荒々しく湯呑を置き、シビアナたちに目を開いて向けた。


「とにかく、イル、シビアナ。お前たちへの話は以上だ。戻ってよい」


 はあ? 何を言っている? 襲撃の件は?


「陛下」


 ステライが言う。


「ん? ああ、そうだったな。イル」

「は、はい!」


 名を呼ばれて姿勢を正す。やれやれ、何で忘れてんだよ。ていうか、さっさと二人を座らせろ。


「今朝見たことは、誰にも言うでないぞ。内密にな」

「分かりました!」

「うむ。では、二人とも戻って良い」


 は? 私は耳を疑った。え? それだけ? しかも、何なんだ、その簡単な物言いは? いや、まあ、確かにそれだけ伝えれば、他には特にない。今朝見た事、つまり機密に該当する事を、黙っておけと命じておけばいいだけだ。でも、今ので済むなら、わざわざここに来る必要もない。という事はだ――。


 どうやら、二人を呼び出した理由は、あの買った服を渡す事だったらしい。だから、シビアナも呼ばれていたんだ。おかしい。何だこの違和感は? 父様たちは、今回の襲撃の件を軽く見過ぎていないか?


 今後の対応について、話はしている。これは、ササレクタの件から分かった。しかし、この異様に呑気な感じは――。おかげで、危機感が全く感じられないんだが……。


「待て、ジャムシルド」


 私が不審に思っていると、先生が口を開く。


「何だ?」

「シビアナは同席させてくれ」

「む? 何故だ?」

「こちらからも、機密関係の報告がある。シビアナはいた方が良い」

「報告だと?」

「うむ」


 父様は、思案気に先生とシビアナを交互に見つめた。


「――分かった。シビアナ、座れ」

「はい。畏まりました」


 鏡の前にいたシビアナが歩いてくる。私の隣に腰を下ろした。はあ……、そうだった。折角勝ったのに、これから怒られると思うと気が滅入るな。だが、私にはちょっとした策がある。ガミガミと怒られる時間を、最小限に抑えれるであろう策がね。


「では、イル。お前だけ戻ってよい」

「は、はい。あの、陛下……」

「ん? どうした?」

「えっと……」


 それだけ言うと、俯いてしまう。何だろ? すると、ステライが笑う。


「ふふ! 大丈夫よ、イルちゃん。ここには私たちしかいないから」


 これを聞いて、イルミネーニャが顔を上げる。表情も、ぱーっと明るくなった。そして、ステライに「はい!」と返事をすると、父様に向き直る。それを訝しげに父様が眺めた。


「父ちゃん! ありがと!」


 そう言って見せたその顔は、それはもう屈託のない満面の笑顔だった。さっきのとも違う。きっとそれは、その呼び方にも現れている親愛の情。これが籠っているからだろう。


 呼ばれた父様は、動かなくなる。そして、顔が若干赤くなると、そっぽを向きながら言った。


「ふ、ふん! 早く戻っておれ!」

「はい! それじゃあ失礼します!」


 イルミネーニャは、そう言ってお辞儀をすると、扉まで歩いていく。そして、こちらを向き、もう一度お辞儀をしてから扉を開け退室した。


「ほっほっほっ! 相変わらず、イルの笑顔はとびきりじゃのう!」

「うふふ! ええ、本当に」


 爺とステライが笑い合う。ふふっ、そうだね。間違いない。私も、滅入っていた気分が吹き飛んでしまったよ。


「うちの曾孫も、あれぐらい表情豊かになって欲しいもんじゃのう。ほっほっほっ」

「ふふふ!」


 爺の言葉を聞きながら、ステライは父様の空になった湯呑に土瓶を傾ける。お茶を注いでいった。いやー、しかし父ちゃんか。久しぶりに聞いた気がするな。でも、昔はずっと言ってたんだよねー。今は、そうそう呼ばないけどさ。


 この国の王である父様を、父ちゃんなんて呼べるのは、イルミネーニャだけ。まあ、それは、あの子がここに来た経緯によるものなんだけど。ちなみに、父様は、ああ呼ばれるのを気に入っているらしく、別に直せとは言ってないそうだ。


 その父様の機嫌は、うん――。確実に良くなってるわ。笑顔にならないよう頑張っているらしいが、そのおかげで、眉間に寄った皺がぴくぴくと動き、笑っているような怒っているような――。まあ、何か変な顔になっている。


 そして、ステライがお茶を注ぎ終わると、その湯呑みを手に取る。ゆっくりと味わうように飲み始めた。これに釣られてか、先生たちもお茶を飲み始める。シビアナの分は、すぐにパデューカムが持ってきた。これで、私を含め皆がお茶を飲む。


「さて――」


 少しして、湯呑を置いた父様が言う。その顔も、元の厳ついものに戻っていた。


「では、お前たちの話を聞こうか。何があった?」


 おっと、それはいけない。


「いえ、父様。まず先に、謁見の理由を教えて下さい」


 怒られるのは最後にせねば。これは、考え付いた策にも関わる事でもあるのだが、そもそも怒られた後だと色々聞きにくいし。それに、順番で行けばこれが最初だろう。ササレクタが早朝に言ってた件だ。これで謁見が決まったんだろうし。


「それは、もう良い」

「え?」


 もう良い?


「じゃあ、何で謁見を?」

「ふん。分かっているだろう?」


 そう言うと、胸の前で両腕を組む。え? その言い方で、他にって事になると、一つしかないよね?


「いや、まあそれは――」 

「良かろう。ならば、先にその話をしてやる」


 不遜に顎を上げた。それから、その顔を戻すと凄むようにして睨む。


「何が聞きたい? 言ってみろ」


 こうして、シカルアヒダについての質問が始まった。

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