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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第25話 頑張れ! お兄ちゃん!

 二人の距離は、一気に近づく。だが、イージャンの間合いは、巨大な黒刀そのもの。私が走り出した時には、既に動いていた。右膝を上げ前にずらし、両腕を自分の体へと引く。射程に入るや否や、左足で地面を押し込むように蹴りつける。そして、持ち上げた右足を踏み込み様に、


「はあっ!!」


 両腕をこちら目掛けて突き出した。巨大な切っ先が、縦になって襲い掛かる。速い。黒刀は重いはずだが、一度の踏込みで数歩分はある。それに加え、倒した上体。腕の長さ分が、瞬時に私へと迫った。左肩がちりちりする。狙いはここか。

 

 その左の肩や頬を掠め、荒々しい風が突き抜けていった。だが、それだけ。黒刀の突きは、走りながら身を翻し躱していた。何事もなかったように、そのまま自分の太刀をぶち当てにいく。柄を強く握りしめた。


 しかし、その瞬間、黒刀が動く。下を向いていた長い刃渡り。それが、吊り上がるように浮き上がってきた。イージャンが、柄を捻り回転させたのだ。突きはぎりぎりで避けた。このままでは体に衝突し、姿勢を崩されてしまう。助走して得た勢いを、太刀の振りに乗せられなくなる。ならば、さらに身を翻せばいいのだが――。


 私は、その刃渡りに敢えて身を近づけた。そして、動きに合わせ跳躍する。逆様になる視界。足を回し、体を側転。真横になった刀身の上に立ち、走り続けた。ふっふーん。こっちの方が意表を突けるからね。あの顔を見る限り、それは出来たようだ。私は、目を見開いたイージャンを目指す。だが残念。それも数歩のみ。横薙ぎにされて、足元から黒刀を抜き去った。


 ふっ! やるな、イージャン! ここまで、ほんの数瞬のやり取り。しかし、これでもう、走って勢いをつけれなくなった。それに、黒刀ほどではないが、私も重い太刀を持っている。この太刀が届く程度はあるとはいえ、勢いは無くなってきていた。よって、放てる力も削がれるわけだ。


 イージャンは、横薙ぎにした黒刀を、自分の体を捩じりながらそのまま回す。回転させ勢いをつけて、ぶつけるつもりのようだ。こっちは空中。狙いは付けやすい。しかし、初めて使うのに、迷いのないこの刀捌き。さては、もうすでに黒刀をどう扱うか想定していたか。その時間は十分にある。昨日、仮申請しておくって言ったからな。そこからだ。


 いや、案外もっと前からかもね。イージャン、あの刀好きらしいから。なら、もし自分が使ったら――とか、考えていてもおかしくないだろう。


「おおおおおお――!」


 イージャンの咆哮。振り回す黒刀にも、その気迫が乗る。間違いなく勢いが増したその速さ。これで、先程の突きより、遥かに威力は上がっているだろう。それが、渾身の剛撃となって私の側面へと迫った。宙に浮いているのもある。防御に徹してこの一撃を受ければ、吹き飛ばされるの必至。


「おおおおおおおお――!!」

「はっはっはっ!」


 良いぞ、イージャン! 込み上げてくる獰猛な笑い。心地よい気迫だ。血がたぎってくる。柄を握る力も、自然と強くなった。無論、この一撃の受けに回る気はさらさらない。私は目を見開く。必殺の気合を発し、この体に漲らせた。真っ向から迎え撃つ!  


 柄を回して、刃をひっくり返す。峰打ち出来るよう持ち替えた。右脇で構え捩じれた腰。それを一気に振り戻す。両腕にも力を込め、投げ放った。全身で薙ぐ。イージャンの黒刀。私の太刀。互いの一撃が、眼前でぶち当たった。


 黒い鳥居の前にある、だだっ広い屋外稽古場。そこに響く巨大な刀撃の音。周りの砂塵をも吹き飛ばす。黒刀の刃と太刀の峰。交差した二振りの巨刀は動かない。拮抗する力。が、それは僅か一瞬のみ。


「ぐあ!?」


 イージャンの体が、弾けるように仰け反る。私が、八咫の太刀を振り切り、その衝撃で黒刀ごと吹き飛ばした。


 当然だ。確かに、体を回して勢いも増していた。突きよりも断然威力があっただろう。だが、空を切り裂く事が出来ていない。反対に、逆風のその勢いで剣筋がずれていた。腰も十分落せていない。刀を振るので精一杯。重さが増えても、間合いが伸びても、巨大な刀身に翻弄され、それを生かせていないのだ。


 そんな状態で私の一撃と拮抗しようなど笑止。さらに言えば、いつもの威力にさえ、届いていなかった。イージャンの一撃は、こんなもんじゃない。腰に差した長剣を使っていれば、あそこまで仰け反らなかっただろう。


 だが、別段それはいい。持て余していても構わない。とにかく、今は心の有り方だ。玉響の発現が重要だからね。逆にその不慣れが、良い結果に繋がるはず。この状況もそのためのものだ。


 想定していたかもしれないとはいえ、初めて持つ巨大な武器。それを、いきなりの実戦形式で使わなければならない。相手は私。至極天をも弾く刀撃が襲い掛かる。


 焦燥感も増す。振り方を間違えれば、どうなるか。そんなの考えるまでもない。即、生命の危機に直結する。これが、切迫感をより一層煽っているだろう。だから手は抜かない。宣言した通りだ。やる気満々でいく! 


 私は握った柄に力を込める。そして、地面に着地した瞬間、両足に力を込め踏ん張った。これで威力は跳ね上がる。仰け反った体はまだ戻らない。大きな隙となった。そこへ、強力な斬り上げを放つ。


「くうっ!」


 刀撃がぶつかる音。イージャンの表情が歪む。だが、凌いだ。ぎりぎりの所で、何とか態勢を立て直す。黒刀を引き戻し弾いた。しかし、この一撃の威力を全く殺せてない。踵で足元を削りながら後ろに下がる。再び体が仰け反った。


 私は地面を蹴りつけ、間合いを詰める。間髪入れず、地面擦れ擦れから再び斬り上げた。だが、その体にではない。黒刀に向かってだ。


「ぐっ!?」


 イージャンが焦りを見せる。背後に押し込まれながら、巨大な刀が空に向かって弾け飛ぶ。仰け反った体が更に反った。隙が、強引にこじ開けるよう大きく作らていく。だが、まだだ。さらに、もう一回! 私は体を回し、同じように斬り上げる。狙いも変わらない。黒刀だ!


「ぐああ――!?」


 太刀が当たった瞬間。歪んだその表情が、驚愕へと変わり消え去る。三連撃のぶちかましを、容赦なく叩きつけた結果だ。態勢は完全に崩れた。今の一撃で、黒刀はさらに上へと弾け飛ぶ。両腕が無理矢理持ち上がり伸びきる。両足も浮く。仰け反った体は限界。頭が腰の方まで、大きく反れた。そのまま後ろに倒れそうになりながら吹き飛んでいく。


 これで攻撃を終わらせる気はない。むしろ、こうするための連撃だ。すかさず踏み込み、低く跳躍。太刀を担ぎ、瞬時に追いつく。


 もらったぞ、イージャン! さあ、どうする! 担いだ太刀を、全身を使い一気に振り下す。それが、がら空きになった胴体へと容赦なく迫った。――む? 瞬間、黒い籠手の中にあった左手が動く。それを目端で捉える。


「くっ――!」


 額に汗を滲ませながら、険しくなるイージャンの表情。その眼前で火花が剣身を走る。左脇にあった長剣を逆手で半分ほど引き抜き、私の太刀を受け流した。太刀は、そのまま鞘の口金まで届き、吹き飛ばす。納まっていた剣身が、剥き出しになった。そこを火花を伴って太刀が滑っていく。そして、着地と同時に止まった。高く上がった黒刀は、片手だけでは支えきれなかったのか、そのまま落下して地面に激突。足元を揺らす。


「…………」

「…………」


 私とイージャン。意味合いは違うが、二人の無言が場を包む。ふふふ、やるねえ……。よくあの瞬間に黒刀を引き戻そうとせず、剣を使おうと思ったな。ちなみに、引き戻してたら、紙一重で間に合わなかった。でも、その黒刀を使わず対処しちゃったからなあ。これは私の言い方が悪かった。実戦形式でって言ったもんね。


 だから、逆に剣を使わず何も対処もできず、この一撃を食らっていたら、説教をするところだった。だが、今は趣旨が違う。玉響の事は言ってないから別として、まず至極天に慣れる事。これが趣旨。


 事情を知らないイージャンにとっては、これが最優先となる。それは分かっているか。抜いてしまった事を、後悔しているようだ。自分の剣を睨む表情に、それが見て取れる。咄嗟の判断ってやつだったんだろうな。ま、良い反応だったさ。だけど、やはり趣旨は違うからね。


「イージャン」

「は、はい……」


 悔しそうな顔そのまま、返事をする。


「条件追加。黒刀だけで対処だ」

「――はっ!」


 気持ちを強引に切り替るよう、気合を込め答えた。それを聞いて、私は後ろに跳ぶ。距離を開け、間合いを取った。


「シヴァルイネ。イージャンの剣を」

「はい。畏まりました」


 視線を変えないまま頼んだ。これであの剣は使えない。さらに追い込めるだろう。彼女は、吹き飛んだ鞘を拾いながらイージャンの傍に寄る。そして、彼の手にあった剣を受け取ると、鞘に納めた。さて、仕切り直しだ。私は一度太刀を振り切って、その加減を確かめてから右脇で構え直す。すると、背後から声が聞こえてきた。


「やっておるな……」


 イージャンとシヴァルイネが、その声がした方に向かって一礼する。お。来たね。声の主は、私の間合いに入りゆっくりと近づいて来た。だけど一つしかない。


「先生、ローリエは?」

 

 一旦構えを解き、隣で立ち止まるの待って尋ねた。


「大神宮で休ませておるよ」

「そうですか」

「ふっ。泣き疲れたのか、気が張っていたのが解けたのか……。部屋に入り椅子に座ると、そのまま眠ってしまってな」

「あらら」


 あの子、相当心配してたもんな。気が気じゃなかったんだろう。その反動かな?


「先生、いいんです?」


 何なら戻ってくれてもいい。イージャンの事は、私に任せてさ。


「ああ、構わん。付き合おう」

「ありがとうございます」


 そう言ってもらえると、やっぱ助かるな。いてくれた方が良いからね。心強い。ただ、授業の様にはなりそうだが。


「お前がやりたい事は、見ていて分かった。儂も、それを試してみるか……」

「あ。お願いします」

「うむ」


 流石、先生。どうやら、最初から観戦してたみたい。それで意図は見抜かれたようだ。これなら、授業にはならないかな? しかし、よく分かるよね。数度しか打ち合ってないのに。これも経験の差かなあ?


「イージャン」


 私が呼ぶと、シヴァルイネに何やら助言を貰っていた視線が、こちらに向く。


「ふうー……。――はい、殿下」


 また始まると思ったのだろう。素早く息を整え、中段に構えながら答えた。


「条件追加。今から、先生と二人で攻めるから」

「――え?」


 険しかった表情が、ぽかんと気が抜けたようになる。思考が追い付いていないのか、少しの間そうなっていた。この間に、シヴァルイネが剣を持って、すたすたと離れていく。そして、追い付いたのだろう。


「ええええええ――!?」


 驚愕しながら叫んだ。さっきより大きな声だね。


「で、殿下……。う、嘘ですよね……?」


 私と先生が一緒に首を振ると、その顔が一気にさーっと青褪めた。悪いがお兄ちゃん。とことん追い込むから。


「死ぬなよ、イージャン……」


 そう言いながら、先生が殺気を放ち威圧する。そして、ゆっくりと拳を胸の前で構えた。威圧感は、昨日と同じくらいかな? いや、それ以上かも。こっちに向けられていないのに、押し潰されそうな重圧だと肌で分かる。きっと向けられたイージャンには、先生の体がさらに大きく見えている事だろう。


 生命の危機を、ひしひしと感じているのもよく分かる。だって、さっきよりも震えてるもの。青褪めた顔から、どばどばと汗が噴き出しているもの。うん、いいね。これは悪くない。私もやっておこうかな。


「さあ、イージャン……。ここからが本番だ……」


 先生を真似て威圧する。太刀をゆっくりと右脇に構え、必殺の気合を研ぎ澄まして放つ。そして、私たち二人の威圧は合わさり、イージャンを押し潰そうと颶風ぐふうの如く、その身を襲った。 


 死が差し迫った時。人のその表情には、死相というものが現れるという。イージャンの顔面蒼白を通り越して、生気のなくなった真っ白な顔。これを見て、何故か思い起こされた。うーん。こんな感じなのかな?


 ま、ともあれだ。これで、さらに崖っぷちへと追い立てられただろう。しかも、ぎりぎりの所。半歩でも下がれば転落。そのままでも、地面が崩れ落ちるかもね。


 さあて――。じゃあ、やりますか! 準備は万端。私は腰をしっかりと落とし、腕に力を込める。先生も、これに合わせてくれた。構えた腕や肩、足の筋肉が膨れ上がる。それが視界の端で見えた。そして、


『いくぞ! イージャン!!』


 先生と声を重ね、さらに威圧する。すると、これで観念――いや覚悟を決めたか。


「はっ! よ、よろしくお願いします!!」


 目を瞑って、大きく息を吸い込み叫んだ。うーむ。自分を奮い立たせるためか、思いっきり叫んだように見えたその姿。半ば、やけになった感があるが返ってきた気迫は、まあ――十分。


 ふふっ! よおし! 頑張れ、お兄ちゃん! 私と先生は、イージャン目掛けて同時に地面を蹴った。

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