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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第16話 二人の過去

「先生、どうぞー」


 そう言いながら、焼きおにぎりちゃんが山のように乗ったお皿を、一つずつ食卓へ置く。


「ああ、すまんな。リリシーナ」

「いえいえ」 


 先生が来たので、私は隣の食卓へと移ることにした。先生にもそっちに座ってもらっている。動くそのついでに、シトエスカたちの配膳を少しお手伝い。おにぎりの乗ったお皿を、調理場前の細長い食卓から持って来た。


 レイセインとゼニシエンタが戻れば、元々座っていたこの食卓で、彼女たちが朝食を取る。そうなると、食べ終わった私は邪魔になる。だから、先生が食事をするこっちの食卓へ、移動するというわけだ。


「どうぞ、シドー様」

「ありがとう、シトエスカ」

「殿下も」

「うん、あんがと」


 先生は、熱いお茶が好きだ。それを知っているシトエスカは、今の今まで土瓶を竈の上に置いていた。それを湯呑に注いでいく。私も飲み終わっていたから丁度いい。一緒に入れてもらった。その湯呑を見れば、やはり湯気の上がり方が、さっきより多い。


 その間に、他の二人もお皿や土瓶やらを、手早く置いてくれた。そして、それが終わると、三人は自分たちの席に戻っていく。


――先生も、若い子たちに囲まれて食べた方が、嬉しいだろうか? ふと、そんな事を考え付いた。でも、もしローリエが知ったら、嫌がりそうだ。それは困る。私は、昨日の悲しそうな顔を思い浮かべる。


 ううっ。あれを見るのはきついな。心が、がりがり抉られる気分。だから、やはりこれが最良のはずだ。そう思いながら、隣の新しい席へと座ったのだが――。隣の食卓にいる彼女たちを、ちらりと見る。うーん。これは、どういう事だろうか……。首を傾げた。


 テオルンが反応を見せない。お皿を置いたら、他の二人と同じように、さっさと戻っていった。先生も特に気にした風でもない。付き合いが長いなら、もっとこう知人らしい違った反応が、お互いあってもいいと思うんだが……。今までどうだったか覚えていない。だけど、先生たちが旧知と分かって、急にそのやり取りに違和感を覚えてしまった。


 いや。多分、前からこんな態度だったのだろう。だから覚えていないのだ。この子が侍従官として働き始めてから、先生には何度も会う機会があった。大体にして、そんな素振りがあれば、その時に気付けたはずだ。私は無理だったとしても、シビアナが不審に思いテオルンに聞いている。


 しかし、そんな事はなかったんだろう。だから、あいつも初耳という話になったんだ。普段と変わらず、三人で談笑しているテオルン。それを見ていた私は、向かいの席で手巾を広げて手を拭いている先生に、視線を移す。


 聞いてみるか? いや、でも禁種が関係する話をしていた時に分かった事だ。ここで聞くのもよろしくないだろうか? シビアナが聞くし、いっか……。うーん、でも気になるなあ……。


「先生……!」


 少し距離があるので、身を乗り出す。そして、口に手を当てながら、小声で囁いた。やっぱり気になる。聞いてみることにした。駄目なら、はぐらかされるだろう。


「ん? 何だ?」


 手を合わせていた先生が、私を見る。


「先生とテオルンって、知り合いなんですよね?」

「そうだ」

「でも、その割には対応が淡泊と言うか、その――」

「ああ」


 私の言いたいことが伝わったようだ。ゆっくりと頷く。


「儂とテオルンは、いつもこんな感じだ。気遣いはない」

「へ?」

「そうだよ」


 テオルンにも話が聞こえていたようだ。見れば、然も当然のように頷いている。小声で話してた意味ないじゃん……。まあ、先生が普通に声を出してたか。


「それに、仕事中だしね。そういうのは、特に出さないようにしてるんだよ」

「そ、そうか……」


 なるほど。どうやら、今までそんな素振りを見せなかったのは、このためのようだ。先生と会う時は、いつも私の侍従官としてだった。しかし、この子も侍従官としての、流儀のようなものがあるんだな。いつも、ちゃらんぽらんな言動ばっかりだから、そういう事を考えたと知って変な気分になる。


「あれ?」


 こちらの様子を窺っていたテオルンが、何かに気付く。


「もしかして、殿下――。知らなかったの?」


 お、お前……。


「さっき初めて聞いたんだよ」

「え?」


 テオルンは、私に向けていた視線を先生に移す。


「儂も、お前がもう伝えていると、思っていたからな」

「私もそう言われたの」

「ありゃー」


 テオルンが、頬をぽりぽりと掻く。


「殿下?」


 シトエスカが、不思議そうに見てくる。ヴァレータもか。今の話の意味が、分からないみたい。この二人も知らないようだ。先生は、この話が出ても平然としている感じ。なら、説明してもいいだろう。


「先生、言ってもいいですか?」


 一応確認を取っておく。


「ん? ああ、構わん」


 そう言うと、手にしたおにぎりに、かぶりつく。問題ないか。私は、シトエスカたちに振り向く。


「テオルンと先生って、昔からの知り合いなんだって」


 一瞬、間があった。そして、


「え?」

「はい?」


 シトエスカが呟くと、ヴァレータもその意味が分からないのか、聞き直してくる。彼女たちも、やはり初耳か。二人ともきょとんとしていた。


「いつぐらい前になる?」


 先生がテオルンを見ようともせず、おにぎりの山にまた手を伸ばした。


「ん? 私が、初めて花火打ち上げる少し前だよ。十年前の槍月やりづき七日」

「もう、そんなになるのか……」


 おにぎりを飲み込むと、感慨深そうに呟く。


「月日が経つのは早いって?」

「ふっ。そうだな」

「じじ臭いなあ、もう」

「うるさい」


 テオルンが、にやにやしながら憎まれ口を叩くと、素っ気なく返してまたおにぎりを食べる先生。えーっと……。何か、知り合いっていうより、友人って感じなんですが……。私たちは、唖然としながら先生たちのやり取りを見ていた。そして、今度はしばらく間があり、


『ええええええええ!?』


 シトエスカとヴァレータが、同時に叫んだ。いや、まあ叫ぶわ。私も一緒に叫びたかった。だって、トゥアール王国の英雄だよ? その人に馴れ馴れしく友達口調だよ? そんなのが出来るのは、同じ世代でも父様やステライとかぐらいだって。私じゃあ絶対無理。


「どういうことだよ!? 説明しろ、テオルン!」


 彼女の隣にいるヴァレータが立ち上がり、両肩に手を置いてわっさわっさと揺さぶる。うん、説明して。


「え~~~? 発明~~仲間なんだよ~~~」

「はあ!?」

「お互い~~、色々~~意見交換とか~~~、技術交換してたの~~~」


 体が揺れているから、声も揺れている。まあ、そんな感じだったんだろうね。この子は、小さい頃から色々作ってたりしてたらしいから。絵や彫刻もそう。


「だからって、何で今まで黙ってた!?」

「え~~~? 別に~~、言う事でもないでしょ~~~?」


 ある意味、自慢だからなあ。でも、この子はそういう事、自覚してなくて、興味がないだけなんだよね。それを一番分かっているのは、多分ヴァレータだろう。


「くっ!」


 だから、苦々しく思っても納得した様子。揺さぶるのを止めて、荒っぽく席に座った。


「出会ったきっかけは、この子が言ったように、花火を一緒に打ち上げようとした時でな」

「そだねー」


 お茶を飲んだ先生が、湯呑から口を離してから言う。そして、テオルンが、ずれた眼鏡を戻しながら、相槌を打った。


「あの頃から、お互いこの調子だ」

「英雄だって知ったの、侍従官になってからなんだから、しょうがないじゃん」


 え? 知らなかったの? また新しい事実を発見。


「それ以前に知ったら、態度が変わったのか?」

「無理」

「ふっ」


 私は、いや私たちは戦いた。シトエスカもヴァレータも顔が引き攣っている。お前、無理って、そんなぞんざいに……。しかし、そう言われた先生は、これといって気にしてない様子で、おにぎりを食べている。


 これは――。シビアナがいたら、あいつの戦く姿も拝めたかもしれない。いや、父様やステライだって驚くんじゃないか? 


「この研究所に、出入りしてたんじゃないよな?」


 続いて、私が質問してみる。そうしてたら、気付かれていただろう。外からではあるが、月鏡院がこの研究所を守っているからだ。先生が長期不在の時も。そこから、シビアナに連絡がいってるはず。


 今回の襲撃だってそう。狼煙玉を上げたのは、近衛騎士じゃない。彼らだったはずだ。しかし、その狼煙玉は半分不発に終わっていると言っていい。上手く空に上がっていなかった。恐らく、その瞬間を邪魔されたか、他に何か要因でもあったのだろう。


 しかし、それは想定内だ。狼煙玉が駄目なら、別の方法で知らせが入るようになっている。二段三段の構え。それに、こういう事態が、晴れの日ばかりとは限らない。雨の日や風の強い日だってあるかもしれないのだ。その時には、狼煙玉はあまり効果がない。


 ただ、研究所を密かに守っている事を知る者は、限られている。だから、ゴトキールは近衛騎士に月鏡院へと知らせを出した。しかし、実際には知らせは別の所からもう入っており、その知らせが着く頃には、既に用意は始まっていただろう。


「どうなの?」

「うん、ここには出入りしてないよ。ちょっとした私の作業場があるんだ。そこでね」


 テオルンが、また然も当然のように頷いて答えた。そして、私もその言い方に違和感を覚える。


「おい、ちょっと待て――。王宮や自宅のじゃなくてか?」

「そうだよ。他にもあるんだ」

「ええー……」


 それも初耳なんですけど……。この子の家には、その庭に彼女専用で離れの小屋がある。そこで、実験したり、絵を描いたり、彫刻を彫ったりしていた。後、王宮にもある。これはシビアナが用意したものだ。しかし、彼女には、他にもまだあるらしい。


「ああ。儂らの事を知らんかったら、そこもか」

「おお、そうなるね」

「先生……」


 呑気そうにしている二人。私は、その一方に咎めるような視線を送る。この子のやってる事、知っているでしょ?


「心配するな。あそこは、そんな場所ではない。それに、儂とテオルン以外知らんし、誰も入れん」

「あ、そうなんですか……」


 どうやら、秘密は守られているらしい。なら一安心だ。そして、それに同意するようにテオルンも頷く。


「その通り。あと無理に入ったら倒壊するから」

「ええ!?」


 倒壊!? 崩れ落ちるの!?


「あれは、中々面白い仕掛けだな」

「ふふふ! ちょっとした自信作だからね」


 先生が褒めると、テオルンが自慢げに答える。しかし、結構な事実なのに、のほほんとしているように見えるのは気のせいか。シトエスカとヴァレータは、先ほどから喋ってない。テオルンを唖然として見ている。


 私も同じような思いだ。しかも、作業場がもう一つあるって、これは――。


「テオルン」

「ん? 何?」

「その作業場、シビアナ知ってんの?」


 彼女の命運がかかっている質問をする。


「え、知ってるでしょ。シビアナ様だよ?」

「言った覚えは?」

「ないよ」


 お前……。シビアナに寄せる異様な信頼が、裏目に出てるな、これ……。多分、あいつは知らない。何故なら――。


「一応、言っておくがな。お前と先生の事。シビアナも知らなかったからな」


 二人だけしか知らない作業所、その存在にあいつは気付けなかった。とすれば、だからその関係にも気付けなかった、となる。先生も察していたが、逆説的に言えば、そう考えられるからだ。


『えええええええー!?』


 シトエスカとヴァレータが、また叫ぶ。さっきよりその驚きは大きい。


「え? 知らないの?」


 きょとんとしているテオルン。だが、そんな態度でいられるのは、そこまでだ。


「だから、後であいつから、取り調べがあると思うぞ」

「ええええええ!? 何で!?」


 何を当たり前のことを驚いてるんだ、この子は。


「そりゃあ、王女の侍従官であるお前の人間関係を、把握してなかったんだ。筆頭としての立場上、それはきちんと確認するだろう。しかも、私の先生だぞ、この人は」

「ええー……」


 それだけじゃない。先生は問題ないと言ったが、その作業所は別の意味で必ず問題になる。それをシビアナに言わなかったからだ。この子の立場上、間違いなくお仕置きが待っている。 


「ふ、二人から、やらないように言ってもらえない?」

「無理」

「無理だな」


 即答で返す。先生も何気に即答。


「そ、そんなああああ!」


 顔が青くなるテオルン。しかし、それでも彼女は食い下がった。


「あ、そうだ! ちょっとね、面白い発見があったんだよ! それ教えるから――!」

「発見?」


 私がそう言って眉を顰め、先生と顔を見合わせる。すると、食堂の向こうから扉の開く音が聞こえた。


「シト!」


 中に入ってくると、足早にこちらへ近づいてくる。イルミネーニャだ。


「シビ姉が、おにぎり持って来てってさー!」


 彼女の言葉に、テオルンがびくうっと体を震わせた。それを端目に捉えながら思う。あいつ……。持って来いって事は、イージャンと二人っきりで食べる気だな……。


「はーい! さ、皆」


 シトエスカが立ち上がると、ヴァレータも釣られて席を立った。しかし、テオルンは動かない。


「殿下。それでは、シビアナ様に届けて参ります」

「うん、お願いね」

「はい」


 そう言って、シトエスカたちは料理を取りに、後ろの細い食卓へ向かう。すると、ここで異変が。


「ぐあ!? 急にお腹が! いたたたた――!」


 テオルンが、いきなり苦しみ始めた。顔を歪め、お腹を両手で押さえている。それは、あまりにも分かりやすい仮病。ここにいる全員が、冷やかな目で彼女を見ている。何も知らないイルミネーニャでさえだ。


「で、殿下! これ、ちょっと――!」


 涙目で訴えるその姿は、今までに何度見てきたことか。私は、悟ったように「ふっ」と溜息をつくと、にっこりと微笑んだ。テオルンの顔が、若干晴れやかになる。それを確認して、顔を素に戻す。


「早よ、行ってこい」


 さっさと覚悟を決めろ。お前の未来はもう決まっている。


「そ、そんなああああ!」


 その愕然とした顔は、もういいから。見飽きたから。早よ行け。


「ほら、行くわよテオルン! これ持って!」

「はい……」


 こうして、己が愚策を即座に見破られたテオルン。シトエスカに土瓶と湯呑を渡され、とぼとぼと皆のその後に続いて行くのであった。まあ、取り調べの執行は、王宮に帰ってからだろう。ここでは、それを伝えるだけだ。それでも、判決は出るから、怖いことには変わりはないか。


 そして、扉の閉まる音が鳴り、私と先生以外の皆が、この食堂から出て行った。それを見送ると、おにぎりを食べている先生を眺める。


 しっかし、テオルンと知人ではくて、友人みたいな関係だったなんてねえ。驚いた。先生が、あんな感じでふざけているの、久しぶりに見たような。あと「うるさい」とかさ。あまり聞かないよ。何だか、知らない一面を見せられた感じ。


 で、私より仲が良さそうだった。気軽に軽口が叩ける間柄、みたいな。まあ、こっちは先生とその教え子だから、テオルンのように友人みたいにはならない。それは分かっているけどさ。でも――。


「リリシーナ」

「はい?」


 先生が、不意に話しかけてくる。すると、いきなり変なことを言い出した。


「お前――。何か、怒っていないか?」

「え?」


 怒っている?


「いえ……? 怒ってないですが……?」

「ふうむ。しかし、怖い顔をしておるぞ」

「えええ!?」


 私は、自分の顔を両手であちこち触る。嘘!? 何で、そんな顔してんの!?


「怒ってないですよ! ホントに!」

「なら、いいが――。テオルンの事で、何か――」


 その名前が出て、どきりとした。慌てて掌を前に突き出し、問題がないことを強調する。


「いえ! そんな事ないですから! 大丈夫です!」

「そうか」


 そう言うと、先生はそれで納得したのか、お茶漬けの用意を始めた。やばい……。何でそんな顔していたのか? それは、もちろんあれだ。だ、大丈夫かな? 今度は、顔が赤くなっていないだろうか? 私は、心を落ち着かせようと、湯呑を手に持ってお茶を飲む。


「あつ!?」


 舌に強い痛み。間違いなく火傷した。しまったあ……。ここに移る時、シトエスカが熱いお茶入れてくれてたんだったあ……。舌だけでなく顔も熱い。絶対に赤くなってる。羞恥心、ここに極まれり。


「何をやっておるのだ、お前は……」

「はははは……」


 呆れる先生に、私は笑って誤魔化す。もう気が動転して、他にいい案が浮かばない。だから、それくらいしかできなかった。ううっ。情けない……。でも、赤くなった顔の、本当の意味は隠せたから、良しとしよう。とほほ……。

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