第15話 美味しい食事
ことり――。
そわそわ感が堪らない。私が座る食卓の前に置かれた、お皿の音が掻き立てる。来た……。ついに来た! 待ちに待ったご飯の時間だああああ! テオルンとヴァレータに気を取られていたゼニシエンタが、我に返り、私に席で待つよう言ったので、颯爽と席に戻った。
すると、すぐにこの子が、目の前にお皿を置いたのだ。そのお皿の上には、緑の葉に包まれた青菜のおにぎりちゃん。こんもりとしたお山になって積まれている。
近衛騎士が手に持つその様子を見て、思っていた。私もこれが食べたいと。そしたら、案の定用意してくれてました。信じてたぞ、ゼニシエンタ!
「はああああ……」
惚れ惚れするようなそのお姿に、うっとりと溜息。か、数えちゃおっかな! えーとお――。一、二、三、四――。
ことり――。
パッと見だが、恐らくおにぎりは、五十個ほどある。だが、それを全部数える間もなく、すぐに次のお皿が置かれる。乗っているのは、ふんわりとした湯気が上がる、薄く焦げたような色をしたおにぎりの山。そう! 焼きおにぎりちゃんだあああ! あ、お焦げも良い感じであるじゃないか! 最高の焼き加減だよ、シトエスカ!
ここにあるのは、今焼き上がったばかりのものだ。元々用意してくれてたものもあるのだが、少し冷めてしまっているとの事。なら、丁度良く出来上がったこちらの方が良いと、シトエスカが言ってくれたのだ。冴え渡る気配り。ありがとうございます。
おっと、これもちゃんと数えないとね! も、ち、ろ、ん、食ーべーなーがーらー! へっへっへっへっ! 私は両手を合わせた。
「それじゃあ、いただき――!」
ことり――。
おや? これで終わりと思っていたのに、お皿がまた置かれる。その上に乗っているのは――。
「なっ!? こ、これは――!?」
その色は、焼きおにぎりと変わらない。だが、その中に見え隠れるする赤根や蒟蒻、茸。まさか――!? 私の目は見開かれた。炊き込みご飯のおにぎり――! 炊き込みおにぎりちゃんだと!?
「ふっふっふ……」
側に立つゼニシエンタから、自信ありげな笑いが漏れる。
「こちらの炊き込みおにぎり……。姫様のために、確保しておきました!」
「おお!」
素晴らしい! 素晴らしいよ、この子は! うんうん!
「実は、朝食って、炊き込みご飯だったんですよー。でも、まだ作り始めで、炊き上がったものが少なくて」
「ああ、そうだったんだ」
まあ、襲撃は早朝だったし。
「けど、姫様は、炊き込みおにぎりも、お好きですし。だから、無くなる前に別にして――、おきました!」
「でかした、ゼニシエンタ!」
お互いに、親指を立てて応え合う。
「あ、じゃあ焼きおにぎりは――」
今朝が、炊き込みご飯だったんなら、それは別で頼んだって事か。
「はい! 焼きおにぎりは、料理長にお願いしたら、そのタレをすぐに作ってくれたんです!」
「なるほどー」
ちなみに、青菜の方はというと、漬物は蓄えがあるし、ご飯の方は昨日の残りだな。夕食で余ったご飯は、早朝の料理に回される。今朝は、炊き込みご飯と白いご飯、どちらかを選べるようになっていただろう。それを持ち出してきているはず。
そうか。じゃあ、この子がいなければ、焼きおにぎりは食べれなかったと。うーむ。料理長にも感謝だが、それをお願いしてくれたゼニシエンタにも感謝ってことだな。ならば、この子には最大級の賛辞を贈りたい。
でも、私はあんまりこういうの得意じゃないからなー。ならば、言葉は陳腐でも、せめて心を込めて伝えよう。
「ありがとな、ゼニシエンタ! 流石は、私の侍従官だ!」
「はい! ありがとうございます!」
ふふ! 可愛らしい笑顔ですこと。多少は伝わってくれてるかな? 料理長にも、後でお礼を言っておかないとね。
「では、姫様――、お召し上がり下さい!」
「ああ、そうだな! じゃあ、いただきまあああす!」
改めて両手を合わせた私は、焼きおにぎりちゃんを手に持つ。少し熱いが気にしない。そのままお口へ。そして、はふはふと頬張りながら、染み込んでくるお味は――! 正油と胡麻油が染み込んだ、最高のほかほかご飯! 噛みしめれば噛みしめる程、その濃くが口の中に広がって――! お、美味しいいいいい!!
私は、堰が切れたように、食べ始める。炊き込みおにぎりや青葉のおにぎりも、万遍なく手を伸ばしていく。この子たちも美味しくってよー! おほほのほー!
味がそれぞれ違う、おにぎりちゃんたち。おかげで、飽きはこない。お茶も飲みつつ、どんどん食は進んでいく。気付けば、三つのお皿に乗ったおにぎりの山は、半分近く減っていた。
ことり――。
「ん?」
また、何かが置かれる。今度は土瓶。お茶のおかわりに持って来てくれたようだ。そう思ったのだが、少し不思議に思う。土瓶はもう一つある。それは、先ほどシトエスカが持って来てくれたもの。まだ、中身は十分に残っている。まあ、あるに越した事はないか。気にせず、おにぎりを頬張っていく。
ことり、ことり――。
「んん?」
土瓶に続いて、また何かが置かれた。そこあるのは、箸置きとその上にお箸。そして、大きめのお椀だった。え? 何で? 流石にこうなると気になってくる。私は、口の中にあるご飯を飲み込むと、その疑問を尋ねる。
「ゼニシエンタ、これは?」
「ふっふっふっ……。姫様、お食事の途中失礼します。しかし――!」
再び自信ありげに笑う彼女の目が、かっと瞠目される。
「お料理は、それだけではありませんよ! あ、ちょっとおにぎり頂きますねー」
そう言うと、焼きおにぎりを、ひょいひょいとお椀の中に入れていく。合わせて五個程。そして、その手に持った別のお椀から、一握り二握りとその上に振りかける。それは、葱や三つ葉やらを細かく切ったものだった。そして、最後に小皿に置かれる。そこには、輪切りにされた大根の漬物数切れが、乗っていた。
ま、まさか……。まさか、この子――!? 私は、そのお椀の中を見て戦いた。
「姫様。こちらの土瓶、中に温かい鶏ガラの出し汁が入っております」
「な!?」
何だとおおおお!?
「も、もしかして、それは――!」
「はい」
彼女は自信満々で頷く。
「焼きおにぎりのお茶漬け――、です!」
「何いいいい!?」
お茶漬けえええええ!?
「無論、炊き込みでもいけます! それに、出し汁は、まだまだありますから!」
ゼニシエンタああああ! 何なの、この子! 超凄い! ちょっとそういうの欲しいなって思ってたの! まるで、私の心を読んだかのよう。
彼女は、土鍋を手に取り、ゆっくりとお椀の中に注いでいく。すると、ふんわりと立ち上る湯気。透き通った出汁は、おにぎりのその身に染み込んでいく。はああああ……。
「ささ、姫様。温かい内に――」
「う、うん……」
わたしゃ、嬉しいよ。まさかこんな時でも、お茶漬けにまでありつけるとは。それもこれも、この子のおかげ。シビアナは、必要な量がどのくらいかの指示はするが、その内容まではもう詳しく言わない。これは、ゼニシエンタの仕事として経験を積ませるため。ゆくゆくは、料理全般を彼女に一任させたいからだ。
自分が何も言わないでも、動けるようにってね。今回の襲撃だって、図らずも彼女にとっていい経験になっている。このまま順調にいけば、こういう突発的な事態にも、問題なく対処できるようになっていくだろう。
そして、その日は近いと私は確信する。元々彼女は、お米に縁が少ない北都出身。おにぎりをお茶漬けにするなんて、そんな応用は知らなかったはず。お茶漬けに欠かせない、葱や三つ葉を入れるのも。それが、この状況でも出せる。
用意する時間なんて、そんなに無かっただろうに。でも、出来てるんだ。持って行くのに限られた料理の中から、知恵を絞って最良の選択を取ろうとしてくれてる。頼もしい限りだよ。
「いただくね……」
ゼニシエンタの成長を噛み締めつつ、箸を持ちお椀を持つ。そして、出し汁の染み込んだ焼きおにぎりちゃんをほぐし、お口の中に掻き込んでいく。
「~~~~っ!!」
焼きおにぎりに鶏の出し汁が合わさった温かな味が、口の中から体中に広がって包み込む。口を動かせば、葱や三つ葉の風味も合わさって――!
ヒミンツだけでなく、シビアナにも行儀が悪いと言われそうだ。だけど、足をバタバタと踏み鳴らし、身悶えしましたとも。そして、何度も頷きながら、親指立ててゼニシエンタにその美味しさを伝える。すると、彼女はにかりと笑って、今度は両手の親指を立てて応えてくれた。
「はあー……」
熱いお茶を飲むんで、ほっと一息。程なくして、私は食事を終えていた。三皿は全て我がお腹の中に。青菜漬、炊き込み、正油焼き。沢山のおにぎりちゃんたち。大変美味しゅうございました。そして、お茶漬け――。ごちそうさまでした。ゼニシエンタや他の子たちにも感謝。
その彼女たちの内、ゼニシエンタは私の配膳が終わった後、シトエスカとレイセインと一緒に、シカルアヒダへおにぎりを運んでいた。今も、近衛騎士に付き添われて、最後のお皿を持って行ったところ。戻ってくれば、彼女たちもご飯だ。
「殿下、どうぞ――」
「ありがと」
シトエスカはここに残っている。運ぶのに、もう三人もいらなかったからだ。私の湯呑にお茶を注ぐと、隣に座って彼女たちが帰ってくるのを、私と同じようにお茶を飲みながら待っている。これは、一緒にご飯を食べるため。
だから、この食卓には、沢山のおにぎりの乗ったお皿や土瓶、湯呑や取り皿などが並んでいる。ま、この殆どは、ゼニシエンタのお腹の中に消えるわけだが。
ちなみに、お椀やお箸も人数分ある。だから、自分たちもお茶漬けを食べるのだろう。なら、土瓶の中にも出し汁が入っているのもあるはず。
ふふふ! 抜け目のない子だ。当然のように、炊き込みおにぎりもあるし。やはり、こういう所は、あいつに似てきた気がするね。しかし、そのまま第二のシビアナには、ならないで欲しいもんだ。
『ぜえ、ぜえ、ぜえ――』
そして、ここには後二人座っている。テオルンとヴァレータだ。向かいの席で隣り合って、体をうつ伏せ。肩を使いながら荒い息をしていた。
騒がしかった食堂は、静かになっている。近衛騎士たちが、引き上げていったからだ。ここには、私たちだけしかいない。おかげで、彼女たちの息使いが良く響く。そして、テオルンとヴァレータがいるという事は、つまりおにぎりを作り終えたって事だ。二人とも、お疲れ様。
「ヴァレータ。結局、何個握ったんだ?」
気になったので、聞いてみる。
「はあ、はあ――。2374個です……」
「おおー」
二千の大台をかなり超えたな。これは――。地味な死、か? さっきの語呂合わせって意味は、後から分かった。259個で地獄。1564で人殺し。で、2374が地味な死。うーん、微妙だねえ。だが、二人ともぐったりしてるから、微妙に合ってる気もする。
「なあ、シトエスカ」
「はい?」
「ここに――先生のとこに来るの早かったな」
私がこの食堂に来て、既に千個以上おにぎり作ってたし。いや――。襲撃を知って準備して、この研究所にってなると、早いというより早過ぎる感の方が強い。
王宮にいたのは、シトエスカとゼニシエンタ。この二人だ。彼女たちはシビアナからの連絡で、二手に分かれて用意したはず。ゼニシエンタは、食料の用意。シトエスカは、それを運ぶ手筈。だから、この子に聞いている。
「荷物とかも、それなりにあっただろうし、何でこんなに早かったんだ?」
彼女たち自身もそうだが、そもそもご飯とかの荷物はどうやって運んだんだろう? 普段ならその役目である私もレイセインも、王宮にいなかった。近衛騎士が運んでも、こんなに早くは無理だろう。イージャンならまだしも。
「あ。イージャンか?」
だったら納得は出来る。やってのけれるはずだ。――ん? いや待て、それは何かおかしい。血相を変えて走って行ったってシヴァルイネが言ってたもんな。
私の侍従官たちを乗せて、荷物も持って、追いつけないってのは違和感がある。まあ、それでその速さっていうんなら、これはこれで凄いんだが。玉響が出てたって言うし。
「いえ。あの方は、近衛兵団へ指示を出されたりして、お忙しそうでしたから頼まなかったんです」
「そうか……」
となると、あいつは、それが終わってからこっちに来たのか。
「そういえば――」
テオルンがむくりと起き上がった。息は落ち着いている。少しは回復したようだ。
「イージャン様って、もの凄い剣幕で私たちを追い抜いて行ったよね」
「あ、そうそう」
シトエスカが同意する。あら。この子たちも出くわしてたのか。
「やはり、シビアナ様がご心配だったのでしょう」
「お互い、ぞっこんだもんねー。あの二人って喧嘩したことあるのかな? シトエスカ、知ってる?」
「どうかな? 私は知らないけど――。殿下はご存知ですか?」
二人がこっちに顔を向ける。ふむ……。言われてみれば、テオルン達みたいに口喧嘩している姿なんて、見たことないなあ。
「うーん。喧嘩は私も分からないが、イージャンがお仕置きされたところは、何度か」
直近でいえば、昨日とかね。
『あー……』
二人とも渋い顔してる。テオルンは、自分がお仕置きされた事を思い出して、それをイージャンと置き換えてんだろうな。シトエスカは、お仕置きをされたことがない。だけど、その凄惨さを知っているから、それ何かを思い出してるのかも。
「――で、誰が連れてきてくれたの?」
「ああ、申し訳ございません」
私が話を戻すと、シトエスカがそう言って答える。
「ステライ様です」
「おお――!」
だから、あいつは遅れてきたのか。まあ、父様が速過ぎるのと、二日酔いだったのもあるだろうけど。
「おかげで、王宮の守りに忙しい近衛騎士の皆様へ、護衛を頼まずに済みました」
「まあ、王の盾がいればな」
「後は、オウサ君とキルサちゃんにもお願いして、荷物を運んでもらったんです」
「ん? あの二人にもか?」
「はい。夜勤明けでカトゼへ帰るついでにですね」
シトエスカが言ったこの二人は、王宮を守護しているカトゼの武人だ。王宮を任せるだけあって、かなりの手練れ。
「それから、シヴァルイネ様にも、途中偶然出会いまして、手伝って頂きました。その後、外壁門で皆に合流して、ここに」
「ふうん……」
レイセイン、テオルン、ヴァレータ。この三人と落ち合ったんだな。
「ステライ様とは、そこで別れています」
「そっか」
だから、時間差があったのか。この研究所に来た時、私の侍従官と一緒にいなかったもん。
「二人は帰ったの? シヴァルイネしか見なかったけど」
「はい。荷物を置いてカトゼに戻りましたね」
そう言いながらゆっくり頷くと、何故か困ったように眉を歪める。
「シヴァルイネ様には、手伝って頂いたのですが、ゴトキール様を見つけられると、怖い顔をなさって――」
「ああ、あれね。見た見た」
「ふふふ!」
シトエスカは、現場にいたようだ。それを思い出したのか苦笑い。
「ある意味、シビアナ様以上だね、あれは。ホント容赦ない。ゴトキール様はよく死なないよ」
ヴァレータが、むくりと起き上がる。こっちも息が荒くない。体力が戻ってきたかな。
「確かに、あの攻撃は容赦がなかったです」
「ねー」
ヴァレータの賛同に、シトエスカが不安そうな顔になる。
「夫婦仲がよろしくないのでしょうか……。少し心配になってきました」
ふうん。あいつらの愛情表現は、この子にはそう見えているのか。まあ、確かにあれは激しいもんなあ。私は、シヴァルイネたちとのやり取りを思い出した。
「にひひひ。浮気、とか?」
「こら、ヴァレータ」
シトエスカに窘められても、悪びれもしない。そのまま、にまにまと笑っている。
「でも、あれだと可能性あるんじゃないの?」
「ま、まさか。あの方に限って――」
テオルンに言われて、シトエスカが否定する。
「あのさ。限ってって言うほど? イージャン様じゃあるまいし」
『あー……』
そして、ヴァレータの指摘で、的を射たように皆が宙を見上げる。全員、あの気の抜けたお調子者の顔を、思い浮かべてるのだろう。しょうがない。あいつの疑惑を晴らすため、ここは一つ私がその誤解を解いてやろうじゃないか。
「シヴァルイネって、今日首飾りしてただろ?」
そう言うと、テオルンは眉を歪めて首を傾げる。シトエスカは「ああ」と思い出したように呟く。
「うーん。あれは、かなりの値打ちもんだよ、姫様。小金貨五十枚は下らない」
流石ヴァレータ、目聡いな。よく見てる。
「あれって、ちょっと前にゴトキールが、何かの記念日に贈ったんだって」
『えええ!?』
皆が、意外そうに目を丸くする。おい、驚かれてるぞ、ゴトキール。
「だから、ま、浮気はしてないんじゃない?」
ヴァレータはつまんなそうに、シトエスカはほっとした表情を見せる。ふっふっふっ、これで疑惑は晴れたかな?
「いやいや。分かんないよ、殿下」
「え?」
テオルンが、眼鏡の掛かっている眉間辺りを、人差し指でクイッと押し上げる。すると、その眼鏡がきらんと光った。
「ゴトキール様は――。シヴァルイネ様に後ろめたさがあるから、高価な首飾りを贈ったのかもしれない……」
えええ!?
「嘘!? そういう事ってあるの!?」
しかも何、その男女の裏の裏を読むような感じ! そんなの出来る子じゃなかったのに! 私は、彼女の成長に戦慄した。いつの間にそんな洞察力を――!
「ふっ……。殿下……」
テオルンは、悟ったように溜息をつくと、物憂げそうに私を見つめ小首を傾げ一言。
「男女の仲って、結構えぐいよ?」
「ええええええ!?」
そうなの!?
「姫様は、純情ですもんねえ」
ヴァレータがしみじみと言う。
「なっ!?」
何おう! 私だってこれでも色々知ってるんだぞ! 色々とな! 色々!
「殿下。ヴァレータも、耳年増なだけですよ。そういう噂とか、良く仕入れていますし。テオルンは、それを真に受けて、話しているだけです」
「な、何だ。噂か……」
「あはは!」
テオルンを見ると、悪戯が上手くいったと笑っている。こ、こいつ、脅かしやがって……。急に成長したように見えたじゃないか……。
噂なんか信じちゃ駄目だ。あんなの殆どが嘘なんだからな。それを信じてたら、後で豪い目に遭う。やはり、自分の目で実際見たことが大切なのだ。
「シトエスカも純情だからなあ。この前聞いた話を、顔真っ赤にして――」
「ちょ、ちょちょちょっと! ヴァレータ!」
何その話!? 若干、興味あるんですけど! ほんのちょびっとだけ!
「あ。さっきも、おっぱい揉んだら顔赤くしてたよ?」
「テ、テオルン!!」
「にひひひ! やっぱり純情だ!」
シトエスカは、恥ずかしいのか少し頬が赤くなった。それを、ヴァレータが八重歯を出しながら、悪戯っぽく笑う。しかし、この子、人の事を何度も純情純情と言っているが――。
「ちなみに、ちょっと聞いてみるんだけど……」
三人の視線が私に集まる。ここには、私たちしかいない。はっきりさせよう。意を決した私は、恐る恐る尋ねてみる。
「この中で、シビアナやレイセインみたいに、良い仲になったのっているの?」
静まり返った食堂。その食堂が、更に深く静まり返る。そして、皆、顔を逸らし目を背けた。良かった! ここにいるのは、全員純情ちゃんでした! 私はほっと一安心。
「ん゛っ、ん゛ん゛」
ヴァレータが咳払いをして、背けた顔と話を戻す。
「でもさ、シヴァルイネ様って、そういう旦那様の浮気とかって敏感そうじゃない?」
『あー……』
三人が宙を見る。私も。大酒飲んでたのが、すぐにばれてたもんなあ。嘘が通じそうにない。隠し事をしても、すぐに見透かされそうだ。
「だったら、ゴトキール様は、もう生きてないか……」
それこそ、地の果てまで追いかけて、止めを刺すだろう。絶対にそうなる気がする。テオルンが呟いた意見に、うんうんと皆で頷く。すると、遠くで扉の開く音が聞こえる。誰かがこの食堂に来たようだ。扉の方を見やると、そこにいたのはシドー先生だった。
「先生ー! こっちですよー!」
この話は、これでおしまいだな。立ち上がった私は、手を振ってこちらに招いた。




