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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第3話 その身に起きたこと その3

「ふむ……。では、髪の毛が透明になり、それが元に戻ったというのだな?」

「はい……。そうみたいなのですが……」

「ううむ……」


 私は、自分の髪が透明になったことを話した。先生は、ちゃんと最後までその話を聞いてくれてはいたが、どうも腑に落ちない様子。それが終始続いた。今も腕を組んで唸っているし。


 ちなみに、髪の変化は復活していたが、おっぱいは小さいままだった。私の慧眼を舐めないで頂きたい。体が元に戻っている――。そう喜び勇んで、先生に背を向けすぐに覗いてみたが、戻っていないのは一目瞭然だった。それが分かった私は、歓喜から一変。憎悪がこの体を支配したよ。はっはっはっはっはっは。笑っちゃうね。


 髪の毛は戻ったのに、おっぱいは戻らない。これが、どうしても納得が出来ない私は、先生に今朝起きた状況を説明した。解決策を求めて。ただ、おっぱいの事は、話していない。取り敢えず黙っておいた。


 透明化の原因が判明すれば、このおっぱいも元に戻る方法が分かるかもしれない。だから、言わずに済むならそれに越した事ないのだ。伝えるのは時期尚早。後から言っても問題なし。故に、そういう判断を下しております。


 やっぱね、何度も言う様に、私は女の子なんですよ。女の子。自分のおっぱいが、小さくなったって告白するのは、すっごく恥ずかしいの! 頭がつるんつるんだったのがバレたも、血の涙が出るほど悔しかったってのに……。まあ、今はその醜態を晒すことがないから、取り敢えず良いけどさあ。


「で、どうでしょう、先生?」

「うーむ。初めて聞くな、そのような事……」


 あー……。やっぱ先生も初めてか。もしかしたら、何か知っているかもって、一縷いちるの希望を抱いていたんだけど。


「しかも、今のその髪を見ているとな……。俄かには信じ難い」

「ですよね」


 髪の毛が、透明になってないんだもの。証拠もなければ、説得力の欠片もない。


「ふむ。例えば――、寝ぼけておったとか」

「いえ……。それは、ないでしょう。だって、逆に目が覚めましたもん」

「ううむ……。確かにそうなるな……」


 自分の髪の毛が、全部無くなって見えるんだよ? あんなんが鏡に映ったらね、誰だってビックリ仰天して覚醒するわ。


「まあ、お前の話が本当だとして、取り敢えず原因は何のか、考察を進めてみるか」

「はい。ありがとうございます」


 では、まずこのふざけた現象を引き起こした、最有力候補からだ。


「先生。やはりこれは、あの薬のせいでしょうか?」


 豊胸の薬。ていうか、候補じゃないよね。この薬が、間違いなく諸悪の根源だよ。


「そうだな……。可能性としてはあるだろう」


 先生は、ゆっくりと頷いて肯定する。そうですよ。そうに違いない。しかし、控えめなこの言い方。髪の毛が透明になるなんて、先生でも初めての事らしいからな。慎重だ。


 確かに、薬のせいじゃない可能性もあるもんね。でも、私は絶対に薬のせいだって思っている。何故なら――。


「お前の言うあの薬は、神の悪戯を引き起こす、媒体みたいなものだったからな」

「はい」


 そう。この薬と、薬が作られた村にある、何かが合わさって神の悪戯『豊胸の薬』は出来たのだ。最後は、おっぱいが爆発して、ぺったんこになるという極悪のおまけがつくが。


 もうね、これは貧乳の薬ですよ、ホント。そして、上げて上げて一気に落とすこのやり方。最低だと思います。それから、下手すると今後の人生を悲観して、自ら命を捨てかねないこの所業。最早、悪戯などではない。犯罪である。


 だから、こんな物を創り出した悪逆非道な神は、絶対に許さない。相応しい罰をくれてやる。見つけ次第、必ず私が仕留めてくれるわ! ボッコボコにしてな!


 まあ、それはともかく、そんな不可思議な薬だったんだ。今はその効果がないとはいえ、原因と考えてしまうのは当然だろう。ていうか、これしかない。


 異論は認めないよ? 私のおっぱいも、小さくなっているんだ。これしかないだろうが! ぐううう、おんのれええええ……! 今朝の惨事を思い出したら、またさっきのように腹が立ってきた。憎悪というどす黒い炎で、はらわたが煮えくり返る。


 許せない……。神、どこにいる……? どうやったら、会える……? どうやったら、復讐が出来る……? 


「ど、どうした、リリシーナ?」


――ん? 見れば、先生はおっかなびっくりなご様子。冷や汗も一筋頬を伝っていらっしゃる。おやおや、やりきれない憎悪が、漏れ出していたようですねえ……。


「いえ。私にこんな仕打ちをした神へ、どうやって仕返ししてやろうかと考えてまして……」

「そ、そうか……」


 まあ、神への復讐は後で考えるか。今は原因を突き止めて、治療法を見つけないと。おっぱいの相談も、後回し。まずは、髪の透明化についてからだ。


「先生、すいません。話を続けましょう……」

「う、うむ……。媒体だったな」

「はい」

「確かに、媒体ではあったが――。今その薬に、豊胸の薬としての効果は果たせない。村の中でしか、その効果は出なかったからな。これはまあ、お前自身の体でも検証済みだ」

「はい……」


 ホント、私をコケにしてくれたよ。許せない……。神、どこにいる……? どうやったら、会える……? どうやったら、復讐が出来る……?


「おい……」

「ああ、すいません」


 いかんいかん。憎しみの一人連鎖が止まらない。先生は、そんな私を見て溜息をつくと話を続ける。


「話を初めに戻すぞ」

「はい」

「この薬が原因だとして――。では、何故今になって、効果が現れ出したのだ? と言うことになる。しかも、髪の透明化という別のものでな。飲んだのは、一か月くらい前の話なのであろう?」

「そうですね」


 これは、間違いないかな。そのくらいだ。覚えているよ。


「先生。それは、単純に遅効性の高い薬だったからでは?」


 まあ、遅効性といっても、効果が出るのに一カ月も掛かるなんて、そんなおっそい薬知らないけどさ。だけど、神の悪戯絡みだからね。常識は通じないんだから、有り得るんじゃないかな? しかし、そんな考えとは裏腹に、先生は首を振る。


「いや……、どうかな……。そもそも、豊胸の薬自体は遅効性ではなく、即効性が非常に高い薬だったようだ」


 ありゃ。そうなんだ。


「早い者は、飲んだ瞬間にその効果が現れたという。遅い者でも、半時は掛からなかったそうだ」

「そんなに早く……」

「うむ。そこから徐々に、大きくなっていたみたいだな」


 そっか……。きっと我が同志――小さき者達は、皆喜んだろうな。日に日に大きくなる自分のおっぱい。それをにやにやしながら、毎日眺める。それが、ぬか喜びとも知らず――。


 不憫。あまりにも、不憫だ。そして、至高なる喜びの園から、失意のどん底である地獄へ叩き落とされたその姿を想像すると、今度は胸が締め付けられる。何か泣けてきた。ううっ……。


「ただ――」

「え? ただ?」

「ああ。まあ、何事にも例外はある。大きくならなかった者もいるのだ」

「え!? そうなんですか?」

「うむ」


 驚いた。薬を飲んだ者はみな、おっぱいが大きくなっていると思ってたよ。しかし、それは辛いな。皆が大きくなっているのに、自分だけって変わらないってのはさ。そして最後は、その自分だけが危機を免れているってもの、居た堪れなかっただろう。


「何か、別の要因があったんでしょうね、それ」


 今の私みたいに、薬が変質する何かがあったはずだ。


「かもしれんな」

「ええ」


 ふむ……。ここに、何か原因を突き止める、手掛かりがありそうだよね。例外ってのは、気になるな。と、思っていたら大間違い。


「しかし、最後は皆と同じく、一緒に爆発したそうだ」

「は!? 爆発した!?」


 私の甘い期待も、木端微塵。


「うむ。そして、同じくすっとんとんに、なったそうだな」

「えええええー……」


 嘘でしょおお……。どんだけ悲惨なのよ……。これは、巨乳になった方が、居た堪れないかも。一度は経験できてるもんね。それに引き替え、その子は……。


「しかも、その爆発の規模が、かなり大きく一番酷くてな」

「えぇえええー……」


 更に酷いのかよ。おかしくない? 何で、追い打ちかけられてんの? その子は、何も悪いことしてないじゃない。おっぱいでさえ、大きくなってないんだよ? 何なのよ、死屍に鞭打つようなその仕打ちは。


「だが、これも怪我人は出なかったそうだ。偶然山菜を取りに、その娘が村の外へ出ていたのが、幸いしたらしい」

「は、はあ……。それは良かった……です」

「うむ。大事に至らず何よりだ」

「はい……」


 え? いや、いやいやいや。良くない。良くないよ。危うく流されるとこだったわ。怪我人とか関係ないって。巨乳を味わう事すらなく、大きくなった自分のおっぱいに喜んでいる者達を一人寂しく眺め、挙句の果てには村一番の大爆発だよ? 酷過ぎる。凄惨の度合いすら超えている。


 巨乳を味わえなかったってのは、私と一緒か……。だけど、症状が違う。まだましと言えよう。髪が透明になったのは、戻ってるしな。あとは、小さくなったこのおっぱいを、どうにかしなければいけないわけだが……。


「さて、話を戻そう。即効性についてであったな」

「はい」


 気を取り直して、考察を聞きますか。


「元々、滋養強壮が目的の薬であるからな。すぐに元気になるよう、効果も早く出るようになっておる。逆に、そうでなければ、あまり意味がないであろうがな。そういうのも、関係しておるのかもしれん」

「なるほど」


 滋養強壮か。もしかしたら、イージャンは、あの薬使ってないのかな? 精気がなかったもん。いや、精気どころか、まだ他にも何かシビアナに持ってかれた感じがしたな……。


 それは良いとして……。私は、恐ろしいことを思いつく。使った上で、あれだけ疲労困憊だったとしたら、一体どんな事が行われてたんだろうか……。ま、いいけど。


「即効性の薬。なら、効果はすぐに出るはず。しかし、髪の変化は、今日に至るまで起きていなかった。という事は、お前が飲んだ時点では、やはりその薬は、ただの滋養強壮薬だったのではないか?」

「そうなりますね。しかし、その効用はあまりなかったようです。元気になったって感じ、しませんでしたもん」


 鼻血も出なかったしね。


「そうか。ならば、あまりこの考えに、囚われるわけにはいかんな。とはいえ、即効性の効果が出てない事を鑑みると――」


 先生は、組んでいた腕を外し、顎を擦る。


「服用した後に、何らかの要因が更に加わって、髪を透明にする薬に変化した――そういう考えは浮かぶな」

「はい」


 その可能性が、一番高いのかな? 飲んで、二、三日じゃないんだ。一カ月くらい経っているもんね。その間に何かあったと。


「ただ、やはり推測の域は出んがな。即効性が遅効性に、変化しているのかもしれん」


 ああ。それもあり得るのか。


「長期保存が可能だったとはいえ、結構、古い薬でしたからね。その間に変質したとかはどうでしょう? 薬の効果も、その早さも」


 これだと、辻褄は合いそうだよね。もう一つ、可能性が出てきたって訳だ。


「そう言う可能性もあるな」


 先生も頷いて、私の意見に賛同した。しかし、すぐに気になる補足をする。


「だが、例えそうだとしても、それは神の悪戯ではなかったとは思うがな」

「え? 何故そう言えるんです?」

「検証済みだと言っただろう? 一か月前、シビアナから預かった豊胸の薬は、毒の類ではなかった。そして、神の悪戯でもなかったのだ」


 どういう事だろうか。確かに、不可思議な現象であれば、それは神の悪戯である可能性は非常に高い。でも、この薬は飲まないと、そうなのかどうか分からないんじゃない? うーん。


「それって、先生には神の悪戯でないと、分かるって事ですよね? ――あ。判別方法があるとか?」


 言ってて気付いた。そういう事になるよね。


「うむ。この判別方法で、ほぼ間違いないなく、見分けることが出来るだろう」

「ほほう」


 やはりあるらしい。研究は、そういう事が分かるところまで、進んでいるって事か。まさか、ローリエに飲ませたわけじゃないだろう。先生は、そんな事はしない。あるとしたら別にあるよね。


「神の悪戯に必要な力というべきもの。これはな、ある物に反応を示すのだ」


 先生は、そう言うと自分の首に掛かっていた鎖に手を掛ける。そして、その鎖がついた首飾りを外し、掌に置いて見せてくれた。私は、その掌を覗き込む。


「ジャムシルドから借りておる」


 それは赤い宝石だった。しかも、少し赤い燐光が灯っている。私はこの宝石を知っていた。


「あ。これって――」

「そうだ。『女王の御髪みぐし』だ」


 そうそう、女王の御髪。光を当てると色が変わるんだよね。月の光とか、暖炉の光とか、蝋燭の灯とかでさ。で、玲瓏石れいろうせきみたいに、宝石自体が光を放つこれは、別の名前が付いている。


「えーと。光るのって確か――」


 何か変な名前だったよね。長い名前だった。私が思い出そうとしていると、先生がすぐに教えてくれた。


「レアルカルナシフォンだな」

「ああ。そう言う名前でしたね」


 レアルカル、カル、カルナ――。長い……。レアルちゃんでいいな。前からそう呼んでたっけ。久しぶりに見たから、そう呼んでたのも忘れていた。


「これを豊胸の薬に近づけたが、反応はなかったからな」

「へえー」


 レアルちゃんって、宝石以外にそんな使い道があったんだな。


「どう反応するんです?」

「ふっ。それは秘密だ」

「えええー!?」


 いきなりの説明拒否。何でよ!? 先生の意地悪!


「すまんな、リリシーナ。一応、これは機密なのだ。しかも、禁種扱いでな」

「え!? ――そうなのですか?」

「そうだ」


 おいおい……。どうして、禁種扱いになってんのよ?


「まあ、何れ見せてやれる時も来るだろう」

「はあ……」


 そう言うと先生は、レアルちゃんを首に掛け直す。私は、じっとその様を見ていた。うーん。それって、いつになるんだろ? やっぱ、私が女王になった時とか? 禁種だもんね。しかし、おかげでこれ以上は突っ込めないな。でも、気になるー。どんな反応するんだろう?


「しかし、このレアルカルナシフォンを使って検証したとはいえ、それはお前が飲んだものとは別物だ。だから絶対とは言えぬな」

「あー。そうなりますね」


 同じ物なんだろうけどね。でも、他の瓶に入っていたものだし。断言はできないか。


「まだまだ情報が欲しいな。この様に、憶測だらけになってしまう。他に、気が付いたことはないか? この一カ月で、いつもと違うことがなかったか?」


 うーん。他に何かあったっけ? 私は、記憶を探る。すると、すぐに思い当たった。


「あ……」

「ん? あるのか?」

「はい。実は、昨日ここで髪が赤くなりましたが、それ以降、色が変化しなくなったようなのです」

「ふむ」

「昨夜、ササに言われて気付いたんです。その時は、自分の感情が抑制できるようになったと、喜んでいました。ほら、修行の時に前日できなかった事が、次の日いきなり出来るようになった事があったでしょう、私?」

「ふっ。そうだったな」


 先生は懐かしそうに目を細めた。


「あんな感じです」

「ふむ……」


 私も懐かしいな。先生と色々行ったよね。西都のさらに西にある万雷山脈とか、東都のさらに東に広がる大密林『六壬境羅りくじんきょうら』とかさ。


「最近は、髪の変化も少なくなっていましたからね。ずっと銀髪でしたし。多分それもあって、そうかなって思えたんだと――」


 だから出来てきたって、そう思った部分はあるよねえ。でも、今考えれば、昨日のあれは怪しい。変化してないってなった翌日に、こんな事になってるんだもん。


「うーむ。そうか……」


 先生は、腕を組みながらそう唸ると、考え込むようにしばらく机の上に目を落とす。しかし、何かに気付いたようにハッとして顔を上げた。


「ん? ちょっと待て……」

「はい?」

「最近は、髪の変化がないと言ったな?」

「え? ええ」

「いつからなのだ?」


 いつからって……。確か――。 


「いやまあ多分……、これも一カ月くらいは変わっていないと……」


 すると、それを聞いた先生の顔が、難しい表情に変わる。眉間に皺を寄せ、目を瞑ってその皺を揉み始めた。


「先生?」

「許せ。リリシーナ」

「え?」


 いきなり何だろう?


「失態だ……。思い込みは、それが正しければ、大きな結果を生み出す。しかし、違えば他の可能性を全て淘汰する。正解を含めてな」

「えーと。それはどういう――」

「儂は、お前が血統の力を毎日使っていると、そう思い込んでおったよ」

「え?」

「髪色の変化がない。つまり薬を飲んでから、この一カ月。血統の力を、使ってないのであろう?」

「――あ!」


 その言葉で、私もようやく気付けた。


「はい……。昨日使っただけです……」

「ふー……。そう言う事だ……」

「はあー……。ですね……」


 血統の力。昨日これを使ったから、あの薬と合わさって効果が変化したんだ。多分これで間違いない。あの力を使い、髪の色が変わらなくなり、その翌日にこんな事態へと発展してしまっている。


 そして、これだ。昨日、先生に聞き忘れてたのは。思い出したよ。これを聞かなきゃいけなかったんだ……。はあ……。何やってんだか。命に別状がないって聞いて、安心したのが良くなかったな……。


「血統の力を使っているか、きちんとお前の口から聞くべきだった。薬を得て、何か別の事象を引き起こす――。十分考えられることであったというのに」

「ああ、いえ。私も、使ったらどうなるか、聞くのを忘れていましたから」

「血統の力に慣れておくこと。お前にこう言って指導していたのが、先入観となったのであろうな」


 そうか。だから先生も、血統の力について言及しなかったんだな。既に使われてるのが前提だったんだ。それで、今まで何も変化してないんだから、問題ないって結論を出していたんだろう。


 人目に晒してはいけないが、慣れるための訓練は必要。そう言って先生は、修行していた時に毎日させていた。変わったら、取り敢えず使っとけって感じでさ。あの頃は、髪の色が変化しない日はなかったから、毎日できたんだ。これも、思い込んだ一因かも。今でも、変わったらやっているってね。


 髪がコロコロ変わっていたのも、先生にとっては――まあ、私にとってもだけど、裏目に出たわけだ。赤に変化する前は、色んな髪になってたし。それを見て、まさか一カ月も変わっていないとは、思わなかっただろう。


 ちなみに、最近の訓練は、髪の色が変化して周りに人がいなかったら、シビアナに断りを入れてやっていた。大抵、自室でやっていたから、そんなに気にしなくて良かったんだけど、先生にそうやるよう言われてたからね。きちんと守っていたのだ。


 ただ、この訓練自体、父様は良い顔しないんだよね。よく分からないけど、そもそも血統の力を使ってほしくない感じなんだ。まあ、それでも自分の為にって、訓練は続けていた。だけど――。


「最近は、テレルと会えてなかったんですよねえ……」

「ん? どういう意味だ?」

「ここのところ、あの力はテレルをビックリさせるために、その訓練がてら宴会芸として使っていたんです。ですが、ネタも溜まったものですから――」

「そうであったか……」


 次に会った時に、驚かせる分はもうあった。あとネタが尽きたんだよね。新しいのを思いつかなかったんだ。だから、力を使わなかったというのもある。


「ふっ。しかし何とも豪勢な芸だ。恐らく、それはお前しかできん。テレルは大喜びであったろうな」

「はい! そりゃあもう――!」


 ふふ! 本当に楽しかったな。テレルが驚いて目が丸くなる様子。嬉しそうに笑っているあの顔。もう一度やってと、せがんで袖を掴むあの姿――。こっちも頑張って訓練した甲斐があったってもんさ。思い出すと自然と私の顔もにやけてくる。――あ。もう一つ思い出した。


「そう言えば、赤の前――黄色の髪の時も、力を使いましたね」

「黄色の髪? というと固態干渉か」

「はい」

「何に使った?」


 おっと。これは、言葉を濁すしかないな。イージャンの事は、言わない方が良いだろう。


「あー……。ローリエのお菓子を、こうポーンと口に」


 私は、自分の手を頭の上まで持ち上げて、仰向いた口に落とす。


「またお前は、行儀の悪い事を……」

「うっ。ごめんなさい」

 

 先生に睨まれて、素直に謝った。これ、シビアナにも怒られたよね。


「しかし、儂は気付かなかったな」

「ああ、ホント少ししか使ってないんです。薄らとでしたから」

「ふむ……。薬の変質が、髪の変化を留めるとすれば――。引き起こすのには、その力が足りなかったのかもしれんな」


 そうかも。血統の力を使っても、そのあとに髪は赤く変わっているからね。


「そして、身体強化に使った力量で、変化に至ったか……」

「なるほど」


 とはいえ、身体強化も、そこまで力使ってないんだけどなあ。まあ、どれくらいで薬の効果が変化するか分からないか。


「もしくは、二つの力を使ったからかもしれんが……」

「ああ。そういう可能性もありますね」

「うむ」


 多分、身体強化と固態干渉は、違う力なんだろう。赤色の髪の時は、自分の体しか変化しないし。逆も然りだ。こう考えれば、二つの力が必要だったと頷けるか。


「まあ、どちらにせよ、その変化の原因は――」

「血統の力、ですね」

「うむ。そうなるだろうな」


 私達は、お互い何度か頷き合った。


「しかし、それは一時的なものでありそうだな。髪は、また変化を起している」

「え?」

「黄色になっておるぞ」

「わ。ホントだ」


 私は、黄色に変化した三つ編みを手に持った。きっと、これはテレルの事を考えてたからだな。あの子の事を思い出して、とっても嬉しかったもの。


「さっきは、紫色だったがな……」

「え?」


 それは、気付かなかったな。今の髪型は、後ろで全部纏めて三つ編みにしているしね。これだと、今みたいに三つ編みを手に取らなければ、色の確認できない。ああ。おっぱいが元に戻っていないと分かった時かな? 憎悪に身を焦がしましたもの。紫系は、そういう感情を示す。 


 いやあ、戻ってるなあ。ころころと変化しているみたいだ。これはもう、髪の毛は大丈夫のようだな。透明化は、先生の言う通り一過性のものだったらしい。後は、肝心のおっぱいなわけだが……。そう。これも大問題だ。


 でも、思うんだけど……。出し抜けに、暗闇に引き込むような不安が、私を襲う。解決法が何も見つからなかったら、どうしよう……。これが、非常に非常に懸念される。先生しか、頼れる人がいない以上、ここで解決できなければ、私のおっぱいは小さいままなのだ。


 ただ、おっぱいも勝手に元に戻る可能性がある。髪の毛より、時間が掛かるってだけでね。こうであれば、非常に非常にありがたいのだが……。


「うーむ。しかし――」

「え?」


 考え込んでいた私は、手に持っている三つ編みから顔を移す。すると、先生は宙を睨み、真剣な面持ち。そちらも何か、長考しているように見えていた。


「少し気になる……」

「先生?」

「試してみよう」

 

 え? 何をだろう? 疑問に思っていると、先生の首と視線がずれる。それは、私の背後へと移った。


「すまんが、手伝ってくれ。――シビアナ(・・・・)

「ええっ!!?」


 それは、もう条件反射だ。私は、すぐさま後ろに振り返った。

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