第3話 その身に起きたこと その3
「ふむ……。では、髪の毛が透明になり、それが元に戻ったというのだな?」
「はい……。そうみたいなのですが……」
「ううむ……」
私は、自分の髪が透明になったことを話した。先生は、ちゃんと最後までその話を聞いてくれてはいたが、どうも腑に落ちない様子。それが終始続いた。今も腕を組んで唸っているし。
ちなみに、髪の変化は復活していたが、おっぱいは小さいままだった。私の慧眼を舐めないで頂きたい。体が元に戻っている――。そう喜び勇んで、先生に背を向けすぐに覗いてみたが、戻っていないのは一目瞭然だった。それが分かった私は、歓喜から一変。憎悪がこの体を支配したよ。はっはっはっはっはっは。笑っちゃうね。
髪の毛は戻ったのに、おっぱいは戻らない。これが、どうしても納得が出来ない私は、先生に今朝起きた状況を説明した。解決策を求めて。ただ、おっぱいの事は、話していない。取り敢えず黙っておいた。
透明化の原因が判明すれば、このおっぱいも元に戻る方法が分かるかもしれない。だから、言わずに済むならそれに越した事ないのだ。伝えるのは時期尚早。後から言っても問題なし。故に、そういう判断を下しております。
やっぱね、何度も言う様に、私は女の子なんですよ。女の子。自分のおっぱいが、小さくなったって告白するのは、すっごく恥ずかしいの! 頭がつるんつるんだったのがバレたも、血の涙が出るほど悔しかったってのに……。まあ、今はその醜態を晒すことがないから、取り敢えず良いけどさあ。
「で、どうでしょう、先生?」
「うーむ。初めて聞くな、そのような事……」
あー……。やっぱ先生も初めてか。もしかしたら、何か知っているかもって、一縷の希望を抱いていたんだけど。
「しかも、今のその髪を見ているとな……。俄かには信じ難い」
「ですよね」
髪の毛が、透明になってないんだもの。証拠もなければ、説得力の欠片もない。
「ふむ。例えば――、寝ぼけておったとか」
「いえ……。それは、ないでしょう。だって、逆に目が覚めましたもん」
「ううむ……。確かにそうなるな……」
自分の髪の毛が、全部無くなって見えるんだよ? あんなんが鏡に映ったらね、誰だってビックリ仰天して覚醒するわ。
「まあ、お前の話が本当だとして、取り敢えず原因は何のか、考察を進めてみるか」
「はい。ありがとうございます」
では、まずこのふざけた現象を引き起こした、最有力候補からだ。
「先生。やはりこれは、あの薬のせいでしょうか?」
豊胸の薬。ていうか、候補じゃないよね。この薬が、間違いなく諸悪の根源だよ。
「そうだな……。可能性としてはあるだろう」
先生は、ゆっくりと頷いて肯定する。そうですよ。そうに違いない。しかし、控えめなこの言い方。髪の毛が透明になるなんて、先生でも初めての事らしいからな。慎重だ。
確かに、薬のせいじゃない可能性もあるもんね。でも、私は絶対に薬のせいだって思っている。何故なら――。
「お前の言うあの薬は、神の悪戯を引き起こす、媒体みたいなものだったからな」
「はい」
そう。この薬と、薬が作られた村にある、何かが合わさって神の悪戯『豊胸の薬』は出来たのだ。最後は、おっぱいが爆発して、ぺったんこになるという極悪のおまけがつくが。
もうね、これは貧乳の薬ですよ、ホント。そして、上げて上げて一気に落とすこのやり方。最低だと思います。それから、下手すると今後の人生を悲観して、自ら命を捨てかねないこの所業。最早、悪戯などではない。犯罪である。
だから、こんな物を創り出した悪逆非道な神は、絶対に許さない。相応しい罰をくれてやる。見つけ次第、必ず私が仕留めてくれるわ! ボッコボコにしてな!
まあ、それはともかく、そんな不可思議な薬だったんだ。今はその効果がないとはいえ、原因と考えてしまうのは当然だろう。ていうか、これしかない。
異論は認めないよ? 私のおっぱいも、小さくなっているんだ。これしかないだろうが! ぐううう、おんのれええええ……! 今朝の惨事を思い出したら、またさっきのように腹が立ってきた。憎悪というどす黒い炎で、腸が煮えくり返る。
許せない……。神、どこにいる……? どうやったら、会える……? どうやったら、復讐が出来る……?
「ど、どうした、リリシーナ?」
――ん? 見れば、先生はおっかなびっくりなご様子。冷や汗も一筋頬を伝っていらっしゃる。おやおや、やりきれない憎悪が、漏れ出していたようですねえ……。
「いえ。私にこんな仕打ちをした神へ、どうやって仕返ししてやろうかと考えてまして……」
「そ、そうか……」
まあ、神への復讐は後で考えるか。今は原因を突き止めて、治療法を見つけないと。おっぱいの相談も、後回し。まずは、髪の透明化についてからだ。
「先生、すいません。話を続けましょう……」
「う、うむ……。媒体だったな」
「はい」
「確かに、媒体ではあったが――。今その薬に、豊胸の薬としての効果は果たせない。村の中でしか、その効果は出なかったからな。これはまあ、お前自身の体でも検証済みだ」
「はい……」
ホント、私をコケにしてくれたよ。許せない……。神、どこにいる……? どうやったら、会える……? どうやったら、復讐が出来る……?
「おい……」
「ああ、すいません」
いかんいかん。憎しみの一人連鎖が止まらない。先生は、そんな私を見て溜息をつくと話を続ける。
「話を初めに戻すぞ」
「はい」
「この薬が原因だとして――。では、何故今になって、効果が現れ出したのだ? と言うことになる。しかも、髪の透明化という別のものでな。飲んだのは、一か月くらい前の話なのであろう?」
「そうですね」
これは、間違いないかな。そのくらいだ。覚えているよ。
「先生。それは、単純に遅効性の高い薬だったからでは?」
まあ、遅効性といっても、効果が出るのに一カ月も掛かるなんて、そんなおっそい薬知らないけどさ。だけど、神の悪戯絡みだからね。常識は通じないんだから、有り得るんじゃないかな? しかし、そんな考えとは裏腹に、先生は首を振る。
「いや……、どうかな……。そもそも、豊胸の薬自体は遅効性ではなく、即効性が非常に高い薬だったようだ」
ありゃ。そうなんだ。
「早い者は、飲んだ瞬間にその効果が現れたという。遅い者でも、半時は掛からなかったそうだ」
「そんなに早く……」
「うむ。そこから徐々に、大きくなっていたみたいだな」
そっか……。きっと我が同志――小さき者達は、皆喜んだろうな。日に日に大きくなる自分のおっぱい。それをにやにやしながら、毎日眺める。それが、ぬか喜びとも知らず――。
不憫。あまりにも、不憫だ。そして、至高なる喜びの園から、失意のどん底である地獄へ叩き落とされたその姿を想像すると、今度は胸が締め付けられる。何か泣けてきた。ううっ……。
「ただ――」
「え? ただ?」
「ああ。まあ、何事にも例外はある。大きくならなかった者もいるのだ」
「え!? そうなんですか?」
「うむ」
驚いた。薬を飲んだ者は皆、おっぱいが大きくなっていると思ってたよ。しかし、それは辛いな。皆が大きくなっているのに、自分だけって変わらないってのはさ。そして最後は、その自分だけが危機を免れているってもの、居た堪れなかっただろう。
「何か、別の要因があったんでしょうね、それ」
今の私みたいに、薬が変質する何かがあったはずだ。
「かもしれんな」
「ええ」
ふむ……。ここに、何か原因を突き止める、手掛かりがありそうだよね。例外ってのは、気になるな。と、思っていたら大間違い。
「しかし、最後は皆と同じく、一緒に爆発したそうだ」
「は!? 爆発した!?」
私の甘い期待も、木端微塵。
「うむ。そして、同じくすっとんとんに、なったそうだな」
「えええええー……」
嘘でしょおお……。どんだけ悲惨なのよ……。これは、巨乳になった方が、居た堪れないかも。一度は経験できてるもんね。それに引き替え、その子は……。
「しかも、その爆発の規模が、かなり大きく一番酷くてな」
「えぇえええー……」
更に酷いのかよ。おかしくない? 何で、追い打ちかけられてんの? その子は、何も悪いことしてないじゃない。おっぱいでさえ、大きくなってないんだよ? 何なのよ、死屍に鞭打つようなその仕打ちは。
「だが、これも怪我人は出なかったそうだ。偶然山菜を取りに、その娘が村の外へ出ていたのが、幸いしたらしい」
「は、はあ……。それは良かった……です」
「うむ。大事に至らず何よりだ」
「はい……」
え? いや、いやいやいや。良くない。良くないよ。危うく流されるとこだったわ。怪我人とか関係ないって。巨乳を味わう事すらなく、大きくなった自分のおっぱいに喜んでいる者達を一人寂しく眺め、挙句の果てには村一番の大爆発だよ? 酷過ぎる。凄惨の度合いすら超えている。
巨乳を味わえなかったってのは、私と一緒か……。だけど、症状が違う。まだましと言えよう。髪が透明になったのは、戻ってるしな。あとは、小さくなったこのおっぱいを、どうにかしなければいけないわけだが……。
「さて、話を戻そう。即効性についてであったな」
「はい」
気を取り直して、考察を聞きますか。
「元々、滋養強壮が目的の薬であるからな。すぐに元気になるよう、効果も早く出るようになっておる。逆に、そうでなければ、あまり意味がないであろうがな。そういうのも、関係しておるのかもしれん」
「なるほど」
滋養強壮か。もしかしたら、イージャンは、あの薬使ってないのかな? 精気がなかったもん。いや、精気どころか、まだ他にも何かシビアナに持ってかれた感じがしたな……。
それは良いとして……。私は、恐ろしいことを思いつく。使った上で、あれだけ疲労困憊だったとしたら、一体どんな事が行われてたんだろうか……。ま、いいけど。
「即効性の薬。なら、効果はすぐに出るはず。しかし、髪の変化は、今日に至るまで起きていなかった。という事は、お前が飲んだ時点では、やはりその薬は、ただの滋養強壮薬だったのではないか?」
「そうなりますね。しかし、その効用はあまりなかったようです。元気になったって感じ、しませんでしたもん」
鼻血も出なかったしね。
「そうか。ならば、あまりこの考えに、囚われるわけにはいかんな。とはいえ、即効性の効果が出てない事を鑑みると――」
先生は、組んでいた腕を外し、顎を擦る。
「服用した後に、何らかの要因が更に加わって、髪を透明にする薬に変化した――そういう考えは浮かぶな」
「はい」
その可能性が、一番高いのかな? 飲んで、二、三日じゃないんだ。一カ月くらい経っているもんね。その間に何かあったと。
「ただ、やはり推測の域は出んがな。即効性が遅効性に、変化しているのかもしれん」
ああ。それもあり得るのか。
「長期保存が可能だったとはいえ、結構、古い薬でしたからね。その間に変質したとかはどうでしょう? 薬の効果も、その早さも」
これだと、辻褄は合いそうだよね。もう一つ、可能性が出てきたって訳だ。
「そう言う可能性もあるな」
先生も頷いて、私の意見に賛同した。しかし、すぐに気になる補足をする。
「だが、例えそうだとしても、それは神の悪戯ではなかったとは思うがな」
「え? 何故そう言えるんです?」
「検証済みだと言っただろう? 一か月前、シビアナから預かった豊胸の薬は、毒の類ではなかった。そして、神の悪戯でもなかったのだ」
どういう事だろうか。確かに、不可思議な現象であれば、それは神の悪戯である可能性は非常に高い。でも、この薬は飲まないと、そうなのかどうか分からないんじゃない? うーん。
「それって、先生には神の悪戯でないと、分かるって事ですよね? ――あ。判別方法があるとか?」
言ってて気付いた。そういう事になるよね。
「うむ。この判別方法で、ほぼ間違いないなく、見分けることが出来るだろう」
「ほほう」
やはりあるらしい。研究は、そういう事が分かるところまで、進んでいるって事か。まさか、ローリエに飲ませたわけじゃないだろう。先生は、そんな事はしない。あるとしたら別にあるよね。
「神の悪戯に必要な力というべきもの。これはな、ある物に反応を示すのだ」
先生は、そう言うと自分の首に掛かっていた鎖に手を掛ける。そして、その鎖がついた首飾りを外し、掌に置いて見せてくれた。私は、その掌を覗き込む。
「ジャムシルドから借りておる」
それは赤い宝石だった。しかも、少し赤い燐光が灯っている。私はこの宝石を知っていた。
「あ。これって――」
「そうだ。『女王の御髪』だ」
そうそう、女王の御髪。光を当てると色が変わるんだよね。月の光とか、暖炉の光とか、蝋燭の灯とかでさ。で、玲瓏石みたいに、宝石自体が光を放つこれは、別の名前が付いている。
「えーと。光るのって確か――」
何か変な名前だったよね。長い名前だった。私が思い出そうとしていると、先生がすぐに教えてくれた。
「レアルカルナシフォンだな」
「ああ。そう言う名前でしたね」
レアルカル、カル、カルナ――。長い……。レアルちゃんでいいな。前からそう呼んでたっけ。久しぶりに見たから、そう呼んでたのも忘れていた。
「これを豊胸の薬に近づけたが、反応はなかったからな」
「へえー」
レアルちゃんって、宝石以外にそんな使い道があったんだな。
「どう反応するんです?」
「ふっ。それは秘密だ」
「えええー!?」
いきなりの説明拒否。何でよ!? 先生の意地悪!
「すまんな、リリシーナ。一応、これは機密なのだ。しかも、禁種扱いでな」
「え!? ――そうなのですか?」
「そうだ」
おいおい……。どうして、禁種扱いになってんのよ?
「まあ、何れ見せてやれる時も来るだろう」
「はあ……」
そう言うと先生は、レアルちゃんを首に掛け直す。私は、じっとその様を見ていた。うーん。それって、いつになるんだろ? やっぱ、私が女王になった時とか? 禁種だもんね。しかし、おかげでこれ以上は突っ込めないな。でも、気になるー。どんな反応するんだろう?
「しかし、このレアルカルナシフォンを使って検証したとはいえ、それはお前が飲んだものとは別物だ。だから絶対とは言えぬな」
「あー。そうなりますね」
同じ物なんだろうけどね。でも、他の瓶に入っていたものだし。断言はできないか。
「まだまだ情報が欲しいな。この様に、憶測だらけになってしまう。他に、気が付いたことはないか? この一カ月で、いつもと違うことがなかったか?」
うーん。他に何かあったっけ? 私は、記憶を探る。すると、すぐに思い当たった。
「あ……」
「ん? あるのか?」
「はい。実は、昨日ここで髪が赤くなりましたが、それ以降、色が変化しなくなったようなのです」
「ふむ」
「昨夜、ササに言われて気付いたんです。その時は、自分の感情が抑制できるようになったと、喜んでいました。ほら、修行の時に前日できなかった事が、次の日いきなり出来るようになった事があったでしょう、私?」
「ふっ。そうだったな」
先生は懐かしそうに目を細めた。
「あんな感じです」
「ふむ……」
私も懐かしいな。先生と色々行ったよね。西都のさらに西にある万雷山脈とか、東都のさらに東に広がる大密林『六壬境羅』とかさ。
「最近は、髪の変化も少なくなっていましたからね。ずっと銀髪でしたし。多分それもあって、そうかなって思えたんだと――」
だから出来てきたって、そう思った部分はあるよねえ。でも、今考えれば、昨日のあれは怪しい。変化してないってなった翌日に、こんな事になってるんだもん。
「うーむ。そうか……」
先生は、腕を組みながらそう唸ると、考え込むようにしばらく机の上に目を落とす。しかし、何かに気付いたようにハッとして顔を上げた。
「ん? ちょっと待て……」
「はい?」
「最近は、髪の変化がないと言ったな?」
「え? ええ」
「いつからなのだ?」
いつからって……。確か――。
「いやまあ多分……、これも一カ月くらいは変わっていないと……」
すると、それを聞いた先生の顔が、難しい表情に変わる。眉間に皺を寄せ、目を瞑ってその皺を揉み始めた。
「先生?」
「許せ。リリシーナ」
「え?」
いきなり何だろう?
「失態だ……。思い込みは、それが正しければ、大きな結果を生み出す。しかし、違えば他の可能性を全て淘汰する。正解を含めてな」
「えーと。それはどういう――」
「儂は、お前が血統の力を毎日使っていると、そう思い込んでおったよ」
「え?」
「髪色の変化がない。つまり薬を飲んでから、この一カ月。血統の力を、使ってないのであろう?」
「――あ!」
その言葉で、私もようやく気付けた。
「はい……。昨日使っただけです……」
「ふー……。そう言う事だ……」
「はあー……。ですね……」
血統の力。昨日これを使ったから、あの薬と合わさって効果が変化したんだ。多分これで間違いない。あの力を使い、髪の色が変わらなくなり、その翌日にこんな事態へと発展してしまっている。
そして、これだ。昨日、先生に聞き忘れてたのは。思い出したよ。これを聞かなきゃいけなかったんだ……。はあ……。何やってんだか。命に別状がないって聞いて、安心したのが良くなかったな……。
「血統の力を使っているか、きちんとお前の口から聞くべきだった。薬を得て、何か別の事象を引き起こす――。十分考えられることであったというのに」
「ああ、いえ。私も、使ったらどうなるか、聞くのを忘れていましたから」
「血統の力に慣れておくこと。お前にこう言って指導していたのが、先入観となったのであろうな」
そうか。だから先生も、血統の力について言及しなかったんだな。既に使われてるのが前提だったんだ。それで、今まで何も変化してないんだから、問題ないって結論を出していたんだろう。
人目に晒してはいけないが、慣れるための訓練は必要。そう言って先生は、修行していた時に毎日させていた。変わったら、取り敢えず使っとけって感じでさ。あの頃は、髪の色が変化しない日はなかったから、毎日できたんだ。これも、思い込んだ一因かも。今でも、変わったらやっているってね。
髪がコロコロ変わっていたのも、先生にとっては――まあ、私にとってもだけど、裏目に出たわけだ。赤に変化する前は、色んな髪になってたし。それを見て、まさか一カ月も変わっていないとは、思わなかっただろう。
ちなみに、最近の訓練は、髪の色が変化して周りに人がいなかったら、シビアナに断りを入れてやっていた。大抵、自室でやっていたから、そんなに気にしなくて良かったんだけど、先生にそうやるよう言われてたからね。きちんと守っていたのだ。
ただ、この訓練自体、父様は良い顔しないんだよね。よく分からないけど、そもそも血統の力を使ってほしくない感じなんだ。まあ、それでも自分の為にって、訓練は続けていた。だけど――。
「最近は、テレルと会えてなかったんですよねえ……」
「ん? どういう意味だ?」
「ここのところ、あの力はテレルをビックリさせるために、その訓練がてら宴会芸として使っていたんです。ですが、ネタも溜まったものですから――」
「そうであったか……」
次に会った時に、驚かせる分はもうあった。あとネタが尽きたんだよね。新しいのを思いつかなかったんだ。だから、力を使わなかったというのもある。
「ふっ。しかし何とも豪勢な芸だ。恐らく、それはお前しかできん。テレルは大喜びであったろうな」
「はい! そりゃあもう――!」
ふふ! 本当に楽しかったな。テレルが驚いて目が丸くなる様子。嬉しそうに笑っているあの顔。もう一度やってと、せがんで袖を掴むあの姿――。こっちも頑張って訓練した甲斐があったってもんさ。思い出すと自然と私の顔もにやけてくる。――あ。もう一つ思い出した。
「そう言えば、赤の前――黄色の髪の時も、力を使いましたね」
「黄色の髪? というと固態干渉か」
「はい」
「何に使った?」
おっと。これは、言葉を濁すしかないな。イージャンの事は、言わない方が良いだろう。
「あー……。ローリエのお菓子を、こうポーンと口に」
私は、自分の手を頭の上まで持ち上げて、仰向いた口に落とす。
「またお前は、行儀の悪い事を……」
「うっ。ごめんなさい」
先生に睨まれて、素直に謝った。これ、シビアナにも怒られたよね。
「しかし、儂は気付かなかったな」
「ああ、ホント少ししか使ってないんです。薄らとでしたから」
「ふむ……。薬の変質が、髪の変化を留めるとすれば――。引き起こすのには、その力が足りなかったのかもしれんな」
そうかも。血統の力を使っても、そのあとに髪は赤く変わっているからね。
「そして、身体強化に使った力量で、変化に至ったか……」
「なるほど」
とはいえ、身体強化も、そこまで力使ってないんだけどなあ。まあ、どれくらいで薬の効果が変化するか分からないか。
「もしくは、二つの力を使ったからかもしれんが……」
「ああ。そういう可能性もありますね」
「うむ」
多分、身体強化と固態干渉は、違う力なんだろう。赤色の髪の時は、自分の体しか変化しないし。逆も然りだ。こう考えれば、二つの力が必要だったと頷けるか。
「まあ、どちらにせよ、その変化の原因は――」
「血統の力、ですね」
「うむ。そうなるだろうな」
私達は、お互い何度か頷き合った。
「しかし、それは一時的なものでありそうだな。髪は、また変化を起している」
「え?」
「黄色になっておるぞ」
「わ。ホントだ」
私は、黄色に変化した三つ編みを手に持った。きっと、これはテレルの事を考えてたからだな。あの子の事を思い出して、とっても嬉しかったもの。
「さっきは、紫色だったがな……」
「え?」
それは、気付かなかったな。今の髪型は、後ろで全部纏めて三つ編みにしているしね。これだと、今みたいに三つ編みを手に取らなければ、色の確認できない。ああ。おっぱいが元に戻っていないと分かった時かな? 憎悪に身を焦がしましたもの。紫系は、そういう感情を示す。
いやあ、戻ってるなあ。ころころと変化しているみたいだ。これはもう、髪の毛は大丈夫のようだな。透明化は、先生の言う通り一過性のものだったらしい。後は、肝心のおっぱいなわけだが……。そう。これも大問題だ。
でも、思うんだけど……。出し抜けに、暗闇に引き込むような不安が、私を襲う。解決法が何も見つからなかったら、どうしよう……。これが、非常に非常に懸念される。先生しか、頼れる人がいない以上、ここで解決できなければ、私のおっぱいは小さいままなのだ。
ただ、おっぱいも勝手に元に戻る可能性がある。髪の毛より、時間が掛かるってだけでね。こうであれば、非常に非常にありがたいのだが……。
「うーむ。しかし――」
「え?」
考え込んでいた私は、手に持っている三つ編みから顔を移す。すると、先生は宙を睨み、真剣な面持ち。そちらも何か、長考しているように見えていた。
「少し気になる……」
「先生?」
「試してみよう」
え? 何をだろう? 疑問に思っていると、先生の首と視線がずれる。それは、私の背後へと移った。
「すまんが、手伝ってくれ。――シビアナ」
「ええっ!!?」
それは、もう条件反射だ。私は、すぐさま後ろに振り返った。




