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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第四章 おっぱい慟哭編
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第2話 その身に起きたこと その2

「ああ。そうだ、リリシーナ」

「はい?」 


 研究室に向かっていると、先生が思い出したように自分の腕を見た。


「至極天を外してくるから、先に行っておれ」

「分かりました」


 そりゃそうだ。至極天は邪魔になるもんね。腕には、まだ銀色の腕甲が着いたまま。話をするのには、いらないだろう。先生は、分厚い籠手で覆われた手であるのにも関わらず、器用に懐へと伸ばす。そして、そこから黒い金属で出来た鍵を、取り出した。


「ほれ。研究室の鍵だ」

「はい。ありがとうございます」


 その鍵を受け取った私は、ここで一旦先生と別れた。先生は一階の奥へ。私は、階段を上って二階を目指す。昨日、先生と話していた研究室は、この研究所の二階にある。


 その手前の部屋は、五つの部屋をぶち抜いて一つの大きな部屋になっている。図書館のような資料室だ。二階に辿り着いた私が、そこを通り過ぎていくと、状態は昨日訪れた時と変わらない事に気付く。荒らされたり争ったような形跡はない。大量の本は、それなりに整理されたままだ。


 襲撃は、ここまで及んで無いみたい。それはいいとして、ここはローリエが綺麗にしてるのかな? あの子は、先生の婚約者だけど、助手でもあるからね。ふーむ。でも、ここを掃除するのは、あの子一人じゃあ骨が折れそうだなあ。それに、部屋は他にもあるからねえ……。


 そんな事を思いながら、研究室に到着。先生に貰った鍵を使い、その扉をゆっくりと開けると、中の様子を確認した。一応、気をつけないと。もしかしたら、襲撃者の残党が潜んでいるかもしれないし。


 だが、研究室も昨日と変わらない様に見えた。ここも、荒らされた形跡はない。広い室内は、相変わらず様々な物が溢れ返っている。縦積みにされた本の山々。その上には変な顔をしたお面たち。


 そして、古そうな剣や槍、綺麗な宝石が埋まった杖が、そのあたりに幾つも立て掛けられている。一見すると、その一面が様々な色が使われた絵画ような大きい箱も、床に何個か転がっていた。


 奥にある書斎机の上にも本の山だ。ここも変わらない。ただ、中央にある大きな机は、昨日と違う。何やら実験するための器具のようなものがある。透明の硝子で出来た湯呑や小皿が少々。薬剤が入っているだろう瓶。


 あとは、天秤ばかりとか――、資料とか本も数冊あるな。それに、鷲羽の筆。墨壺。手鏡。数枚の紙切れ――。うーん。これでどんな実験するんだろうね。


「ん?」


 私は、一枚の紙切れに目がいった。紙切れと言っても大きいな。実際手に持ってみると、両端は少し腕を広げなければ持てなかった。そこには、見たことのない模様と文字が書いてある。模様はよく分からんが、文字の方は読めるな。この国の文字だ。単語が順々と書き連ねてあった。


「ふぁ・い・あ……。ふ・れ・い・む……。ぶ・れ・え・ず……」


 んー? 首を傾げる。どういう意味なんだろうか? 傍に走り書きで一言注釈がある。


「炎――」


 炎ねえ……。何の事やら。手に持ったその紙切れを元に戻すと、室内を見渡した。物が沢山あっても、まだまだ広々としている。


「一応、見ておくか……」


 まずは、このお部屋の確認である。扉の鍵は掛かっていた。窓の鍵も掛かっている。とはいえ、襲撃者の残党が、忍び込んでいるかもしれない。この可能性は捨てきれないだろう。私は調査を開始。人が隠れられそうな場所は、隈なく探さなければな。


 間合いに入っていれば、人の気配は分かるんだけどね。まあ、何か変な物があるかもしれないし。それに、もしシビアナが潜んでいたら――。うう! 背筋に一瞬悪寒が走る。恐ろしや……。うん……。ちゃんと確認しておこう……。


「ええっとお……」


 うろちょろしながら調べていく。山積みされた本の後ろを覗いてみたり、箱の中を開けてみたり。すると、ふと気付く。本の上に置かれた仮面だ。じーっと見つめてくるその仮面。目はくり抜かれているが、口は噤まれている。あと、花や鳥なんかの模様が、顔全体に入っているな。色もついて華やかだ。


 先程の白い仮面のような嫌な感じはしないが、不気味ではある。暗くなった双眸が、ちょっと怖い。この仮面の後ろに、シビアナがいそう。なんてね――。そんな考えが、不意によぎる。


「は、はははは……。いやいやいや。まさか。まさかね……」


 そう首を振りつつも、どんどん高まる確信。やりそうだ……。私を驚かせるためなら、あいつはこういう事を嬉々としてやる。そして、相変わらず見つめてくる無言の仮面。それを見つめ返す私。怖い……。


「…………」


 静まり続ける室内。時が過ぎているのかも分からない。私と仮面以外は、止まっているようだ。そんな静寂も不安を煽ってくる。ていうか、物音さえ聞こえないんですけど……。え? いるよね、近衛騎士? 下の階にさ。


 しかし、私は気付く。こんな不安、払拭してやればいいだけの事。その後ろを確認すればいいのだ。その考えを実行に移すべく、仮面へと近づいていく。その仮面は、本の山に囲まれ、その上に立て掛けられてある。若干見上げなければならない。


 しかし、これなら姿を隠すのに、持って来いだ。とはいえ、ここは既に私の間合い。人の気配は、全くしなかった。うん、大丈夫、大丈夫……。


「…………」


 い、一応ね、一応……。その仮面を持ち上げようと、恐る恐る手を伸ばす。


「はあ、はあ、はあ……」


 何故か、息が荒くなる。そして、仮面の端と端を両手で持った。これで持ち上げられる。よ、よし、やるぞ!


「せい!」


 掛け声とともに仮面を持ち上げ、勢いよく取り払った。


「ひい!?」


 すると、取り払ったその場所にもう一つのお顔が。中にもう一つ、小さめの仮面があったのだ。せ、せんせええええええええええ! どうして、こういう置き方をした!? ビックリするでしょうが! しかも、その小さめの仮面は女性の顔。そこはかとなく、シビアナに似ている気がする。髪も描かれ、その髪の色は紫だし。


「はあ……」


 何て性質の悪い……。お前たちは、あっちを向いていろ。私は、仮面をひっくり返して置き直す。他の奴も同じようにひっくり返しておいた。そして、再び捜索に戻る。しばらくすると、先生が扉を開けてこの部屋に入って来た。


「ん? 何をしておるのだ?」

「いえ……。襲撃者が、隠れているのではと。思いまし、て……」


 ここで一応最後だな。縦積みにされた本の後ろを、背伸びして覗きこみながら答えた。


「ふむ。確かにここは見ておらんだろうな。他は、近衛騎士が調べてくれたがな」

「そうですか」


 よし。不審な物も見当たらない。上げていた踵を下した。先生は、特注の大きな椅子にドンと腰を掛けると、立っていた私にも座るよう促すように手招きする。しかし、私はそれに従わず、窓へと向かう。そして、薄い布で出来た窓掛けを次々に閉めていく。


 もちろん、外から私の姿が見えない様に、隠れながら素早くだ。顔を、少しだけ窓から出して中庭の様子を窺い、手早く窓掛けをシャアっと引いていく。


「何故、窓掛けを閉める?」


 先生が、訝しげに尋ねてきた。


「いえ……。襲撃者が襲ってくる可能性もありますし」


 そう適当な嘘を言いつつも、壁に背を当て体を隠し、ちらりちらりと窓から外の様子を窺う。シビアナはいないだろうな……。


「…………そうか」


 先生は、ぽつりと呟く。ちなみに、中庭にはもう人の姿はなかった。シカルアヒダの一団も近衛騎士も、研究所へ入ったようだ。イルミネーニャは玄関へ行ったのかな? シビアナが今から来るとしたら、正面からだろうしな。


 全て閉め終わると、準備完了。これで、外から私たちの姿は見えまい。透明になった髪も、バレる心配はなくなった。私は、先生の近くにある椅子に座る。すると、先生が悠然と構えるように、胸の前で腕を組んだ。


「では、今回の襲撃者について、であるな」

「いえ……。取り敢えず、それは後で」

「む? 違うということは――、他に何かあるのか?」

「はい」

「――ああ。だから相談か」

「そう言う事です」


 先生が納得したように頷く。ただ、賊の事も後で聞きたいんだけどね。さて――。気持ちを切り替えて、姿勢を正すと先生に話しかけた。


「先生」

「何だ?」

「今から話す事は、他言無用に願います」


 私は、頭を下げた。髪が透明なり、おっぱいが小さくなった――。これは、絶対誰にも知られてはならない。この私が、この手で、この事実を、塵も残さず握り潰す。必ずな――!


「むう……。いいだろう」

「ありがとうございます」


 この気迫が伝わったのか、顔を上げると先生は真剣な面持ちであった。


「それと、先生」

「何だ?」

「相談を持ち掛けといて、こんな事を言うのは、大変手前勝手で恐縮なのですが――」

「ん?」


 これは、きちんと伝えておかないとな。齟齬があってはならない――。ゆらりと立ち上がり、後ろに回した両手を腰の辺りで握る。そして、体を先生から逸らし天井を見つめた。


「もし――。もしですよ? 今から起きる事で、笑ったりして私を馬鹿にしたら――」

「笑う?」

「はい……」


 私は顔を俯かせ、静かな足音を立てながら、先生に向かってゆっくりと近づいていく。


「それは、王女である前に、女の子であるこの私の尊厳を、踏みにじる行為です」

「尊、厳?」

「はい……」


 疑問の声が出ている先生は、この真意が分からないのだろう。しかし、構わず話を続けた。


「ですから、先生。万が一にでも、その尊厳を傷つけたりしたら――」


 そう言うと、足元を見ながら、ピタリと歩みを止める。そこは、もう先生の目の前であった。

 先生、想像して欲しいのです。あなたが、透明の髪となった私を見て爆笑しているご自身の姿を。その行為によって、打ちひしがれ心傷ついた私の姿を。


 そして、その時――。果たして、私はどういった思いを抱くのか。そのあと、どういった行為の及ぶのかを――。顔を持ち上げると、そんな思いを込めて先生を間近で見つめる。


「私は、何をするか分かりませんよ?」


 ホント、どうなるか分からないから、うん。ただね、先生の想像を絶することには、なりますよ?


「わ、分かった。笑わぬよ」

「ありがとうございます」


 私は、再び頭を下げた。この気迫も伝わったのか、先生は若干青褪めた面持ちであった。


「では、百聞は一見に如かず。見てもらった方が早いですね」


 そう言って、頭を覆っている飾り羽を外し始めた。しかし、途中で手が止まる。動かなくなった。


「はあ……」


 私は、年頃の女の子なのだ。それなのに、つるつるの坊主頭をここに晒す。これが、どれだけ苦しく!どれだけ辛い事か! ううっ! 


 しかし、そうも言ってられない。ここで不安や恐怖に押し潰されても、話は先に進まないのだ。頑張れ私! 負けるな私! そうやって気持ちを奮い立たせ、止まっている手を、再び動かし始める。


「ふー……。では外します」

「あ、ああ……」


 よし、取るぞ! 覚悟を決め、取り外した飾り羽を、机の上に置く。さあ、見てもらおうか! ただし! もし約束を破って、笑ったらどうなるか! ――ん? しかし、先生を見ると、笑うどころか驚いてもいない。


「――で? 何なのだ?」

「え?」


 あっれー? 何、この無反応? 全然、動じてないんですけど。髪の毛が透明になってるんだぞ? そして、勇気を振り絞って、それを晒してんだぞ? その反応はないでしょうよ。


「いや、髪の毛が」

「髪?」


 首を傾げる先生。どういう事だ? 何で首を傾げる? 私は、頭の後ろで纏めて三つ編みにされた、自分の髪を手に取った。


「あれ!?」


 その髪を見て驚く。おいおい、これは一体――。先生が動揺しないわけだ。これなら、そうならないのも、無理はない。


「緑になってる……」


 そう。髪の色が透明じゃない。緑色に変化していたのだ。

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