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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第21話 襲撃

 上から見下ろす王都の街並み。その景色が勢いよく通り過ぎていく。顔に吹き付ける風も強い。私の体は、先生の研究所に向かって一直線に飛んでいた。その研究所の姿も少しずつ大きくなり、近くなってくる。これなら、すぐにでも到着しそうだ。


 しかし、勢いよく通り過ぎていた景色が、徐々に緩やかになっていく。私も感じる。体に吹き付ける風も、弱まってきていた。速さが落ちてきているのだ。ササレクタの剛腕を以ってしても、一投では流石に届かない。このままでは、落下してしまうだろう。


 だが、故にアレ・・である。私は、後方の気配を探ることに集中。すると瞬間、後ろに感じる射られた矢のような素早い気配。間違いなく当たる。そう直感した時には、もうそれを右足の裏で受け止めていた。弾ける音と共に足から伝わる回転と衝撃。私の体は前方に吹き飛ばされる。感じていた速さの流れが戻ってきた。


「ふっ! 流石、投槍の名手!」


 私の足の裏に当たったもの。それは、回転した棍棒だった。ササレクタが、捻りを加えながら投げつけてきたのだ。軍の演習でも使っていたし、外壁門の上にも樽の中に沢山入っていた。恐らく、それだろう。そして、再び訪れる減速。しかし、そう感じる間もなく、棍棒が私目がけて飛んでくる。今度は逆の左足で、その先端を踏みつける。弾ける音。また前に吹き飛ばされた。


「いいぞ! どんどん来るな!」


 棍棒は次から次へと、矢継ぎ早に飛んでくる。私は、交互にどんどん踏んでいく。もちろん役目を終えた棍棒が、下にいる人へ当たらない様に、充分注意しながらだ。棍棒が当たった瞬間、押し込むように蹴りを加えて調節して落としていく。この作業を、棍棒が来る度に繰り返した。


 これがアレ・・の正体。ササレクタの投擲でも届かない距離を、この棍棒を使って稼ぐという荒業なのである。久しぶりだから、ちょっと心配してたんだよね、実は。でも、それは杞憂だったようだ。これなら問題ない。


 しかし、ササレクタが槍投げの名手だからといっても、限度がある。姿が見えなくては、的中させるのは難しい。後ろ振り向けば、外壁門はかなり遠くに見える。その上にいる彼女たちの姿は、ここからではもう見えない。それは、あちらも同じこと。ササレクタの目の良さは、私と同程度だし。


 だから、命中可能な射程からは、もう多分外れているだろう。でも、彼女はここまで正確に投げてこれている。その理由は勿論、イルミネーニャのおかげだ。


 彼女は、私達では不可能な研究所の様子を、遥か遠くの外壁門の上から視認できた。その目を以って、この私を捕捉し続けているのだ。そして、イルミネーニャの投擲能力。的を外さず、正確無比に射抜くというこの能力も大きい。彼女にしてみれば、獲物が弓矢からササレクタの投げる棍棒に、変わっただけなのである。


 ササレクタに足りない、遠くまで見通せる目をイルミネーニャが。そして、イルミネーニャに足りない、遠くまで投げる豪腕をササレクタが補う。つまり、この二人の能力が合わさって初めて成し得るのが、この超絶技なのだ。何度もやった経験もあるし、慣れたもんさ。やってる事は凄いけどね。


 そして、もう一つある。今度は私とササレクタがやっている事だ。それは、棍棒を踏むと音が弾けて、私が吹き飛ばされる理由。さっきササレクタと打ち合った時も、同じように響き辺りにまで衝撃が広がっていた。これは、至極天の正統後継者に求められるもの。その応用技の一つ。


 先生から教えてもらったこの力の名。その名を『空震音叉くうしんおんさ爆鳴気ばくめいき』という。この力を使い合うと、変わった衝突音が響きお互いの体が何故か反発する。込める力が大きければ大きいほど、その威力は大きくなっていく。そして、これは物にも伝達ができる。物によって伝えやすさは変わってくるけどね。


 ササレクタは、この力を棍棒に込めて投げつけているのだ。それを私が力を使って踏んづけている。すると、音が鳴って反発した体が前に吹き飛ばされていく――、というわけだ。


「――随分、近くなってきたな」


 棍棒を何度も踏んでいると、シドー先生の研究所が間近に迫って来た。すると、その様子も分かってくる。イルミネーニャの言う通り。狼煙玉の煙が、その周囲を漂っている。入り混じった黄色と緑。しかし、そんなに上空へ打ち上げられたわけではないようだ。研究所の上部を覆い被さるように漂っている。


 本来ならもっと上。遠くからでも確認できるように、打ち上げるはず。それが出来なかったのか、それともしなかったのか、それは分からないが。しかし、本題はここからだ。どうにも、意味不明な現象が起きていることに気付いた。それは黒い煙。その数三つ。確かに見える。あの後、数は増えなかったみたいだ。


 建物内からではない事も分かった。中から火の手は上がってないように見える。黒い煙は、三つとも昨日私が暴れた中庭だ。それはいい。問題は別のところにある。


「――どうなってんだ、あれ? 逆に見える……」


 それは、目の錯覚なのか。黒い煙が上がっていると思っていたが、違う。反対だ。煙は下に向かって、ゆっくりと吸い込まれている様に見えていた。

 何もない所から黒い煙が現れて、そこから黒い煙が三つ下がっている・・・・・・――。そう見える。


「ササが、警戒するわけだ……」


 こんな現象は、初めて見た。本当に、尋常ではない事態のようだ。だが、やる事は変わらない。握った拳に力を込める。私は襲撃者を叩き潰すのみ。


 そして、そろそろ先生の研究所にぶつかる。そう思えるくらいの距離になった時、後ろから現れる放たれた矢のような素早い気配。しかし、私はそれを踏まずに掴む。速さが重い。棍棒ではないと直感したからだ。


 力を使わずに握ると、案の定なにも起こらない。そして、投擲はこれで最後、という意味も含まれているのだろう。それは、レイセインの剣だった。暗い金色の光を放っている武骨な金属の鍔には、のたくったような蛇の文様が彫られてある。


「う!? これ『ホムラオロチ』か!?」


 彼女が腰に携えていた剣の中で、大中小でいう小の剣。長さが私の手から肘くらいまである。そして、『特殊凶剣』と呼ばれる類のものだ。また、えぐいのを投げてよこしたな。だが、あの賊共には丁度良いか。そう思いながら、その剣を腰の帯に差す。


 そして、いよいよこの時が来た。研究所の塀を越え、邸宅の壁が差し迫ってくる。私は体を捻り、足の向きを逆に変えた。次の瞬間、体に震動が走る。三階あたりの外壁にその足が激突した。


 体を押えるのような力が掛かる。私は、その力を溜め込むようにして、踏み堪えた。壁は分厚い地剛石で出来ているからか、亀裂は入らない。そして、顔を中庭に向ける。狼煙玉の煙せいで若干見えにくいが、その様相はある程度確認できた。


 奥に黒い煙、三つ。手前に円陣を組んでいる近衛騎士、二、三十。その中心にシカルアヒダの一団。そして、それを取り囲むように無数に散らばった者ども。


「白装束……」


 奴らは、頭に白い頭巾のようなものを被って顔を隠し、全身も白い服で身を包んでいた。これが襲撃者か。多いな。優に百、二百は越えている様に見える。しかしそんな中、激しく動く大きな人影があった。白装束たちを吹き飛ばし、絶え間なく蹴散らしていく。その双腕が、銀色に輝ている。右腕は、鮮やかな白い銀。左腕は、鈍く黒い銀。あれは先生の至極天。その一部。


「『 銀相ぎんそう――、静動五象森羅せいどうごしょうしんら』!!」


 左右で明暗が違う、両方の肩から拳の先まで包まれた銀色の鎧。腕甲。太い腕が、更に大きく膨れ上がったよう。


「いた! 先生!」


 私は、溜め込んだ力を一気に吐き出すように壁を蹴り、中庭に突っ込んだ。






 シドー先生の剛拳が唸る。自分の目の前にいた白装束の襲撃者を、銀色の手甲で吹き飛ばし、さらに横から襲い掛かって来た二人を吹き飛ばす。力の差は歴然。並み居る敵を軽くあしらっていく。


 しかし、また新たに正面から襲い掛かって来る輩を、殴り倒したその瞬間、先生の背後を取った白装束が二人、飛び掛かかっていった。手には小剣が握られている。それが、先生目掛けて両腕で振り下された。白刃がその背中に迫る。だが、運がなかったな。


「邪魔だ!」


 そこは、私の射線。その二人を、纏めて思いっきり蹴り飛ばし、遠く地面に叩きつけた。その地面に亀裂が走る。襲撃者たちは、ピクリとも動かない。そして、蹴りつけた足をそのまま回し、体を捩じってふわりと宙返りすると、中庭に着地した。


 一瞬、静寂が広がる。いきなり現れた私に驚いたのか、急に吹き飛んだ襲撃者に驚いたのか、この場にいる皆が動きを止めた。そんな中で、先生に向かって叫んだ。 


「先生!!」

「リリシーナか!?」

「はい!」


 後ろに振り向いた先生は、私の姿を見て目を見張る。そして、近くにいた近衛騎士たちからも「姫様!?」「おお!!」と驚きの声が上がった。


「先生! 助太刀に参りました!」


 今のは、助太刀にもなってないけど。あの程度、先生なら問題なかった。間合いの中だったし。まあでも、行き掛けの駄賃というやつだ。とっとけ。そして、本番はここから。


「お前、その格好――!?」


 先生は、私の着ている服を見て何か言いたそうだ。イルミネーニャの侍従官服を着ているからね。そりゃ、びっくりもするか。ササレクタたちとやり合って、ちょっとボロボロになっているってのもあるだろう。でも今は、どうでもいい事だ。


「それよりも先生! ローリエとミーレちゃ――ミーレ王女は無事なんですか!?」


 とにかくまずは、ローリエとミーレちゃんの安否を知りたい。これが何よりも優先される。


「ローリエは!? あの子は今どこに!?」


 シカルアヒダの一行と近衛騎士隊の姿はある。だが、非戦闘員――王宮侍従官たちの姿が一人も見えない。これはどういう事なのか。敵の数も多い。嫌の予感が心によぎる。頼む、どうか――! 

 しかし、私のこの不安はすぐに払拭される。先生が、力強く答えてくれたからだ。


「うむ! 安全な所におる! 大丈夫だ!」


 よし!! ローリエの無事を確認!! 流石、先生!! 信じてましたよ!! 既に、戦えない王宮侍従官と一緒に、逃がしていたのだろう。一先ず安心できた。じゃあ次は、ミーレちゃんだ!! 私は、近衛騎士隊が守るシカルアヒダの一団に目を向けた。


「良かった! では、ミーレ――!」


 言葉が止まる。近衛騎士の隙間から見えるシカルアヒダの面々。その中心に、その女の子の姿があったからだ。

 彼女は、昨日私と一緒に楽しく会話し、可愛らしい笑顔を見せてくれた元気いっぱいの女の子。褐色の肌が健康的に見え、笑った時に白い歯が見えると、さらに溌剌とした印象を与えてくれる。


 忙しなく両腕を大きく広げ、先生の凄さを教えようと頑張る姿は、見ていて微笑ましかった。変な言葉には、こっちもたじろいてしまった。歳は十二、三歳ぐらい。金髪が肩まで伸び、波打っている。そして、その瞳は綺麗な黄金色だ。


「――ちゃんは……」


 シカルアヒダのシークリッドと呼ばれていた者。彼が、しゃがんで抱きかかえる腕の中に、その少女の姿はあった。

 あの綺麗な瞳は見えない。閉じられているから。波打った髪も頬に張り付いて、口は半開きになり顔が苦しそうに歪んでいる。精気がない。そのせいか、褐色肌だというのに青白い、そう感じさせた。動かない。腕がだらんと垂れていた。服にはシミ。赤黒いシミがお腹の辺りに滲んで広がっていた。

 

「…………」


 言葉がもう続けられない。それは、続ける必要がないからか。聞くだけ無駄だからか。


「リリシーナ! 何をやっておるのだ!?」


 先生が敵を殴り飛ばし、焦りながら叫んでくる。私が動かくなったからか。


「リリシーナ! 聞いておるのか!?」


 一瞬止まっていた静寂は、既に動き出していた。襲撃者どもは、再び先生や近衛騎士に襲い掛かっている。それは、私も例外ではない。後ろにある気配が、一つ向かって来る。


「リリシーナ――!!」


 その叫びと同時に、後ろにあった気配が飛びかかってくる。先程の先生と同じように。私は、振り向き様にそれを殴りつけた。拳が、めり込んでいく。顔だ。白い頭巾でその顔は隠れているが、頬に当たっている。それは分かった。私は、そのまま腕を振り抜く。それを、足元の地面に叩きつけるために。そして、潰れるような音が大きく響く。地面は凹み、亀裂が走る。あとは、ただそこに無言の残骸が残った。


「リリシーナ……。お前……」

「先生。状況を知りたいんですが。端的に願います」


 自分でも分かる。感情が籠らない酷く冷淡な言い草になっていると。そしてまた、他のそれが襲い掛かってくる。顔を殴り吹き飛ばした。


「先生。こいつらは、全部潰していいんですよね?」


 事務的に確認を取った。先生は一瞬考え込むように目を瞑ると、「ふー……」と息を吐きだし、鋭いその目を睨み付ける様に開くと大声で叫んだ。


「構わん! 存分にやれ!」

「了解……」


 私は、先生の言葉を静かにしっかりと受け取る。そして、眼前を見据えた。


 お前らは、もう駄目だ。ここから生きて帰れない。慈悲はない。何もない。無くなっていた感情が戻ってくる。怒りの感情。いや、憤怒の感情か。どちらでも構わない。それがどんどん高まっていく。


 お前らは、あの子に何をした? あんな良い子に何をしたんだ? 噛みしめた歯が、剥き出しになるように口が歪む。傷つけたな。私の大切な者を――。そして、それが再び襲い掛かってきた。拳に力が籠り、肘の辺りまでその力が伝わってくる。捩じれる体。踏み込む足。拳をそれに向かって叩き込んだ。炸裂する鋼を打ちつけるような鋭い高音。それ――白装束は、遥か遠くに吹き飛び、外壁が爆発するように砕かれる。


 掛かって来い。いくらでも。お前らは――。


「私が、全て叩き潰す!!」

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