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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
55/101

第20話 異変 その3

 判明したのは、火事などでなく、先生の研究所が襲撃を受けているという、信じ難い事態だった。


「そんな――!」


 その事実を聞いたイルミネーニャが、驚いて口を両手で塞ぐ。彼女は心配してずっと焦った様子だった。でもまさか、そんな事にまでなっているとは、思っていなかったんだろう。


「敵襲……!」

「こ、これは、一大事であります!」


 そして、レイセインもグスコの二人も、襲撃という言葉に衝撃を受けていた。レイセインは、表情が強張り、グスコも落ち着きを失って挙動不審になっている。


「一体、誰がそんな事を――!」


 イルミネーニャが呟いた。流石に、どんな奴らが襲っているのかは、見当をつけきれない。だが、目的は分かる。私は、遠くに見える研究所を、睨み付けた。


――ミーレちゃん! やはり何か厄介事を持って来ていたな!


 シカルアヒダ王国の一行が、シドー先生の研究所に泊まった途端にこの襲撃だ。知っている者なら、誰でも結びつける。狙いは、シカルアヒダ王国王女、シカルアヒダ・ミーレ・モーサに間違いない。くっ! こんな事なら、王宮に滞在してもらうべきだった! あそこなら、警備も厳重だったのに!


 先生の研究所も、近衛騎士隊が今臨時で警備に当たっている。だが、爺がどこまで人員を割いてくれていたのか。それが問題だ。襲撃者の数次第で、対応できなくなる恐れがある。シカルアヒダの人間だけではないのだ。あそこには、戦えない王宮侍従官たちもいる。そして――。


「ローリエ……!!」


 先生の婚約者であるローリエもいるのだ。最悪だぞ! あの子に、もしものことがあったら――! 襲撃者にローリエ、ミーレちゃんにも危害を加えられ、そして――。心を抉る、ぞっとするような未来。赤黒い怒りが全身を駆け巡り支配する。私は、かつてないほど激しく憤るのを感じた。


「おのれ!!」


 そんな事は、絶対にさせてたまるか! すぐにでも行って、その報いを受けさせてやる!


「ササ!」


 彼女に向かって叫んだ。


「私を投げてくれ! 先に行く!」


 そう言うと、顔を移して、残りの三人の顔を順々に見ながら指示を飛ばす。


「レイセイン! お前は下の二人と一緒に、シビアナを探してこの事を伝えてくれ! 近くまでは来ているはずだ!」

「はい……!」


 まずは、シビアナだ。あいつにこの事を、知らせなくてはならない。シビアナがいるといないでは、天と地の差。事態を迅速に対処できるかどうかの、大きな分かれ目となる。


「『王女代行執行権』を、そのままシビアナに!」

「はい……!」


 レイセインは、頷いて返してくれた。


「グスコ! レイセインに人手の貸し出しを頼む! 共にシビアナを探してやってくれ!」

「はっ!!」

「それから、門はこのまま閉めておけ! 事態が収拾するまで、絶対に開けるな!」

「はっ!! 了解であります!!」


 グスコは、気迫ある敬礼をして答える。


「イルミネーニャ!」

「うん! 分かっているよ!」

「よし!」


 そして、イルミネーニャは、意思の籠った力強い目をして、しっかりと頷いてくれた。

 ふふっ。頼もしいねえ! ありがたいことだ! 本当に、この子が私の侍従官であってくれて良かった。この事態にいち早く対処できるのは、彼女のおかげだ。


 それに、イルミネーニャだけではない。レイセインもグスコも、いざという時に見せるその能力は、並々ならぬものがある。積み重ねてきた経験を元に優れた判断を下し、的確な行動が出来る奴らだ。心強いことこの上ない。


 そして、何より心強いのが、先生がいるということ。至極天も呼び出している。その至極天と先生は、相性が抜群にいい。しかも、他の至極天にはない仕掛けが、色々とある異質の至極天だ。この緊急事態にも遺憾なくその能力の真価を発揮できる。


 舐めた真似をしてくれたな……。だが、至極天を使うトゥアール王国の英雄を、そうそうどうにかできると思うなよ!


 そして、ここには更にもう一人、心強い奴がいる。


「ササ! やるぞ!」


 トゥアール王国最強の戦闘能力を持つ一人。西方将軍、千手戈音ササレクタ。こいつがいる。私を投げた後は、後続で研究所に来てもらうつもりだ。戦力が段違いに増える。


 その間に、私はさっさと研究所へ直行だ! 奴らにはこの世で地獄を見せてやる! それをあの世に逝って後悔しろ! ――って、あれ?


「おい、どうした、ササ?」


 ササレクタを見ると、様子がおかしい。神妙な面持ちのまま、研究所の方を見ながらじっと固まっている。私の声にも反応しないで、心ここにあらずだ。


「ササレクタ様……?」


 ササレクタに後ろから抱きかかえらているイルミネーニャも、異変に気付き不思議そうに背後を振り返る。


「ササ……?」


 おい、どうしたんだよ? 何やって――。


「――姫ちゃん」


 ササレクタが、無表情で私にその顔を向けた。そして、口を開く。そこから零れた言葉は、彼女なら決して口にしない事だった。


わたくしが、行きますわ。姫ちゃんは、ここでそのまま指示を」

「え?」

 

 何を言ってんだ……。一瞬、意味が分からず呆然とした。だが、すぐにその意味を理解して、怒りの感情が昂ぶる。どういうつもりだ、こいつ!? そんな事は許されない! 私はトゥアール王国の王女だぞ!

 

「それは駄目だ! 私が行く!」

「いいえ。わたくしが行きますわ」

 

 何を考えているんだよ、お前は!? こんな押し問答をやっている場合じゃあないんだぞ!?


「ササ! いいから私が行く! お前が投げるのが一番早いだろうが!」

「いいえ。至極天の使えるわたくしが行きますわ。姫ちゃんは、ここに残りなさい」


 はあ!? 残れだと!? こいつ、この私に残れと言ったのか!?


「お前、なに馬鹿な事を言っている!? そんな事できるわけないだろうが!」

「できないわけないですわ。ここに残りなさい」

「くっ!」


 何も受けつけない。いくら言っても、ササレクタの頑な態度は変わらなかった。くそ! これでは、埒が明かない!


「ならば、私は走っていく! お前の力は借りぬ!」

「それも駄目ですわ。姫ちゃんは、ここを動かないで」


 ササレクタは、そう言いながらイルミネーニャを離す。そして、自分の体を横にずらして、私の進路を塞いだ。何をやってるんだ、お前は。そろそろ我慢の限界だぞ……。


「そこをどけ! ササ!」

「どきませんわ」


 ササレクタは怒声にも怯まず、変わらない冷淡な口調で真っ向から私を見据える。そして、有ろう事か拳を突きだし構え始めた。


「それでも、行くというならわたくしを倒して行きなさい」

「ササアアア――!」

わたくしは――、引きませんわよ?」


 その手には、いつの間にか握られた青紫色の音叉。至極天を使ってでも、阻止するつもりのようだ。だが、それは無益だ。あまりにも愚かすぎる、無益な行為でしかない。


「これでは、二人とも研究所に行けない! 手遅れになるぞ!」

「この際、それも致し方ありませんわね」

「お前、何を言って――!?」

わたくしには、それよりも大事なものがあるんですの」

「大事なものだと!? それが、今のこの状況よりも優先されるってのか!? ふざけるな!」

「ふざけてませんわ」

「…………」


 その答えで、我慢の限界は、もう既に頂点へ達している事に気付いた。


「それに、シドー様や近衛騎士隊がいるんですから、大丈夫ですわよ。そちらに任せておけば問題はないですわ」

「…………」

「あの方の強さは、姫ちゃんが一番よく知ってるでしょう?」

「…………」

「だから、行く必要なんか何処にもありま――」

「いい加減にしろ!!」


 私の一喝に吹き飛ばされ、しんと場の静寂が広がる。誰も声を上げない。その中で、ササレクタを睨み、叫んだ。


「ササ!!」


 こいつの、この豹変。正気とは到底思えない言動。これはもう、一つしかない。私は確信を持って、それをササレクタに突きつけた。


「お前――、襲撃している奴らが、誰だか知っているな!?」

「……!?」

「え!?」

「なっ!?」


 私の言葉にレイセインが目を見開き、イルミネーニャとグスコからは驚きの声が上がる。


 正確には思い至った、だ。ついさっき気付いたんだ。黒幕の正体を――!


 火事だと言った時は、まだだろう。そんな感じはしなかった。だが、その後の爆発と敵襲の知らせ。そして、そこにシカルアヒダ王国の王女が滞在しているという事実。これで、あいつの中でも確信に変わったに違いない。


 そして今、私はこう思っている。「シカルアヒダ王国は、何らかの事情を抱えている。それも、王女の命が狙われるような、とんでもないものを。その解決のために、このトゥアール王国に――、いやシドー先生に会いにやって来たのだ」と。


 ササレクタが護衛をしていた事。これもついでの護衛などではなく、本当に命を狙われているから、頼んだのではないだろうか。だが、恐らくミーレちゃんの事情や本当の目的は、ササレクタにも伏せられていた。でなければ、あいつは火事とは言わない。


 少なくとも、黒い煙が上がっていると知った時点で、すぐに敵襲と考え様子が変わりそうなものだ。だが、それはなかったからな。


 しかし、西都はシカルアヒダに一番近い。その内情は、この国でも一番詳しく分かるはず。そして、西都の最高責任者は、西方将軍であるササレクタだ。表沙汰に出来ない情報も、知ることが出来る立場にある。


 だから、自分の知り得ていたその情報とこの状況を組み合わせて、襲撃をしている連中と、その黒幕を悟ったのではないか。そして、それを私に黙っていたという事は、これもまた抵触するのだ。


「答えろ! ササ!」

「知りませんわ」


 ササレクタは私の目を射抜きながら、起伏なく感情を一切消して答えた。そう。これも機密なんだ。だから、私には言えず、無理矢理この場に留めておこうとしていた。


 留めておく理由。機密のその内容――そこに含まれる襲撃者の素性。これも、どういった連中か、多少見当がつけれた。


 ササレクタは、機密だから行かせないなどという選択をしている。この状況ならむしろ、機密を無視してでも、率先して私に行けと言うような奴なのに。しかも、その機密は無視しても問題ないと言っていい。


 そもそもササレクタも、この襲撃は寝耳に水だったはずなのだ。機密だと気付いたのもついさっきのはず。襲撃者に察しがつかなかった、分からなかったと言えば、言い訳はつく。


 だから、機密にただ抵触しているのではないだろう。襲撃を行っている賊に、私が向かうことを躊躇わせる何かがあるのは間違いない。では、それは何か? それは、好戦的で最強の一角も担うササレクタにさえ、そう思わしめる連中。私の強さを知っているのに、それでも行かせたくない程、やばい連中だという事だ。


 私を投げた後、ササレクタは研究所に来るだろう。そこまで時間が掛かるとは思えない。シドー先生と私、そしてあいつが揃えば文句なしだ。


 しかし、そうなるというのに、行くのを阻もうとする。私達三人が揃っても、危うい事になる可能性が高いのだろう。そして、それが分かるという事は、知っているんだ。その強さを。肌で感じたことがあるんだよ。ササレクタは、その連中に遭ったことがある!


「はあ……」


 どんな事を言っても、例え機密だから行くなと言っても。そして、その内容を喋っても関係ない。私は向かう。ここで引き留めるには、手段を選べない。力づくでやるしかない。だから、こいつはこんな事をやりだしたんだな。それは、あいつが言った大事なものを守る為か。


 その大事なものって、ひょっとして私の事なのかな? だから、ここまで頑なに行かそうとしなかった、とか? ううっ。ちょっと言い過ぎか。そうじゃなかったら、赤っ恥もいいとこだわ。恥ずかし過ぎる。止め止め。ま、でもさ――。私はササレクタの顔を見た。


 苦しそうに嘘までついちゃってさあ、もう……。研究所に行かないなら、ここで殺すとか言いそうな奴が、行くなと言えばそりゃ違和感も覚えるさ。無表情でも分かったよ。だから、我慢の限界だったんだ。聞いてられなかった。でもその結果、この事実に気付けた。


「ササ。お前が、何を考えて止めようとしてるか、今の私にはそれを知ることが許されない」


 色々推察して辿り着けた事実はあった。でも、本当のところは結局ミーレちゃんと機密の内容次第なんだろう。


「でも、お前からは真剣に心配してくれてるんだと思える。だから、本当の所どうなのか分からないが、そう思った以上こっちで勝手にありがたく頂く」

「姫ちゃん……」


 大事なものが私だとは言わない。でも、身を案じてなければ、行かせないなんて事も言わない。心にもないことまで言って。だから、そう思った。


「しかし、私はトゥアール王国の王女だ! ここで行かなければ、それは私にとって見捨てると同義! そんな事をすれば、誇りを失う! 二度と胸を張ることも出来ない! お前たちにも、そして自分にも! そんな者に、王女である資格はない! この王国を受け継ぐ資格もない! 何もかも全て失うんだ!」


 誇りを失う。これは、王女であろうがなかろうが、関係ない。同じことだ。だが当然行くのは、王女として行く。言うまでもなく、私はトゥアール王国の王女。その何者でもない。


「故に私は、『王家の本懐』を遂げなければならない! 行かないという選択肢は、初めから存在しない!」


 『王家の本懐』。それは、トゥアール王家の信念。意志。王家の人間に求められる生き様。初代女王から脈々と受け継がれてきた、精神に基づくもの。


「お前は、それを知っているだろう!? 見てきただろう!? ずっと前から! なのに、それでもここに残れと、そう言うのか!?」


 私は、真っ直ぐとササレクタの瞳を見つめた。


「答えよ! ササレクタ!!」


 ササレクタは握りしめた音叉をさらに強く握りしめる。そして、苦しそうに顔を歪ませ、目を落としその目を瞑った。


「それでも……。それでも、わたくしは引けない……」


 そして、絞り出すような声で、明かすことのできない滲んだその思いを吐き出す。


「それが、わたくしの本懐に繋がりますのよ!」


 真情を吐露したササレクタの目は開かれ、音叉の共振が始まる。音色が膨らみ広がっていく。


「ササレクタ様――!?」


 イルミネーニャが驚きの声を上げた。グスコもレイセインも、どうしていいか分からないのか、呆然とササレクタの動向を見つめている。


 それがお前の答えか……。いいだろう。私は、ササレクタお前を倒していく。そう覚悟し、睨み付け構えた。しかし、ササレクタは私を見ていない。その視線は、この背後に現れた気配に釘付けになっていた。そして、声が聞こえてくる。


「ササレクタ様。どうぞ、殿下の仰せのままに」


 この声――!?


「貴女、いつから――!?」


 音叉の共振は静まり、ササレクタは唖然とした表情で動きを止めた。


「シビアナ!?」


 私も振り返り、その姿を見つけ驚く。お前、ここまで来ていたのか! そこにいたのは、私の筆頭侍従官。シビアナだった。だが、いつもの雰囲気とは少し違って見える。威圧的なものを感じた。


「シビ姉!」

「シビアナ……」

「シビアナ様!?」


 驚く皆の前を通り過ぎ、シビアナはゆっくりと歩きながら、私とササレクタに近づいてきた。そして、私たちの目の前で、その歩みを止める。


「殿下は、立ち向かわなければなりません」


 シビアナは、毅然とした態度で堂々とそう言い放った。


「それが、我らがトゥアール王家、王者の血に連なる者に課せられた宿願。如何なる艱難においても、道を切り開き続ける先駆の剛刃。そして、その中でこそ王家の本懐は果たされます」

「そんな事、貴女に言われるまでもなくてよ!」


 既に喧嘩腰だ。シビアナを苛立たしそうに見ていたササレクタが、食って掛かった。


「であれば、どうぞササレクタ様。殿下の仰せのままに」

「――っ!?」


 その言葉の何処が癇に障ったのか、いきなりササレクタはシビアナに向かって荒々しく歩き出す。


「シビアナ! 貴女は、いつもそうやって――!」

「ササ!!」


 私は、その肩を両手で掴んで止めた。


「姫ちゃん……」

「聞け、ササ」


 これで、最後だ。最後の説得――。私はそう思いながら、ササレクタに話しかけた。


「お前も言っていただろ? 己が窮地をその拳で破壊し、粉砕し、叩き潰し! そして、突き進む! それでこそ、我がトゥアール王国の姫君――ってさ」


 ササレクタはハッとするように、目が一瞬見開かれる。


「それは……」

「その通りなんだよ。そして、お前の言う王女であり続ける」

「…………」

「ふっ。私は、お前に嫌われたくないからな」

「…………」


――あれ?


 これ、説得じゃなくない? 思ったこと言っただけだよね? 言った後に気付いた。ああもう! 最悪だよ! 全然、駄目じゃないか! 何で、もうちょっとこう、心に響くようなこと言えないんだよ、私は!


「…………」


 ササレクタは、無言のまま私を見つめていた。ううっ。やっぱり駄目か……。そう思っていたのだが、彼女に変化が見える。目を閉じると、


「ふー……」


 天を仰ぎ、長い溜息をついた。


「そうですわ。ええ、そうでしたわね」


 そう呟いて、開かれた目。その顔は、憑き物が落ちたように吹っ切れた表情だった。おお! 何とかなったのか!? 


 私の説得まがいが効いたのではなく、他に思う所があったのだろう。それが、何のかはよく分からないが、どうやら納得はしてくれてそうだ。やれやれ。良かったよ。これで、戦わずに済みそうだ。


「姫ちゃん、ごめんなさい。わたくしが、どうかしていましたわ」

「いや、どうかしていない。嬉しかったよ」

「う・ふ・ふ……! 泣きそうな事、言ってくれますわね……」


 ふふっ。調子が戻って来たかな? 少し弱々しいが、らしさを感じる。そして、ササレクタは、「ふう」と短く息を吐くと、


「姫ちゃん! アレ・・で行きますわよ!」


 と、気持ちを切り替える様に威勢よく叫んだ。弱々しさも一気に吹き飛ぶ。これで、いつも通りのササレクタだ。うん、いい感じだ! よし――! 


「ああ、勿論だ! それで頼む!」


 そう言うと、顔を移して残りの三人、そしてシビアナの顔を順々に見ながら、もう一度指示を飛ばす。


「レイセイン! お前の剣を一つ貸してくれ! 何でもいいから!」

「はい……!」


 レイセインは、腰から剣を取り外し始めた。相手がやばい連中かもしれないのだ。念のため、剣を借りていこう。


「グスコ! お前は、シビアナの指示を聞け!」

「はっ! 了解であります!」


 グスコは、力強く敬礼をした。グスコの事――王都守護兵団の事はシビアナに任せればいい。ふっ。手足として、こき使われるだろうがな。


「シビアナ! ここは任せる! 執行権を存分に行使せよ!」

「はい。ご武運を、殿下――」


 シビアナは、優雅にお辞儀をした。こいつがいれば、後顧の憂いはもうない。任せられる。私は敵を打ち倒すのみ。最後にイルミネーニャへ顔を向けると、彼女は少し涙を浮かべて、酷く心配そうな顔をしていた。


「姫姉! 気を付けて! 凄く嫌な予感がするんだよ!」

「――っ!?」


 嫌な予感がしてたのか――! だからこの子は、ずっと焦ってたんだな。黒い煙を見ただけでは、なかったか……。この予感を感じていると、彼女はそわそわし始める。しかも、運の悪さが原因で酷い目に遭ってきた経験からか、その嫌な予感はよく当たる。


「分かった! 気を付けよう! あとは頼むぞ、イルミネーニャ!!」

「うん!」


 イルミネーニャは、しっかりと頷いた。

 私は、ササレクタに向かって飛び上がり、彼女の手の上に足を乗せてしゃがみ込んだ。すると、ササレクタがこちらを見ないまま、足早に歩きながら小声で話しかけてきた。

 

「姫ちゃん。正直、相手の強さはわたくしにも測りかねますわ。その規模も不明なんですの」

「そうか」


 測りかねるって事は、幅があるのか? 強い奴もいれば、弱い奴もいる? 規模って言ってんだから集団だな。その中にやばい奴も含まれているのか。だったら、ササレクタが私に会わせたくない奴らは、今回いるか分からないな。しかし、イルミネーニャの予感からして――。ま、兎に角だ。


「行き当たりばったりで、やるしかないって事か」

「ええ」


 強さが不明なら、仕様がないね。やれやれ。


「ただ分かっている事はありますわ。でも、それはわたくしの口からは言えませんの。だから、詳しく知りたいならシドー様にお聞きなさい。必要に応じて教えてもらえる事は、あるはずですわ」

「分かった」


 機密に引っ掛かっているからな。全部は無理っぽい。でも、どういった攻撃をしてくるかぐらいは、教えてもらえると助かるが。


「シドー様がその相手について知っていれば、ですけどね」

「了解だ」


 ササレクタは言い終えると、足を止めて向きを外壁門の外へ変える。私を投げる為の、助走の距離は取れたようだ。これで、準備は整った。


「姫ちゃん! わたくしも、すぐに駆け付けますわ!」

「ふっ! お腹に何か入れとけよ!」

「分かってますわよ!」

「よし! ササ、思いっきりだ!」

「ええ! 行きますわよ!!」


 ササレクタが走りを始める。先生! ローリエ! ミーレちゃん――! すぐに行くから待ってて! それまで、どうか無事でいてくれ! 


「はあ!!」


 ササレクタの気合と共に、踏み込まれる左足。地面に衝撃音が轟く。同時に腕が振り抜かれ、私は目にも止まらぬ速さで勢いよく飛び出した。


 私の大切な者をおびやかす輩! ことごとくこの拳で破壊し! 粉砕し! 叩き潰す!

 

 目指すは、シドー先生の研究所。体は風を切り、ぐんぐんと飛距離を伸ばし飛んでいった。

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