表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
54/101

第19話 異変 その2

「様子がおかしいって――」


 それは間違いなく、この震文しんもんが関係しているんだろうけど……。


「姫姉、早く!」


 イルミネーニャは、もう一度拡声器で叫ぶと、すぐに奥へと引っ込んで姿が見えくなった。

 彼女のあの焦り様。これはやはり、只事ではなさそうだ。


「今、シドー様って……」「何かあったのか?」「どうなってんだ?」


 呑気に観戦していた周辺の連中にも、あの子の言葉は聞こえていたのだろう。不安げにざわつき始めた。近くにいる者達同士で、顔を見合わせている。


「うーん。でもなあ……」


 最初はこの不測の事態に驚いた私だったが、至極天を呼んだのが父様ではなく先生だと分かった今は、そうでもない。イルミネーニャの様相も、いまいち真面目に受け取れなくなっていた。


 確かに、至極天が呼ばれている以上、普通ではない。そう考えてしまう。何故なら、あれはトゥアール王国最強の武器なのだ。戦うためにある物。破壊能力も尋常ではない。だから、そんな物がいきなり使用されると、今の私たちみたいに何事だってなる。


 これは、先生も同じことだ。父様もか。ササレクタの震文も伝わっているだろうからね。ただ、恐らくそうなるのは、私たちや父様、シドー先生。それから後は、カトゼ大神宮にいる者達くらいに限られる。


 正統後継者に必要とされる力。それが備わっている者達しか、この震文は感じ取ることが出来ないからだ。レイセインは例外。カトゼ大神宮にいる者達は、そこに至極天が奉納されているわけだから、いきなりそれがどこかに飛んでいけば、そりゃあ気付かない方がおかしい。気付けるよう仕掛けもあるしね。


 それはそれとして、私がどうにも緊張感が持てない理由。それは、勿論シドー先生にある。


 だって先生、結っ構破天荒なとこがあるんだもん。あの人は、何か閃いたら即断即決。善は急げとばかりに実験を始めたりする。それが真夜中であってもお構いなし。


 前も、震文を使って至極天を引き寄せ、気付いた私が様子を見に行く羽目になった。結局、それがただの実験だと分かって、そのままお茶して帰ったという顛末。それを思い出していた。


 ホント至極天を使う時は、連絡して欲しいよ。稀に呼ぶってのも良くない。そう、先生が至極天を呼ぶのは稀な事なのだ。重樹と戦うわけでもなし。あんな物、普段は必要ないからね。だけど、そのせいで非常にびっくりしてしまう。何事かってなる。一度、連絡してから使ってと、苦情を入れとくかね。


 そしてこれが、今の私の動揺していない原因。ミーレちゃんがいるのに変だなって初めは思ってたけど、先生の性格やこういう事を思い出すと、やっぱりちょっとね。


 しかし、先生は一体何をしているのやら。とはいえ、シカルアヒダの王族であるミーレちゃんが来てるんだから、そこまで無茶な事はしていないだろうけど。破天荒だが常識はある人だ。考えられるのは――、ああ、いやいや――。私は頭を振った。


「ササ。取り敢えず上に戻って、イルミネーニャから話を聞こう」

「ですわね」


 ここであれこれ考えても、埒が明かない。さっさと、あの子に聞いた方がいい。


わたくしが、グスコちゃんを投げますから、二人は先に駆け上がって下さいまし」

「分かった。頼む」

「はい……」

「よ、よろしくお願いするであります」


 ササレクタは、グスコを連れ立って外壁門の前へ足早に歩き始める。私達もその後について歩き出した。すると、観客の中にいたテオルンが両手を大きく振って叫んだ。


「ちょ、ちょっとー! 殿下ー! やらないのー!?」


 私は、彼女に返事をしながら歩みを早める。


「悪いが、それどころじゃなくなった!」

「えええええー!?」


 まあ、イルミネーニャの報告にもよるがな。大したこと無かったら戦闘は再開だ。でも、丁度いい。王女様をネタにして、賭け事なんかするもんじゃありません! とうい訳さ。


「ま、待ってよ、姫様! それじゃあこのお金――!」


 ヴァレータも縋り付くような声で、私に助けを求めてきた。だが、心を鬼にしよう。


「さっさと返金しとけ!」

「そ、そんなあああああーん!」


 まさに働き損のくたびれ儲け。今回は賭けの中止か。やっぱり碌な事にならなかったな。私が負けるわけないから、そんなとこだと思っていたさ。はっはっは。

 がっくしと肩を落としたテオルンとヴァレータの姿を尻目に、私たち四人はすぐに外壁門へと到着する。


「行くぞ、レイセイン」

「はい……。殿下……」


 私とレイセインは、そう言って頷き合うと、外壁門を駆け上がっていった。






 外壁門の上に到着すると、程なく重い音が響いてグスコも到着。そして、ササレクタも駆け上がってきた。王女姿のイルミネーニャは外縁に立って、先生の研究所がある方向を凝視していた。


「イルミネーニャ。様子がおかしいとは、どういう事だ?」


 私は彼女に近づきながら尋ねた。


「ああ、姫姉! 早くこっち来て!」


 イルミネーニャは、視線を外に向けたまま振り返りもせず、急いでと手招きをして私を呼び寄せる。私たちは、それに従い彼女の傍まで行き着くと再び尋ねた。


「何があった?」

「シドー様の研究所! 様子がおかしいの!」

「ああ、だから何がおかしいんだ?」


 私がそう聞くと、イルミネーニャは、こちらに振り返って慌てた様子で、研究所の方を何度も指差した。


「煙が上がってんだよ!」

「煙……?」


 私は彼女の言葉に、辺りを見回す。えーと……。


「いや、煙ならそこら中で上がってるぞ?」


 それは、普段の朝の風景。外壁門の内も外も関係なく、王都中そこかしこにゆらゆらと、煙突から煙が立ち上っている。朝食の支度をしているからだ。


「ああっ! いや、そうじゃなくて!」


 イルミネーニャは、じれったいとばかりに両手で頭を掻いた。

 この子の言いたいことが、そうじゃないのは私も分かっている。だけど、煙が上がっているだけじゃあ、よく分からない。もう少し詳しく説明してもらわないと。


「落ち着けって、イルミネーニャ」


 急がなくていいからと、宥めるように両手を下へ押し付けるような仕草を繰り返す。するとササレクタが、イルミネーニャを後ろから抱きかかえてて、ぽんぽんと頭を軽く叩いた。


「ほら、イルミネーニャちゃん」

「ああ、申し訳ございません! ササレクタ様!」


 イルミネーニャは、慌てて後ろを振り返ってササレクタにお辞儀をする。こいつ……。こういう事を自然にできたりするから、人気あるのかな? 私も今度やってみようか……。


「いいんですのよ。ほら、ゆっくりと一回深呼吸」

「はい!」


 イルミネーニャは目を瞑って素早く深呼吸を終えると、再び私を見て口を開いた。


「姫姉、黒いんだよ!」

「黒い?」


 うん、だからね? 黒いってだけじゃ、意味が分からんのよ。それだと、私が黒いって聞こえるんですけど。あと、黒いのは私じゃない。シビアナだ。あいつは腹が黒い。私は色白の美人さん。


 うーん。深呼吸一回じゃあ駄目だったか。落ち着くには、まだもう少し時間が掛かりそう。しかし、話を聞かないと始まらない。まあ、喋ってれば徐々に冷静になってくれるかな。私は、この子を急かさないように、ゆっくりと、だ。そう心掛けて話を続ける。


「えーと、イルミネーニャ。それじゃあ、話がよく分から――」

「黒い煙が上がってんだよ!」

「黒い煙……?」


 少し、説明量が増えた。まあ、「煙」と「黒い」が合わさっただけだが。黒い煙ねえ……。私はイルミネーニャの指差した方を、目を凝らしてじっと見てみた。すると――。


「おお……!?」

「見えますわね……」

「はい……」

「え? どこでありますか?」


 確かに見える。でも、糸みたいに細くて黒い線が、本当に短くうっすらとだよ。しかも、他の煙が邪魔になって更に見えにくい。これは、言われなくちゃあ絶対に見落としている。いや、この子は本当に目が良いわ。凄い。私は、また改めて彼女に感心した。ただ――。


「何なのかしらね……」

「うーん……」


 ササレクタの言う通りだ。黒煙は見えたが、結局あれは何なんだろう? 朝支度の煙にしちゃあ、ちょっと変だよね。ていうか、朝ご飯って誰が作ってんのかな? やっぱローリエ? 先生は、使用人を雇ってなかったよな……。ということは――。私は、どうでもいいことに思い当たった。


 ちっ。婚約者の手作り料理かい。全く……。ホントどうでもいいわ。ええ、よろしいんじゃなくて? 仲が良好なのは大変結構ですわ。まあ、ローリエって料理上手そうだよね。あのお菓子もおいしかったし。でも、あの二人って、いつもどんな風に過ごしてるんだろ? 一遍こそっと覗いてみたいわ。って、ああ――。


「ローリエ――先生とこの助手が、料理でも失敗したんじゃないか?」


 ローリエで思い出した。そういう印象がある。そそっかしいところが、あったもの。とはいえ、昨日今日とミーレちゃんが泊まってるし、近衛騎士隊の他にも王宮侍従官や料理人がいるだろう。その者達が、朝食を用意するはず。


 だけど、何か先生だったら、ローリエの料理を私達みたいに食べさせようとするかもしれないよね。昨日みたいにさ。で、運悪く料理を焦がしてしまった、みたいな。うん、これはありそうだわ。しかし、この意見はイルミネーニャにあっさりと否定された。 


「違うんだよ! あれは、料理の煙じゃない! 煙突からじゃないんだ!」

「え? じゃあ一体どこからだ?」

「えーと、研究所全体から!? あーいや、とにかく煙突じゃない! それに一つじゃないんだよ! 段々と数が増えていってるんだ!」

「何だと?」


 増えてるってどういう事だ?


「もう三つも、シドー様の研究所から上がってる!」

「三つって……」


 あれ三つ煙が上がってんの? 一つにしか見えないんですけど。確かめようと黒い煙が上がっている場所を、もう一度じっと見つめる。うーん。何だろ? 現在進行中で実験をしているのかな? そう思いながら煙を眺めていると、ササレクタが心配そうに呟いた。


「――ねえ、姫ちゃん」

「うーん? 何だ?」


 私は、そのままの姿勢で答えると、


「それって――」

「うん」

「火事、なんじゃないんですの?」


 その言葉にピタっと体が動かなくなった。

 …………。…………え? 火事……?


「――あああっ!」


 そして、再び動き出した体と共に、大きく声を上げた。

 そうだよ! 火事だよ、火事! 何で私は実験に固執して、こんな基本的な事を!? 黒い煙が上がってたら火事しかないじゃないか! ――あっ! だから、至極天使って消火してんのか! いや、それよりも、ローリエとミーレちゃんは大丈夫なんだろうな!? 火傷とか冗談じゃないぞ!?


「やばいぞ、おい!」


 どうする――!? よし、私も行って消火活動を手伝うか。ササレクタにも頼んで一緒に来てもらおう。レイセイン達にはシビアナを探してもらってこの事を――! そう思った瞬間、イルミネーニャから更に混迷が極まる言葉が発せられた。


「い、いや姫姉、あれって火事っていうか――。え!? 爆発!!?」

「はあっ!?」

「なんですって!?」


 私たちは一気に色めき立つ。爆発!? おいおい! 薬品にでも引火してるんじゃないか!? あそこには、実験に使うそういった危ない品もあったはずなのだ。これはもう一刻を争う事態。早急に駆けつけて、私たちも消火に当たろう! 


「ササ! 私たちも――!」


 しかし――。


 しかし、「先生の研究所に向かおう」と言おうとした瞬間。私は、イルミネーニャから最悪の事態を告げられた。


「姫姉! 爆発の煙、色が着いてる!」

「色だと!?」


 煙に色!? 狼煙玉か――!?


「イルミネーニャ! 色は何だ!? 分かるか!?」

「えーと。――黄色と緑だ!」


 黄色と緑の狼煙玉。それは『敵接近中、至急増援を求む』の合図――!

 違う! あれは火事なんかじゃない! あれは――!


「襲撃だ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ